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臨時妃 ・ 原作寄り

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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。









やっと終った祭事にホッとしたのか・・・そのまま自身の腕の中で眠ってしまった夕鈴を、
愛おしそうな眼差しで見詰める黎翔。

「よく頑張ったね、夕鈴」
「そうですね、確かに良くやり遂げたと思いますよ」

傍に歩み出て来た李順が、珍しく夕鈴を褒める。
李順とて、あれだけの書物を渡しただけで、
これほどの出来だとは思ってはなかったのであろう。

「まぁ、七夕祭事なんて・・・所詮、カタチだけ」
「確かにそうですが・・・」
「いつだったかの王が美しい妃を見せびらかしたいがために始めたバカバカしい祭事で、
意味なんて大したことないからな。
確か、建前上は夏の恵みを天より頂くだったか・・・大体、こんなのはこじつけなんだし。
ふん、こんな事に夕鈴は出したくはなかったのだが」

黎翔は大臣たちの視線が気に入らなかった様で、
不機嫌さを隠さず舌打ちまでする始末。

「仕方ないでしょう・・・。
また最近大臣たちによる縁談話が持ち上がりだしたのですから。
ここは、夕鈴殿に祭事でもしていただいて・・・・唯一だと知らしめておかないと」
「ふん、勝手にしろ!!!
まぁ、いいさ・・・これで色々持ちかけてくる愚か者もいなくなるだろうし」

黎翔の腕の中で眠っている間にこんな裏話をされているとは露知らず、
夕鈴は熟睡していた____。

「さて、後の処理は任せておくからな。
私は、夕鈴を後宮まで届けてくる」
「それはよろしいですが、書簡が陛下を待っています故・・・・お早いお戻りを」
「解っている!!」

李順に釘をさされて少し不機嫌になりながらも夕鈴を抱きかかえたままスクッと立ち上がって、
スタスタ大股で祭殿から出ていった。

「いよいよ、暑い夏が始まりますね」

祭殿の外では眩しい太陽が照りつけており、
空を見上げ李順は人知れず溜め息を吐き出した。


***


夕鈴を抱きかかえたまま後宮に戻った黎翔に出迎えた侍女たちは、
何事があったのかと驚愕の表情を一瞬浮かべ拱手した。

「お妃様に・・・・・・・何かございましたか?」

控えめながらも主人である夕鈴を気遣う侍女たち。

「大丈夫、眠っているだけだ」

黎翔は侍女達を安心させるように呟くと、
夕鈴の寝顔に視線を落とす。

「直ぐに寝所を設えます」
「ああ、頼む」

俄かにバタバタ動き出す侍女たち。
直ぐに寝所は整えられ黎翔に設えた旨、報告した。

黎翔は夕鈴の温もりを感じつつ寝室の奥へと入って行った。
夕鈴を寝台にそっと横たわらせ刺さった簪をスルリと抜くと、
結いあげられた薄茶色の髪がハラリと解け寝台に広がる。

黎翔は徐に寝台の端に腰掛け、一房手に取ると自分の口もとに運んだ。
軽く口付けをして静かに手離すと、ハラハラと寝台へ落ちた。

「夕鈴・・・・おやすみ」

起こさないように、一言甘く囁き__________________寝室を後にした。

「妃が起きるまで、このままでよい」
「畏まりました」

後は侍女達に託し、黎翔はそのまま執務室に戻る。





―――ゆらゆらしてる。
すっごく気持ちいい。
そして、この香りは・・・・誰のもの?
とても安心するの。

「ううん・・・・ここは???
って、寝台の上。
なんで???」

上半身を起こしてみて、自分の姿にギョッとする。

「な、なに??このヒラヒラの服!!!
うん?・・・・・いや、待てよ・・・・あっ、思い出した。
今日は祭事だった!!!今から??
いや違う、終ったんだわ。
じゃあ、なんで寝台で寝てるのよ」

この置かれた状況が飲み込めず、ブツブツと自問自答する夕鈴。
しかし、自分が寝ている間の事なんて分かるはずも無く、
侍女たちに聞く事にする。
夕鈴は跳ね起きて寝所から出てみると、侍女さん達の心配げな顔。

「お妃様、大丈夫で御座いますか?」
「ええ・・・・」
「陛下がお妃様を抱きかかえられてお連れになった時は、
お妃さまの身に何事か起きたのかと肝が冷えましたわ」
「陛下が私を・・・・・ですか?」
「はい、それは大事そうに抱きかかえられていらっしゃいましたわ」

その言葉で夕鈴は瞬時に身体中の体温が上昇し、
火照り上がってのぼせそうになる。

あのゆらゆらした感覚は陛下に運ばれていた時のものなんだわ。
そして、あのいい香りは陛下の衣から香ったものだったのね。
それにしても、陛下に運ばれてきたですって?!
どうしよう・・・・・それって結構マズイんじゃないの?
イケナイ!侍女さん達の前だったわ!!此処は平常心!平常心と。

一気にグルグルと考え込んだ夕鈴に、侍女たちは怪訝な表情を見せる。
それを消し去る様に、夕鈴は優美な微笑を見せる。

「夕刻は過ぎてしまって、辺りがもう暗いのですね」
「はい、陛下がそのままで良いと仰られましたので・・・・お起こし致しませんでした。
しかし、随分とお疲れが溜まってらっしゃったようですね。
長く眠られておいででしたので」
「そうですか・・・それは皆さんに心配を掛けてしまった様ですね。
有り難うございます、もう大丈夫です」

その言葉に安堵した様で、直ぐに食事と湯殿の用意を始める侍女たち。
夕鈴は直ぐにでもこの衣装をどうにかしたかったのだが、
昼餉も食してないことからまずはそのまま食事という事になった。


食事を済ませたその後は直ぐにでも湯殿へ・・・とも思ったものの、
折角の七夕の宵であるから少し散歩に出る事にした。
侍女達には一人でいいと供を断り、一人そぞろ歩いてみる。
丁度少し歩いた回廊から少し外れた所にある、小さな川の畔にある四阿に入る。

夜空を見上げると、満天の星が煌めいていて。
競い合う様に星と月の瞬きで、辺りは結構明るい。
夕鈴は侍女に借りうけてきた水盤に川の水を汲み入れた。
そしてある星が反射して見える場所に置いてみる。

そこに映るのは・・・・天上で、一際眩い二つの星。
揺れる水面に映った星はキラキラと瞬き、幻想的な光りを放つ。
その星は、今宵の逢瀬を楽しむ彦星と織姫星。
周りの星を従える様に、優しく瞬いている。

「きれい・・・・・・・・」
「天の星よりも、君の方が美しいと思うのだが」

一人きりの筈なのに、後方から声が掛かり一瞬身構える。
が、それは無用な事で・・・・・・。

「へ、へいか!!!」
「驚かせたようだね、ごめんね。
それより、大丈夫だった?侍女達に聞いたら、随分長く寝ていたみたいだったけど」
「す、すみません!!
あの、その、陛下が運んで下さったみたいで・・・ご迷惑をお掛けしました!」

立ち上がって頭を深々と下げる夕鈴の頭上に感じる視線。
それは・・・・・・・この衣装に視線を向ける黎翔の紅い瞳。

「なっ、なにか・・・?」
「イヤ・・・月の光りに照らさせて映し出された夕鈴の姿が、織姫みたいだなと。
それに折しも今日は七夕だし・・・・もっと見せてよ」

その言葉にガタピシに固まる夕鈴。

しまった~~~~。
起きた時、直ぐにでも着替えておくべきだった!!!

「お見せするほどのものでも・・・・ないです」
「天の織姫は一年に一度の逢瀬の為に、それはそれは着飾るみたいだよ。
それは愛しい夫である彦星の為にね。
だから、夕鈴も夫である僕の為に」
「いや、私たちは・・・・・」

夕鈴は黎翔の言に最後まで言葉を繋げないまま、口を閉ざす。

いや・・・・私達は偽夫婦ですから。
それに織姫と彦星は一年に一度でしょう?
私は陛下にお逢いするのは、一年に一度っきりではないですから・・・・。

「ねぇ、夕鈴・・・見せてよ。
僕にだけにさ」

夕鈴の顔を覗き込んで、低く響く甘い声で誘ってくる。
抗えない・・・・・この声、この瞳には。

「はい・・・・・」

俯いていた顔を上げて、両手を広げて披露する。

「このまま、くるりと回って見せてくれる?」

更に注文をつけてくる。
仕方無いとくるりと回りかけたその時―――。

「あっっ!!」

足元にあった石につまづいて、体勢がよろめき地面に落ちる______________瞬間に、
黎翔の腕の中に納められた。
抱きしめられる形になる。

「キャッ!!」

慌てて離れようとしたが、力強い腕に阻まれ叶わなかった。

「ねぇ、僕の麗しき織姫様。
このままで・・・・・・いて」
「?」
「僕が、星に願いを懸けるまで」

暖かい体温に包まれその衣の香りに誘われ、
夕鈴はそのまま時を止めた。

これっていつか見た様な・・・・・・・・・・そう言えば、夢だった。
それってこの事を差していたの?
あの時の夢って、実は――――。

「ねぇ、夕鈴?」
「はい・・・・・・」
「僕がどんな願いを懸けたと思う?」
「えっ?それは・・・・わかりませんよ」
「それは、ね。
来年も夕鈴と七夕の宵を過ごしたい・・・・と」
「・・・・」

何も答えられなかった。
是とも否とも。

バイトの身で有る以上、いつまでここにいられるかなんて、自分には分からない。
でも、でも私の願いが叶うのならば・・・・・・過ぎた願いで無いというならば、
今宵の星に願いを懸ける。

来年のこの宵は陛下と共に過ごしたい____________________と。


その時・・・・星が一瞬激しく瞬き、闇夜を照らしたのだった。
それは天で瞬く恋人たちが、夕鈴の切なる願いを聞き入れたものだったのか?
それともただの瞬きだったのか?

誰にも分らない。
でも、今宵は七夕。
数多の願いが聞き入れられる奇跡の一夜。
だからこそ、未来は――――きっと。








2013.07.09 ブログ初載






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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。

祭事は全て捏造です・・・あしからず。
そんなかんなをお汲み取りの上、お読み頂けると嬉しいです。ぺこり









それから―――。
夕鈴は1週間ほど自室に缶詰状態で、本の虫と化していた。

いくら読んでも、読み終わらない書物に、
夕鈴は少々飽き飽きしていた。

まったく!どんだけ読めば終るのよ。
それにこの書物たちは、小難しく書き過ぎなのよ~~!!

しかし、それはそれ生来の負けず嫌いの夕鈴は何日も掛けて何とか書物を読破し、
内容はおぼろげではあったが祭事について網羅した。

「これで、多分大丈夫・・・・・・・よね」

明日が祭事だという前日の晩。
夕鈴は、抑えようのない自身の高揚感を胸に抱いて眠りについた。




*****


―――遠くから、鈴の冴えわたる音が聞えてくる。

その音が次第に大きくなっていき、それに反応して意識がハッキリと覚醒していく。
そうして目を開いてみると、そこは透き通った水面が煌びやかに光っている河の傍だった。
そして河岸には・・・・・抱きあう男女二つの影。

『やっと、お逢い出来ました・・・愛しい御方』
『私も、どんなにこの時を待ち望んでいた事か』

お互いを見詰め合い、離れがたいのか・・・・体温を確かめ合う様にまた強く抱き合う。
夕鈴はその光景を離れた河の対岸から見ていた。
そしてその男女二人は互いの手を取り、水面の上を滑る様に河の上流へと消えていった。

その後からは、次第に霧が辺り一面に広がっていき______________何も見えなくなっていった。



*****





「お妃様・・・お支度を始めさせて頂きたいのですが、
もうお目覚めで御座いますか?」

寝室へと続く帳の外から遠慮がちに響く侍女の声。
その声で目覚めた夕鈴は、眠い瞼を擦る。

「うん???
今のは夢・・・・だったのね」

先程の河岸でみた光景は、どうやら夢物語だったようだ。
今日は祭事当日。
今まで頑張ってきた成果を見せるお披露目の日である。

夕鈴は跳ね起きて、帳の外で待機している侍女に声を掛けた。

「あっ、おはようございます。
今から参ります」

支度部屋には既に準備万端といった感じで、
侍女数人が待機していた。
祭事というからには普段の倍以上は着飾られるのだろうとは解っているものの、
夕鈴は気後れして尻込みする。

「さぁさぁ、お妃様、此方へ」

ゆったりとした微笑みを浮かべて、夕鈴を誘導するのは年配の侍女長。
久々のお妃の正装に、皆心躍っている様である。

5人ほどに囲まれ、お化粧に始まり髪結いから装飾品付け・・・・・・更には着替え。
夕鈴は動くことも出来ず、ただただされるがまま。

心臓はバクバクしているが『これは、お仕事!お給金の為!!』と呪文を唱え、
必死に平常心を保とうとしていた。

「はい、これで如何でしょうか?」

姿身を立て掛けられる。
そこに映し出されたのは、先日老師から借りた書物の挿絵にあった女性の姿に酷似していた。

「・・・・・・・あ、あの・・・・有難うございます」

自分らしからぬ装いに、言葉がすんなり出て来ない夕鈴。

それもそうであろう_____________。

天帝の娘である織姫を模すがごとく、髪は頭上高く宝髻(ほうけい)結い。
その髪に金銀の珠が幾重にも連なった簪を左右から2本ずつ差し込まれ、
それが動くたびにキラキラ陽の光りを浴びて輝いている。
小首を傾げてみると、その動きに呼応して涼しげな音色を奏で。

夕鈴の華奢な肢体を覆うのは、褶(ひらみ)裙(うわも)とも足首まで桃色一色で染められた長衣。
風が吹けばヒラヒラなびく薄い生地で出来ており、裾に纏られた沢山の桃真珠がその抑えになっていた。
肩にかけた薄紫の透き通った領布(ひれ)は足元まで垂れ、
胸の下で結ばれた帯の濃い紫を引き立たせている。

「「お妃様、お綺麗でございます!!」」

侍女達の感嘆の声に、姿身の中の自分を見詰めていた夕鈴は我に返る。
準備が整ったのを何処かで見ていたかの様に、
丁度よい頃合いに李順が顔を出した。

「お妃様、準備は整われたようで御座いますね。
それでは祭事の行われる祭殿にお連れ致しましょう」

李順は手馴れた様子で言葉を述べると、
礼を取り夕鈴に近付く。

「時間ですのね。
では・・・参りますので、案内をお願いしても宜しいでしょうか?」
「畏まりました、お妃様」

完璧な妃の所作で部屋を出た夕鈴は、回廊を少し進むと大きく深呼吸する。
李順も先程までの畏まった雰囲気が抜け落ち、
いつもの尊大な上司に切り替わった。

「夕鈴殿、キチンと手順などは頭に入ってますか?」
「はい・・・・・・・・・・・・・多分」
「多分とは何ですかっっ!
これは、伝統的な祭事で、更には名だたる大臣が出席するんですよ!!」
「は・・・・・・・いぃぃ??
そんな事、私は聞いてませんが~~~」
「ええ、言ってませんよ!
だから今お伝えしてるんです!」

夕鈴の顔色は、一気に蒼白に。
それを横目でチラリと見た李順は頭を抱える。

「いいですか、夕鈴殿・・・・シッカリ務めあげて下さいよ。
期待していますから。」
「は、はい!!」

―――はい!とは言ったものの・・・大丈夫なの、私???

少し不安げな表情が残る夕鈴の背中を、
李順は前触れもなくバシンと軽く叩く。
これで気合が入ったのか、
夕鈴もいつもの気合の入った表情に次第に戻っていった。


*****


後宮と王宮の間に設置されている祭殿は、
水が引き込まれ涼しげな風が吹き込んできていた。

祭殿後方には、既に柳・氾両大臣を始め名だたる大臣たちが控えており・・・・祭祀である夕鈴を待っている。
夕鈴よりも先に到着したのは黎翔で、大臣たちに睨みを利かせつつ威厳を持って祭壇の傍に設えられた王座に鎮座した。
黎翔の到着で、祭殿に流れる空気は冷え冷えとしたモノに瞬時に変わる。
その空気を春の様な暖かなモノに代えたのは・・・・・祭祀である夕鈴だった。

李順に伴われ現れた夕鈴は、扉入口から祭壇まで真っ直ぐに伸びた絨毯の上を静々と歩いていく。
動くたびに簪の音が鳴り響き、あたかも女神降臨を想わせる。
居並ぶ大臣たちから、夕鈴の姿に感嘆の溜め息が漏れていた。
それが気に入らないのは、勿論黎翔である。

緊張している夕鈴は全くそんな事は意に介さず、
ただ頭で描いているのは祭事の順序だけで・・・・・。
優雅な足取りで祭壇手前に進むと夕鈴は小さく深呼吸し、
祭壇・・・そして祭壇脇の黎翔にと順に深々と礼を取る。

目の前の祭壇には、酒・瓜や餅など沢山の供物が供えられている。
まずは酒瓶を手に取ると、杯に並々とお酒を酌み入れ両手で祭壇に捧げる。

そして祭壇に供えられた供物を一つづつ捧げ持ち、
両の手で天に掲げた後、再度祭壇に祀る。
その一つ一つの所作を丁寧にゆっくりと行い、
全ての供物を捧げ終る頃には両腕が少しピクピクし始めていた。

その様子に黎翔は心配げな表情を浮かべ・・・それでも手助け出来ない自分に少し苛立ちを隠し切れないでいた。

「夕鈴・・・・」

口元にその言葉を乗せ・・・しかし声を出すことは出来ないので、口の動きだけで。
それでも、黎翔は必死に夕鈴の名を呼び続けていた。

そうこうするうちに・・・祭事祝詞の口上が始まる―――。

今度は李順がハラハラしながら見守る中、夕鈴は必死で覚えた祝詞を一言一句違えることなく・・・・更に流麗に淀みなく述べていた。
『どうせ、正妃でもない只の妃がうまく祭祀として務まる筈はない』とタカをくくっていた連中ばかりだったから、
夕鈴の様子に大臣たちはお互いの顔を見合わせて驚くばかり。


―――ここまでは、何とか無事に乗り切ったけど・・・・。
これから・・・がね、自信がないのよ。

夕鈴は祭壇脇に祀られていた『祭祀鈴』を取ると、
その柄を右手で握りそして柄の末端から伸びた五色の布を左手に持った。
その柄を軽く振ると上部に3段に分けて付けられた小さな鈴15個が共鳴して鳴り響き、
それに伴い祭殿の空気はビリリと引き締まった。


『しゃらん・・・・・』

幾重にも重なる鈴の音を掻き鳴らしながら、
夕鈴は中央で何度もくるりと回り祭祀鈴を上下に振る。
裾がフワリと舞いあがり、夕鈴の白い脚が見え隠れする。
それを傍で見ていた黎翔は、思わず『ごくり』と息を飲み込むほどの艶やかさ。

『しゃん』

最後の鈴の音を高らかに鳴らすと、そのまま夕鈴は床に伏した。


――――終った~~~~~~~。


緊張から解き放たれ、やっと夕鈴の満面の笑みが零れる。
そして黎翔が王座から降りてきて、夕鈴に手を差し出した。

「妃よ、祭祀としての務め・・・御苦労だったな」
「有難うございます、陛下」

そして自身に引き寄せると、そっと抱きしめ耳打ちする。

「夕鈴、ホントにお疲れさま。
あのタヌキ共も度肝を抜かれていると思うよ」

大臣たちが退席していくの見て、黎翔は憎まれ口を叩く。

その言葉で一気に疲れがきたのか・・・夕鈴は腰が砕けてしまった。
しかし、抱き締めていた黎翔によってへたり込むのだけは避けられた。

黎翔の腕の中でニッコリと微笑み_____________夕鈴はそのまま急激にやってきた睡魔に身をゆだねたのだった。



続く。



2013.07.08 ブログ初載





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夕鈴はその日後宮立ち入り禁止区域の中でも、
珍しい場所をせっせと掃除に勤しんでいた。

ここは、後宮に収められた書物が一同に介す後宮書庫。
本来ならば、張老師の管理下であるはずだが・・・高齢故に掃除も儘ならないとお願いされた場所である。

一歩内に入ると、其処には沢山の書物。
過去この後宮にいた数多のお妃さまへと寄贈された書物が、ここに並ぶ。
そして此処に有る書物は、寄贈されたお妃さまが後宮を辞する時、
または死した時に此処に集められるのだ。
だから・・・・此処は過去の栄光や威光が集められた特別で特殊な場所。

古い時代からおいてある書物もあり、少しカビ臭く埃がたまっている。
夕鈴は格子窓を開け広げ、埃を落としていく。

そうしていると・・・・・・一冊の書物の背表紙が目に入ってきた。

―――それは、『伝承織女談』と書かれてあった。
このお話は恐らく『七夕』に関するものだろう。
ほんの幼い頃、夏本番前のこの時期に寝物語として母さんからよく聞かされていたが、キチンと書物で読んだ事なんて無かった。

だから、見つけた時には何故か心惹かれた。

「老師、これお借りしてもいいですか?」
「よいがのぉ~~。
ただし、それはただの言い伝えを集めただけのものじゃが」
「それでもいいです」

掃除を素早く済ませると、少し埃被った書物を抱え自室へ。
窓際の椅子に腰かけ、その書物を早速開いてみる。
流麗な文字で書かれてあり、スンナリ読み進められた。

「はぁ~~~、七夕にも色々な言い伝えがあるのね。
でもこれって結構祭事にも通ずる記述があるみたいだけど、
もしかして・・・・・・王宮でも、七夕には祭事が執り行われていたり?」
「当たりだよ、夕鈴」

気がつけば、黎翔が椅子の真後ろに佇んでいた。

「きゃ!す、すみませんっっ!!
陛下がいらしていただなんて・・・気がつきもせず」

夕鈴は慌てて、椅子から立ち上がり礼を取る。

「いいよ。夕鈴、なんだか真剣に読んでいたみたいだったからね」
「すみません」

回りを見渡すと侍女さえも居ない。
きっと黎翔が早々に下げてしまったのだろう。

「こんな時間に陛下がいらっしゃるだなんて、珍しいですね」
「実は、小煩い李順から逃げて来たんだよ」
「逃げて・・・・ですか?」
「まぁね~~だって、『祭事、祭事!!』と煩いから」
「祭事・・・ですか」
「僕がするんじゃないんだけどね」
「陛下では無いのですか?
それって、もしかして・・・私ですか?」
「夕鈴というか、後宮の祭事らしいよ」
「そ、それなら、私が執り行わないといけないんじゃ??」

急に自分に振られてきた事で、夕鈴は目を白黒させて慌てる。
それをみて、黎翔はクックッと笑う。

「あっ、でも安心して。
夕鈴にこれ以上負担はかけたくないから、
そんな祭事は僕が『しない』と言い切ってきたから大丈夫だよ!」
「そう言う訳には、いかないんじゃ・・・・」
「いいんだよ!」


「いい訳がないでしょう~~」

戸口から第3の声が上がる。

「李順さんっっ!」
「見つけましたよ、陛下!!!
陛下が何と言おうと、祭事は執り行いますからね」
「え~~~~。
めんどくさいし、夕鈴にはこれ以上負担はかけられないからさぁ~、
やめておこうよ~~」

黎翔は全くと言ってヤル気なし!とばかりに、
呑気に夕鈴の淹れたお茶を飲み干す。
その様子に、眉間に皺を寄せながら李順は力説した。

「何を言っているんですか!これはれっきとした後宮行事なんですよ!!
今までは後宮に妃がいなかったのだから『しない』で済んでいましたが、
今は夕鈴殿という妃もいるのですから、しない訳にはいかないでしょ」
「はぁ~~~めんどくさいし」

本当に黎翔はヤル気無しで嘆息を吐き出す。
その様子に、更に激怒して眉間に皺を何重も寄せる李順がそこにいた。

「陛下っっ、祭事にめんどくさいもないでしょ!!」

二人のやり取りに口を噤んでいた夕鈴だが、
ここで初めて二人の会話に参戦する。

「あの・・・・李順さん、私はどんなことをすればいいのですか?」
「これは、夕鈴殿。あなたがやってくれるんですね!!」

―――いえ、まだやると言った覚えは有りませんが。

そんな夕鈴の心の声なんて届くはずもなく、
李順は祭事の手順なんかをツトツト説明を始める・・・・。
こうなった李順を止める事なんて、王である黎翔にすら出来っこ無い。
結局、夕鈴は祭事を執り行うことに。
李順はひとしきり説明をして、喜び勇んで『準備が有りますから』とさっさと出て行ってしまった。

「夕鈴、大丈夫そう?」
「・・・・・・・だと、思います」
「僕はする必要はないと思ったんだけど」
「でも、李順さんは必ずするんです!!って感じでしたよ」
「まぁ・・・・それは・・・・・色々とね」

黎翔は奥歯に何か挟まったように口ごもる。

「何か有ったんですか?」
「実はね・・・大臣共が煩いんだよ。
『今年はさぞかし、艶やかな祭事が執り行われるんでしょう』ってさ、騒いでいてね」
「?」

夕鈴はどうして大臣たちが、後宮の一祭事にここまで関心を持っているのかが理解出来なかった。

「まぁ、いいよ。
夕鈴・・・無理しなくてもいいから、気楽にやってよ」

それだけ言うと、黎翔は『政務があるから』と出て行ってしまった。

―――陛下、ホントは何か云いたかったんじゃ・・・・・・。
もしかして祭事って、ものすご~~~く結構大変なんじゃないの??

その夕鈴の予感は____________現実のものへ。

程なくして・・・・王宮女官が李順からのお届モノだと、
両手で抱えきれないくらいの書簡を運んできた。

それには一通の料紙が付いている。
どうやら、李順からのモノである様だ。

『__________お妃様、此方は祭事を執り行うにあたり、読んで戴く書物になります。
熟読為さって下さいます様、お願い致します____________』

―――はぁ?!
なんなの?この書物の山はっっ!!

夕鈴は目の前が暗くなった気がしてきたがこれも妃の役目と諦め、
取り敢えず1冊目に手を伸ばしたのだった。



続く。


2013.07.08 ブログ初載




瓔悠

Author:瓔悠

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