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【そして一つの可能性・15】 完
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臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り








黎翔は始めこそ急ぎ足であったものの、後宮に続く回廊の途中で立ち止ってしまった。
脳裏には、夕鈴になんと云うべきなのか・・・・そればかりが占め考えが纏まらず、
もうすぐ夕鈴のいる部屋だというのに中々足が進まないのである。

大体なんと言えば、夕鈴は承知してくれるのだろうか。
ただでさえ、怪我をしている身だから興奮させたら拙いだろうし。
でも今言わねば・・・後悔する様な気がする。

ここであぁだ、こうだ考えていても埒が明かない。
だったら、夕鈴の顔を見てその時に思った事を言葉にして伝えればいい。
黎翔はようやく決心すると足取りも軽く、
夕鈴の元へと今度こそ急いだのであった。


部屋に入ると、侍女たちは慌てて拱手する。
その中でも侍女長とも言うべき古参の者が前に進み出て、
黎翔がいなかった間の夕鈴の様子に変りない事を直ぐに報告する。
それに黎翔も一安心すると、後は自分がついているからと侍女たちをすべて下げた。

足音を立てないように静かに寝室へと入った黎翔が目にしたのは、
寝台で安らかな寝息を立てて眠っている夕鈴の姿だった。

「大丈夫、そうだね。」

囁き掛けるとそのまま寝台の端に腰かけ、夕鈴の顔を覗き込んだ。
薔薇色に染まる頬、赤味がくっきりと浮かんでいる唇。
そして、安らかな息遣い・・・・どれを取っても、昨晩とは大きく違う。

ちゃんと生きて此処にいる。
それがこんなに嬉しく思った事はない。

もっと確かめたくて、眠っている夕鈴の頬に手を伸ばして優しく撫でてみた。
その頬はジンワリと暖かくて、黎翔の掌にもその温もりが伝わってきて血が通っている事が容易に判る。
でもそれだけでは足りない様で、ピクピクと微かに動いている睫毛にそっと口付けてみた。

「うぅ~~~~ん。」

慌てて唇を離してみたが、時すでに遅し・・・・・・
夕鈴は徐に起きあがると、目の前に映る黎翔の深紅の瞳をシッカリと睨んでいた。

「へいか・・・・・・今、何してました?」
「何って?」
「とぼけないで下さい・・・・目に、目に唇が当ってましたよね。」
「そうだね・・・・ただ当っていたのではなくて、口付けしていたんだよ。」
「・・・・・・・・・・・仰っている意味が判りません。」
「夕鈴、興奮したら傷に障るから、この話は此処までにしておこう。
もそれは不本意だからね。それより夕鈴に話があって来たんだ。」

黎翔は尤もらしい理由をこじつけて適当に誤魔化し、直ぐにでも自分の話を始めようとする。
呆気に取られた夕鈴は、嘆息を大きく吐くと肩を窄め仕方ないと追求する事を諦めた。

「話ですか?それはもしかして、危険手当を弾んで下さるとか云う話でしょうか?」

夕鈴は嬉々として、目をキラキラとさせていた。

「いや、違うんだ。」
「えっ、そうなんですか・・・・・・。」

本当に夕鈴はガッカリしたようで、肩を落としてシュンとしている。
その姿を見ると黎翔も居たたまれなくなり、直ぐに取りなしをする。

「夕鈴、大丈夫だよ。そのことについては、ちゃんと李順には言っておくからねっ。」
「ホントにいいんですか?良かったです。これで結構借金が減るかも!!」
「夕鈴・・・これで借金が無くなったら、後宮を辞するの??」
「えっ?」
「だって、夕鈴嬉しそうだし・・・それにあんな目にもあったし・・・・。」


もしも・・・『そうだ』と云われたら、これから自分が告げようとしている事は全くもって夕鈴にとっては傍迷惑な話だと云うことになる。

そう思うと何だか云い出し難くなり、黎翔は押し黙ると静かに瞳を閉じたのだった。
その考え込んだ様子に夕鈴は直ぐに気が付き、慌てて頭(かぶり)を振りながら否定する。

「それは無いです!!!だって陛下には臨時花嫁はまだ必要でしょ!!
私なら大丈夫ですよ。ほら、この通り怪我だって大丈夫ですしっっ。」

夕鈴は黎翔を気遣う様に痛いのを我慢して、
殊更に大丈夫な事を示すかのように腕を上げてみる。
その様子に、勇気付けられた黎翔は意を決して告げることにした。

「夕鈴、実は臨時花嫁は、もう必要が無くなったよ。」
「私では、お役に立てませんか・・・・・・・」
「そんなことは無い!絶対に。僕には夕鈴は必要だよ。
だって夕鈴が正妃に、そしてこの国の国母に為るのだから。
だから臨時妃は必要なくなったんだ。」」
「???・・・・・・云ってる意味が良く分からないんですが。」


小犬とも狼ともつかない表情と声音で、黎翔はハッキリと云い切った。
夕鈴は一瞬、自分に何を告げられたのか全く理解出来なくて、
瞬きを何度も何度も繰り返した。

私が、国母ですって???

ハッと我に返り、黎翔を見てみると真摯な眼差しがあった。
そう、瞬き一つもしないで自分の瞳を真っ直ぐに見詰めている。

陛下、本気なのかしら??でもそんなことは許されない。

「陛下・・・・お気持ちは有り難いんですが。
こんな怪我をさせてしまったからだと云って、
そんな重大な事を一般の庶民に言わないで下さい。私は大丈夫ですから!!」
「そうじゃない!!!怪我をさせたからその償いに・・・・・では無いんだ!!」

夕鈴に自分の考えを伝える―――此処でキチンと否定しないと誤解されてしまうし、
本心は決して伝わらないんだと肝に銘じて。

「夕鈴、聞いてくれ。私は今回あんなことで・・・そう自分の失態で君に怪我をさせてしまった。
しかも昏睡状態にまで・・・もしかしたら君を永遠に失っていたかもしれないと思っただけで、
今も自分を赦せなくて身体が震えてくるほどだ。
でもその時に気がついた・・・・君が必要だと。いやそうじゃない、ずっと傍に居て私を支えて欲しいと。
夕鈴・・・君を正式に私の唯一の妃として、そして正妃として迎えたいのだが駄目だろうか??」

黎翔は想いのたけが堰を切ったように溢れだし、夕鈴に畳みかけたのだった。

その眼差しが、その言葉が、その想いが・・・真剣なものであることは夕鈴は気付いたが、
その強い想いを受け止めてもいいのか、ハッキリ云って夕鈴には判断出来なかった。
それで、ついいつものように云ってしまった。

「陛下・・・・演技は今されなくても・・・・・私しかいませんが・・・。」

夕鈴はホントは真剣な黎翔が演技しているとは全く思ってもなかったが、
云わずにはいられなかった。

「演技なんかじゃない!!君を妻にしたいんだ。」

黎翔は、更に繰り返す____。
その様子に夕鈴はゆっくりと深呼吸した。

陛下は、本気なのね・・・・でも私に正妃なんて務まる筈が無い。

「陛下・・・・私が正妃なんてあまりにも突飛すぎます。
周りが認める筈は有りませんよ。」
「そんな事はない!!現に李順は承知しているんだから。」
「李順さんが??」
「だから、何も心配する事なんて無いんだ。
もう私は君を、夕鈴を失うことは考えられないんだ。
だから是と云ってくれ。」

黎翔は懇願するように、夕鈴をジッと見詰めている。
その煌々と輝く二つの紅玉は、夕鈴を捉えて離さない・・・魅惑的な深紅の瞳。

この瞳に、私は魅入られてしまったのかしら。
ここまで求められているのに、私自身の陛下を想う気持ちを偽って突っぱねてしまったら、
きっと私は生涯後悔して生きることになりそう。
だったら自分の気持ちに素直になるべきなのよね。

そして、夕鈴は決心する。

「―――解りました陛下。
私で宜しければ、本当に私でいいのなら・・・・お受けいたします。」
「有難う。本当に有り難う。」

そうして、黎翔は夕鈴を鍛え上げた逞しい胸に引き寄せると優しく掻き抱いて、
その赤く熟れた柔らかい唇に、自分の唇を重ね合わせた。

夕鈴も咄嗟のことでビックリして何度も瞬きをしたが、抗うことなく静かに黎翔を受け入れた。

永遠に離さない。
夕鈴だけだという誓いの口付け。
それは二人にとって、とても甘美なものであった。

始まりの口付け・・・・・この先、命果てるまで何千、何万と繰り返されるであろう想いが繋がりあった口付け。

黎翔と夕鈴はその口付けに酔いしれていた。
そう、いつまでも。


********




そして数年後。

「夕鈴、今日は久々に執務室に来て欲しいんだけど・・・。」

後宮の正妃の部屋で朝餉の後のお茶を飲みながら、
黎翔は落ち着いた面持ちで目の前の夕鈴に告げる。

「・・・・ええ、ただ久し振りですね。」
「そうだね、君が懐妊してからは此処でゆっくりしてもらっていて、
政務室にすら呼んでないからね。」
「ホントに黎翔さまは心配性だから・・・妊娠なんて病気ではないですのに・・・。」

夕鈴は少し膨らんできたお腹を愛おしそうに擦りながら、
目の前の黎翔を見詰めふんわりと微笑む。

「解りました、では頃合いをみてお伺いしますね。」
「いや、逢わせたい者がいるから、来て欲しい時は使いをやるよ。
だからそれまで待っててくれればいいよ。」
「はい。」

その穏やかな夕鈴の様子に安心した黎翔は、名残惜しそうに後宮を後にした。

数刻後。

「正妃さま、陛下がお呼びでございます。」
「解りました、参りましよう。」

優雅に立ち上がるとゆっくりと使いの者に先導され、
執務室へと向かった。

部屋に入ると、待ちかねたように黎翔は戸口まで出迎えてくれた。
そして黎翔の差し出した手を取ると、夕鈴は天女の様な微笑みを浮かべ滑らかな立ち居振舞いで礼を取る。
其の侭ゆっくりと歩く夕鈴は典雅の極みであり、本当に誰もが見惚れる正妃と為っていた。

そして黎翔に導かれて進んだ奥には、膝を折って拱手している男性がいた。

「夕鈴・・・・君に逢わせたかったのはこの者だ。」
「・・・・・どなたですの?」
「この者は、名を 杜 偉正 (と いせい)といい、
私が信頼を置く官吏なんだ。」
「そうですか・・・・・お初にお目に掛かります、夕鈴と申します。」

その夕鈴の挨拶に返すように、目の前の男性は更に深く礼を取る。

「杜 偉正よ、おもてを上げよ。」

黎翔の掛けた声に即座に反応し、その男性は顔をゆっくりと上げた。

「・・・・・・・・・・・」

夕鈴はその男性を一目見るとジンワリと熱いものが胸の奥からこみ上げてきて、
気がつくと目頭には涙が浮かんでいた。

「秀お兄ちゃん・・・・・・・・・よね。でも名前も違うし、あの時亡くなったって聞いたのよ。
それなのに、どうして此処に居るの?」

「すまない・・・夕鈴。実は、あの時・・・董 秀偉には地方監視官を命じたんだ。
でもそれは秘密裏にする仕事で、誰にも邪魔されたりしない為に、
戸籍的には抹消する必要があったのだ。
だから死亡したことにして、周囲にも・・・そう親、兄弟にも生きていることは知らせていない。
家族に危険が及ばないようにな。」
「そうだったんですね・・・・。」

黎翔は隣りで突っ立っている夕鈴の今にも溢れそうな涙を、
人差し指で優しくなぞると頬にそっと触れる口づけをした。
夕鈴は目を見張り頬を染め恥ずかしげにしていたが、
ようやく緊張が解けたのかホッと一息ついて目の前の秀偉に話し掛ける。

「よかった・・・秀お兄ちゃん、無事で。」
「それを言うのは、自分の方です・・・お妃さま、あの時本当に御無事で何よりで御座いました。」
「偉正・・・・此処には私たちしかいないのだから、もっと砕けていていいのだが・・・。」

黎翔が穏やかな眼差しで、秀偉に譲歩してやる。
これは夕鈴の夫だと確固たる自信の表れなのであろう。

「そうですか・・・・とはいきません。
お妃さま・・・いいえ御正妃さまは、この国の国母と為られる御方なのですから。
あの時陛下が仰っておられましたが、まもなく宣言通りに為られますね。」
「そうだな。」
「本当に御正妃さま、お身体を大事になさり健やかなお子様を御出産なさって下さいませ。
それが国民、皆の願いなのですから・・・・本日は陛下の計らいで、お逢いできて本当に嬉しく思います。
ではそろそろ・・・陛下、本日はこの様な機会を賜り、誠に有難うございました。」

秀偉は黎翔に深々と拱手すると、隣りに立つ夕鈴には恭しく手の甲に触れそうで触れない口付けをして、その場を静かに立ち去った。

その瞬間、夕鈴は本当に時の流れと云うものを肌で否応無く感じたのだった。

あの時、秀偉の手を取っていたのなら・・・・きっと今の人生はなかった。
そして秀偉は戸籍上抹消されること無く、夕鈴もただの庶民として其れなりに幸せに暮らしているのだろう。

でも、自分の気持ちを偽る事は出来無かった。
陛下を恋慕う気持ちは。

だからあの時、秀偉の手を取らなかったのは正解だったのだ。
秀偉の為にも自分自身の為にも。
私のあるべき所は、いつも全身で私を見守ってくれている陛下の隣り。
大変かもしれないけれど、これからも自分が出来る精一杯でこの方をお支えしたい。

夕鈴は決意を新たにして、愛すべき夫に優しく微笑んだのであった。




完。




ご拝読、有難うございました。        瓔悠
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