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【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り







慌てて後宮に赴いた黎翔は扉を乱暴に開けると、
ツカツカそのまま案内も無しに部屋に入り夕鈴の寝室へと向う。
侍女たちは隅に控えているが、主である夕鈴の容体がよくない事を知っているのか、
すすり泣く声が微かに聞こえてくる。

黎翔も解ってはいた――――浩大の焦った声と顔つきで、
夕鈴の容体が急変したという事は。
でも、そんな事は認められない・・・そして認めたくはなかった。
自分を置いて違う所・・・・もうニ度と手の届かない所に飛び立つなんてことは、
許可出来る筈などない。

帳を上げて寝台の傍に近づくと、そこには土気色の顔色で浅く呼吸している夕鈴が横たわっていた。
黎翔が来たことで侍医達は少し寝台より離れ壁際で控えており、誰もかれも黎翔の言を待っている。
ここで余計なことでも云おうものなら、黎翔の逆鱗に触れかねないからである。
ただならぬ緊張感が辺りに漂っていた。

「どういう事だ。」

低く怒気を抑え気味に黎翔は尋ねる。
一番高い地位にあるであろう侍医が、頭を下げつつ静かに答えた。

「お妃様の脈が段々と小さくなっているのであります。
どうやら血止めを致しましたが、中々止まらなかったのが原因でありましょう。
後はお妃さまのお気力に頼るしか・・・・。」

『バンッ』

大きな音がして侍医が頭を上げると、苦悶に満ちた表情の黎翔が壁を叩いたのであった。
黎翔の行為に恐れをなして、隅で固まって震えている侍医達に低い声で淡々と命を告げる。

「下がれ。」

その一言で侍医達はやっと此処を辞する事が出来るとホッと安堵し、恐る恐る寝室から出て行った。

それを確認すると、夕鈴が眠る寝台に近寄りその淵に腰掛け、
眠り姫の様に眠る寵妃をジッと見詰めた。
その土気色の頬にそっと手をあて、静かに擦ってみる。
けれど目を開けるどころか、身動き一つしない。

どうして自分はこんなにも無力なのか・・・・・夕鈴がこんなに苦しんでいるのに何ひとつ出来ないとは。

黎翔はうなだれて、夕鈴の髪を一房取ると、そっと口づけた。
医師ではない自分が出来る事など、たかが知れている。
傍にいる事だけしか、ただ見守っている事ぐらいしか・・・・ない。

「夕鈴・・・・・・。」

優しく名を囁くと、黎翔は大きく深呼吸しそのまま立ち上がり身を乗り出して、
その少し開いた唇に自分の唇を重ねてみる。
夕鈴の熱い吐息が自分の中に入ってくる。
その熱い吐息にはわずかながらではあるが生命力が溢れており、
夕鈴の『生きたい』という意思が宿っている気がした。

まだ、夕鈴は生きようと頑張ってくれている。
だから自分がここで諦める訳にはいかない。

「夕鈴、お願いだから目を覚まして・・・僕の味方に為ってくれるって約束したじゃないか!!
まだまだ僕には君が必要なんだ!!だから・・・・。」

黎翔は掛け布から出た白い手をシッカリと握り、
意識のない夕鈴に必死に語りかけ目を覚まさせようと試みる。

「ねぇ、早く起きないと、口付けだけじゃ済まないよ。それでもいいの?」
「早く治って、またゆっくりと庭園に散歩に行こうよ。」
「また夕鈴の作ったご飯食べたいよ。何なら僕と一緒に作ったっていいんだよ。」
「お忍びで下町に遊びに行こう・・・・青慎君も待っているから。」

ただ、ただツトツトとたわいない事を優しく語りかけ続けた。

そして。
そのまま夜が更けていった。

夕刻からのこの騒動にさすがに黎翔も疲れてしまったのか、
段々と瞼が落ちていきウツラウツラしてくる。
そして気が付くと夕鈴の寝台の上に上半身を突っ伏して眠り込んでしまっていた。




『陛下・・・・・陛下・・・ごめんなさい、私、もう駄目かも・・・・。』

目の前は、サァ―――と霧に覆われた様に白くけぶり何も見えない。
夕鈴の哀しげな声が何処からとなく聞こえてくるだけ。

『夕鈴!!何処にいるんだ!!ダメだなんて云わないでくれ!!』

大きな声で力の限り叫んでみる。

『陛下・・・・そんなに哀しまないで下さい。きっと陛下には優しいお妃さまがお越しになりますよ』
『そんなものは必要ない!!夕鈴が傍にいるのだから・・・・・』
『ダメですよ、私は偽物なのだから。陛下には相応しくは有りません・・・だからこのまま・・・・・』
『相応しくないなどと!!そんなことは私が決める事なのだから、君が決めつける事ではない!!』
『どちらにしても、私はそろそろ行かないといけないですから。だから・・・。』
「何処に行くと云うのだ。君が有るべき場所は私の傍だけだ!!』

力の限り叫んでみても夕鈴の姿は影形も見えず、
ただむなしく自分の声が跳ね返ってくるばかりだった。

『夕鈴!!!!!!!』


力の限り叫んだ黎翔は、その自分の声で目を覚ました。

辺りは真っ暗ではなく、恐らく侍女が気を利かせて灯したのであろう常夜灯から薄明かりがほんのりと灯っていた。
黎翔は先程見た夢が気に掛かり、身を乗り出して夕鈴の様子を窺った。

細々とした息づかいで今にもその吐息は消え失せてしまいそうで、
黎翔は慌てて手を取ると脈はかなりか細くなっており、今にも止まりそうである。

「侍医は、侍医は控えているか!!!」

頭の中で危険信号がチカチカ点滅しており、このままでは夕鈴は逝ってしまうと云う事だけはハッキリと認識でき、大声で叫んだのだった。

そして黎翔の荒々しい声で、転げるように侍医の一人がバタバタと入ってきた。

「陛下、如何なさいましでしょうか?」
「夕鈴の脈が先ほどよりも細くなってきているんだ。早く診てくれ。」
「畏まりました。では、失礼いたします。」

侍医が寝台に進み寄り、夕鈴の白い手を静かに取ると脈を測り始めた。
その表情は徐々に難しいものとなり、事態が余り良くない事を暗に示していた。

「如何なんだ!!」

黎翔は思わず口を挟んだ。
まだ診察は終っていないというのに・・・・。

「恐れながら、陛下・・・・・・私はこんな事は云いたくは有りませんが、
お妃様の容体は持って2、3日というところでしょうか。」
「な、なん・・・だと。今、なんと云ったか?」
「・・・・言いにくいことでございますが、あと2、3日の御命だと・・・。
私共も、手を尽くせる事は誠心誠意込め全て致しました。」
「先程はその様な事は、一切言っておらなかったではないか!!」

黎翔の認めたくない心情がほとばしる様に大声が寝室に轟く。
それに恐る恐る答えるのは年長の侍医だった。

「何しろ手刀を抜いた後にも実は出血が続いておりまして・・・抜く際には注意深く致したのですが、太い血管の近くを掠めたのでしょう。そしてそのことを陛下にお伝えしなかったのは、出血の量は大量と云うほどではなかったのですから、あの時は直ぐに止まるであろうと私共も思っておりました故。」

この状況は黎翔にとって信じがたいものであり、枕元に控えめに置いてある秋桜が活けられた青磁製の花瓶を、徐に手に取るとそのまま床に叩きつけた。

『ガチャン!!』

大きな音がして花瓶は粉々に砕け、秋桜もろとも床に散らばった。
そう黎翔の今の心を表わすかのように・・・・・・。

「私は断じて認めない!_こんなことは認められない。何とか為らないのか?
お前たちは国一番の名医ではないのか?その名は伊達なのか!!!
何とかしろ!!夕鈴をこのまま逝かせてはならない!!」

黎翔は夜中で有るにも関わらず、辺りに響き渡る様な怒号で侍医を責め立てる。
その怒号に恐れ慄き、侍医は低頭したまま身動き一つする事はなかった。

そのことからも、侍医達も出来うることは全てし尽くしたと云う事が伺い知れた。

「もういい・・・・下がれ。」

喉の奥から絞り出すような声で静かに告げ、手を上げて侍医を寝室から出て行かせたのだった。

夕鈴、これで二人っきりだよ。
誰も邪魔はさせないし、まだ君を冥府の王の許へ行かせる訳にはいかない。


黎翔は寝台の上の掛け布をハラリと剥ぎ取ると夕鈴の身体を自身の腕で抱きかかえ、
そのまま寝室を出て戸口へ向かおうとする。

「陛下、どちらへ行かれますか?」

侍医達は一同顔を見合わせ驚き、一番歳のいった侍医長が代表として静かに尋ねる。

「お前たちは、妃が後2,3日の命だと言った。
だからその間、二人っきりにさせてもらうことにしたから邪魔立てするな。」

黎翔の真摯な瞳に押されて、侍医長は何も言えなかった。
そのまま王と妃がゆっくりと戸口の向こうに消えていくまで、頭を下げて見送ることしか出来なかった。





続。
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瓔悠

Author:瓔悠

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