【そして一つの可能性・11】
2014年12月16日 (火) | 編集 |
【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り









後宮の寝室へと黎翔の手で運ばれた夕鈴は直ちに侍医によって手厚い治療が施され、
今のところは恐らく命の危険性は無いだろうと云うことだった。
但し、一つの懸念は残されており、その懸念が表に出て来たのは後になってからではあるが。
そして更に云えば未だに意識は戻ってはおらず、このまま昏睡状態が続くとなれば衰弱していき命すら危ぶまれるとのことであり、まだ手放しでの安心はできないのであった。

侍医も侍女も下がって、寝室には二人きりとなった。
そこでようやく落ち着いた黎翔は身に纏う雰囲気が少しだけ和らいだようで、
寝台の傍にある椅子に腰かけ静かに眠る夕鈴の茶色の髪をゆっくりと梳きながらそっと語りかける・・・・。

「夕鈴・・・・早く、目を覚まして僕を見てよ。いつもの快活な君が見たいんだ・・・。」

髪を梳く手を止め身を乗り出して優しく前髪を掻き分けると、露わになったおでこに口付けを落としてみた。
いつもなら直ぐに目を覚まし真っ赤な顔をして黎翔をたしなめる所だが、今は・・・・・・全く微動だにしない。
それが黎翔にはとても辛くて、苦しくて、やるせなくて・・・・・このまま目を覚まさないのでは?と悪い方向に考えが向かってしまう。

『ガタンッ』

この苛立ちと焦りをどうする事も出来ずに、傍のあった椅子を蹴倒してみた。
それでも、夕鈴は目を覚ます事はない。

「如何なされましたか?」

隣に控えている侍女が、恐る恐る声を掛けてくる。

「大事ない。」

短く答え寝室から出て来た黎翔は侍女に『後を頼む』と云い置き、そのまま振り返らず部屋を出て行った。



そう静かに立ち去ったのは、賊の後始末をする為である。
しかし本当のところ、これ以上目を覚まさない夕鈴の傍にいる事が辛くなったからだった。
黎翔の辛さとは、あの時自分が薙ぎ払った手刀が方向を変え、
夕鈴の方へと飛んでしまったことが今の状況を引き起こしている事への罪悪感。

でもいくら自分を責めても夕鈴が癒される訳はないと解ってはいる。
だから今は兎に角、夕鈴が目を覚ましてくれるのを静かに待つしかない。
でもそれを傍で待つのも耐えられそうになかった。
ならば元凶の賊どもの処理でもしていた方が、落ち着いて待つ事が出来ると判断したのだった。

「さぁ、如何してやろうか・・・・。」

昏い笑みを口元に乗せ、賊を押し込めた地下牢へと歩み始めた。


暗い地下牢には、中庭と回廊で捉えた賊が10人ほど鎖に繋がれていた。
その中には夕鈴に怪我を負わせた男も含まれていたが、どの面もふてぶてしく反省の欠片もないように見える。

「おいっ!!誰からの命令なのか、シッカリと吐いてもらおうか。」

黎翔は着くなり、その者たちに詰問する。
これらは所詮実行犯でしかなく、裏には大きな人物が必ずいるであろうと踏んだ上での言葉。

「はぁ??知らねえよ。それよりも、あの女はもうくたばったか?」

黎翔の神経を酷く逆なでる事を云っているのは、あの手刀を投げつけていた主犯格の男である。

「残念ながら助かって回復傾向にあるが・・・・ふん、お前共の思い通りにはならなかったな。」

黎翔は夕鈴が未だ昏睡状態にある事はおくびにも出さずに飄々と答えたのだが、
直ぐにでもこの男を惨殺したい気持ちを自分の奥底に必死に押し込めているのは、
黎翔自身しか知りようがなかった。

「もう一度問うが、誰が黒幕だ!!
答えないとなると、私もお前たちに対して遇し方が判らなくなるのだが。」

暗に、答えないと酷い事になると云っていた。
その紅い瞳は、今から存分に奴らを痛めつけられると愉悦に浸っているのだ。

さすがに賊たちも黎翔の剣呑な雰囲気を読み取り下っ端の者たちに至っては、
やはり自分達の命は惜しいと思っているようで我先にと話そうとして牢の扉付近に集まってくる。
ところが主犯格に近い男たちが阻止しようと、後ろから近づき殴りつけた上で更に口を塞いだのだ。
それがまた黎翔の勘に触ったらしく牢を管理している官吏に申しつけ鍵を開けさせた上で、
そのまま主犯格の男を引きずり出させて羽交い絞めにした。

「何処のどいつが黒幕は判らんが、よっぽど美味しい思いをさせてもらったのだろうな!!見上げた忠誠心だな。」

黎翔は目の前の男を見据えると静かに剣を抜き、喉先に剣先をあてがいスゥーと軽く横に引いてみた。
一本の線状の傷が出来て、その傷からは赤い血が滲んでいる。

「これ以上、私を怒らせるなよ。私とて、これ以上の侮辱は許せそうにないから、この次はこれくらいでは済まないからな。次は首が胴から離れることになろうぞ。」

深紅に光る瞳には黎翔の本気がハッキリと見えていた。
間近で見せつけられている主犯格の男はガタガタと震え始め、そのまま失神してしまった。

「チッ。」

黎翔は軽く舌打ちすると、急に興が削がれたと剣を鞘に納めたのだった。
そこにまるで計ったかのように李順が現れ、黎翔に静かに近づくと何やら耳打ちをした。

「陛下・・・ここは私任せて下さい。必ず黒幕を明らかにさせましょう。
それよりも浩大が連れて来た者の尋問は陛下ご自身がした方がいいのでは?
浩大の話に寄りますと、どうも夕鈴殿と浅からぬ関係がある者だと云う事ですし。」
「そうだな・・・・あやつは私自身が事情を聴く必要があるな。では、ここは頼んだぞ。」

黎翔はその場を李順に任せることとし、踵を返したまま振り返り地下牢の賊たちを一瞥した。

あやつら、李順相手だとは気の毒にな・・・・さぁ、どれくらいもつのか。

意地の悪い笑みを浮かべながら暗い地下牢を後にし、秀偉の拘束されている部屋へと急ぎ足で向う。
愛しい夕鈴は未だ目覚めたとの報告は一向になく、黎翔の心は晴れないままであった。


『カチャ』

扉の先には、目的の男が浩大によって後ろ手を縛られ椅子に拘束されていた。

「陛下~~~この男、如何すんのさ。この男のせいだよ、お妃ちゃんがあんな目にあったのは。
それに未だに目を覚まさないし、このままじゃあ命だって・・・・」
「浩大!!」
「えっ?夕鈴ちゃんの命がどうしたって云うのかい!!!」

黎翔は浩大を睨みつけ、嘆息を吐く。
『余計な事を教えるな!!』と。

「夕鈴ちゃんは、回復するんだよね。そうだと云ってくれ!!」

自分が拘束されていることを忘れ、秀偉は座らせられた椅子から立ち上がろうとする勢いで身を乗り出し、夕鈴の容体を尋ねてくる。
それを片手を上げて制止しつつ、黎翔が苦々しい顔つきで短く夕鈴の容体を説明してやった。
そう、『今はまだ何とも云えない』のだと。
それを聞くと秀偉はいたたまれない面持ちで項垂れていた。

恐らく自分を責めているのだろう・・・・自分の様に。
でも、秀偉を安心させてやる程の気持ちの余裕はない。
黎翔も夕鈴に対して申し訳ない気持ちに苛まされているのだから。
その後悔の念は今は置いといて秀偉と二人きりで話をするべく、浩大を下げる事にした。

「浩大!!此処は私だけでいいから、お前は夕鈴の傍で護衛でもしていろ!
意識が戻れば直ぐに報告に来い。」
「へいへい!!オレもこれ以上こいつを見ていたら何かしそうだし、その方がいいかもね。」

浩大は、秀偉の傍から離れ、そのまま窓枠に足を掛けヒラリと姿を消してしまった。
その様子に秀偉は驚いた様子で目をパチパチしながら、消えていった窓を凝視していた。
普段隠密なんてモノと接触することなどないのだろうから、まぁムリもない事であるが・・・・・。

「おい、そろそろ話をしたいのだが。」

黎翔が声を掛けなければ、そのまま秀偉は窓をずっと眺めていた事だろう。
その声かけにハッと我に返り、秀偉は首を動かして黎翔の方を見る。

黎翔は何処からか椅子を持ち出し、秀偉から少し離れた斜め向かいに足を組み上げて王者の風格を纏い座っていた。

「ようやく二人きりとなれた様だから、色々と尋問させてもらうぞ。」
「はい・・・・。」
「まずは、まだ私はお前の処分については決めていない・・・・まぁ地下牢の輩については、李順の尋問後にこの世の住人たるかは判らんがな。」

深紅に染まる瞳は激しい怒りの炎が宿っている様にも見え、秀偉は思わずブルンと身体を震わせた。
これは、恐らく知っている事を包み隠さず話せということなのだろうな。
秀偉は黎翔が云わんとする事を瞬時に理解して、ゴクリと唾を飲み込むと話し始めた。

「まず・・・夕鈴ちゃんとのお見合いについては、何の他意も御座いません。あれは親父たちがした古い昔からの約束でしたので。まぁ久し振りに逢っても昔のままのいい子だったから、求婚はしましたがね。今となっては、承知してくれなくて良かったと思います。」

そこで天井を見上げて、一つ大きく息をつく。

「そして、自分が何故あのような輩の謀略に加担したかですが・・・・私はつい最近まで、親父の任地である西方の州にいました。そこで地方役人として地方の人々の為に少しでも豊かに暮らせるように、力を尽くしておりました。地方役人はその地方にて採用と為りますから、そのままその地で生涯地方役人としてその地に貢献し骨を埋めてもいいと思っておりました、ところが・・・・・・」

そこまで話して秀偉は急に眉をひそめ、斜め向かいにいる黎翔を見詰めた。

「ある日、中央から左遷されてきた官吏がおりまして・・・・其れからめちゃくちゃになったのです。
それで何もかもがイヤになった時に、丁度親父がまた中央へと異動になったので、私も王都に帰って来たんですよ。」
「そのやって来た官吏とは?」

そこで初めて黎翔は口を挟んだ。
これは地方に飛ばした自分の人事が、一人の男の人生を大きく狂わせる結果となったからだ。

「それは、江(ごう)官吏ですよ。覚えておいでですか?」
「あやつは、確か政敵に陥れられ地方に飛ばされたと聞いているが、目立った働きもなく裏で何かを企んでいる風には見受けられなかったのだが。」

黎翔も一応覚えているくらいの小者であり、自分とも大した関わりもなかったので『確かそうだったはず』としか云い様がない。

「それで・・・その者がどの様な事をしたと云うのだ。」
「江はまず自分が連れて来た親類を勝手に役人に取り立て、古くから貢献してきた優秀な役人を罷免したんです。それは中央、そう王宮からのお達しだとの事で・・・・そして次は税率の無理な引き上げ・・・・これも中央からの命令だと豪語して。」
「何だと!!私はそんな命令は出してはいない!!」

黎翔は秀偉のあまりな云い様に、腹が立ってきて語尾が強くなる。

「はい、後でそれはこの王都に帰って来て判りました。そのような命令は出されていなかったという事が・・・それは、江の懐を温める為だったんです。でも地方は中央が、そう陛下がそんな無理難題を押しつけて来たと思っているんですよ、今もね・・・・。」
「はぁ~~~、地方にもキチンと目を向けているつもりであったがな・・・・それは、任命された官吏次第だということなのか。」

黎翔も自分が最終的に判断した人事であるために、強くは出れない。

「それで、江は人の良い振りをして領民に陛下は酷い王だという認識を植え付けていったんですよ。でも自分はある時聞いてしまったんです。」
「何をだ?」
「江が近親者に『これは手始めだ、もっと中央を悪く云えば美味しい汁が吸える』と・・・でも、その後はいつも通りの人の良さげな態度で皆に接していて、自分が見たのは何だったのか?幻覚なのか?と思いましたよ。でも何か納得がいかなくて・・・・。」
「そして如何したのか。」
「その後、江は『今の王は王たる資格はない』と事あるごとに、周りに吹聴していきまし。そして中央をよく知らない領民たちは、段々と江の云う事が正しいと思うようになっていったんです。」
「それは何のために・・・・。」

黎翔は腕を組み、深く考え込んで一つの結論に達したのである。

「ああ、それは・・・・いずれ中央からの監査などが派遣されて来ても、『その者の云う事は間違っている』『騙されるな』と云う訳か・・・・狡猾な奴だな。」

黎翔は江に対しての憎々しげな表情を見せ、秀偉に話の続きを急かした。

「そして、ついに江は決断したんです。」
「何をだ。」
「王を・・・陛下を弑逆する事を!!そして、地方で陛下に恨みがある者達を集めて、密かに少しずつ王都に送ってその数をゆっくりと増やしていったんです巧妙に。」
「一度に怪しいヤツを送ると、直ぐに嗅ぎつけられると云う訳か・・・。」
「そうです、だから時間が掛かったみたいですよ。」

「自分は地方での江のやり方が納得がいかなくて・・・徐々に優秀な者が辞めさせられていくのに疑念も持ちましたし、それよりも民たちから笑顔が無くなったんです。それでやるせなくなって、自分から辞めてやったんです。」

秀偉は此処まで話すと、一息ついたようにホッとした顔を見せる。
そして更に続けて話し始めた。

「そうして王都に戻り調べて見ると・・・・この王都で聞こえてくるのは、王は確かに狼陛下と呼ばれ恐ろしい方だけれど、執政に関しては前の王様に比べいい方に向かっていると。オカシイと思いましたよ、江の云っている事とは全然違うのだから。そこでこの計画に乗ったふりをして、何処かで止められればいいと思いまして、ここまで来たのですが、あの様な事になるとは・・・・・。」
「そうだったのだな。」
「はい。」

苦しい胸の内を話せて、秀偉は安堵の表情が見てとれた。
そこに浩大が慌てて窓から飛び込んできた。

「陛下~~~~」
「夕鈴が目覚めたのか?」
「違う!!早く行って!!」

浩大がハッキリと云わない処をみると、余りいい事ではない様である。

「わかった、直ぐに行く。この者はこのままで、あと縄は解いておけ。」

それだけ云うと、黎翔は部屋から慌てて出て行こうとする。
その背に秀偉は一つだけ質問を投げかけた。

「陛下・・・あの娘(こ)は、一体??」
「あれは私の妃だ!!そしていずれこの国の母と為るべきモノだ。
だからこんなところで決して死なせはしない!!」

それを聞くと、秀偉は満足気に口元に笑みを浮かべたのだった。
黎翔が慌てて出て行き、残されたのは秀偉と浩大であった。

「ほら、後ろを見せてよ。」

いつになく不機嫌な浩大はぶっきらぼうに云い放つ。
それに少々ビクつきながら秀偉は背を見せた。
頑丈に結ばれた縄は、多少もがいたぐらいでは解けない様にされているため切って貰うことにしたのだ。
浩大の短剣がスパッと縄を切ると、秀偉は自由になった両手の手頸を交互に擦る。
随分強く縛られていた様で縄で皮膚は赤く擦れているようだ。

そしてひと心地ついたのか、秀偉は気になっている事を浩大に徐に聞いてみた。

「あの・・・・・夕鈴ちゃんは、今どうなっているのだろうか?」
「はぁ?お妃ちゃん??アンタが聞いてどうするんだよ。」
「いや、怪我の原因は自分に大いに有るから・・・・。」
「そうだったな!!さっきオレが陛下を呼びに来たと云う事は、大体分かるだろうが!!
容体が急変して危険な状態なんだよっ!!」

浩大は何も出来ない自分にイラつき、吐き捨てるように秀偉に答えた。
それを聞くと、秀偉は唇を噛んで悔しさを滲ませ俯いたのだった。

そうして、二人は同時に深い・・・果てしなく深い溜息を吐いたのだった。





続。
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コメント
この記事へのコメント
神様ーーーー!夕鈴を助けてあげて~(>_<)
守っているはずの夕鈴に自身が薙ぎ払った小刀が刺さるとか・・。
神様の意地悪ー。
あ。コレは、陛下に覚悟を決めろって後押ししてるのかも?
でも生死を彷徨うとか・・・辛過ぎ。
先は分かっていても・・・ぎゅーーーッと心が締め付けられる
さすがよゆりんの書くお話だ・・・。いろんなお話が読めるから大好き♪
2014/12/16(火) 22:43:34 | URL | ママ #-[ 編集]
ママ様
こんばんわ~コメント有難うございます
そして、本当に返信が遅くなりまして、ごめんなさい~~
ここの辺り、当時私も書いてて『夕鈴ゴメン~~』と云ってたような気がする・・・。
痛いよね・・・マジで。
でも多分寝ている夕鈴よりも陛下の方が痛いような気がするよ、うん。
まぁ、ここらで陛下にはキチンとしようよ!!!と
喝入れられているのかもしれませんよね。
陛下、ファイトっっ!!
と呑気なことも云ってられないよね。
続き・・・・気になっているよね~~ゴメン。
なるべく早く更新するからね~~
そして先程あちら閉めてきました。
原稿抱えて2つは運営できない。
だからこっちを優先しました。
ですので、よろしくね。
いつも応援有難う~~
スンゴク嬉しいよ~~
さぁ、どんな話書こうか???
うふふ、お楽しみに。
2014/12/23(火) 23:01:24 | URL | 瓔悠 #-[ 編集]
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