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2017.10.09 (Mon)

【桂花の庭で】

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夫婦設定 ・ 原作寄り 








「いい香り・・・」

一人歩きの途中で見つけたひっそりと静かな、庭園。
誰も気にも留めないであろうその場所は、
キチンと剪定もされていない大きな桂花の木が2本植わっている。

その鬱蒼と茂る葉の合間から見えるのは、小さな橙色の桂花。
小さな桂花は、花全体で人々を誘う様な清らかな香を振りまいている。

それが夕鈴には大層いじらしく思えて、思わずフワリと微笑んだ。

「花咲くこの時期に一生懸命自分の元へと引き寄せようとするのは、
それこそこの花の本能みたいなものなのかしらね・・・・・」

ポツリと呟いてみても、誰からも返事なんて返ってはこない事を十分に分かっている。
一人きりでここに居るだから・・・。
でもそうせずにはいられないは、きっとこの香りのせいなのだと夕鈴は思う。

多分きっと、自分はこの花の様には出来なくて。
そんな事をしなくても、自分しかいない後宮では必要無い事で。
それがどんなに恵まれていることなのか、
分かっているつもりでも本質はきっと分かってはいなくて。

何だか、自分が情けなく思えてくる。

「はぁ~~~~」

夕鈴は、大きなため息を見上げた青空に向かって吐き出す。

「幸せ過ぎると・・・いつ、そのしっぺ返しが来るのかが分からなくて怖くなるものね」
「いっぺ返しなんて、そんな事が来ることはない」
「・・・・・・・」

夕鈴はこの声の主が誰か?なんて、分かり過ぎる位分かっている。

「陛下・・・・・」
「夕鈴は、ほんとにそんな事ばかり考えているんだから。
僕は君しか要らないって言っているし、その考えがこの先変わる事は無い」
「でも・・・・国の為には、そんな事を言えない時が来るかもしれませんよ。
だから、私は大丈夫です。ちゃんと、その覚悟は出来てます」

覚悟が出来てる?
出来てる。
ホントに?
出来てる・・・・はず。
『はず』としか言えないの?
それは『出来てはいない』のでは無いの?

自問自答してみて、『大丈夫』だと胸を張って・・・・答えられなかった。

「私は・・・・・・大丈夫です・・・よ。
だから、陛下は・・・・・・陛下が大切な事だと判断なさった時に、
どうぞ、私の事は気にせずに・・・・・・」
「どうしてそんな事を言うんだ」
「・・・・・・・」

言えなかった。
言えるはずは無い。

私の耳に入る小さな、雑音。
誰もが願う、自分の一族の繁栄のための邪魔な存在。
排除出来るものなら、今すぐに。
そう、王家の血脈が続かぬ前に。

『何処かの大国の姫が正妃になれば、自分の一族の娘も後宮に入れられる』
『どこぞの馬の骨とも分からぬ妃は、早く排除されれば良いのに』
『陛下も古から続く後宮の正しい有り様をご理解下されば、
今の様な歪な有り様が改善されるというのに』

何処からともなく、聞こえてくる雑音。
それは誰が言っているのかなんて、自分には分からない。
跳ね除けるだけの力が・・・後ろ盾が自分にはない。

ただ、あるのは・・・・陛下を大切に想う心だけ。
それだけしかない。

「夕鈴は何を憂いているのかは分からないけど、
何も心配する事なんて無いんだよ。
僕が傍にいて欲しいと願うのは、君一人だけなんだから。
それに、僕はそんな後宮に沢山の人質の様な女人を入れねばならない様な国にはしないから」
「でも・・・・・・」
「だから、君は僕だけを引き付けていればそれでいいの。
この桂花の様に」

サァーと風が吹く。
葉が揺れ、小さな花をも揺らす。
辺り一面に広がる、桂花の香。

その香りを胸いっぱいに収めようと、目を閉じ息を吸い込んだ。
瞬間―――。
自分の唇に、温かい感触が触れた。

「ううぅ、っっ」

強く抱き締めれた身体は、身動き一つ出来ない。
桂花と陛下自身の匂いが同時に香ってくる。

夕鈴の胸の奥に去来するのは、確かな安堵。

「夕鈴だけだから。
僕を信じて」

囁かれた言葉は、耳奥にこびりついた雑音を跳ね返すだけの威力を伴っていた。

「私は、きっと一番幸せ者ですね」
「そりゃ、そうだよ!この国一番の男に愛されているのだから」

目を開くとそこにあったのは、得意気な表情を醸し出す端正な陛下の貌だった。
夕鈴は、ただただ・・・・・・そっと微笑んだ。

二人を包む香は、風に乗せられて空高く舞い上がっていった。



終。




庭先で香る桂花。

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Comment

桂花って…!

ご褒美?の新作に嬉しくなって「しっぽ振って」ます。猫派だけど。

桂花が金木犀だと初めて知った次第…お恥ずかしい(汗)
白い花のイメージで、銀木犀に似てるのかなとは思ってたんです。ちょっと調べりゃいいものを…

控えめな花に、強くて真っすぐな香。金木犀みたいな人、って誉め言葉だと思います。夕鈴とかね。
我が家でも、秋を教えてくれていますよ。
みや |  2017.10.09(Mon) 16:15 |  URL |  【コメント編集】

みや様


こんばんは~コメント有り難うございます

ハイ、ご褒美です。(←偉そうな事を言って、ごめんなさい~)
兎に角、コメントがうれしくて、つい・・・。


私も余り知りませんでした。
金木犀は、金木犀だという認識で。
以前、何かの折にネットで調べてみて、『桂花』とも言うのだと知りました。

確かに、金木犀って控え目という印象が強いですよね~
私もそんな控え目で、細やかな心配りが出来る人間になりたいものです。

夕鈴はたぶんそんな感じですよね。
大らかで包み込むような優しさがあると・・・・。
だから、私は夕鈴が好きなのだと思います。


秋はそこらかしこに見つけられるようになりましたね。
でもまだ昼間は、ツクツクボウシが鳴いているんですよ、私の生息地では。
10月に入ったのに、ビックリ!です。


瓔悠 |  2017.10.09(Mon) 23:17 |  URL |  【コメント編集】

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