【七夕宵の巡り逢い・中編】
2017年07月07日 (金) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り

【注意事項】

前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。

祭事は全て捏造です・・・あしからず。
そんなかんなをお汲み取りの上、お読み頂けると嬉しいです。ぺこり









それから―――。
夕鈴は1週間ほど自室に缶詰状態で、本の虫と化していた。

いくら読んでも、読み終わらない書物に、
夕鈴は少々飽き飽きしていた。

まったく!どんだけ読めば終るのよ。
それにこの書物たちは、小難しく書き過ぎなのよ~~!!

しかし、それはそれ生来の負けず嫌いの夕鈴は何日も掛けて何とか書物を読破し、
内容はおぼろげではあったが祭事について網羅した。

「これで、多分大丈夫・・・・・・・よね」

明日が祭事だという前日の晩。
夕鈴は、抑えようのない自身の高揚感を胸に抱いて眠りについた。




*****


―――遠くから、鈴の冴えわたる音が聞えてくる。

その音が次第に大きくなっていき、それに反応して意識がハッキリと覚醒していく。
そうして目を開いてみると、そこは透き通った水面が煌びやかに光っている河の傍だった。
そして河岸には・・・・・抱きあう男女二つの影。

『やっと、お逢い出来ました・・・愛しい御方』
『私も、どんなにこの時を待ち望んでいた事か』

お互いを見詰め合い、離れがたいのか・・・・体温を確かめ合う様にまた強く抱き合う。
夕鈴はその光景を離れた河の対岸から見ていた。
そしてその男女二人は互いの手を取り、水面の上を滑る様に河の上流へと消えていった。

その後からは、次第に霧が辺り一面に広がっていき______________何も見えなくなっていった。



*****





「お妃様・・・お支度を始めさせて頂きたいのですが、
もうお目覚めで御座いますか?」

寝室へと続く帳の外から遠慮がちに響く侍女の声。
その声で目覚めた夕鈴は、眠い瞼を擦る。

「うん???
今のは夢・・・・だったのね」

先程の河岸でみた光景は、どうやら夢物語だったようだ。
今日は祭事当日。
今まで頑張ってきた成果を見せるお披露目の日である。

夕鈴は跳ね起きて、帳の外で待機している侍女に声を掛けた。

「あっ、おはようございます。
今から参ります」

支度部屋には既に準備万端といった感じで、
侍女数人が待機していた。
祭事というからには普段の倍以上は着飾られるのだろうとは解っているものの、
夕鈴は気後れして尻込みする。

「さぁさぁ、お妃様、此方へ」

ゆったりとした微笑みを浮かべて、夕鈴を誘導するのは年配の侍女長。
久々のお妃の正装に、皆心躍っている様である。

5人ほどに囲まれ、お化粧に始まり髪結いから装飾品付け・・・・・・更には着替え。
夕鈴は動くことも出来ず、ただただされるがまま。

心臓はバクバクしているが『これは、お仕事!お給金の為!!』と呪文を唱え、
必死に平常心を保とうとしていた。

「はい、これで如何でしょうか?」

姿身を立て掛けられる。
そこに映し出されたのは、先日老師から借りた書物の挿絵にあった女性の姿に酷似していた。

「・・・・・・・あ、あの・・・・有難うございます」

自分らしからぬ装いに、言葉がすんなり出て来ない夕鈴。

それもそうであろう_____________。

天帝の娘である織姫を模すがごとく、髪は頭上高く宝髻(ほうけい)結い。
その髪に金銀の珠が幾重にも連なった簪を左右から2本ずつ差し込まれ、
それが動くたびにキラキラ陽の光りを浴びて輝いている。
小首を傾げてみると、その動きに呼応して涼しげな音色を奏で。

夕鈴の華奢な肢体を覆うのは、褶(ひらみ)裙(うわも)とも足首まで桃色一色で染められた長衣。
風が吹けばヒラヒラなびく薄い生地で出来ており、裾に纏られた沢山の桃真珠がその抑えになっていた。
肩にかけた薄紫の透き通った領布(ひれ)は足元まで垂れ、
胸の下で結ばれた帯の濃い紫を引き立たせている。

「「お妃様、お綺麗でございます!!」」

侍女達の感嘆の声に、姿身の中の自分を見詰めていた夕鈴は我に返る。
準備が整ったのを何処かで見ていたかの様に、
丁度よい頃合いに李順が顔を出した。

「お妃様、準備は整われたようで御座いますね。
それでは祭事の行われる祭殿にお連れ致しましょう」

李順は手馴れた様子で言葉を述べると、
礼を取り夕鈴に近付く。

「時間ですのね。
では・・・参りますので、案内をお願いしても宜しいでしょうか?」
「畏まりました、お妃様」

完璧な妃の所作で部屋を出た夕鈴は、回廊を少し進むと大きく深呼吸する。
李順も先程までの畏まった雰囲気が抜け落ち、
いつもの尊大な上司に切り替わった。

「夕鈴殿、キチンと手順などは頭に入ってますか?」
「はい・・・・・・・・・・・・・多分」
「多分とは何ですかっっ!
これは、伝統的な祭事で、更には名だたる大臣が出席するんですよ!!」
「は・・・・・・・いぃぃ??
そんな事、私は聞いてませんが~~~」
「ええ、言ってませんよ!
だから今お伝えしてるんです!」

夕鈴の顔色は、一気に蒼白に。
それを横目でチラリと見た李順は頭を抱える。

「いいですか、夕鈴殿・・・・シッカリ務めあげて下さいよ。
期待していますから。」
「は、はい!!」

―――はい!とは言ったものの・・・大丈夫なの、私???

少し不安げな表情が残る夕鈴の背中を、
李順は前触れもなくバシンと軽く叩く。
これで気合が入ったのか、
夕鈴もいつもの気合の入った表情に次第に戻っていった。


*****


後宮と王宮の間に設置されている祭殿は、
水が引き込まれ涼しげな風が吹き込んできていた。

祭殿後方には、既に柳・氾両大臣を始め名だたる大臣たちが控えており・・・・祭祀である夕鈴を待っている。
夕鈴よりも先に到着したのは黎翔で、大臣たちに睨みを利かせつつ威厳を持って祭壇の傍に設えられた王座に鎮座した。
黎翔の到着で、祭殿に流れる空気は冷え冷えとしたモノに瞬時に変わる。
その空気を春の様な暖かなモノに代えたのは・・・・・祭祀である夕鈴だった。

李順に伴われ現れた夕鈴は、扉入口から祭壇まで真っ直ぐに伸びた絨毯の上を静々と歩いていく。
動くたびに簪の音が鳴り響き、あたかも女神降臨を想わせる。
居並ぶ大臣たちから、夕鈴の姿に感嘆の溜め息が漏れていた。
それが気に入らないのは、勿論黎翔である。

緊張している夕鈴は全くそんな事は意に介さず、
ただ頭で描いているのは祭事の順序だけで・・・・・。
優雅な足取りで祭壇手前に進むと夕鈴は小さく深呼吸し、
祭壇・・・そして祭壇脇の黎翔にと順に深々と礼を取る。

目の前の祭壇には、酒・瓜や餅など沢山の供物が供えられている。
まずは酒瓶を手に取ると、杯に並々とお酒を酌み入れ両手で祭壇に捧げる。

そして祭壇に供えられた供物を一つづつ捧げ持ち、
両の手で天に掲げた後、再度祭壇に祀る。
その一つ一つの所作を丁寧にゆっくりと行い、
全ての供物を捧げ終る頃には両腕が少しピクピクし始めていた。

その様子に黎翔は心配げな表情を浮かべ・・・それでも手助け出来ない自分に少し苛立ちを隠し切れないでいた。

「夕鈴・・・・」

口元にその言葉を乗せ・・・しかし声を出すことは出来ないので、口の動きだけで。
それでも、黎翔は必死に夕鈴の名を呼び続けていた。

そうこうするうちに・・・祭事祝詞の口上が始まる―――。

今度は李順がハラハラしながら見守る中、夕鈴は必死で覚えた祝詞を一言一句違えることなく・・・・更に流麗に淀みなく述べていた。
『どうせ、正妃でもない只の妃がうまく祭祀として務まる筈はない』とタカをくくっていた連中ばかりだったから、
夕鈴の様子に大臣たちはお互いの顔を見合わせて驚くばかり。


―――ここまでは、何とか無事に乗り切ったけど・・・・。
これから・・・がね、自信がないのよ。

夕鈴は祭壇脇に祀られていた『祭祀鈴』を取ると、
その柄を右手で握りそして柄の末端から伸びた五色の布を左手に持った。
その柄を軽く振ると上部に3段に分けて付けられた小さな鈴15個が共鳴して鳴り響き、
それに伴い祭殿の空気はビリリと引き締まった。


『しゃらん・・・・・』

幾重にも重なる鈴の音を掻き鳴らしながら、
夕鈴は中央で何度もくるりと回り祭祀鈴を上下に振る。
裾がフワリと舞いあがり、夕鈴の白い脚が見え隠れする。
それを傍で見ていた黎翔は、思わず『ごくり』と息を飲み込むほどの艶やかさ。

『しゃん』

最後の鈴の音を高らかに鳴らすと、そのまま夕鈴は床に伏した。


――――終った~~~~~~~。


緊張から解き放たれ、やっと夕鈴の満面の笑みが零れる。
そして黎翔が王座から降りてきて、夕鈴に手を差し出した。

「妃よ、祭祀としての務め・・・御苦労だったな」
「有難うございます、陛下」

そして自身に引き寄せると、そっと抱きしめ耳打ちする。

「夕鈴、ホントにお疲れさま。
あのタヌキ共も度肝を抜かれていると思うよ」

大臣たちが退席していくの見て、黎翔は憎まれ口を叩く。

その言葉で一気に疲れがきたのか・・・夕鈴は腰が砕けてしまった。
しかし、抱き締めていた黎翔によってへたり込むのだけは避けられた。

黎翔の腕の中でニッコリと微笑み_____________夕鈴はそのまま急激にやってきた睡魔に身をゆだねたのだった。



続く。



2013.07.08 ブログ初載



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