【そして一つの可能性・8】
2014年12月10日 (水) | 編集 |
【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り










黎翔は王宮に戻って夕鈴を部屋まで送り届けると、直ぐに李順がいるであろう執務室へと向かった。
そしていきなり入るなり、目の前の李順に抗議し始めた。

「大体どういう根拠から、夕鈴の見合いの話を黙っていたんだ!」

執務室に怒号が響き渡る。

「そうは仰いましても・・・じゃあ、お教えしたとして素直に夕鈴殿を帰省させましたか?」
「うっ。」

李順の云う事も尤もなことで、黎翔は一言も反論が出来なかった。

「それにどうせ間にあって阻止なさったんでしょう・・・だったら、めでたく治まったと云う事ではありませんか。」

そう云い放つと、卓上に山の様に積まれた書簡に手を伸ばし続きに取り掛かろうとする。

李順は『終わりよければすべてよし』としたいようだな。

この付き合いの長い有能な側近はいささか合理主義的なところ持ち合わせているので、
『暖簾に腕押し』でもう何を云っても通じはしない。

「まぁいいよ、夕鈴はまたこの後宮に戻って来たのだから。」
「でも陛下、一つ申し上げておきますが、夕鈴殿はいずれ下町に帰られるのですから、
陛下が阻止してもまたこんな話は実家からもたらされると思いますよ。
その度に、ぶち壊しに行くのは控えて下さいよ。夕鈴殿もそろそろいい歳なのですから、
行き遅れになるのは困るでしょうし。」

視線は書簡にくぎ付けなので黎翔がどの様な表情なのかは李順は解らなかったが、
恐らく水月辺りが見てしまったのなら、途端に具合が悪くなったと早退しかねない程の形相であろう。

それを知ってか知らずしてか・・・李順は無視を決め込んで、熱心に書簡の精査をしていた。

黎翔もこれ以上李順と話していてもきっと平行線をたどるのだろうし、
自分の気持ちは固まっているのだからその時が来たらまた行動を起こせばイイだけだ・・・・とそれ以上は答えなかった。
その代わりに、黎翔は話題を変えてきた。

「そう云えば、李順。件の官吏はどうなった?」
「まずその事を先に聞いて欲しかったですね、夕鈴殿の事よりも・・・。
キチンと方淵殿が王宮まで連行してきましたので、王宮地下に拘留しております。
陛下がお帰りではなかったので指示も出せず、そのままですがね。」

李順はよほど黙って下町へ行ったことが気に食わないらしく、いちいち嫌味を云ってくる。
それを黎翔はサラリと聞き流して、李順にその者への処遇を云い渡す。

「取り敢えず、どれくらい横領して売りさばいていたのかをキチンと洗いざらい吐かせろ。
そして・・・・・まずは領地没収、中央官吏の位も勿論剥奪。そして地方の僻地にでも送っておけ。
まぁ役人の資格だけは残しておいてやるから、地方で下っ端役人としてキビキビ働いてもらおう家族共々な・・・。」
「珍しく、温情のある処分ですね。」
「煩い!!あっ、云い忘れたが、横領したブツでせしめた金額分はキッカリ返してもらうこと!!
一生掛かっても返させるんだ、いいな。」
「畏まりました。」

黎翔はあの領館を去り際、官吏の娘と交わした言葉が忘れられずにこの様な処分としたのだった。

「では、私は夕鈴の元に行ってくる。」
「陛下・・・・この二日程の書簡が溜まっておりますので、今日はムリですよ。
さぁさっさと始めて下さい、イイデスネ。」

結局この晩は夜更け過ぎまで拘束され、只管書簡と格闘する羽目になった。

夕鈴はと云うと・・・面倒なお見合いも何とか終ったし、
これで平穏無事な日常に戻ったと安堵して、
後宮で侍女たちとお茶を呑気に愉しんでいたのであった。



**********




「おい、人数は揃ったのか?」
「いや、まだ足りない様だ。」
「そして、あそこに詳しい者の手配は?」
「それなら大丈夫だ、任せておけ。」
「ではいつに???」
「まぁ慌てるな、風はいつも同じ場所に穏やかに吹くものではないから、
此方に有利な風が吹くまで待っているものさ。」
「そうだな。」

下町のある飲み屋の片隅・・・・・・・男性、それも若い男性5・6人が頭を突き合わせて密談していた。
その光景自体は下町では余り珍しいものではなく、大概は目を付けた女性の口説き方等の話しや、
どこそこの娘は器量よし等の噂話であるが、この団体はそんな話ではない様だった。

それに気付いた者は店の者も他の客も誰もいなかったのだが、
その中には夕鈴の知人も交じっていた・・・・・・・・・・。


夕鈴がお見合いをして、それを黎翔が横から掻っ攫って王宮へを連れ帰ってから三日・・・・・王宮では平和に時が流れていた。
黎翔はいつも通り李順にせっつかれながら政務に励み、夕鈴はお妃を演じながら優雅に後宮で過ごしていた。


そして下町では、几商店に珍しいお客が几鍔を訪ねてきていた。

「お前・・・・・帰って来ていたんだな。帰って来ていたんならまずオレの所に来いよ。
何であんな奴から聞かなきゃならないんだよ。」

几鍔はやっと本人がお出ましだと、面と向かってブツブツ文句を云い放つ。

「御免よ。それにしても自分が帰って来てた事、夕鈴ちゃんが云っていたのかい?」
「違うんだよ、お前も逢ったんだろ!あの身なりのいいお貴族様に!!」
「ああ・・・・・・あの人ね・・・・夕鈴ちゃんの上司だという・・・。」
「ヤツはなんだか胡散臭いんだよ。アイツが騙されているんじゃないかと、オレも目を光らせているんだけどな。」
「ふうん・・・(でも、夕鈴ちゃんが想っている相手だから大丈夫だとは思うけどね)」

几鍔は、なんだか私情が入っている様な気がする秀偉であった。

「ところで何か用かよ。オレに挨拶に来ただけか?」
「あっ、そうだった。実は几商店で取り扱っているものの中で、今から云うものがあるかなぁと思ってね。」
「おまえなぁ・・・・・ここは嘘でも『ただお前に会いに来た』とでも云えよ。」
「あはは~~相変わらず、面白いよね・・・・鍔は・・・本当にイイ奴だよな。」

昔なじみとはたとえ時間が経っていても、直ぐに打ち解ける事が出来るものである。
秀偉は、几鍔の気性が昔とちっとも変っていないことに安堵していた。
そして自分を顧みて・・・・はぁ~と几鍔には気が付かれないように小さく嘆息した。

自分は何をやっているんだろうか。
これで本当にいいのだろうか?
自分は正しいのだろうか?

「おいっ!!いるモノはなんだよ!!」

商売っ気を出した几鍔の張り切った声で、秀偉は現実に引き戻されハッとした。

「あっ、すまない・・・・では花火はあるだろうか?」
「花火??この寒い時期に何処で上げるんだよ?」
「自分も頼まれたから、そこまでは解らないんだけどね。
ただ色々扱っている商店を知っていると言ったら、頼まれたんだよ。」
「そうか、まぁ確か倉庫に今年の在庫があったと思うが・・・今日必要なのか?」
「いや・・・・・・一週間後に必要だから、その前までに揃えてくれればいいんだけど。」
「いいぜ!!任せときな!!」
「じゃあ、後日取りに来るから___また。」
「ああ、またな。」

手を大きく振り、店の前で几鍔と別れた秀偉の表情は何とも云えないモノだった。
几鍔は立派に家を継ぐためにシッカリとしている。
なのに自分はどうしたいのか?
将来が鮮明に見えずに停滞している事に苛立ちがこみ上げてきた。

やろうとしている事が例え成功したとして、その後に何が待っているのか?
その時自分は何処へと向かうのか?

先の見えない迷路の奥へと進んでいる自分をあざ笑うかの様に、
遠くそびえたつ王宮を仰ぎ見て、一週間先の事を思い再度大きく嘆息した。



「夕鈴・・・今日は外が寒いようだが、どの様に過ごしていたのだ。」
「今日は、陛下よりのお召しも御座いませんでしたから・・・老師の元で後宮についての講義を受けておりましたわ。(掃除をしてましたよ)」
「そうか・・・・。(掃除だったんだね)」

夜も更け、政務からやっと解放され黎翔はホクホク顔で愛しい妃の部屋に訪れていた。
一方の夕鈴も、トロケそうに甘い顔を敬愛する陛下に捧げていた。
かなりの努力を必要としながらであったが・・・・・。

そのいつもの変わり無い仲睦ましい姿に満足をして、侍女が気を利かしたように音も立てずにさぁ~~と下がって行った。
優雅な妃スマイルを必死に貼り付けていた夕鈴は侍女が居なくなったのを確認すると、
大きく深呼吸して普段の自分らしい表情に戻して黎翔にニッコリと笑いかける。

「陛下・・・お仕事お疲れさまでした。直ぐにお茶を入れますね。」
「有難う。」

いつも通りに黎翔も長椅子に腰かけ、夕鈴のお茶の用意をボンヤリと見ながら話しかける。

「ねぇ、夕鈴。明日は何して過ごすの?」

お茶を入れる手をひとまず止めて、夕鈴は首を傾げて考えこむ。

「え~と、特になかったと思いますが・・・それがどうかしましたか?」
「それが、大臣の一人が今日進言してきてね。『季節外れですが、王宮の庭で花火見物を是非とも許可して欲しい』とね。だから一緒にどうかなと。」
「そうですか、でも花火って暗くならないと駄目なんじゃ?」
「まぁね・・・ただ最近は日の入りも早くなってきたから、夕刻の日が沈んだ直ぐ後ではどうかと。」
「はい、大丈夫ですよ。楽しみです。」

話はついたようだとお茶の用意を再開し、こぼさないようにゆっくり運んで黎翔に手渡す。

「陛下・・・・先程のお話ですが、何故今頃花火なんですか?
あっ、政務の事で差しさわりがあるのなら、お答え頂かなくてもイイですけど。」

お茶を一口飲んで、さっきから疑問に思っている事を口に出す。

「ああ、それ僕も思ったんで聞いてみたらね・・・どうやら夏に大量に在庫を抱えてしまった商店から安く買い取ったんだって。だから是非王宮で皆で楽しみたいからという事らしいんだ。」
「そうなんですね!!!では明日を楽しみにしていますねっ!!」

夕鈴は語尾が上がるほど早く明日が来て欲しいとワクワクウキウキ愉しい様で、
ほころんだ表情に黎翔まで心が躍る。

「私も君と鑑賞できる事を楽しみにしつつ、政務に励むこととしよう。」

薄い茶色の髪を一房取り指で弄びながら狼の表情を醸し出すと、
夕鈴の恥ずかしげに俯く顔を下からそっと覗きこんだ。

「陛下・・・・今は誰も居ませんから、演技は要りませんよ。」
「そうだったね・・・・・あんまり夕鈴が嬉しそうにするから、つい、ねっ!」

黎翔は悪戯を見咎められた童の様に、舌を出して笑っていた。
そうして二人きりの夜は穏やかに過ぎ去っていった。





続。
関連記事
スポンサーサイト


コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック