【そして一つの可能性・2】
2014年12月01日 (月) | 編集 |
【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り 











明日は出立という前の晩――――黎翔は後宮の夕鈴の部屋に居た。


「ゴメンね・・・迷惑かけちゃって。王宮よりも下町の方が安全だなんて思いたくは無いんだけど、
僕がいない間に狸共が何をやらかすかが判らないんだよ。視察なんて直ぐにでも済ますからね。」

夕鈴にどんな風に思われてしまうのか分からない以上、
粛清に行くとは云えず曖昧に視察という名目にしてしまっていた。

離れがたいと言う様に、黎翔は嘆息を吐き出す。
しきりと『一刻も早く片付けて、迎えに行くからね!!』と何度も何度も繰り返す。

夕鈴としては実際の所願ったり叶ったりで、こんなに申し訳なさそうにしている黎翔を見ると、
帰省する此方の事情も話さないといけないような気さえしてくる。
ただ全てを話してしまって付いて来られても拙いし、視察に行くという重要なお仕事に支障が出ても困る。

二人でお茶を頂きながらも、夕鈴、黎翔共に心此処にあらずといった感じであった。
互いに嘘をついての外出がヘンに気が重くなってのしかかり、呑気にお茶を頂くという気分にはなれないでいたのである。

二人の間に沈黙が流れる・・・・・・・ただ聞こえてくるのは、窓の外からの虫たちの奏でる合奏曲のみ。
その音色にしばらく聴き入っていたのだが不意に黎翔は立ち上がると、
隣に座っている夕鈴の目の前に立ち、茶色い瞳をジッと見据えた。
それを受けて夕鈴は黎翔の突然の行動に驚き目をまん丸にする。
そんな夕鈴に黎翔は艶然と微笑みかけ懇願した。

「ねぇ、夕鈴・・・僕にお守りをくれる?視察に行く僕の為に・・・そう君の唇で。」

その言葉の意味を理解するのまで数十秒・・・・周りの音も消え失せ、静寂が二人を包む。
キチンと理解した夕鈴は、真っ赤になって俯くしか出来なかった。
でも、珍しく黎翔からの真剣な願い・・・これは従わざるおえない?!
勇気を振り絞って上を見上げると視線の少し上には、キレイな深紅の眼差しが自分に注がれている。

「あの・・・目を閉じて下さい。」

黎翔が小さく頷くと、夕鈴は閉じられた瞳の上に軽く口づけを落とした。
夕鈴は恥ずかしさが最高潮まで達し、そのまま部屋を後にして回廊に飛び出た。
見上げる空には、満月に程近い白い月が浮かび上がっている。

部屋に一人残された黎翔は、瞳を閉じたままその幸せの余韻に浸っていた。

自分の頬が熱いのは自分自身がよく解っている。
夕鈴は大胆過ぎる行動に少し躊躇い、自室に戻れないでいた。

いくら陛下にお願いされたからって、真に受けてあんな事するんじゃなかった。
もしかしたら、冗談だったかも知れないのに・・・。
挙句の果ては、逃げてくるだなんて。
陛下はどんな風に思われているかしら。

見上げる月は、白く優しい光りに満ちている。
その光りに癒され、段々と身体の熱も下がってきた。

さて、どうしようかしら・・・陛下はまだ部屋にいらっしゃるわよね。
今は顔を合わせづらいから、少し散歩でもしようかな。

庭園に降り立った夕鈴は気付かなかった・・・・人知れず、足音も立てずに黎翔が近寄っていた事を。

「夕鈴、ありがとう・・・。」

後ろから腰に回された逞しい腕が誰のモノだなんて直ぐに判る。

「えっ、あ、あの・・・陛下、離して下さい。」
「離せないよ。」
「えっっ??」

力強い声に流され、夕鈴は為されるがまま身動き一つできなくなった。
そして・・・・更に引き寄せられた。

これは、月の光りが魅せるただの錯覚。
陛下もただの戯れなのよ。
こんな事を心の底から喜んじゃダメなのよ。

シッカリシナサイ、汀夕鈴!!!!

抗えない喜びと自分の理性との狭間で、喜びに幾らか傾いている自分を必死に叱咤していた。
黎翔はそんな夕鈴の想いなんて、気が付くはずもなかった・・・・・なぜなら、今もまだ瞼に温かい感触が残っているのだから。

そう、夕鈴のお守りは思いもかけないことで、ほんのり心が温かく為る程の嬉しさだった。
その喜びをどうしても伝えたくて、回廊に夕鈴を迎えに来た。

しかし、いざ見つけた寵妃は月を見上げ物憂げに思い耽っており、
そんな姿が堪らなく愛しく想え、後ろから抱き締めずにはいられなかった。

例え『拒絶』されたとしてでも・・・それでもそうせずにはいられなかった。
でも言葉で断っても、夕鈴の身体は僕を受け入れてくれた。


時間にしてみれば、天空を駆け落ちる流星が過ぎ去るくらいの短い時間だったのかもしれないが、
夕鈴の顔を自分に向け、その柔らかい頬にお返しの口付けをした。

「おやすみ、夕鈴。」

そう一言だけ呟いて黎翔は夕鈴の身体から離れ、振り返らずに後宮を後にした。
残された夕鈴は茫然と頬に手を当てていた。

これは何なのよ!!このまま、眠れる訳がないじゃない~~~~。

心の中で絶叫を発しても、誰も聞く者はいなかった。
夕鈴は仕方なく、トボトボ自室に戻っていった。
足どりは重いものであったが。




その時、夕鈴は全く気付くことは無かったが、一瞬輝いた月と星だけがこれからの二人の行く末を知っていた。
今から起こる出来事を・・・・・・・・・。





何とか自室に戻った夕鈴は、そのまま寝室に直行して布団に潜り込んだ。
そして、ドキドキする鼓動を全身で感じながらも、どうにかこうにか眠りについた。
しかし寝付いたのもつかの間。

「お妃様・・・・あの・・・・起きてらっしゃいますか?」

帳の向こうから、侍女さんが私を起こす声で目が覚めた。
窓の外はまだ夜が明け切れておらず、まだうす暗い。
この暗い中ワザワザ起こしてもらったのは、陛下が視察に出立するのを見送るためである。

急いで身支度を整え、侍女さん達を従え王宮の裏門へと急ぐ。
視察は極秘だからと、表門からではなく裏門からの出立だとの事。
そして遂行は浩大以下15名ほど・・・・この中には方淵も含まれていた。
留守を預かるのは、いつもの事であるが李順が務めることとなっている。

「それでは行ってくる。」

黎翔は李順達留守番の者に短く言い放つと、
李順の隣でお妃らしくお淑やかに佇んでいる夕鈴に近付き耳元で囁いた。

「夕鈴・・・・君から貰ったお守りが有るから安心して出掛けられる。早く済ませて下町まで迎えに行くから、待っておいで。」
「はい、お待ち致しております。」

頬を桃色に染めながらも、夕鈴は恥じらう初々しい妃を必死で演じていた。
でも頭の中では昨晩の回廊での出来事がまざまざと思い出されており、
何度も何度も映像が終わる事無く写し出されていた・・・・。

だから夕鈴は黎翔の次の行動までは、全くと言っていいほど予想できなかった。
徐に黎翔の手が夕鈴の白い手を取ってそのまま恭しく手の甲に口付ける行為に及ぶ事なんて・・・。

そうして夢見心地であった夕鈴は一気に現実へと引き戻され、
黎翔の突然の行為に目をまん丸くした上で口をパクパクさせるだけだった。
でも頭の中では、必死で冷静を保とうと『平常心、平常心』と唱えていた。

たくさんの人が見ている前で・・・・・もう恥ずかし過ぎる・・・演技にしてもやり過ぎよ!!
でもここはお妃らしく微笑むのよ、さぁ早く!

夕鈴は『私は、陛下唯一のお妃』と呪文の様に唱え、今出来る精一杯の笑顔を陛下に向けた。
その笑顔に黎翔は満足して、踵を返して堂々と出立したのだった。

そうして残された夕鈴は、自室に戻ると侍女達には数日陛下がこの王宮にいらっしゃらないので里帰りを許された旨を伝えた。
そうして侍女さん達にも休暇に入ってもらう事にして下がらせ、下町へと戻る準備を慌ただしく始めたのであった。
準備が全て整い後は着替えだけになった時点で李順の所に出向きキチンと挨拶してから、
いつもの掃除婦更衣室にて着替え、後宮裏門から慣れ親しんだ下町へと歩き出した。






続。
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