【小犬の手も借りたい??・8】 (完)
2016年08月04日 (木) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り


【注意事項】

こちらの作品は、前ブログ『遥か悠遠の朱空へ』にて公開していた作品です。
今回こちらへ移行するに伴い少しだけ手直ししておりますが、
書いた当時の陛下と夕鈴の関係が浅いものでありましたので、
当時の雰囲気を残すべく糖度はあまりありません。
そのことを踏まえた上でお読みいただけます様、宜しくお願いいたします。   

なお、この話は【初夏の一日 前・中・後編】の後日談となります。

【初夏の一日 前編】
【初夏の一日 中編】
【初夏の一日 後編】 





取り敢えず作った料理全てがお皿に納まったところで、気合を入れてバタバタしていた姉弟が同時にフゥ~と息を吐く。
そこで初めて、戸口で黎翔が感心の眼差しで見詰めていることに気付く。
素早く青慎がそのまま居間の卓を拭く為に台所を後にした。
それは勿論、台所で二人きりにする為であり・・・・。


「あっ、李翔さん。いらっしゃったんですか?居間で寛いで下さっていても良かったですのに・・・」
「いや・・・手持ち無沙汰だったから手伝いでもしようと来たんだけど、
息ぴったりの仕事ぶりに感心していたんだよ」
「あ、ありがとうございます。あとこれを運んだら夕餉にしましょうね。
早く食べて帰らないと李順さんがイライラしながら待ってますよ、きっと」
「李順??そんなの気にしない、気にしない。
ねぇ、早く夕鈴のご飯食べようよ!凄く楽しみなんだ~」

黎翔のウキウキしている様子に、夕鈴もふと笑みがこぼれる。
直ぐさま夕鈴は盆に何種類もの料理の皿を乗せて、運ぼうとしたが。
横から長い腕が伸びてきて、その盆は夕鈴の手から離れていた。
その腕は、言わずと知れた黎翔の腕。

「夕鈴!こんなに沢山乗せて一人で運ぶつもりなの?
凄く重たいのに・・・これ位、僕に任せてよ!!」
「でも・・・そんな申し訳ないですし・・・」
「そんな事は言わないで、たまには夫の言う事も聞く!!」
「夫って、青慎に聞こえたらマズいですっっ!
それに、今は李翔さんはただの上司です!!!」
「そこまでハッキリ言わなくても・・・夕鈴はつれないよ」
「つれないって・・・・・・」
「僕に冷たいよね、お嫁さんは」

黎翔は拗ねた風を装って、夕鈴をジトッとした目で見据えた。
それを見た夕鈴は、仕方ないなぁ~~と肩をすぼめて微笑む。

「分かりました!!
では、旦那様、これを運んで頂けますか?」
「もちろんだよ!奥さん!!!」

黎翔はすっかりと機嫌を直すと、手に持った料理を嬉々として運ぶ。
卓の上にこれ以上は乗り切れないというくらいの料理の数々が並び、三人で食することに。

青慎にはこのいつもより断然多い品数に全ては黎翔の為だと言う事が分かってはいたものの、一切そのことには触れずに『美味しい、美味しい』とニコニコ笑いながら食べていた。
そして早々に食べてしまうと、今日は課題が多いからと自室に引きあげてしまった。

そこに残されたのは、夕鈴と黎翔。
急に二人きりにされても夕鈴は特に何を話せばいいのか分からず、
黙りこくって目の前の料理を食すだけで。
それは、夕鈴だけでなく黎翔とて同じだった。

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」


沈黙という静寂が流れていく。
そして食事も大体終りに近付いたとき、黎翔は徐に口を開いた。

「夕鈴・・・今日は、王宮では経験できない事が沢山出来たよ」
「???」
「例えば、衣替え・・・買い物時の値切り・・・そして、食卓の用意。
本当に楽しかった」
「そうですか・・・そう仰っていただけると、私も嬉しいです!!」
「夕鈴、有難う」

そこまで言うと目の前に座った黎翔が立ち上がり、
夕鈴の隣りの席に移動して懐からあるモノを取り出して夕鈴の掌に乗せた。

「これは???」
「さっき露店で売っていたのを買ったんだよ・・・夕鈴に似合うと思ってね。
それも夕鈴から教えてもらった値切り術を駆使してね♪」

黎翔は片目を瞑って、子どもの様に笑った。
その笑顔が眩しくて、反射的に夕鈴も口元が緩む。

「良いんですか?私が頂いても・・・・」
「モチロン!!!これは夕鈴の為に買ったんだよ。
見てごらん、このトンボ玉には兎が描かれているでしょ!!
これって夕鈴みたいで可愛くって、一目で気に入ったんだ」
「有難うございます。では、今日の値切り記念で頂いておく事にします。
私・・・・大切にしますね」

黎翔は一度夕鈴に渡した根付けを自分に返してもらうと、夕鈴の着物の帯紐に付けた。
それを頬を染めながら見詰める夕鈴。
誰もいない居間に漂う、親密な良い雰囲気。

しかし付けてもらった夕鈴は気恥ずかしさが嬉しさを上回る。
居たたまれなくなりそのまま立ち上がると、そそくさと片付けを始めた。

『チリン・・・チリン』

夕鈴が動くたびに涼やかに鳴る、鈴の音。
黎翔はしばしその音に聞き入っている様だったが、そんな黎翔に夕鈴は言い放つ。

「あの・・・いい加減早く帰らないと、きっと李順さんがカンカンですよ!!」

そして片付けをさっさと済ませ、二人並んで家を出たのだった。
表通りまで出ると、手際のよい浩大が馬車を用意して待っていた。
それに素早く乗り込むと、馬車は軽快な走りで王宮へと向かう。
その馬車の中で下町娘の汀 夕鈴は何処かに消え去り、狼陛下の妃である汀 夕鈴と意識が変っていった。

そうして短く、大忙しの一日休暇が静かに終りを告げたのだった。


王宮に戻ると、案の定李順は不機嫌そうに二人を迎え入れた。
黎翔は勝手に抜け出した後に持ちこまれた急ぎの書簡を、
一晩中李順監視の元で片付けさせられたのだった。
夕鈴は部屋に戻り、一人黎翔から貰った贈り物を飽きるまで掌の中でジッと見ていた。
その表情は独りでに頬が緩み、満面の笑みが浮かんでいた。
そして気が済むと、そっと引き出しに仕舞った。


***********



そして、時が流れ・・・・。


「黎翔さま、これを覚えておいでですか?」
「うん?」

夕鈴の掌には、あの日黎翔から貰った淡い桃色が主色の硝子とんぼ玉と紅の鈴が仲良く組紐で結ばれた根付が。

「これってたしか・・・」
「はい、黎翔様が初めて私に贈り物をして下さった時のものですよ」
「まだ持ってくれていたの??」
「勿論です。とても嬉しかったですので・・・」
「では、また近く二人で下町に買い物に行こう。
君にまた何か贈り物をしたいからな」
「はい!!でもチャンと値切ってくださいね」

二人は顔を見合わせて柔らかく微笑んだ。
そしてどちらからとなく、口付けを交わした。


『チリン・・・・・』

掌から零れ落ち、床の敷布に落ちた根付けが涼やかに音を奏でた。
それは幸せの音で。
二人のこれからも続く輝かしい未来を奏でているようだった。





終。




2012.06.04、06、08、16 ・ 2012.07.03、11 SNS初載
2013.03.02、11、12 『遥か悠遠の朱空へ』初載




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