【兎と僕の攻防戦・13】・完
2015年12月22日 (火) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り


【注意事項】

こちらの作品は、前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』にて公開していた作品です。
今回こちらへ移行するに伴い少しだけ手直ししておりますが、
書いた当時の陛下と夕鈴の関係が浅いものでありましたので、
当時の雰囲気を残すべく糖度はあまりありません。
そのことを踏まえた上でお読みいただけます様、宜しくお願いいたします。   






「へ~い~~か~~~?」

昏く、低い声が辺りに響く。
静かに燃える夕鈴の怒りの声。
薄茶の瞳はメラメラという形容詞がハマり過ぎるほど、怒りに満ちている。

「夕鈴??もしかして浩大の言った事なんて、信じてないよね~~」

恐る恐る訊く姿は尻尾が下がり耳も後ろにダランと倒れていて、
小犬が大型犬を怖がっている様子そのものである。

「どうでしょうかね~~~。
でも、浩大はあの場にいた唯一の目撃者ですものね~~~」

夕鈴はスクッと立ち上がると、広げてあったお茶道具をそそくさと片付け始めた。
どうやら自室に戻ろうとする算段のようだ。
それにしてもかなり手荒に扱っているようで、
茶杯どうしが当たってガチャガチャと激しく音を立てている。
普段の夕鈴ならば欠けさせたりしないように丁寧に扱っているが、
今は怒りでそんなことすら忘れているらしかった。

「夕鈴・・・・・・茶杯が割れてしまうよ」

命知らずにも、黎翔は全く関係ない事を夕鈴に言ってみる。

「はい?大丈夫ですよ。
これくらいで割れるのでしたら、それはこの茶杯は割れる運命だったのですよ」

ニヤリと昏い笑みを浮かべる夕鈴は、ある意味怖いものがある。
黎翔はとりなそうと、必死に夕鈴にすがってみる。

「夕鈴、誤解だよ!!
僕がそんな事する訳ないじゃないか!!
浩大の言葉に惑わされないで、僕の言葉だけを信じてよ~~~」

黙々と片付ける夕鈴の顔を下から覗きこんで弁明する黎翔のこんな姿は、
官吏には到底見せる事なんか出来ないものだった。
でももうなり振りなんか構う暇はなかった。
下手したら、また『家出』ということにも為りかねないからだ。

あの時は結構こたえた。
夕鈴のいない後宮に出向いては、夕鈴の残照を感じていたくらいだ。
またあの悪夢を味わいたくはない。

わぁ~~完全に怒っているよね~。
何とか機嫌を直してもらわないと・・・じゃあ、どうすれば???

「夕鈴~~ホントに誤解なんだってば!!
ねぇ、聞いてる?」
「聞いてますよっっ」
「今の言い方・・・怒っているんでしょ?」
「怒ってません!!」
「いいや、怒ってるよ」
「怒ってませんったら」

全く・・・私って騙されていたの?陛下は違うと言っているけど。
でも浩大の言う通り人工呼吸でないとしたら、どういう意味で口付けしたというのよ。
もし・・・もしも陛下の意思で口付けしたのだとしたら、いや・・・バイトの身で何を期待しているのよ。

仁王立ちする夕鈴。
そして只管『誤解』だと弁明する黎翔。
そんな奇妙な立場の二人。

陛下の弁明は一応耳には入れておくけど、
ここで『はい、そうですか』と簡単に許すのは、癪に障るのよ・・・・。

そう考えて夕鈴は籠を片手に持ち、
黎翔一人を四阿に置き去りにしてズンズンと執務室に向かう。
李順に特別手当をシッカリ受け取る為に。

そしてポツンと置き去りにされた黎翔は途方に暮れ、
しばらくは長椅子から動く事が出来なかった。
大きな嘆息と項垂れた肩越しに見える表情から、
かなり憔悴し切っている事が伺い知れる。

夕鈴、怒ったままだったな・・・・やはり人工呼吸はまずかったのか。
ただ良い言い訳が、あれしか思いつかなかったからな。
喜んで口付けしていたなどと知れたら、夕鈴がどう思うだろうと考えて付いた嘘だったというのに。

まったく浩大の奴め!!
言わなくて良い事を。
まぁ、いい・・・覚えておけよ。
さぁ、どうしてくれようか・・・・・このままでは済まさんからな!!

黎翔は夕鈴への想いから、すっかり浩大への報復方法へと思考が変化していた。


**********


夕鈴が執務室に行くと、そこには浩大が李順に例の特上酒を強請っているところであった。

「ねぇ~~~いいじゃんか!!陛下追跡任務は全うしたんだし~~~」
「先程から言っていますが、あれはもう献上品リストにキチンと明記したので横流しは出来ません。
それよりも途中から陛下追跡を放棄していたようではありませんか?!
詳細な追跡データが途中からないでしょう・・・だから報酬として特上酒を差し上げる訳にはいきません」
「えぇぇぇ~~そんなぁぁぁ~~~」
「そんな事を言っても、駄目なモノは駄目ですっっ!!」

李順は手厳しいらしく、浩大のどんなおねだりや理屈コネコネも通用しない。
段々これ以上言っても李順は首を縦には振らないだろうと浩大も諦めモードになってきて、夕鈴をチラリとみるとニヤニヤ笑ってきた。

「お妃ちゃん・・・陛下は??」
「知りません!!まだ四阿にいらっしゃると思いますよ」

オイオイ・・・どうやら陛下とお妃ちゃん、ド派手な喧嘩をしたって感じ??
それってさ、結構マズイんじゃね?
考えたくないけどさ、陛下の報復が確実にオレに飛んでくる可能性大だよな。
ヤバい・・・・これは剣の錆なるとか!!そこまでのレベルかも??
ここでこんなことしてられない!オレ、マジで逃げねぇと!!

一瞬にして陛下の感情を読み取った浩大は、
チャッカリと李順に別のモノを報酬として頂く約束を取り付けた。
そして窓から素早く飛び出て、何処かへと行ってしまった。

その判断は正しいこととなる。
しばし後に、これ以上ない程の超不機嫌の黎翔が戻ってきたのだったから。
まぁその時には、夕鈴さえも執務室から居なくなっていたのだが。


******

そして話は遡る。
それは、浩大が出て行った直ぐ後。

「夕鈴殿・・・お疲れさまでした、陛下の行動は大体把握出来ました。
特別手当は、始めに提示したモノをキチンとお支払致しますね」
「良いんですか??それは、有難うございますっっ!!
わぁ~~これで青慎に新しい教科書を揃えてあげられます」

夕鈴は安堵の笑みを浮かべる。
それこそ、陽の光を受ける大輪の花のように。

「そうですか・・・・それは良かったですね」
「はい、すごく嬉しいです」

夕鈴は晴れやかな顔で、執務室を小踊りしそうな勢いで出て行った。


結局・・・・夕鈴の一番喜ぶ事は、青慎の為に役に立てる事だけ。
それには、仕送りがたくさんできる事なのである。
四阿で陛下に対して怒っていたことなど、そんな些末な事はどうでもよくなり。
切り替えの早い夕鈴のとって、それはすでに過ぎ去った過去の事となのである!!

しかしその事を全く知るはずもない黎翔は、夕鈴の怒りを解く方法を考えイライラして周りの官吏・・・特に李順に八つ当たりという傍迷惑な行為をしばらく繰り広げていたのであった。
夕鈴に対しては、しばらく距離を置いておこう、怒りが解けるまで・・・と後宮に訪れず、じっと我慢していたのであった。
すでに忘れられている事など知らないままに・・・・・・・・・・・・・・。

そして浩大は黎翔の報復を恐れ職場放棄とも取れるが、
しばらく王宮から忽然と行方をくらませていたのであった。


こうして、兎と狼の攻防線は終わりを告げた。
この戦いで勝利したのは、のちに史上最強の妃だと言わしめる夕鈴なのだった。
原始、女は太陽であるとはよく言ったもので、女性の強さに男性は敵うはずはないのである!!!



終。




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