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臨時妃 ・ 原作寄り


【注意事項】

こちらの作品は、前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』にて公開していた作品です。
今回こちらへ移行するに伴い少しだけ手直ししておりますが、
書いた当時の陛下と夕鈴の関係が浅いものでありましたので、
当時の雰囲気を残すべく糖度はあまりありません。
そのことを踏まえた上でお読みいただけます様、宜しくお願いいたします。   










自室に戻りながら夕鈴はふと思い出していた。
そう言えば、戸口に家具を動かしていた事を!!
それは一重に陛下が入ってこれない為であって・・・・。

「大丈夫かしら?私、ちゃんと部屋には入れるの?」

独りごちると夕鈴は走らないまでも急ごうと早足で歩く。
心が急いて、足運びが更に早くなり縺れそうになる。
この様な所を鬼の上司にでも見られた日には、また立ち振る舞いの特訓でもさせられそうである。
でも今はそんな事はどうでもいい・・・少しでも早く戻りたいと夕鈴は思うのだった。

部屋の前で一呼吸をして、戸口に手を掛ける。
力を込めてエイッと勢いよく開けてみると『カタッ』と直ぐに開き、夕鈴は拍子抜けした。
簡単に開いた事に驚いたものの自室には誰がいるとも分からず、
そのまま何事も無かったかの様に静々と入って行った。

「お妃様、お戻りですか?お帰りなさいませ」

忙しく立ち働く侍女達は夕鈴に気が付くと、
一斉に仕事をしている手を一旦止めてニコヤカに拱手して迎え入れる。
自分しか居ない間に動かしたはずの家具もきれいさっぱり元通りになっており、
彼女らの仕事の速さに夕鈴は改めて驚いた。
そして、余計な仕事を増やしてしまったことに対して申し訳なさも同時に感じていた。

「お妃様・・・如何されましたか?お衣裳が汚れておいででございますが」

言われてみて初めて、自分の格好を姿見で確認してみた。
なるほど、侍女さんから言われる筈で。
だって裾は泥だらけ・・・・これはきっと先程の大楠の根元で座っていたから。
そしてよく見ると埃だらけ・・・・この埃は恐らく迷路区域で彷徨っていた時につけてしまったものだろう。
あまりの自分の姿に、少しマズイということは分かる。

「あら!どうしましょう・・・きっと先程、庭園を散策していましたからその時にでも汚してしまったのでしょうね」
「では、お着替えをお手伝いいたしますわ」
「お願いいたしますね」

自分が何の気なしにした返事に侍女達は何故か嬉々としているのが、夕鈴の眼に写り困惑する。

何かあるのかしら?
いやに侍女さん達が色めき立っているんだけど?

侍女達が喜んでいるのは、夕鈴が日中に着替える事は稀でその際は侍女が選んでよいことになっていることで。
引いては、『私達の自慢のお妃様』を普段よりも着飾らせることが出来るからなのである。
しかも夕鈴が『お願いします』と言ったことにより、全て自分たちに一任されたことを意味しているからなのであった。

そんな事とは露知らず・・・夕鈴は特に何も考えずに『お願い』と口にしていたのであった。

二人の侍女が衣裳箱の前で、あれやこれやと何着も吟味して選んでいる。
そしてまた別の侍女は靴箱で一人、どの靴がよいのかを思案している。
またまた違う侍女三人は髪飾などの装飾品を手に取り意見を出し合っている。
この奇異な状況に夕鈴は段々自分が発した言葉の意味を悟り、
背中にツゥーと汗が流れて行く感覚に襲われていた。

実は自分は彼女らに対してマズい事を発言してしまったのでは無いのか?
ようやくここにきて自分の過ちに気が付く夕鈴で・・・・。
そして少し後。
六人の侍女に囲まれ、いつもよりも艶やかに着飾られている自分を姿見で確認し絶句する羽目になった。

淡い藤色と濃い紫の重ね上衣。
下衣は、濃い桃色で踝まで覆われているが、
裾は軽い作りで風が吹くとヒラリと舞い上がる。
髪は耳横に一房だけ残されて後は綺麗に結い上げられ、
纏められた頂点にキラキラ輝く金の細工の簪が揺れている。
耳朶に飾られた紅玉の一粒の耳飾りが陽に煌めいている。

姿見の中の自分は、確かに狼陛下唯一の妃の相応しい姿だった。
でも夕鈴はそこまでは全く望んでおらず・・・・。
なので途中まで『何も無い時に着飾るのはちょっと気が引けます』や、
『ここまでして頂くのは申し訳ないです』などと一応抵抗はしていたものの、
結局侍女さんパワーに押されて気が付けばされるがまま状態となってしまっていた。

夕鈴はやっと解放して貰うと即座に籠にお茶道具一式を入れ、
それを腕に持ち侍女に事付けを頼む。

「あの・・・陛下がもし此方にお越しになられましたら、いつもの四阿にいるとお伝え下さい」

言い終わると、静々とお妃演技で庭園の四阿へと向かって行った。
簪のシャランという音を響かせながら・・・・。

もう陛下から逃げるのも疲れたし、李順さんの依頼は十分果たしたはず・・・・。
何より陛下に逢いたいと思ってしまっている自分がいる事を夕鈴は感じていた。
確かに臨時手当は美味しくて、絶対に手に入れたい。
ならば、ホントはもっと逃げないといけないことくらい分かる。
でも、こんな気持ちを抱えたままではきっともう逃げられっこない。

夕鈴は、自分の恋心と臨時手当を天秤にかけてみた。
どちらに傾いたのは、ここで陛下を待ってることで自ずと答えは出ていた。

四阿には午後の日差しが眩しく差し込み、傍の木から零れ出している木陰が心地良い。
お茶の準備が整った夕鈴は長椅子に腰かけ、
風に揺れる葉ずれの音にジッと耳を澄まして聞き入っていた。



続。













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瓔悠

Author:瓔悠

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