【或る月の末日に】
2010年04月01日 (木) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り

【注意事項】

前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
此方のSSは10月の末日・・・そう、ハロウィンに因んで書いたものです。







そう、あれは一冊の書物から始まった。
後にしてみれば、あんなに事になるなんて思いもよらなかったのである。



********




「夕鈴、先程接見していた近隣国の使者が、
これをお妃様に渡して欲しいと献上してきたから、どうぞ」

陛下が徐に差し出したのは、一冊の書物・・・表紙には『Halloween』と書かれている。

「はろ・・・・・・・いん?」
「ハロウィンだよ」
「どんな書物でしょうね・・・・」
「さぁ?僕は開いてないからね・・・。
あっ、もう執務室に戻らないと嫌味を言いつつ李順が探しにやってくるから行くよ」

黎翔は名残惜しそうに手を振りつつ、部屋から出て行ってしまった。
見送った夕鈴はお気に入りの椅子に腰かけ、一頁目を開いてみた。

「なになに・・・・・・・・」

『ハロウィンとは死者の祭りおよび収穫祭であり・・・・その昔、10月31日の夜は死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていた。
これらから身を守るために仮面を被り、魔除けの為に焚き火を焚いていた。
これに因んで現在では31日の夜、カボチャをくりぬいた中に蝋燭を立てたものを作って飾り、更に魔女やお化けに仮装した子供達が近くの家を1軒ずつ「トリック・オア・トリート(Trick or treat. ご馳走をくれないと悪戯するよ)」と唱えて回る。
家庭ではカボチャの菓子を作り、子供たちに渡すのである。
そしてお菓子がもらえなかった場合は報復の悪戯をしてもよい・・・・・・・・・・・・・・』

これは何???
こんな書物を私に献上したかった???
近隣国はどういう意図でくれたのかしら???

夕鈴の頭の中は、丁度書物に有る様なくりぬかれたかぼちゃの蝋燭のように空虚だった。
それでも何となく気になり、続きを読み進める。

「え~~~と」

『かぼちゃのお菓子で一番多いモノは・・・・・・クッキーである。』

クッキー???
それってどんな菓子なのよ。

『作り方は・・・・・・・小麦粉・砂糖・マーガリンを用意します・・・そして』

マーガリンってどういうもの??
でも続きを読むと、トロトロの液状のものみたいだわ。

数刻ほど夕鈴はその書物を読み続け、気が付けば部屋の中はうす暗くなっていた。

「お妃様・・・・先程からご熱心にお読みの様ですが、どの様な事が書かれてありますか?
お差支えなければ、お教え頂けますか?」

部屋の明かりを灯してくれた侍女は、夕鈴が脇目も振らずに読んでいるのが大層気になるらしく堪らずに訊いてきた。

「ああ、これですの?
どうも、他の国で行われているお祭りの概要が載ってある書の様です」
「どんなお祭りなのでしょうか?」
「ええ、それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

夕鈴は聞かれるまま、自分が読んで知識として習得したものを丁寧に説明する。

「まぁ!面白そうですわね」
「たまにはこの様なお祭りがあっても、宜しい様な気がいたしますわね」
「そうですわ~~」

何故か、俄然侍女達がやる気になっている。

これは、是非にハロウィンなるお祭りを催さないといけないのではないのか!!とその気になってきた夕鈴は、密かに後宮内だけで開催しようと準備を始めたのであった。

まずは『お菓子がないと始まらない』と厨房が暇になる昼下がりに、
侍女と共に厨房を貸し切った上で、書物を片手に『かぼちゃクッキー』為るモノを試行錯誤しながら作ってみた。
幸いにも侍女の一人の実家が、王宮にも献上している菓子店を営んでおり材料は全て手に入った。

しかし、材料も限られているので失敗はそうそう出来ない。
難しい顔をしつつ、そして粉で顔が白くなりながら何とか完成した。
その間厨房では笑い声が絶えず外で待機している料理人も非常に気になるらしく時折、中を窺っていたようであった。


******


それから数日後の昼餉の後。
片付けをしている侍女の一人が、徐に夕鈴に声を掛けた。

「お妃様・・・・・・準備は整いましたが、後宮内だけでは勿体のう御座いますね」
「そうですか???」
「ええ・・・・私たちが作ったクッキーでしたっけ、あれは中々食せないものでしょうから官吏の皆さんもご一緒して頂けたらきっと喜ばれる事と存じますが」

段々話が大きくなっていっている事に少し不安を感じながらも、
侍女さんが折角勧めてくれた事だからと李順に話を通すことにした。

「・・・・・・・・ってことで如何でしょうか?」
「まぁ、今はそんなに繁忙期でもありませんし、
此方の出費もないようですから許可致しましょう。
それで如何すれば宜しいのでしょうか?」
「私たちが、お菓子を持ってますから・・・官吏の方々に仮面でも付けてもらって、王宮と後宮を結ぶ回廊の広間に来て頂くなんてことはどうでしょうか」
「そうですね・・・・いいでしょう」
「それはそうと、その祭りはいつと言っていましたかね」
「確か・・・今月の末日だったと・・・・」
「それって、今日じゃないですか!!」
「え~~~~そうだったですね。
日にちはうろ覚えだったから・・・・」

夕鈴は侍女たちと後宮で最後の仕上げを、
そして李順は官吏たちに通達したりとドタバタ慌てて準備に奔走し、
夕刻までにはすべてが整ったのだった。


**********


陽もすっかり落ちた夜。

回廊の両端には厨房から頂いたかぼちゃをくりぬいて作った即席のかぼちゃ蝋燭が並べられ、侍女達は官吏を待ちかまていた。
仕事が終わった者から仮面を付けて回廊広間まで出向くように言い渡されていたので、ぽつりぽつりと官吏がやってくる。
全ての人が『トリック・オア・トリート』と唱えながら・・・・・・。

その度に侍女さん達が入れ替わり立ち替わり、クッキーを官吏に渡している。
極上の微笑をたたえて・・・・・・。

夕鈴はさすがに官吏に手渡すのは陛下の手前出来ないので、嬉しそうに配る侍女さん達をただ眺めていた。
そうして・・・・・段々人も来なくなり大体渡し終わった様なので、此処でお開きにすることにした。

若手の官吏の中で来なかったのは、方淵、水月、李順くらいであった。
方淵は勿論下らないと一蹴してしまい、水月に至っては夕刻よりも随分前に早退してしまっていたからである。

夕鈴は、片付けを侍女に任せて、残ったクッキーを籠に入れ王宮に続く回廊を一人ひたひたと歩いて、執務室を目指した。
そこへ向こうから黒い外套で全身を覆い、足音も立てずにやって来る人影が。

誰????
あの黒づくめの・・・・・・もしかして刺客???

夕鈴は危険察知能力が作動し、一旦立ち止って回廊の柱の影に隠れた。
そしてそのまま息をひそめて、その人物が立ち去るのをじっと待った。

もう隠れて随分経つと感じたのか、夕鈴は柱の影からひょっこり顔を出してみた。
すると、不意に目の前に現れた黒ずくめの人物が囁いた。

「トリック・オア・トリート」
「きゃあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

辺りに響く大絶叫!!!!!
思わず目を瞑った夕鈴が恐る恐る目を開くと、目の前で黒衣の人物が耳を押さえていた。
良く見るとそれは黎翔がだった。

「へ、へいか・・・・・・・・・・・」
「夕鈴・・・・随分と大きな声だね。こ
れだったら刺客もびっくりして怯んじゃうよ」
「す、すみません!!すみませんっっ!!!」

直立不動で何度も何度も謝る夕鈴に、黎翔はそっと手を差し伸べ頬に軽く触れてきた。

「もういいよ、そんなに謝らなくても・・・・それよりトリック・オア・トリートだよ」

片目をお茶目に瞑りつつ、夕鈴に笑ってみせた。

「はい・・・・では此方をどうぞ」

夕鈴は籠に入ったかぼちゃクッキーの袋を取り出すと、黎翔の掌の上にそっと乗せた。
その時黎、翔の瞳は紅く妖しく光る。
夕鈴は、何かいや~~な予感が・・・・。

「夕鈴・・・先程の事を謝るのなら、そうだな・・・行動で示してもらわないと」
「行動ですか??」
「そうだよ!!じゃあ~このお菓子を僕に食べさせてくれる?」
「えっ、・・・は、はい」

夕鈴は申し訳ない事をしたのは私なのだから、これくらいはしないと・・・・と覚悟を決める。
籠に入っているクッキーを一枚取り出すと、夕鈴は徐に黎翔の口元に運んだ。

「夕鈴・・・・とっても美味しいんだけど、何かが足りないよね」
「えっ・・・味がヘンですか?」
「そうじゃなくて・・・・・やっぱり食べさせてくれるのだったら、『あ~~ん』は必要でしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・」

言いたい放題の陛下に、そろそろ夕鈴の我慢の限界は訪れようとしている。
対して黎翔はというと、この上ない上機嫌でワクワクしている。
夕鈴の『あ~~ん』を待っている様子であり、見えるはずもない茶色の尻尾は盛大に振られている。

夕鈴は、顔から火が出そうなのを懸命に耐えた。

「あ~~~ん」

クッキーを黎翔の口元に持って行ったその時、夕鈴の指ごと黎翔のお口の中へ。

「なっ、何するんですか~~~~~~~~。」
「えっ(もぐもぐ・・・・)だって、(もぐもぐ)夕鈴の指美味しそうなんだもの」
「もう・・・いい加減にして下さい」

夕鈴は、静かに低い声で言い放つとそっぽを向いた。

「ゴメンね・・・・夕鈴・・・・ほら、今日はハロウィンだしイタズラしてみたかったんだ」
「お菓子をあげれば、イタズラはされないのですが!!」

シュン・・・・となった黎翔に、夕鈴は勝てる筈もなく仕方ないと苦笑いをする。
小犬に変貌した黎翔に誰が強く言えようか・・・・否、誰もいない。
そこが黎翔の『狼陛下』たる所以でもある。

そして、二人仲良く天高く登ったまぁるい月を眺めながら、残りのクッキーを食べた。

「今日は愉しかったよ、有難う」
「いえ・・・・」

そうして、二人はいつまでも月を見上げていた。


そして後日。
官吏といい仲になった幾人もの侍女さんたちが嬉しそうに報告をされた事は、
ハロウィンの起こした魔法なのだろうか??

ふと、思う夕鈴なのであった・・・・・・・・・・・。



終。




2012.10.31 SNS初載





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