【雨の降る時期は】
2010年03月31日 (水) | 編集 |

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臨時妃 ・ 原作寄り

【注意事項】

前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。







「陛下、今日の午後は少し休憩時間を入れましたので、
たまにはお昼時に夕鈴殿を訪ねてみるのもよいのでは?」

珍しく李順が休憩をくれるというので、
折角だからと後宮へと足を運んでみる。
只し部屋を出る時の李順の微笑みと、
背中越しに掛かった言葉が若干気には掛かるが・・・。


部屋の入り口から見えた寵妃の姿は、
窓辺近くに椅子を置き窓格子に凭れて外を眺め物憂げな様子。
そろりと近付き、隣から声を掛ける。

「夕鈴、何をみているのか?」

急な来訪に驚いた様子で椅子から直ぐに立ち上がると、
拝礼してお妃スマイルで僕を受け入れてくれた。

「陛下、いらっしゃっていたのですか?
気付きませんで・・・お出迎えもせずに申し訳御座いません」
「いや、よい。私が触れも出さずに妃のご機嫌窺いにきたのだからな」
「有難うございます・・・・実はあそこで咲いている紫陽花の花を見ていました。
雨に濡れて色鮮やかだな~~と」

確かに、今朝からの雨で赤紫よりも明るい牡丹色の紫陽花は光彩を放っているようだ。

「確かに鮮やかな色で綺麗だな・・・雨もたまにはいいものだということか」
「はい、そうで御座いますね」


少し離れた所で見ている侍女達からは、感嘆の溜め息が漏れ聞こえてくる。
そして囁き声も。

「やはり、お妃さまは麗しいですわね」
「お二人を見ておりますと、1枚の素晴らしい絵画のようですわ」
「いつまでも、仲睦ましくていらっしゃる」

囁かれる侍女の言に、黎翔は夕鈴を見詰めて口元に笑みを乗せる。
そして夕鈴の腰に手を添えてそっと引きよせ、耳元に響く甘い声で囁く。

「夕鈴、ほら、侍女たちが僕達の仲良さげな様子にうっとりしているよ」

耳奥にこそばく届く黎翔の言葉を受けて、夕鈴は頬をほんのりと朱に染める。
そして立っているのがやっとというように腰が砕けそうになっていた。

「ほら、夕鈴、大丈夫?」
「は、はい、大丈夫・・・・・です」

ここまで・・・だな。
黎翔は夕鈴の様子をキチンと把握して、片手を上げて侍女達を下げる。

「はぁ~~~~~~。
侍女さんもいなくなったことですし、陛下・・・夫婦演技はおしまいです!!」

直ぐさま、夕鈴は距離を取ろうと黎翔から1,2歩離れる。
それを黎翔が面白く思う筈もないが、今はここまでなんだろうなとボンヤリと考える。

まぁ、いいさ。
時間を掛けて此方に引き寄せるのも悪くない。

そのまま少し離れた距離のまま、二人は窓越しに見える雨粒に濡れる紫陽花を凝視する。

「ねぇ、夕鈴・・・雨っていいもんだね」
「えっ、そうですか??主婦にとっては余り良くないですよ~~~。
だって雨が降ると湿気が多くなって、部屋の中にお洗濯物を干すことにもなるし、掃除も大変なんですよ!!!
現にお掃除バイトもこの雨続きで出来ないんですっっ」
「なんで出来ないの?」
「だって、窓も開けられませんし・・・磨いても乾きが悪くてベタベタするし。
だから出来ないんです!!早く止んでくれないと、バイト代が入らないんですよ!!
これは重要です~~~」


夕鈴の真剣に語る様子を見て黎翔は思う。
大変そうだな、と。


**********


その後、執務室に戻った黎翔にニコニコ満面の笑みを見せる李順が告げる。

「これで国王夫妻の変わらぬ仲睦ましさが侍女を通じて、王宮中に広まりますよ。
当分縁談が来なくなるってモノです!陛下、お疲れさまでした」

結局、ただで休憩なんぞくれる李順ではなく、全ては仕組まれたものであるのだ。

だが李順は知るよしも無い。
自分の働きで二人の心の距離は少しずつ、ホンの少しずつではあるが縮まっている事を。




終。






2012.06.21 SNS初載

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