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臨時妃 ・ 原作寄り

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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
そしてこちらにUPするにあたり、手直しをしております。









掃除婦のバイトも真冬は身体の芯までもが冷え切って辛かったのだが、
このところの暖かさに春の訪れを肌で少し感じ始めた。

このまま暖かくなってくれれば良いのだけど・・・。

夕鈴は汚れた水を捨てるために、井戸の傍の排水場にやって来た。
この水を処理すれば、今日のバイトは終了だ。

庭に目をやると、今日は眩しい陽光が優しく降り注いでいる。
まだ太陽は中天に達してはいないがそこらかしこに光りを分け与え、
キラキラ眩しく反射している。

「折角の貴重な晴れだから、お昼からは散歩でもして過ごそうかしら」

手にした空の桶を軽く振りながら足取りも軽く、
掃除道具を所定の場所に仕舞い込み素早く着替えたのであった。

自室に戻ると戸口にずっと待機していたらしい侍女さんが私を見るなり、
ホッとした表情を浮かべている。

それがどうも気になり、徐に聞いてみる。
理由は何となく分かっていたのだが・・・。

「あの、如何なさいましたか?もしや・・・」
「お、お妃さま!ようございました、お戻りになられて。
それが陛下が、陛下が・・・お待ちになられていらっしゃるのですが」

夕鈴の話が終わる前に、侍女は慌てて夕鈴の言葉を遮った。
主である夕鈴の話を遮るだなんて事は本当に珍しく、よほど慌てているとみえた。

「そうですか、落ち着かれて大丈夫ですよ。
どちらにおいでですの?」
「は、はい!居間で御待ちでいらっしゃいます」
「分かりました、参りましょう」

最近入ってきたこの侍女は黎翔が後宮にやってくるのを極端に恐れているらしく。
今日も予定外に黎翔がやって来たのに肝心の夕鈴が出掛けていたので、
ずっと夕鈴の帰りを戸口で待っていた様であった。

居間に行くと、長椅子に優雅に腰掛けている黎翔が目に入ってきた。
夕鈴はゆっくりと傍に歩み寄り隣に腰掛けると、甘い声で黎翔に言葉を紡いだ。

「陛下・・・今時分からのお越しとは思いがけないものですから、
出掛けておりました事お許し下さいませ」
「いや、私が触れも出さずに来たのがいけないのだから、気にせずともよい」
「まぁ、有難うございます」

今日の夕鈴のお妃演技は冴えわたっており、周りに控える侍女達もポーと見惚れるばかりである。
その視線に夕鈴も気がついており、ボロが出ない様にと心持ち緊張する。

「ところで陛下、如何なさいましたのでしょうか?」
「いや、今日は珍しく午後から時間が空いたので、愛しい君と過ごしたいと思ったのだが」
「そうでしたの・・・嬉しいですわ。では昼餉は四阿に用意してもううことにいたしますわ」
「そうだな」

黎翔の決定に夕鈴は侍女に目配せをして、お願いをする。
すると二人の会話を聞いていたこともあり、侍女達は直ぐさま準備に取り掛かりその場から居なくなったのだった。

誰も居なくなったのを確認して夕鈴は大きく深呼吸し、黎翔から少し離れて座り直した。
そしていつも通りの声音で、黎翔に話しかけるというか確認したのであった。

「陛下・・・・一つ聞いておきますが、お昼から政務が無いというのは本当なのですか??」
「え~~~夕鈴は僕がサボっているとでも言いたいの??酷いよ~~」

黎翔も二人きりになったので、纏うオーラを狼から小犬へと変化させる。

「そんなシュンとした態度に騙されませんよ!!
またいつものように抜け出して来られたのであれば、
李順さんが探しに来られる前にお戻りくださいねっっ」
「もう、夕鈴は李順の回しものなの??」
「そうでは有りませんが・・・」
「大丈夫だよ。今日提出され書簡はもう一度官吏達で審議する必要が出てきたから、
李順の立席のもと再審議されているんだ。だから僕はその間お休みだよ」
「そうなんですね」

夕鈴は黎翔の嬉しそうな顔を見ていたら、気持ちの奥底が暖かくなるのを感じていた。
そして知らず知らずの内に微笑んでいたのであった。

「では、陛下・・・今日はお天気もいい事ですから、散歩にでも行きませんか?」
「今私から愛しい妃である君を誘おうと思っていたのに、先を越されてしまったな」

知らぬ間に、また隣りにぴったりと寄りそって来ていた黎翔が夕鈴の柔らかい手を取り重低音の声音で甘く囁く。
それを夕鈴も敏感に感じ取り、瞬時に項まで真っ赤にして俯きつつ呟いていた。

「誰も居ないのだから、演技は必要ないというのに・・・・・」

夕鈴の反応を見てると本当に飽きないよね、
可愛くって。
何処か二人だけの所に連れていって日がな一日愛でていたくなる。

「じゃあ、夕鈴!早速行こうよ」
「はい!!!」

同時に立ち上がり、部屋を後にして庭園へと向かった。



肩を並べて歩く庭園は降り注ぐ陽光がまんべんなく包み込み、寒さは感じなかった。
今日は本当に冬の中休みの様で、そよぐ風も心地良い。

「陛下・・・何処に行くんですか?」
「そうだね、夕鈴は何処か行きたい所があるの?」
「私ですか?実は、今日お掃除バイトをしていたのですが、遠くから風に乗って芳香が香って来たんですよ。
それが何か確かめたいんですが!!」

夕鈴は隣の黎翔に向かって、満面の笑みを見せる。

もう、夕鈴!!無意識にその可愛い笑みを振り撒かないで欲しいよ。
目が離せなくなってしまうんだけど。

「じゃあ、そうしようか」
「はい!!」

2人は連れ立って、まずは芳香が香ってきた井戸へと向かう。
井戸につくと、確かに風に乗って優しい香りが漂ってくる。
黎翔はこの香りに覚えがあった。

「夕鈴・・・確かにいい匂いだね。僕、分かったから案内してあげるよ」

そう言うと、黎翔はさり気無く夕鈴の手を取りシッカリと自分の手に絡め、先に歩いて行く。
黎翔の手の温かさを自分の指から掌から感じ取り、
胸の鼓動が早鐘の様に高鳴り耳奥に響いていた。

「・・・・・あの、何の花なんですか?」
「それは、行ってからのお楽しみだよ」

夕鈴は繋がれた手を払いのける事は出来ずに、
ただ先に行く黎翔に付いて行くだけだった。

少し歩くと小高い丘に辿り着き、目に入って来たのは今を盛りと咲き誇る蝋梅の木々であった。

その木々に咲く黄色の花々は、陽光に照らされてキラキラと輝いていた。
小さな可憐な花たちは芳香を放ち、存在感を辺りに振りまいていた。
その花景色に夕鈴はしばし見惚れて立ち止まったまま、
大きく息を吸い込みその香りを胸一杯取り込んだ。

「夕鈴・・・どう?」
「はい・・・・・素敵過ぎて・・・・・案内して下さって有難うございます」
「この花は、蝋梅(ろうばい)といって今時期に咲くんだよ。
『”蝋細工”のような梅に似た花』から『蝋梅』という名になったらしいよ」
「そうなんですか・・・・・・」

夕鈴はそれだけ言うとまた佇み、しばしその花景色を眺めていた。
そして徐に歩き出し、その木々の傍近くに行って愛でていた。
その様子を黎翔は少し離れた所から見ていた。
その紅い瞳に映し出されていたのは、今にも木々に溶け込んでしまいそうな愛しい妖精の姿で。
それは言わずと知れた夕鈴の姿。

「夕鈴・・・・・いつまでも君のその愛らしい姿を眺めていたいよ、花の精の様な君を。
離さないよ、僕は・・・ね。必ず君を僕に向かせてみせるのだから。
覚悟していてね、夕鈴」

黎翔は、気がつけば独り言を呟いていて。
その間も夕鈴は、静かな蝋梅園をゆっくりと散策していた。
黎翔が、そんなことを呟いていたとは気づきもせずに。
ゆっくりとゆったりと時は流れていったのであった。


もしかしたら、可憐な黄色の花々は知っていたのかも知れない。
この何年か先、夕鈴はシッカリとした絆で黎翔と結ばれる事を。

その蝋梅の花言葉の『先見』で以てして。



終。



このSSSに出てくる蝋梅・・・・ソシンロウバイ(素心蝋梅)1月から2月にかけて黄色い花を付ける落葉広葉低木です 




2013.02.08 SNS初載



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瓔悠

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