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【私の想いと蝉の声】
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臨時妃 ・ 原作寄り

【注意事項】

前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
そしてこちらにUPするにあたり、手直しをしております。





『カナカナカナ・・・』

小雨が降りしきる夕刻前。
外では蝉が雨をモノともせずに合奏している。

「蝉の声・・・もう夏、なんですね」

夕鈴は、少し苦めの冷茶を飲み干して呟いた。

「何だか、浮かない顔しているようだが、如何したのか?
君の笑顔が見れないとなると私の心も萎んでしまうのだが。
もし憂いがあるのならば、今ここで告げて欲しい。
私だけに」

卓上に置かれている夕鈴の手を、黎翔はさり気なく擦りながら心配そうに気遣う。
周りに侍女がいる為、このように殊更に甘い言葉と態度で妃を愛している振りをしてくる。
全ては仲睦ましい夫婦を見せつける為に。

一体、私は此処にいつまで居るのかしら?
借金のため、青慎の学費のため・・・それだけの為だけど。
でもそれが終われば帰る事になるのよね・・・そう、帰らないといけないのよね。

蝉の一生は短くて、自分はここに居ると存在感を示すように大きな声で鳴くのだけれども・・・私はどうなの?
陛下への恋心はただ心の奥で燻らせるだけで。
決して表に出してはいけない・・・・そんな想いをこの先ずっと隠せるの?

考え事をしているためか、顔を赤らめる事も無く黎翔のしたいようにされたまま。
これを是と判断して、黎翔は手を擦っているだけに留まらず握りしめたりしてきた。
はたまた、暑いからと結いあげてもらった髪のおくれ毛を自分の指を絡ませたりとご満悦の様子だった。
しかし色々触ってみても、夕鈴は文句一つ言わないどころか反応すらしない。

夕鈴は、一体何を真剣に考えているのか?

黎翔は気も漫ろな夕鈴が段々心配になり、そっと夕鈴の顔を覗き込んでみた。
そこにはいつもの快活な表情は見当たらず、梅雨空のようにどんよりとしたものが鎮座していた。

「夕鈴、何処か具合が悪いのか?」
「い、いえそのような事は御座いませんが・・・」

夕鈴が気がつけば至近距離で黎翔の紅い瞳が揺らめいており、
心此処にあらずといった自分を本心から心配している表情だった。

いけない、陛下を心配させてしまった様だわ。
今は一生懸命に妃を演じる事にだけ集中して、余計な事など考えない方がいいのよね。

今まで考えていたことなど空の彼方へ放り投げて、
今できる精一杯の笑顔を黎翔へと向けた。

今考えても仕方のない事だわ。
陛下を助けたい、味方になりたいという気持ちにうそ偽りはないのだし。
好きな気持ちだけそっと心に留めておけばいいのよね。
うん、出来る出来る!!

何とか自分の気持ちをスッキリとさせて、黎翔に対峙する。
自分の手を見てギョッとした。
そこには、しっかりと黎翔の指が絡まっている。

「あの・・・・その・・・陛下、これはなんでしょう?
それに距離も近すぎます!!
今は二人きりなのですから、演技は要りません。」

そう、いつ侍女さん達を下げたのか?
今ここには二人きりだったのである。

まずは握っている指を丁重に外して頂き、
いつの間にかぴったりとくっついている膝も離して頂いた。

「夕鈴が考え事をしているから・・・・」
「すみません、毎日雨ですから洗濯物も乾かないなぁ~~とか。
青慎が一人で家の事をしているのだろうからこの雨では困っているのよね~~などと、
割とどうでもいい事を考えていました」
「ふぅん、そうなんだ」

黎翔はそんなことであんな表情をするはずはないと思ったが、
頑固な夕鈴は絶対に言わないだろうと踏んでそれ以上は聞かない事にした。

外では、まだ蝉の声が聞こえてきていた。
まだまだ蝉の季節は今からが本番である。


そして、黎翔は思う。
二人の心の距離を縮めるのはきっと時間が掛かるのだろう。
ただ、簡単には離しはしないのだからこれからじっくりと縮めていけばいい。
私たちの一生は蝉の様に短くはないのだから・・・・・・と。









2012.07.11 SNS初載




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