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【恋慕の光り】
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臨時妃 ・ 原作寄り

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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
此方のSSは、夏前に家族で蛍鑑賞に行った際に下りてきたSSです。








遥か天空は曇が少しかかっているものの星と月のみで、
仄かに辺りを照らすそんな穏やかな夏に入る少し前の夜。
外では、生暖かい風が木々を少し揺らしている。

今日は、まだ陛下の渡りもない・・・。
特にする事もなく手持ち無沙汰な夕鈴は、そんな夜に誘われ窓辺にもたれて外をぼんやり眺めていた。
侍女が陛下の訪れを伝えに、窓辺の夕鈴の元に近寄ってきた。

夕鈴は穏やかな笑みを浮かべながら了承した旨を告げ、陛下を迎えるために窓辺から離れる。
その離れた窓辺の向こうの奥では、ほんのりユラユラと光るものが微かに飛んでいた・・・。

「夕鈴、今戻った。今日は政務室にも訪れなかった様だが、如何過ごしていた?」
「はい、午前は侍女さん達と果樹園の方へ足を伸ばしてみました。
お昼を挟んで午後からは、老師の元へ参りましたの」
「そうか、一日有意義に過ごしたのだな」

他愛のない会話をしながら、並んで歩いて長椅子へと陛下を誘う。
直ぐさま黎翔は侍女さん達を片手を挙げて下げた。
侍女も心得ているので、二人の邪魔をしないように静かに部屋を辞して行く。
二人っきりになったのを確認した黎翔は、ごく自然に狼から小犬に替わっていくのが纏う空気感で分かる。

「夕鈴、今から東の庭園へ散歩に行こうよ。
「今からですか?もう真っ暗ですよ」
「うん、今から!夕鈴に見せたいものがあるんだ。
何かは行ってからのお楽しみだけどね」
「じゃあ、お願いします」

黎翔の満足げな顔を見ながら、夕鈴の頭の中は二人だけでの散歩への期待と嬉しさで満たされていた。

「と言う訳で・・・浩大!」

黎翔は天井に向かって呼び掛けると、
その声に素早く反応し軽い身のこなしで何処からとなく浩大が現れた。

「ハイハーイ、陛下お呼びで?」
「聞いていたとは思うが、夕鈴とこれから庭園へ行く」
「お妃ちゃんとねぇ・・?ふぅ~ん、まぁいいや、では畏まりーー!!
じゃあ、2,3人集めてから直ぐに行くんで!」

言い終わる前に、浩大は窓からヒラリと出て行く。
相変わらずの早い行動で夕鈴は感心する。

「では夕鈴、準備は整った事だし出掛けようか。
灯りは持って行くけど辺りはかなり暗いから気を付けてね。
なんなら、手を繋いで行く?」
「エッ、い、いえ・・・だ、だいじょうぶですよ」
「そうなんだ・・・・・」

ビックリした・・・突然あんなこと言うなんて。

夕鈴は黎翔の気遣いが本当のところ嬉しかったのだが、気恥ずかしさとバイト妃なのだからという遠慮で辞退する事にした。
黎翔はというと断られるとは思っておらず、残念そうなのが表情から窺い知れる。

部屋から出た二人はというと、灯りを手に黎翔が前を歩きその3歩程後ろを夕鈴がついて行っていた。
外は先程と同じように穏やかな風が吹いていたが、
一瞬風が強く吹き・・・黎翔は『浩大は流石に仕事が早いな・・』と浩大をはじめ隠密の到着を肌で感じていた。

辺りは本当に暗く、黎翔が持っている灯りを頼りに庭園の奥へと歩を進める。
夕鈴はそんな周りの暗さにはあまり恐怖感は抱かなかった。
自覚はしていないものの、前を歩いて行く黎翔の頼もしい背中に安心感が心を占めていたから。


「夕鈴、着いたよ。これが見せたかったんだっっ!!」

目の前にあるのは、小さな小川。
暗いけど水の流れる音でそれと分かる。

そして水辺にある草木の隙間を縫うように飛ぶ仄かな光は・・・そう蛍である。
乱舞とまでは行かないが、かなりの数の蛍が優雅に光を放ちながら飛び、
草叢ではチカチカと控えめに光を灯している。

「キレイ・・・」

夕鈴は、蛍の優しい光に眼を奪われていた。
黎翔は、じっと蛍の動きを眼で追っている夕鈴を愛おしそうに眼を細めて見惚れていた。

「そう言えば、蛍の光は求愛の合図だと言われていて、雄は光を発して飛びながら自分だけの相手を探すんだよ。
雌は弱い光を発して草や木の葉の上で雄を待ち、互いを見つけたら強い光で合図を送り雄は逢いに行くんだよ」
「へぇーそうなんですね。陛下物知りですね」

 夕鈴、『物知り』って事で片づけてしまったな。
僕は君の事を言っているんだよ。
どうして解ってくれないのかなぁ・・・鈍感なのか?僕に興味がないのか?

ふぅーと短く夕鈴には解らないように溜息を吐く。
そんな黎翔の姿を横目で夕鈴は見ていた・・・もちろん溜息も気付いていたのである。

陛下、溜息をついていたわよね。
私のあの反応が悪かったのかしら・・でも実際、物知りだなと思ったし。

「ほらご覧・・・・僕の掌」
「わぁ~~蛍が止まってて綺麗ですね。
私、こんなに近くで見たのは初めてですよ」
「偶然、飛んで来たんだ。放つ前に夕鈴に見せてあげようと思って・・・」

夕鈴は下を向き、黎翔の掌を覗き込む。
その頭の上に黎翔の息が掛かるのを感じ、
ドキドキドキ・・・鼓動が速くなり顔がほんのり紅く染まるのが自分でも分かった。

暗くて良かった・・・そう、夕鈴はホッとしていた。
黎翔の手から蛍が飛び立ち、その行き先を二人で見つめていた。
その蛍は相手を見出したようで2匹となり、飛んで行った。

このまま、自分達はいつまで一緒にいられるのだろうか。

偶然にも二人同じ事を考えていた・・・。
黎翔は考え込んでいる夕鈴を隣から見てみると、
彼女の柔らかい薄茶色の髪の一房が仄かに光っていた。

「夕鈴!蛍が君の髪に止まっていて、光っているよ」

慌てて夕鈴も自分の髪を確認すると、肩より少し下の方でチカチカ発光している蛍を見つけた。
何だか心の中がホンワカして、自分の口角が次第に緩んでゆっくりと微笑んだ。
そんな様子を見た黎翔は、見せてあげて良かったと一人満足していた。
そして少しすると夕鈴の髪に止まっていた蛍も仲間の光に誘われ、飛んで行ってしまった。

「そろそろ、戻ろうか・・・・来年も一緒に見ようね」
「そうですね・・来年は、下町である蛍まつりに行けるといいですね、一緒に」

最後の言葉は、黎翔に聞こえるか聞こえないかの小さな声で囁いた。
自分のささやかな願いであるから・・・・。


二人は蛍の光に名残惜しそうにしながらも、来た道を歩いて戻って行く。
そして、後に残るは光の乱舞だけ。



終。





2012.06.11 SNS初載


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