【意味などとしての水入らず・1】
2014年11月09日 (日) | 編集 |
【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り













「夕鈴殿、明日からまたお妃教育の強化となりますので、覚悟していて下さい。」

有能な側近・李順氏の眼鏡奥の眼光がキラリと光り、並々ならぬ決意に満ちていた。

「はぁ~教育ですか・・・。」
「そこで溜め息をつかない!!!仮にも大体お妃ともあろう貴婦人が、人前で溜め息なんてものはもってのほかです!!」

厳しい叱責が、夕鈴に矢となって飛んでくる。
扇で隠して小さく解らないように吐いたつもりだが、耳聡い李順には聞き洩らされることはなかったようだ。

「もう少し、妃であることを自覚して下さい。」
「でも、仮ですよ・・・。」
「それでもです!!いいですね、明日の朝こちらまできて下さいよ。」
「はい!!」
「では、どうぞお引き取り下さい。陛下が戻られないうちに。」

そう、陛下は政務室で官吏たちから報告を受けており、その合間を縫って李順は夕鈴を執務室に呼び出したのだった。

そしてまた今更何故にお妃教育強化となったのか?______それは陛下の元に届けられた一通の書簡からであった。

この時点では、誰もその後の騒動の発端であったことなどは解りはしないのだが、取り敢えず李順が下した判断は『夕鈴のお妃教育』と相成ったのだ。

執務室を出た夕鈴は、明日からの事を考えると憂鬱になり此処から直ぐにでも逃げだしたくなったのだが、お妃姿ではどうにもならない事は解っていた。
だから鬱鬱とした気分を振り払う為、掃除バイトに精を出すことにし侍女達に『老師の元に行く』と断りを入れてから、そそくさと後宮立ち入り禁止区域へと向かった。

更衣室にしている一室で掃除婦の姿になった夕鈴は、開放感が身体中を駆け巡り知らぬ間に大きく深呼吸をしたのだった。
そして、雑巾と桶を手にルンルン気分で、井戸へと水くみに出掛けたのであった。
井戸から汲んだ水はとても冷たかったが、主婦歴が長い夕鈴にはこんなのはへっちゃらで慣れたものだった。

慣れないのは、狼陛下の唯一の妃である事の方だ。
幾らバイトとは云え、毎日腰が砕けてしまいそうな甘い言葉を囁かれ、時には膝の上に乗らされ必要以上に触れられてくる事に到底慣れようもない。

だからいつも大事な青慎の学費のため!!借金返済のため!!と呪文のように唱え、バクバクと早鐘のように鳴る鼓動を鎮めているのだ。

こんな事は陛下に知られる訳にはいかない・・・・そしてこの恋心もだ。
そんなことをボンヤリ考えながら水くみをしていたもんだから、頭上から声が降ってくる。

「水!!水溢れているよ!!」
「浩大、有難う。」
「なんだよ、いつになくボ~~としているじゃん!!陛下の事でも考えてた?」
「そんな訳ないでしょ!!」
「じゃあ何考えてたのさ~~。」
「今頃、またお妃教育って李順さんが云うからどうしてかしら?と考えていたのよ。」
「ああ、それね~~~。」

ヒョイと傍にある木の枝に足を掛けて、逆さ吊りになって顔を見せる。
その表情は、訳知り顔の様だ。

「何か知ってるの?」
「知ってるけど・・オレの口から言ったのがバレたら、陛下からどんなお仕置きを受けるか解んないから言わないよ~~。」
「もう、浩大のケチ!!」

一言、言い放つと桶を持って建物の中に入って行く。
その背を見送りながら、浩大は『頑張ってよ~~』と呑気に声援を送ったのだった。
そしてまた静かに姿を消し、妃警護と云う任に就いた。

「さぁ~~張り切っていきますか!!今日は出来れば二部屋位は完璧に済ませたいモノだけど・・・・それも老師次第ってとこよね~~。」

傍の卓の端っこにチョコンと腰かけ、バリバリ音を立てながらお煎餅をかじる老師にワザと聞こえるように夕鈴は言う。

「お主・・・そう言えば、あの眼鏡が明日から教育強化とか言っていたじゃろ。」
「良く知ってますね・・・さすがの地獄耳ですか・・・。」
「違うわい!わしも呼ばれておるのじゃ。」
「老師もですか?」
「そうじゃよ~~ビシビシしごくから覚悟しておれよ。」

老師の目がキラリンと光る・・・・・・。

―――ここにもいたのよね~~張り切るお人が・・・。

「それにしても、何故ここまで大袈裟に教育強化って・・何か有るんですか?」
「それはじゃな・・・・・。」

老師は夕鈴の背後に佇む人物に気が付き、そこで口を噤む。

「夕鈴・・・老師と愉しそうではないか。」
「へ、陛下!!ビックリさせないで下さい。それに愉しそうに見えますか?」
「妃である夕鈴は私だけを見詰めておればよい。」
「私は、今は一介の掃除婦ですので、妃では有りません。」
「本当に君は口の減らない・・・。」

そう溜め息交じりで言いながら、後ろからそっと手を回し抱きしめる。
突然の事で夕鈴はビックリして、腰が抜けそうに為るのを寸前で力を込めて堪え、首を後ろに回す。

「老師の前で何をしているんですか!!」
「此処には、誰もいないよ夕鈴。」
「えっ?」

その言葉から首を戻すと、卓に座っていたはずの老師が跡形もなくいなくなっていた。

―――老師~~何処に行ったのよ~~~。

「ほらね、夕鈴。誰もいないでしょ。それにしても・・・何か老師に聞いていた様だけど。」
「ああ、其れですか・・・・李順さんが明日からまたお妃教育するって言うから、何事が有るのかな~と気になって・・・・と。んんっ、陛下いつまで腰に手を回してらっしゃるんですか?離して下さい。」
「え~~、折角二人っきりなのに??」
「だ・か・ら、夫婦演技は要りません!!」

仕方なさそうにではあるが腕に回した手を離してくれたので、夕鈴はこれ以上傍に居るのは拙いと2、3歩離れて距離を取ったのだった。
黎翔はその夕鈴の距離の取り方が気に入らないが、これ以上何かすると逃げられてしまいそうだから、取り敢えず此処では我慢しておき夕鈴の質問に答えることにした。

「それがね・・・周辺の親しくしている国の国王が代替わりして、その国王直々に挨拶に来るんだよ。其れで、妃列席で挨拶を受けないといけないからじゃないのかな。」
「そうですか・・・・。解りました、頑張りますね。」
「別に頑張らなくても、僕の隣りで笑っていればそれでいいよ。それにその王様って年若だと聞いているから、夕鈴にはあまり逢わせたくないしな。」

眼の前の小犬が気がつけば狼に変貌しており、光る紅い瞳が妖しく輝いているのを夕鈴は、『なぜここで狼が出てくるの?』くらいの感覚でボォ~と見詰めているのだった。

黎翔の真意など到底解らない儘に________________________。




続。
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