【華装会・3】
2015年06月29日 (月) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り


【注意事項】

こちらの作品は、前ブログ『遥か悠遠の朱空へ』にて公開していた作品です。
今回こちらへ移行するに伴い少しだけ手直ししておりますが、
書いた当時の陛下と夕鈴の関係が浅いものでありましたので、
当時の雰囲気を残すべく糖度はあまりありません。
そのことを踏まえた上でお読みいただけます様、宜しくお願いいたします。   瓔悠。








さて、夕鈴が帰省する土曜日の朝。




「陛下、こちらは急ぎの書簡ですから早急に目を通して下さい」

彼の優秀な側近は、急かすように書簡を積み重ねていく。
眼鏡の奥の瞳からは『今日は逃しません』という意思が見え隠れしているようで、黎翔は深い溜息をつく。

「李順、分かっている。今日は(あくまで今日はだが・・)夕鈴について行く様な事はしないから」
「そうですか?くれぐれも自重下さい。それに夕鈴殿はいずれあるべき場所に帰られる方なんですから、
今回のお見合いもいい機会ではありませんか?」

側近の何気ない一言が、黎翔にとってはすごく感に触る。
不機嫌になった黎翔は、手に持っていた書簡を乱暴に卓上に置いた。

一方夕鈴は、そそくさと後宮立ち入り禁止区域で帰り支度をしていた。
お見合い自体は全く気が進まないが、家に帰省できるのは少し嬉しかったりもする。

今から帰れるんだから、青慎に美味しい夕食を作ってあげれるわよね。
何がいいかしら?今日は土曜日だから、変って無ければ八百屋さんが特売していたような・・・。

すでに気持ちは完全に下町へと飛んで行っていた。
準備が整ったところで、こっそりと後宮の裏門から出て行く。
今回は李順さんにお願いして馬車は遠慮させてもらった。
言わずもがな黎翔が馭者さんにすり替わってついて来ない為である。
前回のあの時の上司は、正に鬼のようで恐かったから・・・。

裏門から出ると夕鈴は大きく深呼吸して、町の匂いを確かめてから家路へと歩を進め始めた。
歩いて行くと露店などで賑わう商店街に入る。
ここはいつ来ても活気に満ち溢れていて、賑やかで帰って来たんだと実感する。
買い物は後でする事にして、取り敢えず家に帰ることにした。

「ただいま~~」

玄関先に入ると、直ぐに青慎が出迎るために居間から労いの言葉を掛けながら来る。

「お帰り!姉さん。いつもお疲れ様です!待っていたんだよ」

本当に良く出来た可愛い弟だわとホンワカしてくる。
そして居間にはいない父の行方を空かさず尋ねる。

「青慎、父さんは?」
「あれ、さっきまでいたんだけど、何処に居るのかな?あっ、書き置きがあるよ」

卓上の殴り書きされている1枚の料紙を姉に手渡す。

『父さんは楊さん宅で夕方から飲み会だから夕飯はいらないよ』・・・・・と。

エヘッとイタズラッ子のような表情の父の姿が眼に浮かぶ。

「全く、父さんは相変わらずのようね。いいわ、青慎。二人で美味しいものでも食べよ」

夕鈴はため息混じりで青慎を見て、ぎこちなく笑った。
持って帰ってきた荷物を解いて急ぎ服を着替えた後、買い物籠を片手に町へと出掛ける。
町に出てきた夕鈴が買い物より先に訪れた所は、明玉の勤める飯店である。

「明玉~ただいま~~」
「あら?夕鈴。帰って来てたんだっっ。お帰り~~」

二人にこやかに手を握って、喜び合う。

「休憩時間、もうすぐだから待っててくれる?」
「大丈夫よ。私の方は時間はあるから、隅っこで待ってるね」

直ぐに仕事に戻った明玉は看板娘らしく、お客から次々に呼ばれていた。
ホントに明玉はテキパキしているし、イキイキと仕事をしているよね・・・と感心してボォーと見惚れていた。
そんなこんなしていると、自分の目の前で手がヒラヒラ振られているのが眼に入る。
ボォーとしている夕鈴に明玉が手を振っていたようだ。

「夕鈴、休憩時間だから茶店にでも行こう。私も色々と聞きたい事もあるし・・・」
「聞きたいこと?なぁに?」
「いいの、それは後で!ほら行くよ」

ウンと返事をする前に、明玉は夕鈴の手を引いて店を出ていた。
茶店で明玉は注文後、直ぐに夕鈴を問い詰めていた。

「夕鈴、帰省するときには必ずと言っていい程一緒に来る、あのかっこいい男性はどうしたの?
確か上司とか言っていた・・・今回は来てないの?
まぁ今回、帰省の理由が華装会だと言うんだから連れて来れないわよね。
あの人、夕鈴のオトコだと思っていたりしたんだけど、華装会に行くんだったら違うのか・・・・」

夕鈴は明玉の鋭い質問攻めとそれよりも華装会に出席する事を知っていた事に驚いて、
金魚の様に口をパクパクさせていた。
そして、大声で明玉に訊く。

「なっ、なんでその事を知ってるの~~~?!?!」
「夕鈴、声大きいって!ここいらじゃ、皆知ってるよ。
だって酒屋のおばさんお喋り好きだから、『汀さんところの夕鈴ちゃんが華装会に出るんでよろしく~』と宣伝しているらしいよ」
「え~~~そうなの???気乗りしないから、っこで大人しくしていようと思って、
去年出た明玉に目立たない方法を教えて貰いたくて、来たのよ」
「目立たない方法って・・・アンタ華装会が何か知っているんでしょ。
あれは目立ってナンボの会なのに、変わっているわよね。
まぁ、あのかっこいい人がアンタのオトコだったりするんだったら分かるけど・・・・。
で、実のところ、どうなの?」
「そんなわけ無いに決まっているでしよっっ!!あの人は職場の単なる上司だって言っているじゃないの」

夕鈴は勘違いしてはいけないと自分に言い聞かせるように、明玉に呟いていた。

「まぁ、目立たない方法は一応あるはあるわよ。珠に名家のご令嬢なんかが来る時の為に、
男女とも仮面を付けても良い事になっているのよ・・・だから、仮面でも付けていれば大丈夫だと思うよ。
男の人は結構容姿から入る人が多いからね」

・・・・・・なるほど!そう言う方法もあるのね~
仮面ね~私も仮面でもなんでも付けておく事にでもしようかしら。
そこまでしておいたら、官吏の方に会ったとしても私が妃だとばれないわ。

夕鈴はホッと胸撫で下ろしていた。
その後は明玉の昨年の華装会での武勇伝を散々聞かされた後、やっと解放されたのであった。



明玉と別れ、急いで買い物を済ませ家に戻るとすでにお昼はとうに過ぎていた。
家にはお腹を空かせた青慎が、姉の帰りを今か今かと待ちかねていて、夕鈴は急いで昼ご飯を作ってやった。
そしてその後は夕ご飯の支度や掃除などとして、久々に主婦を満喫していた。

そんな家事をしている自分がシックリと落ち着いている事に、夕鈴は何だか胸の奥がチクンとしていた。
やっぱり王宮で妃として過ごす自分は分不相応で、本来ならあり得ない現実なんだと思い知らされる。
その夜、何だか寝つけず、夕鈴は折角の実家だというのに狭い布団に中で寝返りを何度も繰り返していた。

夢に見るのは・・・・黎翔の事で。
自分の中で黎翔の存在が大きくなっていることに、不安を覚えていた。
私はただのバイト!借金返済さえしてしまえば、此処に帰ってくる。
ここが私の居場所であって・・・・。
だから、これ以上陛下の事を知る必要もなくて・・・・・・・・勘違いしてはいけないんだと。

自分の胸の奥にある恋心の火種を、夕鈴は見て見ぬふりをしていたのだった。




続。
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