【意味などとしての水入らず・13】
2014年11月10日 (月) | 編集 |
【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り





「夕鈴、落ちついた?」

抱きしめられたまま、耳元に優しい声音が響く。

「はい。」

夕鈴は、一度深呼吸すると、ゆっくりとその問いに答えた。
まだ少し咽喉の奥のしゃくりは止まらないものの、大分心の波風は凪いでいた。

「あの・・・・そろそろ離してください。」
「どうして??」
「誰かに見られたらいけませんから。」
「誰が見ると云うの?ここは裏庭なのに。」
「でも・・・・・・。」

夕鈴は、抵抗して黎翔の腕から逃れようとする。
しかし、そこは男性の力で抱きしめているのだから、容易に離れられる訳もない。

―――このまま抱きしめられているのは、困る・・・さっきから心臓の鼓動が早鐘の様に鳴っているのを、陛下に聞かれてしまうもの。

夕鈴の頬は、熟れた桃の様に上気している。
両手を頬に当てて、少しでも熱を下げようとしている。
そんな様子を満足気に見ているのは、深紅の双眸。

「夕鈴・・・・・約束だからね。僕がいいと云うまで、僕の傍を離れないで。僕の唯一の妃は君なのだから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はい。」

夕鈴は、気づく筈もない。
バイト妃が必要な間は、頑張って偽妃役を引き受けるくらいにしか思っておらず、自分が今、正に・・・・人生における重大な決断をした事に。

黎翔は口角を上げて、艶然な笑みを浮かべる。

―――僕は、一生離れてもいいなんて云わないからね。
悠鐸殿には、決して渡さないよ。
これで、夕鈴は僕だけのモノ。

確たる答えを得た黎翔は、それに安心したのか・・・抱きしめていた腕を緩め、夕鈴を解放する。
そして目の前の夕鈴に、ニッコリと笑いかける。

「時に、夕鈴。」
「はい。」
「何処に行こうとしていたの?」
「えっ??え~~~と・・・・・・・あっ、お酒を買いに行く所だったんです!!!」

本来の用事を思い出した夕鈴は、財布を抱えて、裏門から駆け出して行く。
黎翔は、その後を当然の様についていく_______足取りも軽やかに。

二人並んで歩く後ろには、街燈の明かりで影が長く伸びている。
影は寄りそって伸びており、その様子はとても仲睦ましく見えたのだった。


*****************


さて、その頃。
汀家の居間では、悠と岩圭が二人で残り少ないお酒を酌み交わしていた。

「そう言えば、あなたは黄稜国の方でしたね。」
「はい。」
「黄稜国のお役人ですか?」
「ええ、そのようなものですね。」

岩圭の問いに、是とも非とも云わない曖昧な答えを返す。

「そうですか・・・・そう言えば、ウチの娘に頼みごとをしているみたいですが、ウチの娘でお役に立てますかね。」
「ええ、夕鈴さんには本当にお世話になりまして・・・・実は、人探しをしているんです。それを、夕鈴さんに手伝ってもらっているんです。」
「ほう、それで見つかったんですか?」
「イエ、それが中々見つからなくて、今日はやめにしてここに招いてくれたのですよ。」

悠は、今日の出来事を簡単に岩圭に話して聞かせる。
岩圭は、その話を酒が並々入った杯を口に運びつつ、興味深く聞いていた。

「探し人ね~~~~~そりゃ、この王都じゃ、広過ぎて難しいでしょうね。」
「ええ。」
「名前なんかはわかっているんですか?」
「名前ですか・・・・・悠那(ゆうな)です。年は30代後半の・・・・・。」

『ガチャン!!!!!』

悠の言葉を遮ったのは、陶器の割れる大きな音。
床に飛び散ったのは、岩圭がさっきまで手にしていたお酒の入った杯の割れた欠片と杯に残ったお酒。

「悠那(ゆうな)・・・・・・ですか!!!」
「はい、そうです!!知っているのですか????」

岩圭は小刻みに震えており、悠の問いは聞こえない様子だった。

「あの、何か知っているんですか?そうだったら、教えてください。」

悠は、再度訊き直す。
けれど、目の前の岩圭は黙ったまま。
砕け散った酒杯の欠片を拾い集めている。

二人の間に、『沈黙』という暗雲が垂れこむ。

絶対、何かを知っている筈だ。
でなければ、あんなに震えたりはしない・・・・。

悠は確信を持ったが、答えを得る事は出来なかった。

仕方なく、悠は杯に入った並々の酒を一気に飲み干す。
杯の中のお酒はほろ苦い味がした。

空になった杯を手持ち無沙汰に持っていると、その杯に岩圭がそっとお代りを注いでくれた。
その行動に驚いた悠が顔を上げると、そこには岩圭の肝の据わった表情が。

「貴方の母上は、悠那さん・・・・と仰るんですね。」
「はい。」
「黄稜国の王妃であった方ですね。」
「えっっっ、それをどうして???」
「そして、貴方は現在の黄稜国の国王様。」
「・・・・・・・確かにそうです。」
「それを娘は知っているのですか?」
「いいえ、それは知りません。」

そこで嘆息を吐きだした岩圭。
二人の会話はポツリポツリと続く。

「まぁ、夕鈴が此処にいなくて良かった。あの子には聞かせたくない話ですからね。」

居間には岩圭と悠の二人。
青慎はとっくに自分の部屋で勉強を始めてしまったらしく、台所にもいない。

「で、母上は・・・何処に。」
「・・・・・・・此処にはいません。」
「いない??では・・・何処にいるんですか??それに此処には・・とは如何云う事ですか??」

悪い予感が悠の頭を駆け巡り、岩圭に質問を畳みかける。

「ふぅ~~~。まずは落ち着いて下さい、悠殿。」
「はい、スミマセン。」
「まずは、此処にいないと云うのは・・・昔はここで暮らしてました。そう、私の妻として・・・・そして・・・・現在は何処にもいません。」
「それは・・・・もしかして。」
「ええ、もうお察しかと思いますが・・・・・他界しました。」

歯切れが悪そうに語る岩圭。
衝撃的な事実を突き付けられた悠は蒼白な顔色で、岩圭の話に耳を傾ける。

「他界・・・・したのですか・・・・・・それは、いつ??」
「そうですね、もう随分と昔になりますね。何しろ、子どもたちが幼い時でしたから。」

大きな溜息と共に項垂れる悠。
それを岩圭は難しい表情で見詰める。

「では、一つ聞いてもいいですか?」
「なんでしょう・・・・・何となく貴方が仰る事は解る気がしますが。」
「夕鈴さんは・・・・・。」

悠は言葉が詰まる。
それは、一番聞きたくない答えであったし、
確かめたくない事だったから。

「夕鈴は、私の実の娘では有りません。悠那が黄稜国から連れてきました・・・・生まれたばかりの時に。」
「・・・・・・・。」

自分が愛しいと感じた感情は、愛ではなかった。
それは、血がもたらすものだったのだ。

悠は愕然とした。
杯を持つ手が震えてくる。

初めて欲しいと思った女性だった。
妃にしたいとまで思った。
なのに・・・・・それなのに・・・・。


「あの、この事を夕鈴さんは?」
「勿論、知りませんよ。知らせるつもりもありませんがね。生まれはどうにしろ、あの子は私の娘なのですから。だから、黄稜国にも渡すつもりもありませんよ。」

岩圭はきっぱりと悠に告げる。

「わかります・・・私も夕鈴さんには伝える必要はないと思いますし、黄稜国に連れて行く事もしません。政治の道具に使われるのはまっぴらですから。」
「そうですか・・・それは、有り難いです。」
「しかし、どうして母は貴方の妻と為ったのですか??」
「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


岩圭の話は、長い話だった。

まず、自分が生まれた頃・・・黄稜国は密かに内乱の準備がなされていたらしい。
そして王宮にも暗殺者は何度も入り込み、決して安全ではなかった。

そんな中で時を同じくして生れた、次の国王と為るべき自分と妹姫である夕鈴。

前国王である父王は、内乱を収めるべく地方へと赴き。
王宮には、母である妃と生まれたばかりの二人の子供たちだけだった。

そして運命の夜。

その夜は風が激しく吹き、雨が窓に叩きつける様な豪雨だった。
そんな中、早馬が王宮についた。

____________それは、父王が暗殺者の手に因って害された事を知らせるものだった。

母である妃は、王宮にいては二人の子ども達も危ないと身の危険を感じ。
直ぐさま、王宮から身を隠す事したのだが。
途中、自分だけ・・・・・母から引き離され、臣下の手によって前々国王である祖父の元に匿われた。

そして、母は・・・・何度も追手に追尾されながらも妹姫を守り抜き、白陽国に逃れたとのことだった。

「どうして、母は国に戻らなかったのですか?」
「それは・・・・夫であった国王の死が心に強く影響して・・・心の奥深くにその事を沈めたのです。」
「つまり・・・忘れてしまったと。」
「そうなりますね・・・・。」
「そうだったのですか。」

岩圭は苦しそうに事実を吐きだした。
いつかは語らなければならないことだったのかもしれないが。
でもこんな事は、自分の胸の奥にだけ収めておきたかった筈だ。

その事を悠は察して、それ以上岩圭に尋ねる事はしなかった。

「話して下さって有難うございました。私は帰ります・・・・夕鈴さんによろしくお伝えください。」


そう言い残すと、悠はそっと出て行ったのだった。






続。
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