≪ 2017 07                                                2017 09 ≫
 - - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 - -

【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り






悠から逃げるように玄関口に出て行った夕鈴。
その肩先に残る悠が触れた手の感触。

頬がまだ熱い。
でも早く冷まさないと・・・・・・玄関先には陛下がいる。

夕鈴は、大きく深呼吸をして自分自身を落ち着かせようと試みる。
そして務めて明るい声で迎え入れる。

「お帰り~~~~青慎達、どうだった??」

「姉さん、几鍔さんと逢ったんだけど・・・・・。」
「みたいね。」
「夕鈴・・・・・・・・・。」

黎翔は何か言いたげに夕鈴を見詰める。

――陛下のあの視線が気になる~~大方、几鍔の事だろうけど・・・どうせ、あの馬鹿が陛下に突っかかったのだろうし。
――あの後、夕鈴は悠鐸殿と何が有ったのか・・・・・聞きださなければ。

二人の思う事は重ならず。
見つめ合う二人に、何とも言えない空気が渦巻く。

「李翔さんも、お疲れさまでした・・・・宜しかったら夕餉を召し上がって行って下さい。」
「夕鈴の作ったもの?」
「はい、お口に合うか解りませんが・・・。」

夕鈴の先手勝ち。
黎翔は中々食べる事が出来ない夕鈴の夕餉ということで、取り敢えず追求する事は辞めたのだった。

居間に戻ると、既に悠は長椅子に腰かけて寛いでいた。
夕鈴はホッと胸を撫で下ろす。

「あの・・・・私は夕餉の支度が有りますから・・・・李翔さんもどうぞ寛いでいて下さい。」

逃げるように台所に向かう夕鈴。

これ以上、悠と一緒の場所にいる事は避けたかった。
否応なしに先程の事を思い出してしまうから。

きっと表情に出てしまう。
それを陛下には見せたくはない。

それは賢明な選択であった。
何故なら・・・・その後、居間で繰り広げられる二人の王の会話を聞かずに済んだのだから。

台所に入った夕鈴は、まずはお茶の準備に取り掛かる。
それを手伝おうと後から入ってきたのは・・・青慎。
居間に残してきた二人が醸し出す剣呑な空気に圧倒されて、台所に退避してきたのだ。

「姉さん・・・・・・・僕がお茶を淹れるから。」
「あら、そう。じゃあ青慎にお願いして、私は夕餉の準備を始めるわね。」

居間の雰囲気など、全く気がつかない夕鈴はさっさと鍋を出して、今ある材料を確かめる。

「今日は・・・・何にしようかしら・・・。」

正に台所は聖域だった。


**************


居間に取り残された二人。
どちらとも話しだすきっかけをつかめず、怪しげな空気が流れる。

お互い、聞きたい事はあった。

悠は黎翔と夕鈴の関係。
黎翔は二人でいなくなった後の事。

どちらが先に話し出すのかを図り・・・・・今か、今かと待っていた。

「黎翔殿・・・・・聞きたい事が有るのですが。」

切り出したのは、黎翔の纏うオーラに圧倒された悠だった。

「悠鐸殿・・・・ここでは李翔と呼んでほしい。」
「あっ、そうでしたね・・・・では私の事は悠とお呼び下さい。」
「で、なんだろうか。」

悠はゴクリと息を飲み、話し始めた。

「では、李翔殿・・・・・・夕鈴さんは、市井の情報を得る為の協力者ですよね。」
「ああ・・・・。」
「王宮で掃除婦をしている彼女が、実家に帰省するときに怪しまれないようについて来ると。そう、上司として・・・・・ということでイイですよね。」
「そうだが・・それが何か?」
「いえ、ならイイのですが。」

―――夕鈴さんの想い人は黎翔殿ではないのか。

悠のあからさまにホッとした様子に、黎翔はいぶかしむ。

―――どうして・・・・そんなことを確認するのだろうか。
まぁ、いい・・・今度はこちらから聞いてやるのだから。そこで真意を探れば良いか。

「悠殿・・・・先程は夕鈴と一緒にどちらに?」
「ああ、それでしたら、商店会の事務所とやらに行きました。そこにおかみさん会の世話人がいるとのことで。」
「そうであったか・・・それで首尾は?」
「ダメでしたよ。見つかる所か、手がかりすらも。」
「では、その後は何処に?」
「後は、もう考えつく所はないと夕鈴さんが仰って、ここに戻って来たのですよ。」

当たり障りのない会話が繰り広げられていた。
しかし、二人は機会を窺っていた。

いつ、切りだそうかと。
夕鈴との事を。

二人の間に沈黙の風が吹き抜ける。
そして風が止まり、重なる二人の言。

「あの、李翔殿。」
「悠殿、聞きたい事が。」


「如何されたのだ?悠殿。」
「では、私から・・・・・・李翔殿、実は・・・・夕鈴殿をわが国に迎えたいのですが。」
「????」

一瞬、黎翔の動きが止まる。

―――夕鈴を黄稜国に?

そして絞り出すような、黎翔の言。

「夕鈴を黄稜国に迎えるとは、如何云うことだろうか??侍女に・・・ということだろうか?」
「まさか!!!僕の妃に・・・ですよ。」
「妃?????いや、彼女はただの庶民だが。」
「ええ、構いませんよ。」
「構わないと??」

悠の凛とした態度に、嘘いつわりが無い事を黎翔は悟った。
そして・・・・自分がいない時に夕鈴と悠の交わされた会話を模索する。

「・・・・夕鈴は何と?」
「ハッキリとした返事は頂けなかったですが、好感触でしたよ。」

悠は黎翔を牽制する意味で、夕鈴が示した態度とは裏腹な答えを返したのだった。
そして悠の言葉に、黎翔の胸の内は荒れ狂っていた。

夕鈴は、悠鐸殿の『妃』として黄稜国へ行くだと??
では、今まで私に云ったことは、偽りだったのか?

『花嫁は狼陛下の味方ですよ』
『私は側にいますよ』
・・・味方だと、側にいると云っておきながら、悠鐸殿についていくのか?

『プロの臨時花嫁っていうのは、どんな時も貴方を寂しがらせたりしないかっこいい妃のことですよ』
・・・夕鈴がいない王宮は寂しいモノになるとは思わないのか?

『貴方が困っている時、支えられるくらい強くなりたい』
・・・私は、困っているんだ、夕鈴。君がいなくなるのは困るんだ。

黎翔は自分の中で荒れ狂う感情が、どう云うものであるのかはハッキリと感知してないものの、その感情を持て余してイライラする気持に支配されていた。

「悠殿・・・彼女は、この下町にいるべきだと思うのだが。」
「そうでしょうか?あの器量でしたら、立派に一国の妃としても大丈夫だと思いますが。」
「そうは云っても・・大臣たちが黙ってはいまい?」
「そんなことは大丈夫ですよ。夕鈴さんに王である僕との子が出来れば、誰も何も云えなくなりますよ。」

悠は全くと云っていいほど、夕鈴が庶民である事なんて気にはしていない。

夕鈴の幸せは・・・夕鈴が決めること。
だったら夕鈴が望むので有れば、黄稜国に行くのがいいのだろうか。

黎翔のわだかまる気持ちは止まらない。
そしてイライラ感は最高潮に達しようとしていた。

その時。

「ただいま~~~~って、あれ???お客さんかい?青慎??」

呑気な声が玄関口から聞えてくる。
そしてその声は足音と共に近付いて来る。

「今日は父さん、飲んでこなかった・・・・んだ・・・よ。って・・・アンタ達誰だい??」

そう、入ってきたのはこの家の家主である汀 岩圭である。
黎翔と悠の二人の間に走っていた緊張感は一気に崩れ去っていった。

「あっ、父さん!!!今日は早いんだね。」

そしてまた一人、この緊迫感を切り崩す人物が居間にやって来た。
お盆を手に入ってきた青慎である。

「青慎・・・今日は夕鈴も帰って来ているようだが・・・このお客人は、夕鈴のお客かい??」
「そうですよ。姉さんの上司の李翔さんと姉さんに頼みごとをしている悠さんだよ。」
「それは、夕鈴がお世話になってます。」

のらりくらりとしていても、岩圭も一応人の親。
娘がお世話になっていると云うことで頭を下げて挨拶をする。

「夕鈴のお父上でありますか・・・私は李翔です。」
「あっ、申し遅れました、私は悠です。」

岩圭に触発される様に、二人も慌てて挨拶する。
その丁寧な様子に岩圭は上機嫌になり、台所の夕鈴に大声で酒を持ってくるように頼む。

どうやら、この二人相手に酒盛りでも始めようという魂胆らしい。
青慎は少し父の様子に溜め息をつきながらも、台所で酒盛りの準備を始めたのである。




「ささ、どうぞ」

岩圭は黎翔と悠に杯を差し出し、酒を並々に注ぐ。
二人はそれを丁寧に受取り、一気に煽る。

黎翔は、悠が宣言したことを忘れたいがため。
悠は夕鈴からの色よい返事がもらえなかった事を忘れたいがため。

二人の思惑がどうであれ・・・・その酒の味は、ほろ苦いものであった。

夕鈴が運んできた料理と相まって、酒の量も進んでいく。
それもそうだろう・・・元々岩圭はいつも飲み歩いているし、国王二人も酒宴だなんだと、お酒を飲む機会も多い。
そんな三人で飲んでいるのだから、酒の減り具合も半端ではない。

「姉さん・・・・お酒足りなく為ってくるよ。」

青慎がそっと耳打ちしてくる。
それは夕鈴にもわかってはいる事。

「わかっているわ・・・大丈夫、私が買いに行ってくるから。」

そっと席を立ち、裏口から出ていく夕鈴。
その姿を、黎翔は見逃してはいなかった。




「夕鈴・・・・・。」

後ろから声を掛けられ振り返る夕鈴。
そこには、ほろよい気味に見える黎翔が立っていた。

「李翔さん、どうかされました??」
「何処に行くの??」
「えっ??お酒を買いに行くんですよ。」
「違う!!!」
「違うって・・・・いえ、違いませんよ。」
「夕鈴は・・・・夕鈴は、悠殿と共に黄稜国に行ってしまうんだよね。」

月明かりに見える黎翔の切なげな顔。
夕鈴は胸が締め付けられる感覚に苛まされる。

―――どうして、そんなことを云うの??私は・・・・私は陛下のことが・・・好きなのに。

不意に一滴こぼれた涙。
その滴が、仄かに光る。

「夕鈴・・・泣いているの?」
「泣いてません。」
「そんなことは無い、泣いてる・・・僕にはわかる。」
「だって・・・・私はクビなんでしよ!!!」
「えっ??」
「だって、悠さまと行くだなんて・・・そんなことはある筈が無いのに・・・私は・・・。」

一滴が呼び水になったのか、ポロポロ後から零れ落ちていく。
次第にヒックヒック云いだしてしまった。
もうこうなると自分じゃ止められない。

「夕鈴!!!」

駆け寄って来た黎翔の腕が、ふわりと夕鈴を包む込む。
優しく・・・壊れものを抱く様に。

「へ・・・い・・か?」
「ここじゃ、李翔だよ。」
「・・・そうですね。」
「夕鈴は僕の妃でいてくれるの?」
「クビにならない限りは・・・。」
「そっか。」

それきり二人は黙り込む。
そして優しく涼しげな風が吹き抜けていった。



続。
関連記事
スポンサーサイト


この記事へコメントする















瓔悠

Author:瓔悠

現在の閲覧者数:
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -