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【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り 










「うわ~~~~~~なんなの、これは~~~~。」

思わず大声で叫んでしまい周囲を見渡すがしーーんと静まり返っていて、
誰もいなかった事を思い出し安堵する。

久し振りの青慎からの手紙・・・・嬉しくてじっくり読みたくて、
侍女の方々に少しの間一人きりにして欲しいとお願いし下がって頂いていたのだった。

「どうしよう~~~~どうしてこんなことに???困ったわ・・・・。」

開いて読み進めていた文面に驚いて叫んだ後は一応落ち着いたのだが、
余りの困惑に独り事をブツブツ呟くだけで、いい案が浮ばない。

そう、またしても・・・・父が至らぬ厄介事を押し付けてきたのである。
厄介事とは、あまり考えたくもない縁談話である。

手紙にはこう綴ってあった。

『姉さん、近く休暇をもらえないですか?
父さんからの伝言ですが・・・出来れば早めに休暇を取って帰って来て欲しい、
逢わせたい人がいるから・・・との事です。
これでは何の事か解らないでしょうから、僕がよくよく聞いてみると逢わせたい人とはどうやら縁談相手らしいのです。
僕ではどうする事も出来ません・・・姉さん、兎に角早く帰って来てください』

大好きな愛すべき青慎が困っている、これは実に緊急事態だ。
早く帰省してあげなければ!!

しかし、縁談ねぇ~~。
先だって開催された華装会の時に父さんにはキチンと『当分結婚なんてするつもりはない』
(例え結婚したいとしても、借金モチの私は出来ないというのが正しいが)という事を言って、
意思表示はしたはずなのに、如何してこんなことになっているというの?


はてさて、これは手紙のやり取りぐらいでは到底解決しない問題の様だ。

きっと私が断固として『イヤだ』と断わったとしても、どうしても断われない相手の息子さんだの何だので、結局行かないといけない状況になるのは目に見えている。
それなら、ジタバタしないで逢うに越した事はない様に思える。

ただ、困った事は一つのみ。
どうすれば陛下がついてくるという状況に陥らないかだ。
阻止する方法・・・・これが中々難しい。
今まで何度となく巧みに王宮を抜けだしついて来られたのだろうか?
考えただけで頭が痛い問題なのであった。


「さて、どうすればいいのかしらね。」

夕鈴は誰かに相談するとかいう事は全く思いつかずに、
一人でいい方法がないのか真剣に模索していた。

「はぁ~~~当面の問題はやっぱり陛下なのよね~~。」
「陛下がどうしたって?」

神出鬼没の浩大が侍女が居ない事を把握していて、天井からヒラリと降りてくると直ぐさま卓上のお菓子を摘まむ。

「このお菓子美味しいね~~~。あっ、ゴメン!!お妃ちゃん、お茶くれるかな?」

全くチャッカリしている隠密である。
黙ったままお茶を入れ差し出すと、美味しそうにゴクゴク喉を鳴らして一気に飲み干し満足気な顔をする。
ひと心地ついたところで、浩大は本題に入ってきた。

「美味しそうなお菓子が目に入ったから、質問が途中になったんだけど陛下がどうしたって?」
「えっ、私何か言ってた?」
「言ってたよ~~『問題は陛下』だとかなんとか。口に出して言っていたの気が付いてなっかったんだ。」
「気が付かなかった!!」

自分が独り言を云っていて、浩大に聞かれていただなんて思いもよらず恥ずかしさで一杯になる。

「はぁ・・・・浩大に言ってもねぇ~どうこう出来ることじゃないし・・・。」

溜息交じりで曖昧に答えた。

「いいじゃんっっ!!軽~~い気持ちで言ってみれば!!」
「ふう、そうね・・・・・・じゃあ話すけど、実は私緊急に帰省したいの。
それはキチンと李順さんにお願いするからいいんだけど・・・ただ今回は。」

その先はちょっと云いづらくて、言葉が途切れる。
すると浩大はうんうんと頷いて、ズバリ夕鈴が云いたかった事を当ててくる。

「今回は、陛下について来て欲しくないんだろ?」
「ええっっ、どうして解ったの?」
「だってさ、お妃ちゃんの顔に書いてあるよ。ホントに素直だよね。」

浩大にも言われてしまった。
わかっている・・・_私は隠し事など、出来ないという事を。

「そうなの・・・今回は、絶対について来てほしくないの。
どうしよう、どうしたらいいと思う?浩大。」

もう夕鈴はなりふり構わない処まできているようで、全く関係のない浩大に助言を乞うていた。
夕鈴の尋常ならざる困り方に浩大もからかう表情が消え、どうすればよいかを真剣に考え込んでいた。

しばし考えた後、一つの提案をしてみる。

「じゃあさ、その帰省の日に陛下がこの王宮から出て行ってもらっていたらいいじゃん。」
「どうやって?」
「それはオレっちに任せておいてよ。先ずは李順さんと帰省する日を先に決めてよ。」
「解ったわ。」

少し胸のつかえが取れたかの様に、夕鈴の顔は晴れやかになっていた。
そして浩大を置き去りにして、李順のいる執務室へと向かった。


「陛下はいらっしゃらないのですね。」

執務室には李順さん一人きりで、この部屋の主である筈の陛下の姿は無い。

「陛下でしたら浩大と庭園に出向いておられますが、陛下に何かご用ですか?」
「いえ!!」
「そうですか、浩大が珍しく陛下に見てもらいたいモノがあるからと、連れて行ってしまったんですよ。どうしても今じゃないとマズイと云いながら。」
「そうなんですね。」

陛下が居ないなんて私にとっては好都合というもの、だって陛下の前で話せる話ではないから。
それにしても、浩大は気を使ってくれたんだわ。
陛下を上手く連れ出してくれてたなんて。

「あの・・・・・実はですね・・・・お願いが有りまして・・・・。」
「夕鈴殿、立ち話もなんですから。」

私が云いづらそうにしているのを見かねたのか、椅子を勧めてくれ更にお茶まで出してくれた。
差し出されたお茶を一口飲み、落ち着いたところでつとつと話し始めた。


「あのですね、実家で緊急事態が有りまして、至急帰省したいのですが・・・。」
「緊急事態とは?」
「はい・・・・・その・・・実は父が持って来たというか、断れなくて仕方なく持ち帰ったというか・・・見合い話がきてしまって。でもヒョイヒョイ帰省するのは、バイトの身としては大変心苦しいのですが。」

夕鈴は申し訳ないと何度も頭を下げる。
その様子に李順はかなり追いつめられている事を感じ取り、安心させるように返答をした

「随分とお困りの様子ですね。いいでしょう、休暇を差し上げます。」
「有難うございます!!ただですね・・・。」
「陛下の事でしょう・・・解りました。ああ、だからあの話になったんですね。」

一人頷く李順に夕鈴は訳が分からず、目が点になる。
その様子に気が付き、手をヒラヒラ振る。

「いえ、こちらの話ですよ。ああ、それより陛下の事は気になさらなくても大丈夫です。
恐らく夕鈴殿が休暇の頃にはこの王宮に居ませんから。」
「えっ?それって浩大も言っていたけど・・・。」
「ああ、浩大が言ってましたか?では休暇には色々準備もあるでしょうから、2日ほど差し上げます。でも、申し訳ありませんが1週間程待って下さい。いいですね。」
「はい、解りました。」

夕鈴は、浩大が自信ありげに云い切ったのには李順さんの協力も仰ぐからだと初めて理解した。
これなら陛下が付いてくるような事態にはならないと一安心し、執務室を後にしたのであった。


夕鈴と李順が密談をしている正にその頃・・・・・浩大に無理やり連れ出され少々ムクレながら、歩いている黎翔。

「おい、何処に連れて行こうと言うのだ!!全く私は暇人ではないのだぞ。
早くつまらん政務なぞ終わらせて、愛しき妃とゆっくりと過ごしたいモノを・・・。」

黎翔の文句を全くモノともせずに、軽く聞き流しながら歩く浩大はある意味剛胆である。

「浩大、聞いているのか?何処に連れて行くんだと云っているだろう。」
「はい、ここだよ。オレがアンタに見て欲しいモノが有る場所は・・・。」
「此処か?ここは備蓄倉庫だが。」
「そう、まさに此処なんだよ。」

浩大は何処から拝借してきたのか、倉庫の鍵を指でクルクル回しながら扉に近づき鍵を開ける。
更に重い扉を押しあけた上で、手招きをすると黎翔を呼びつける。

「見てみてよ、この中のモノを・・・。」

広い倉庫内に入ると、うす暗い倉庫には所せましと緊急時の為の食物が置かれてある。
それを見ても、緊急時に十分事足りるほど備蓄されている。

「いや、これじゃないよ。あっちのほうだよ。」

浩大が、更に奥を指し示す。
ここからではよく解らないので、移動して確認してみる。

確かここには、緊急時用ではないが国賓の為の高級食材があるはずである。
うず高く積まれているはずの物資が思ったよりも少ない。
最近国賓はこの白陽国に招いていないので、使用されてはいない。
だったら、こんなに少ないことは有り得ない。

「これはどういう事だ、浩大。」
「俺も最近、知ったんだけどね。どうやら先の担当だった高官が、物資をせしめて換金してしまってたらしいんだよね。それもかなり前から少しずつ・・・でもこの前の異動で此処から外されたので、最後にごっそりと持って行ったらしいよ。でも書類上は廃棄処分としてしまっているから新しい担当官吏も解らなかったらしいし、まだ着任して間もないから倉庫の精査もしてないらしい・・・。」
「そうか・・・・それでこの担当だった高官は、今どうしているんだ?」
「ばれた時にこの王都に居るには流石にマズイと、領地に隠居と称して籠っているらしいよ。どうする~~」
「それは決まっている・・・粛清してやろう、ここまで私をたばかってくれていたのだからな。」

黎翔の瞳がこれからの事を思い紅く輝き、昏い笑みをも浮かべていた。
そして黎翔を見るとボンヤリだが紅い炎のようなものが立ち昇っている・・・・これは黎翔が放つオーラ。
怒りに満ちたオーラだった。
浩大は、思わずブルンと身体を震わせた。

やっぱ、このヒトはこえ~~よ。
悪い事なんかできないよな~~。

「浩大、この裏づけはいつ取れるか?」
「え~~と、1週間ばっかし時間ちょうだい!!シッカリと調査しておくからさ~~。」
「それと、この事を李順にも伝えておけ。そしてその粛清には私が直々に行くとな。」
「りょ~~~かい!!あっ言い忘れたけど1週間後に出掛けるのは、いいけど・・・・この王宮内にあの高官の息の掛かった奴もいると思うんだよね~~ここにお妃ちゃんを残しておくには、ちと危ないかもよ。それだったら2日程下町のお家に帰した方がいいよ。」
「そうだな、私もいないしお前も居ないからな・・・・夕鈴には私から言っておくことにしよう。」



こうして、陛下が王宮からお出掛けする事は決定したのであった。

夕鈴は裏でこんな危険なことになっているとは到底知る由もなく、心穏やかに・・・とまでは行かないモノの厄介事に思いをはせていた。
その間の浩大や李順・・・そして陛下まで、1週間忙しく準備していたのであった。






続。


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こんにちわ~

今日は11月の最後の日。
明日からは師走ですね~
いやぁ~最近は月日が経つのも早い気がします。

昨日はあちこち出掛けていて、夜にはヘトヘト。
こちらに顔を出すのも出来ませんでした。
今日は旦那様が朝からお仕事。
折角ネットし放題なのに・・・・・・・先程まで炬燵でうたた寝してました。
恐るべき、炬燵魔力っっ!!!



う~~ん、今日は何を書こうかしら。
あっ、そうそう昨日娘の誕生日プレゼントを買いにいったのですが・・・ちなみに娘は1月生まれ。
ですが、正月明けてすぐなので、毎年この時期に先に買いに行っているんです。
まぁ、渡すのは誕生日の時ですが。

大手おもちゃの店のトイザら〇に行きましたが・・・・・まぁ、人の多い事、多い事!!!
レジでは大渋滞!!売り場も人がごった返し。
全く、皆さん、何をお買い求めで???と思ったんですが。
恐らくクリスマスのプレゼントなのでしょう~~~
家族連れ・・・・・そう、祖父母の姿もありましたから。

ウチも実家の父母と一緒に行きました。
まぁ、一緒にクリスマスプレゼントを買いたかったので・・・・・買う間だけ、父母に何処かに連れ出してもらうためです。


それにしても、おもちゃ売り場はいつ行っても楽しいものですね~~
何せ、久々に行くと新しいおもちゃを見つけることが出来ますから・・・・
今年は色とりどりの輪ゴムでつくる『ファンルーム』というおもちゃに惹かれました。
いま小学生の間で流行っているらしく・・・・。
ウチの娘も持っているんですが、但し本格的なものではありませんが。


そして無事にクリスマスプレゼントも買えました。
今は車の中に隠してます。
後は本を買ってラッピングすれば、準備はOKです!!
しかし、いつまでクリスマスをすればいいのでしょうかね・・・・・・。
息子は小5!!もう絶対にサンタさんはいないと気付いているはずですが・・・・親の前ではいると信じている風に振る舞うのでわかりません。
でもこの前訊いたら、『中学生までは来るんだよ!!』と、トンデモナイ事をのたまってくれてました。
もう、勘弁してよ~~~~




さぁて、今からお話でもカキカキしよ~~~と。
あと少し原稿もしないと。



それでは、失礼いたします。




瓔悠。


【設定】

未来夫婦 ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り

【注意事項】
此方の作品、確かに夫婦設定ですが・・・・いつものテイストでは有りません。









「全く、あの男は何者ですの?お父様。」

王専用の自室に駆けこんだ怜亜は、目の前の安楽椅子に腰かけ寛ぐ父王に詰め寄ったのだった。
そして問いかけながらも先程の事を思い出し、苛々してくるのを感じていた。

「あの男とは??」
「確か緋色の官服を着てましたわ。年のころは私よりも少し年上で、背丈もそこそこ有りましたし、顔立ちも恐らくイイ部類に入りますわね・・・ただ精悍さや誠実さは何処かに置いて来た様な感じでしたが。それより何よりあの物云いが気に入らないのですわ!!」
「ほぉ~怜亜、その男が気に入ったのか?」
「はぁ??私の話を聞いてまして??何処を如何したら『気に入った』になるんですの???」
「それは上々だ。フムフム・・・・。」
「もういいです!!!お父様に尋ねた私が浅はかでした。では、失礼いたします。」

答えて欲しい事は全く返って来ないことに郷を煮やし、怜亜は早々に辞したのだった。

もう、如何なっているのよ!!!
はぁ~~苛々する!!こんな時はあそこに行くのが一番だわ!!

そのまま回廊から庭園にヒラリと降り立つと、足取りも軽やかに少し遠くに見える小高い丘を目指した。
空は高く、雲ひとつない。
風は暖かく、頬を掠めていく。

こんな日は、あの野生の花々が咲き乱れるあそこで寝転ぶのが一番。
それにあそこには・・・・・・・・。


「はぁ~~~~着いた!!ヤッパリ此処が一番寛げるわ。それに・・・・此処にはアレが有るのだものね。」

怜亜は、丘の頂上から少し降りた森に続く木々が立ちそびえる小道の脇にズンズン歩いていった。
そして脇に植えられた木の根元の虚に手を差し入れた。

「あったわ~~。」

虚から出てきたのは、掌に丁度納まる程度の桜色した筒状の書簡入れ。

土や埃を手で掃って筒を開けてみると、入っていたのは一通の書簡だった。
怜亜は丁寧に破かない様に筒から取りだし、広げてみてウットリと眺めていた。
其処に書かれていたのは。

(あっ、あれは・・・・・・・・・・まだ残っていたの???)

怜亜は自分の内から聞えてくる声に耳を傾けていたら、そのうちまだ昼間だというのに夕闇が迫りくる感覚に襲われた。
そして意識がふわりと個として浮かび上がり、そのまま意識の底とでもいうべき場所に滑り込んだのだった。
その代わりに怜亜の意識と入れ替わったのは、ユックリと怜亜の意識の奥で漂っていた夕鈴の意識である。

「あら??また、怜亜の意識と入れ代わってしまったのね・・・・・それにしても、ここは変わらないのね。」

眼前の風景に夕鈴は確かに覚えが有った。
つい先日も陛下と・・・・いや、今の時間から言えば昔と為るのだが、政務から逃げて来た陛下と花々を愛でた場所。

手に持った書簡を広げると、そこには陛下の力強い筆跡でしたためられた私に当てた言葉が書かれていた。

~~~『君だけを永遠に。』

陛下に逢いたい・・・・・ギュッと抱きしめて欲しい。
自分に課せられたことなど忘れさり、ただ逢いたさと愛しさで胸が一杯になった。
気がつくとその書簡を握り締め、茶色の瞳からコロコロと水晶の様なキレイな涙という滴が零れ落ちていた。


この身体は怜亜のモノだというのに・・・・今は夕鈴の想いの深さに、身体まで反応してしまっていた。


カサッ!!!

後ろで人の気配がして、急に身体が強張った。
そのまま振り返るべきかを思案していると、若い男性の声が覆いかぶさってきた。

「おい!!さっきは絶叫していたかと思えば、今度はしおらしく泣いているのか?まるで百面相のお面だな。」
「・・・・・どちら様で?」
「おや?今度は大声を出せないのか?さっきの威勢の良さは何処に行ったのやら。」

誰かと思えば、先程の見知らぬ官吏だった。
きっとこれが怜亜であれば、また言い合いになっていたのだろう。
でも今は夕鈴の意識が表面化しているので、落ち着いて対応していた。

「そうですわね・・・ところで貴方は誰ですの?」
「オレか?さっきも名乗った筈だが・・・光迅(こうじん)だ。」
「ええ、其れは解ります。ただ、どちらの方ですの?」
「あんた、ちゃんと普通の対応が出来るんじゃないか!!ただの我儘姫なのかと思ったけどよ!!」

ここで怜亜だったのなら『無礼者!!』となっているわね・・・夕鈴は、思わず苦笑いが出ていた。
しかし其れを相手には見せること無く、ニコヤカに微笑んで相手の受け答えを待っていた。

「オレは、黄稜国の高級官吏だよ。此処へは貿易の交渉の為に来ているんだ。まぁ、王がくる前の事前交渉ってやつさ!!」
「そうですか・・・・。」
「じゃあな~~って云いたいところだが、実は交渉もほぼ終って帰国まで日があって暇してんだ。だから付き合ってくれよ。」
「そうですか・・では庭園でもご案内いたしましょう。」

夕鈴は極上の笑顔を振りまくと、内側で眠っている怜亜に呼びかけた。

『怜亜!!!起きて!!!私は疲れたから其処へ戻りたいの。だから起きてちょうだい』
『夕鈴姉さま??』
『ええ、そうよ。じゃあ後は宜しくね』

云う事だけ言うとそのまま夕鈴は意識を怜亜の核の押し込め、代わりに怜亜の意識を追い出したのだった。


え~~~!!なんで此処に、さっきの失礼男がいるの???

怜亜はあり得ない現実に直面して、驚愕していた。

(怜亜!!頑張ってね~~~~)

夕鈴は怜亜の中で、応援者という傍観を決め込んでいた。





続。


【設定】

未来夫婦 ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り

【注意事項】
此方の作品、確かに夫婦設定ですが・・・・いつものテイストでは有りません。







「怜亜、如何したのか?」
「いえ、お父さま何でもありませんわ。只、退屈なだけです。」
「退屈だとは、一体何を考えておるのだ!!今はそなたのムコ候補が揃っておるというのに。」

父の玉座の隣に立ち、目の前を直視した。
そこに居たのは、見目麗しく、皆そこそこ身分のある男性達。
私を想うと云うよりも、この白陽国皇女の夫という地位に群がっているだけ。

なんとまぁ、よくもこんなに集めたものだわ。
私にその気がないと言うのに・・・もう勝手にやってよ。

扇越しに嘆息を吐き、喜んでいる父王を後目に踵を返して、接見の間から出て行った。

「怜亜ーーーまだ、終ってはいないのだぞ。」

怒りに満ちた父の声を背中で聞きながら。

そんな怒り声もへっちゃらよ!!
まだ私はホントの恋もしていないのに、結婚なんて冗談じゃないっっ。

いささかお行儀悪く足音を立てて、回廊をそぞろ歩く。
回廊の壁には歴代の王と正妃の肖像画が並んで飾られている。
私は一番お気に入りの画の前で立ち止まると、ジッと眺めていた。

見上げた先には、私のおじい様とおばあ様・・・・・狼陛下と恐れられた珀 黎翔陛下と夕鈴妃の画が飾られている。
殊におばあ様である夕鈴妃には、謎が多く出自がハッキリとしていない・・・それを口さがない者どもは色々と云うが、私にとっては些末な事。

だっておばあ様とおじい様は、端から見てても本当に仲の良いご夫婦だったもの。
おばあ様はおじい様を敬愛し、またおじい様はおばあ様をとても慈しんでおられた。

そして私は知っている。
おじい様がおばあ様を切望して正妃になって戴いた事を・・・・正妃には立后出来ない身分であった事を。
だから二人はいつもお互いを思いやり、愛し合えたのだと思う。

私も決められた縁談で将来の相手を見つけるのは、まっぴら御免!!
夕鈴妃の孫として、困難でもいいから素敵な恋をしたいの・・・。


(そうね・・・怜亜もお年頃だものね。
私が陛下と出逢ったのも貴女と同じくらいだもの・・・・。)



「誰?」

後ろを振り返っても、周りを見回しても人っ子一人いない。
侍女も下げているから、傍には誰もいないはず。


(怜亜、貴女も自分だけの人を見つけなさい。)

また聞こえる・・・・・この声・・・・聞き覚えがある。
優しくて暖かくて・・・・おばあ様の声??
でもおばあ様は私が幼いころに亡くなられているし、声もお若い様な・・・・そして何より、自分の内から聴こえている。

頭の中が疑問符だらけになる瞬間、怜亜は意識の内側に引きずり込まれた。
そして、目を開けると自分自身が回廊で倒れているのが見えた。
更に後ろを振り返ると、おばあ様・・・というより若かりし日の夕鈴妃が佇んでいた。

『おばあ様??おばあ様ですのよね。でもそのお姿は一体・・・。』

怜亜の顔は、驚愕と歓喜に満ちていた。

『あら、怜亜の驚きはそっちなのね。』

フフッと柔らかく微笑む顔は、怜亜が覚えている優しいおばあ様と同じ表情だった。

『あの・・・おばあ様、ここは何処ですの?』
『怜亜・・・・・・・・・・まだ私には子供もいないのだから、そのおばあ様はちょっと。』
『ごめんなさい、でもなんとお呼びすればいいのかしら?』
『そうね~~夕鈴とでも如何?』
『・・・・・・・・私よりは年上ですよね。だから夕鈴姉さまっていうのはどうでしょうか?私には兄と弟は居ますが、姉妹は居ませんから。』
『そうして貰いましょうか。』

奇妙な会話は果てしなく続くのかと思われたのだが、二人の中で同意を得て決着した。

でも、子供もいないって・・・・父上にそれに叔母様方はどうなっているの??
それにそうしたら・・・私が孫の怜亜だって何故解るの??

怜亜の中で展開される疑問は一つずつ積み重なってきており、もう満杯になって溢れだしそうである。
そして、ぼんやりと映る眼下には倒れている自分の姿も垣間見える・・・・・これもどうにかしないと、侍女でもやってきたら大騒ぎになりかねない。

『あの夕鈴姉さま、訊きたい事がたくさんあるのですが、少々お尋ねしても宜しいのでしょうか?』
『ええ、どうぞ。大体は解るけど・・・。』
『では、まず・・・まだ子供は居ないとは?それだったらなぜ私が孫だと?
そして一番聞きたい事は、私はどうなってしまったのでしょうか?』

目の前の夕鈴姉さまは、ニッコリと微笑んだ上で訳知り顔でツトツトと説明してくれた。

『びっくりするかもしれないけど、私は今からそうね・・・ざっと50年程前から来たの・・・それも意識だけ飛ばされてね。
それにしても過去の私の身体はどうなっているのかしら?でも怜亜が存在しているのだから、一応無事なんでしょうね。
そして子供のことよね・・・あっちではまだ正妃になったばかりで、子供はおろか懐妊だってしてないわ。
でも怜亜の事やこれから生まれるであろう子供たちの事は、ここに飛ばされる際に沢山の映像が自分の中に飛び込んできて、取り敢えず未来・・・そう50年間で有った出来事を色々と理解したのよ。まぁざっとこんなものかしら・・・・。』

そして此処は何処なのか?
私はどうなっているのか?

重要な事を聞く前に怜亜の意識はまたふわりと浮かび、何かの力が働いている様に今度は外に飛ばされたのであった。

『まだ、話は終わってないと言うのに・・・・・まぁせっかちな事。
これも全ては仕組まれている事なのかしら・・・・あのお方によって。』

夕鈴は、はぁーーと溜息を洩らすと怜亜の核の中に潜り込む。

そう、夕鈴は全てが分かっていた。
何故自分が此処に呼ばれ、何をなすべきなのか?
そしてそれが終われば、何をしなければならないのかも・・・・・それまで、現在の自分には戻れないと云う事が。

そして怜亜に聞こえるかどうかの声で呟く。

『さぁ、貴女の恋の始まりですわよ。シッカリと掴みなさい・・・・もし手助けが必要な時には私を呼んでね。直ぐに出てくるから・・・それまでは貴女の中で休ませてもらうことにするから。』


怜亜の意識が徐々に戻ってきて目を恐る恐る開けてみると、眼の前で自分を凝視する二つの琥珀色の瞳が飛び込んできた。

「きゃあ~~~~~~~~~~~。」

余りの驚きに、怜亜は誰かが駆け付けて来てもおかしくない程の悲鳴を上げていた。

「あなた、誰よ!!私を誰だと思っているのよ。」

怜亜は相手に完全に警戒心を抱き、座ったままジリジリと後ろに下がって行く。
そんな怜亜の様子がさも可笑しいと云わんばかりに、男性はそっぽを向きつつも微かに笑っている。

なんなのよ、このヒトは!!!更に誰なのよ!
それになんで笑っているのよ?こんな失礼な男性は見た事無いわよ。

「何とか言ったらどうなのよ!!」

目の前の男性は怜亜のその言葉に呼応するかのように、今度は隠さずに『あはははは~』と声を立てて笑いだした。
その琥珀色の瞳にはうっすらと涙を浮かべて。

「何が、可笑しいのかしら??」

ひとしきり笑った男性は、人差し指の腹で滲んだ涙を拭きながら怜亜に向き合った。

「勇ましいね、アンタ。しかも面白いし・・・・退屈しなさそう。」

そう言うと手をヒラヒラと振って、立ち去ろうとしている。
その引き際の鮮やかさに思わず服の裾を掴んだ怜亜は、相手をジッと睨んで『まだ逃がさないわよ』と瞳で抗議する。

「まだ、私の質問には答えてないと思うけど。」
「ああそうだっけ、じゃあしょうがないなぁ。名前だけは教えとくよ。オレの名は洸迅(こうじん)だよ。じゃあな・・・絶叫のお嬢さん。」

怜亜が最後の言葉を頭の中で反芻している間に、気が付けば先程まで居た筈の男性の姿は影も形も見えなくなっていた。

「もう何なのよ、しっつれいな男。絶叫のお嬢さんって・・・・・冗談じゃない!!」


(うふふ・・・・怜亜ったら、これも運命の出会いだったりするのに・・・・人の出会いは一期一会。
大切にしないと駄目なのよ・・・)

夕鈴は、陛下との出会いを思い出していた。
割りのいい仕事があるとのことでやってきた王宮で、王座に座していた狼陛下。
恐くて怖くて・・・断ろうと再度戻ってみるとそこに居たのは、うって変わった別人のような小犬陛下。

あれから色々あって、今はあの方の正妃となった私。
これからもあの方と共に寄りそって生きていきたい・・・・・それには早くこの問題を解決していかないと!!
それにはまず怜亜の恋を。

夕鈴は怜亜の意識の奥で漂いながらこれからの事を考え、そして今はいない黎翔の事を愛しく想っていた。



続。


【設定】

未来夫婦 ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り

【注意事項】
此方の作品、確かに夫婦設定ですが・・・・いつものテイストでは有りません。








「夕鈴っっ、お願いだから、眠らないでくれ!!!」

耳元に聞こえるのは、低い聞き慣れた愛しい彼の声。

大丈夫ですから、待っていて下さい・・・・・・必ず私は・・・・・。

自分の意識が、自身の核と云うべき場所へと音もなく滑り落ちていく。
周りの声も音も何も聞こえない、ただの静寂。


しばらくすると、荒い息づかいが何も聞こえないはずの耳の奥に届いて来る。
そして私を、と云うより私の魂を呼んでいる。

『タスケテ・・・・・オネガイダカラ・・・・・ワタシノ・・・・』


そして私は私ではなくなる―――――



「陛下、どうやらまた昏睡状態の様です。」

静かに告げられる侍医の声。

「夕鈴。」

只、名前を呼ぶ事しかできないと言うのか?私は・・・。
愛しい妃一人助けられなくて、何が王だというのだ。
全くお笑い草だ。

『ゴンッッ』

強く握った拳を壁に打ち付ける音。
・・・・・その拳からは血が滲んでいた。


陛下・・・・私は大丈夫ですから、待ってて下さい。

ただそうとしか言えない自分がもどかしくて悔しいけれど、少しも動かせない身体。
そして唇さえも自分の思い通りにはならないのでは、何も伝えられない・・・・この想いさえも。

そして夕鈴という一つの意識は完全に、深淵の底に落ちていった。



どうしてこの様な事になったのであろうか??
それは、10日前の真夜中に遡る。


その夜は風が強く木々がしなる音と、窓には強い雨が叩きつけられる音が止む事無く続いていた。
夕鈴はその風と雨の音で何度も何度も逞しい彼の胸の中で目を覚まし、彼を起こさないように小さく嘆息を吐いてはまた眠りについた。
そんな夕鈴に黎翔も気が付いていたが、彼は気が付かないふりをしていた。

これだけ風が強いのだから、ぐっすりとは眠れまいな。

お互いを気遣いつつ、夜が明けるのをまんじりと待っていた。
そしてもう間もなく夜が明けると云う頃夕鈴はよほど眠かったのか、ようやく深い眠りに誘われようとしていた。
その眠りに誘われる瞬間、そう瞬きするほどの刻・・・・・。
夕鈴は自分を求めて泣き崩れる女性の影が脳裏を掠めていくのを感じた。
しかしその女性の影を捉える事が出来ずに、夕鈴は眠りに落ちた。

その日から昼のうたた寝、夜の情事の後のまどろみ寝・・・・眠ると必ず悲痛に泣き暮れる女性が現れるようになった。
それは夕鈴の心を千々に乱し、いついかなる時もまざまざと思い出されるようになってしまった。
ついには何も手につかなくなり、食事すらも喉に通らなくなってしまった。

そんな妃の様子に、黎翔は政務に専念出来なくなるほど心配していた。
しかし、夕鈴に理由を尋ねても話そうとはしない。
それよりも政務が疎かになっている事を叱咤してくる始末。
狼で脅しても小犬で甘えても、ついぞ理由は話さず仕舞いであった。
そうして、つい10日前には快活に過ごしていた夕鈴はどこを探してもいなくなり、
ただ寝台の上で苦しそうな寝顔で眠っているだけとなってしまった。

侍医も理由が解らない・・・・何処も身体の悪いところは見当たらないと首を傾げるばかりで。
そうして寝たり起きたりの繰り返しで、夕鈴は昏睡状態に陥ってしまった。

心配で夜も眠れず夕鈴に付き添っている黎翔もロクに食事もとらない有り様で、
李順は政務の遅れも気にはなるものの、この状態の二人を心から心配して何度も様子は見に来てはいた。

そして、夕鈴の閉じられた瞳から一筋の涙が零れ落ちた。

ゴメンナサイ・・・・でも私を信じて・・・お願い・・・待っててください、黎翔様・・・。





********



「あの、起きてますか?怜亜姫。」

怜亜姫?ウン?誰の事よ!!
私は・・・・・・・・・・・・・・・・誰だっけ?思い出せない?
そんなバカな・・・・・。
夢を見ていたの?私は私では無かった様な・・・・そんなはずはない。

私はこの白陽国国王・珀 遥翔の娘であり、あの誉れ高い『狼陛下』と異名を持つ珀 黎翔の孫よ。

自分が寝ぼけていたとしか思えずに身体を起こす。
そして先程少し表面化していた夕鈴の意識は怜亜の意識に取り込まれ、怜亜の魂の核へと押し込まれた。


愛しい夕鈴の心の欠片はいずこにあるのか・・・・・それは黎翔はおろか、未だ誰にも解らなかった。






続。


こんばんわ!!!


今日の午後は、小学校の個人懇談でした。
息子は小5・娘は小2・・・・・色々云われるのかしら・・・・とドキドキで行きました。
まぁ、娘は云われることはないとは思ってましたから、問題は息子だけっっ!!!

教室に入る前に、深呼吸一つ。
まぁ、2人の先生とは懇意にしているので、キツイ云われ方はないとは思っていたんですがね(笑)

娘は、まぁ予測通り・・・・あまり云われることは有りませんでした。
息子は思ったよりも云われなくて、一安心。
でも、まぁ・・・・・・息子には大袈裟に云って脅しておかねば!!!
(息子は脅しておくくらいが丁度いい・・・・・・)

これで、2学期の大きな行事もすべて終わりです。
後は通知表くらいですね・・・・・。
これがまた怖いんですよね~~~


そして夕方、従弟のお嫁さんが出産されたのでお祝いの品を買いに行きました。
まぁ、お祝い金を渡すのでチョイとしたモノでも~と思い、赤ちゃん用品のお店にいったのですが、
かれこれ我が家に赤ちゃんがいたのは8年前。
まぁ、月日は早いと云いますか・・・・・・・離乳食作りの便利グッツを買いましたが、最近の便利グッズは進化してますね~~~
とっても使い易そうで・・・更におやつ入れも一緒に購入しましたが、昔はあんな便利なモノは無かったです。
普通のタッパなんかを使っていましたが、今はボーロ・赤ちゃんせんべい・クッキーなど用途に応じて入れるところが違って、ボーロなんかも出しやすくて・・・・いやぁ~~凄い!!です。

選んでいて楽しかったです。
ウチにはもう赤ちゃんは来ないので、せいぜい親せきの赤ちゃんでも可愛がっておくことにしますか!!
先月には弟夫婦に第2子も生まれたことですからね~~~


それでは、続きをカキカキしま~~~す。
そして未完の話を手直しした上で、UPしておきますね~~~~。



瓔悠。


こんばんわ~~~

今日は、久々に午後は漫画三昧で過ごしました。
ここ1週間で、漫画を50冊近く大人買いしたんで・・・・・。
(勿論、古本で購入ですよ!主婦にはそこまで自由になるお金は無いんで・・・いやぁ~古本はマジで安くて助かります)
もうパラダイスでした。

まだ読み切ってないんで、今晩もお布団の中で夜更かし決定かな~~



さてさて、今書いている話ですが~~~ホント、愉しんで書かせてもらってます。
まだオリキャラはでてきてませんが、もう出てくるのが楽しみで堪らない~~
この話実のところ、あんまり長くないはずだったのに、気が付けばもう短編とは云えない長さになってきてます。
もうこれは、突っ走るしかないですね~~~

次の更新は出来れば、明日くらいにはしたいけどなぁ~~
どうかな???


そして、まだ書き終わってない連載物はこちらに移してきてます。
まだ公開はしてなんですが・・・・・。
どうでしょうか??
まだいますぐには書けないけれど、公開しておいた方がいいですか???
宜しければ、ご意見下さい!!!



では、息子の習い事がもうすぐ終わります。
お迎えに行かないと~~~
最近はホントに日が暮れるのが早くなりましたね。
夏は7時半過ぎに、ようやく陽が落ちきってしまう感じでしたけど・・・・
今はもう6時には真っ暗ですものね。

今から寒くなってくるのが、嫌だなぁ~~と思う今日この頃です。




瓔悠。


【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り




朝日がすべてのものを照らしつつ、ゆっくりと登る。
眩い陽(ひかり)と共に、新しき一日が始まる。
そして今日はいよいよ黄陵国へ入国する。


「はぁ~~~~~、いよいよだな。
最初が肝心だから、入国時から気も抜けないな。」
「うん???陛下ですか???」
「夕鈴、起きたのかい?」

寝室から、まだ眠いと云いたげな掠れ声が聞こえてくる。
黎翔はクスリと笑うと、居間の長椅子から立ち上がって寝室の入り口に凭れ掛かりながら中の様子を探る。

一応夫婦であるからして、寝る際も宿屋の一番豪奢な部屋に二人きりにさせられた。
王宮であったならば、黎翔は後宮内でも自室を構えているから夕鈴とは別の部屋で休むことは可能だ。
でも、ここではそういうわけにはいかない。
それに今回は事情知ったる李順がいない。
だから、部屋を別々にすることはできなかったのである。

それでも、流石に宿屋一豪奢な部屋であるから・・・寝台だけは別にすることはできた。
まぁ、寝室は一緒であったが。


「夕鈴??起きた??」
「・・・・・・・・・・・・。」
「まだ、起きてないようだね。」

夕鈴は取り敢えず寝台にチョコンと座って、まだ働かない頭で昨夜のことを考える。


・・・・・・・・・まさか、陛下と同じ部屋で寝るとは思わなかったし、今考えると凄く恥ずかしくなる。
だって、後宮では考えられないこと。
いつも陛下が訪ねてきてくれて一緒にお茶を楽しんだ後、陛下は自室に帰っていく。
だから、私はゆっくりと眠れる。
でも昨晩は違った。
湯殿から上がると侍女さんたちが微笑ましい視線を私に向けながら、いそいそと寝台の用意をしていた。

「あの・・・・今日は陛下もここで、お休みになられるんですか?」
「はいっっ!!!もちろんでございます。お妃さま、今宵はいつもよりも念入りにお手入れさせていただきます。」
「そうですね、ではお願いします。」

私は、こう云うしか選択肢はない。
そして侍女さんたちは、始終ニコニコ笑みを浮かべている。
そんな様子をみると、私は居たたまれなくなってくる。

だって、私は本物ではないのだから。
だから・・・・陛下の隣で休むだなんておこがましいこと。

「お妃さま??お妃さま??」
「は、はい。」
「あの・・・・これで宜しいでしょうか?」
「えっ???」

鏡に映った私は綺麗に髪を結いあげられ、夜着に相応しい姿に変えられていた。

「有難うございます、大丈夫ですよ。
ご苦労様でした。」

そう云うと、侍女さんたちは拝礼して静かに退室して行ってしまった。
私は鏡に映った自分の姿をしげしげと見つめながら、人知れず、ため息を吐く。

「はぁ~~~~~~~~。」

後ろで人の気配がした。
振り向こうとしたら、ふんわりと抱きしめられた。
耳元に聞こえる、甘く低い声。

「夕鈴・・・・・ごめんね。今日は一緒の部屋でいいかな。」

私に気を遣ってくれている陛下。
ホンワリと心の奥底が暖かくなる。

「はい・・・・・大丈夫です。」

そうして、陛下と同じ部屋で休むこととなった。
でも隣の寝台に好きな男性が眠っていると思っただけで、ドキドキ胸の鼓動が煩くて寝付けなかった。
『眠れない・・・・眠れない・・・・』と小さくつぶやいては寝返りを打つ。
やっとウトウトし始めたころに、空が白んできたのだった。
だから朝が来ても中々身体が覚醒してくれない。
だって殆ど眠れてないのだから。


それは黎翔も同じだった。
隣に夕鈴がいると思うと、どうも落ち着かなかった。
寝室には、甘い香りが漂っていた。
これは、夕鈴の香り・・・・・・花のように香しい。
それに、夕鈴も眠れなかったことを、黎翔も感じていた。
遠慮気味に寝返りを打っていた夕鈴の様子がわかっていたから。


「夕鈴・・・・今日は相手国に入るから。」
「はい。」
「まぁ、夕鈴はゆっくり過ごせるようにするから、安心して。」
「はい。でも、私・・・・陛下のお役に立ちたいです。」
「うん、よろしくね。」


二人は朝餉を食すべく、寝室を後にした。
これから、黎翔にとっての試練が始まる。
そして二人の関係は少しづつ変わって・・・・・・・いく。




続。


おはようございます~

お出掛けする前に、カキカキしようと思います。

昨日書いていたように3連休について~~
(これって私が忘れないためでもあるのかな・・・・)

今回の3連休。
旦那様は初日に仕事。
本当は家族でインフルエンザの予防接種に行く予定だったのに~
仕方なく、私と子どもたちとだけで行きました。
まぁ、今年の注射は痛いったらありゃしない・・・・・
ホント、大人になっても注射がイヤだなんて、子どもたちには云えませんが・・・・マジで痛かった。
打った後もしばらく痛くて。
毎年受けてますが、今年は特に痛かった。
これで、効いてくれればいいんですがね~~
去年は娘・息子・私と3人も罹ってからですね・・・・それに娘に関しては、インフルのせいで持病がでて救急搬送までされる始末でしたから。


そして、次の日は実家に泊りに行っていた子どもたちが、ジジババに連れられて帰って来て
父と旦那は障子貼りの作業をしてくれました。

ウチの部屋干しの洗濯物干しの足がグラグラしてて、何度かバランスを崩して洗濯モノが障子にダイブして、穴が開きまくっていたんですよ~~
これでは正月が迎えられないと!父が張り切ってくれました。
そして旦那も見よう見真似で、せっせと貼ってくれました。
新品の障子をみて、私が思ったこと・・・・・・・・いつまで穴が開かなくて済むかな~~~~と。

そして今年は金木犀の木をバッサリ剪定したので、ここ2,3年出してなかったイルミネーションを倉庫からだして
飾りつけしました。
今年は賑やかなクリスマスになりそうです。
玄関も飾りつけしたんで、後はツリーを出すだけ。
これは子どもたちにさせよう~~
でも終わって直すのが面倒だから、本音は出したくはないのですが・・・・・・・。

DSC_0301.jpg DSC_0297.jpg
こんな感じです。


そして最終日の月曜日。
惰眠をむさぼっていた午前8時。
自宅の電話のなる音で、叩き起こされました。
一体誰よ!!!と思って取ると、実家の母。
内容は『父が息子をホークスの優勝パレードに連れて行ってあげるから用意させなさい』でした。
確かに、最近野球にハマりまくっている息子は云ってました・・・『パレード見に行きたい!』と。
でも人も多いし、交通機関で行かないととてもじゃないが車の駐車場所がない!ということで『ダメだよ』と云っていたんです。
これは渡りに船!!とばかりにお願いしちゃいました。
そしてジジと二人JRでお出かけ!息子ははしゃいでました。
私と旦那と娘はお家でTV観戦。

そして昼過ぎに実家に帰ってくる息子を迎えに行きました。
帰ってきた息子は凄く喜んでました。しかしそこで事件発生!!!!!
な、なんとJRに上着を忘れてきたと・・・・・・・・・・・。
はぁ????という感じで問い合わせてみると、確かに落し物センターにありました。
仕方なく・・・・・・・・・実家から50分かけて受け取りに行きました。
それも家とは全く反対方向の駅です。
全くそっち方面には用はないというのに・・・・・・。

そんな感じで3連休は過ぎ去っていきました。
3連休なんてあっという間。
昨日は3連休明けでしたので、いつもよりも朝起きるのが辛かったです。



皆様はどのような3連休をお過ごしになられましたか???




あっ、そうそう・・・・録画しておいたパレードの番組。
夜、家族で見てみたら、息子が一瞬だけ写ってました。
それも、ホークスの帽子だけが・・・・・。
(子供の特権で、最前列にいた優しいお姉さんが詰めてくれて入れてくれたそうです。
それで息子はそのお姉さんを覚えていて、TVで見た時に自分だと分かったみたいです)
本人はとても満足げでした。




さて、出かけるとしますか~~~~
今日は、『傍迷惑な歓迎』の続きUPしますからね!!
お待ち下さいませ!!!!




瓔悠。


このブログで、初めて話以外の事を書きます・・・・・。

日々私が感じていること。
ぶちまけたいこと。

そんな何かを毎日、書き散らしていきたいと思います。


まぁ、『ああ、勝手にのたまっているな~』という感じで、お付き合いください。




さて、あちらのブログは3月で閉めてしまうので、
いずれ私が気に入っている話・・・・そしてこちらでアンケートでもしてこちらにUPしてほしい話なんかは
移してこようかなぁ~とぼんやり考えてます。

流石に、全部は多すぎるので・・・・。


ここでは、私はオリキャラの話など、バシバシ書いていこうと思ってます。
それに私が書きそうにない話も。
それが私がここを作った理由ですからね。


私は人に駄文だと思われていても、やっぱり書くことが好きです。
それは多分昔からだと思います。

文にこそ起こさなかったですが、漫画・小説を読んで2次っぽい想像はしてました。
2次とは云っても、オリキャラ出しまくりの話が多く・・・・夢小説的なものが多かったですね。
だから、オリキャラの話が多いのだと思います。
それは自分でも自覚はしているんですよ~。

そしてこうしてPCに本格的に触れだしたのは、今から4年ほど前。
独身時代の仕事では、仕事用のプログラムが入れられた特殊機械を使ってましたので、
所謂一般的なPCは使ったことは有りませんでしたので、インターネットにもあまり触れる機会も有りませんでした。

それが幼稚園・小学校の役員をしたことをキッカケに、必要にかられてPCをかじったのが始まりで・・・・今やこうしてインターネット中毒気味になるまでなってます。

ホント、つい5年前の私からは想像が付かないなぁ~とたまに思います。
でも元々機械音痴ではなくて、家にあるTVやDVDなどの接続なんかも私がすべてするんで、
扱うことに違和感は有りませんでした。
そしてPCの扱いなんてのも殆ど独学で・・・・あちこちいじくって覚えた感じです。
なので詳しい事はよくわからず・・・・・専門的なことになると『????』という感じです。
ですから、今もブラインドタッチはあまり得意ではありませんし、全く基本形ではないんですよね~~(笑)

まぁ、そんな感じでヘタの横好きで運営している訳ですが、
出来れば、こうして毎日何かしら更新していきたいなぁ~とか思います。


で?何が云いたかったのか??

それは・・・・・・・・・私にもよくわかりません。
ただ、何となく呟きたかっただけなのかもしれません。


まぁ、明日は我が家の最近の出来事なんかでも書くことにしましょうか。




瓔悠(よゆ)。


【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り







全く相手国の国王って、何のために私を見たいんだか??
交渉相手の王妃を見たいだなんて、どうせ髭もじゃらのオジサン国王なのよ。
相手が年上だから、陛下も断りにくかったんじゃないかしら。

相手を知らないとは、まったくもって想像の翼が広がっていくものである。
夕鈴の頭の中では、相手国の国王は顎髭を蓄えた恰幅のいい中年の王様像が出来上がっている。
そして、周りに若い女人を侍られているような・・・・・。

まぁ、逢った時の衝撃は計り知れないのだが。
相手が若くて颯爽としている王なのだから・・・。



さて、食事も終わりあてがわれた宿屋の一室の長椅子でくつろぎながら、夕鈴はぼんやりと考え事をしていた。
黎翔の云っていたことが、頭から離れない。
『いつもよりも夫婦らしく』・・・・・・そんなこと云われても、どう振る舞えばいいのかわからない。
いつもだって、十分夫婦らしいつもりだった。
陛下の甘い言葉に翻弄される自分。
これ以上のことを云われたら、どう返せばいいのか・・・全く見当もつかない。
それに私は耐えられるのか??
更に陛下の優しさにどっぷり浸かってしまったら、胸の奥にしまい込んだ恋心が溢れ出してしまうかもしれない。
そうなったら、もう取り返しがつかない。

「はぁ~~~~~~簡単に旅行に行ける~なんて、はしゃいだ私がバカだったわ。
甘い話には裏があるっていうように簡単にいくわけがないのよねぇ。」
「誰がバカだって??」
「へ、へいかっっ!!!もう上がられたのですか??」
「うん、いいお湯だったよ。夕鈴も一緒に入ればよかったのに。」
「は、はぁ???何を云っているんですかっっ!!!
ダメですよ!!!夫婦でもないのに!!!」
「僕たち、夫婦でしょ。」
「ち、違います!!!!!」

夕鈴は黎翔の言葉に、真っ赤になって必死で否定する。

こんなことじゃ、先行きが不安で堪らない。
一体、相手国で何をさせられるのやら。

真っ赤な顔してワタワタ慌てている夕鈴を横目で見ながら、黎翔は面白しくてたまらないとでもいうようにニヤリと口角をあげる。

夕鈴は、本当に可愛い反応を見せてくれるよ・・・飽きないほどにね。
こんな可愛い夕鈴を悠殿に見せつけてやろう。
僕たちの仲睦ましさをしっかりと見せないと、どんな嫌味を云われるかわかったもんじゃないからね。

「夕鈴、お湯に浸かっておいで。何なら僕が背中を流してやろうか??」
「結構ですっっ!!!」

夕鈴は逃げるように、湯殿へと直行する。
その背中を眺めながら黎翔は、悠に対する対策を考え始めていた。


まずは夕鈴には悪いけど、部屋は二人同じ部屋にしてもらう。
これは、夜も一緒に寝ているということの証。
これが一番手っ取り早い。
夫婦、もしくは恋人関係であることをアピールできる。

でもそれだけでは悠殿は納得はしてくれないだろうから・・・・あとは、どうすればいいのか。
それにしても、関税交渉のことよりもこちらの対策を念入りに考えないといけないとは。

黎翔は己に降りかかった難問を、如何にして解決すべきかを真剣に考えていた。
そしてそのころ、夕鈴は湯殿の中で・・・・・・これからの陛下とのより深い夫婦ごっこについて不安でいっぱいになる胸の内を一人落ち着かせようと、のぼせる寸前まで湯船に浸かっていたのだった。



そうして長い夜が更けていく・・・・・・。




続。


【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り





黎翔に誘われ、勧められた椅子に腰かける夕鈴。
目の前には、豪華絢爛な食事が用意されているが、それも目に入らない様子。
黎翔の発せられた『話がある』の言葉が気になって仕方がない。

「で、話って何でしょうか?」

兎も角聞かないことには食事も取れないと夕鈴は思い、真剣な眼差しで黎翔を見つめていた。

「それが云いにくい事なんだけど・・・・。」
「はぁ・・・・云いにくい事ですか?」
「うん、夕鈴にお願いがあってね。」
「お願いですか?」

中々切り出さない黎翔に、夕鈴はおうむ返しで聞き返す。

「私で出来ることは精一杯頑張りますし、何を聞いても大丈夫ですから。」
「夕鈴、有難う・・・じゃあ話すことにするよ。
今から向かう所だけど、さる王国なんだ。その王国と関税に関する交渉に行くんだ。
で、相手国の国王が狼陛下の唯一に逢いたいと云っていてね・・・それで、夕鈴にも同行してもらうことにしたんだ。」

黎翔はそこまで説明すると卓上の杯を手に取り、口腔に一気に流し込む。
その様子を夕鈴は黙って見ながら、相槌を打つ。

「そうだったんですか。」

夕鈴は静かに立って、黎翔の手の中に納められた杯に静かに茶を注ぐ。
黎翔は、もういらないと杯を卓上に置くと、夕鈴に向き合い優しく肩に手を乗せる。

「夕鈴は僕の妃だよね。」
「はい、そうですよ・・・一応バイトですが。」
「その王様の前でだけでもいいから・・・・・いつもよりも夫婦らしくしてて欲しいんだ!!!」

黎翔は真剣な眼差しで、夕鈴にお願い事を伝える。
夕鈴はその瞳に気圧されて、首を縦に何度も振る。

「わ、わ、わかりました。」

しかし、夕鈴とそこでハタと考える。
いつもよりも・・・・とは、具体的にどうすればいいのか?
いつもは、あまり夫婦らしく見えないのだろうか??・・・・と。

「ごめんね、夕鈴・・・・無理なお願いをしてしまって。」
「いえ、いいんです。ただ、具体的にどうすればいいのでしょうか。」
「う~~ん、そうだね。例えば、二人で馬に乗って相手国に入国するとか。」
「はぁ・・・・そんなことでいいんですか?」
「そういうのは、民の間で直ぐに噂になるからね。『狼陛下は、ひと時も妃を離さない』とか。」
「そういうものなのですか。」
「それで、相手国の国王も納得してくれればいいんだけどね。」
「納得???」
「いや、こちらの話だよ。」

夕鈴は何処の国に行くのか??この時点で知らさせてはいない。
そう・・・・・・・・・・その相手国とは自分が生まれた国、黄陵国だった。
そして相手国の国王とは、すなわち夕鈴の兄・悠鐸だった。


さて、黄陵国で何が待ち構えているのか??
この時の二人にはまだ予想だにしなかった。


続。


【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り





「では陛下、お妃さま・・・・・いってらっしゃいませ、道中お気を付けて。」

見送り団の筆頭を務める李順は頬を引きつらせながらも、にこやかに拱手の礼を取る。
自分も同行するつもりだったものの、居残り組に入れられたことで少し不満気であった。

「李順、後は頼んだぞ。」
「畏まりました。」

黎翔はそんな李順の気持ちを知ってか、わざとらしく後を託す言を残す。
馬上からニヤリと口角を上げた笑みを浮かべながら。
それを苦笑いで受けた李順は、黎翔の後ろで待機している馬車に近寄り一礼した後、覗き込んで中にいる人物に小さく声を掛ける。

「お妃様、くれぐれも陛下の御名を汚さぬようにお勤め下さいませ。」
「はい・・・・・・・。」

そう、中にいる夕鈴に鋭い視線を向けて『お淑やかに』と釘を刺したのだ。
夕鈴は『是』という意思を示すのに、扇で口元は隠し首をちょこんと下げて軽く会釈した。
それを見とった李順は、深々と礼をしてその場を離れた。

一連の儀礼的な見送り挨拶が済んだことが先頭の馬上の騎手に告げられると、馬上の騎手たちは鞭を振るう。
馬が嘶き、その足を動かし始めた。
それと共に出発の合図のラッパの音が高らかと響き、見送り団の拝礼を受けながら華々しく出発した。



行程は途中で何か所かで休憩を取った後、国境近くの宿場町で1泊して次の朝早くには相手国には着く事になっていた。
黎翔は折角の李順無しの旅であるから、夕鈴とまったりと過ごそうと考えていた。
最初の休憩地に着くと早々に愛馬を馬使いの者の任せ、馬車へと駆け寄る。
そして直ぐに夕鈴の手を取りながら、周りの御付きの者たちに仲睦ましい様を見せつけるように休憩所へ入って行った。
黎翔に導かれている夕鈴は頬を桃色に染め、俯きつつであったが・・・・・・・。
御付きの者達の溜息があちらこちらから聞こえてくる。
これは国王夫婦の仲睦ましさに当てられたという感じのものである。
しかしそうでない者もおり、その中には、氾家長男・水月と柳家次男・方淵もいたのだった。

「氾水月、今回はあの妃まで同行なされるとはな。何故か聞いているか?」
「そうですね・・・珍しい事ですが、今回は相手国の王がお妃様同行を熱望されたとか。」
「相手国の国王がか?」
「ええ、前回お越しになられたときに、親しくなられたとか。」
「ふんっ、一体どういうところが気に入られたのか?」

方淵は全く趣味の変わった王だと首をひねる。
それが不敬罪に当たるということをすっかりと忘れてしまっている。
水月は首を竦めて、『自分によく分からないよ』とでも云わんばかりに柔和な笑みで誤魔化していた。


さて、休憩所に入って行った黎翔と夕鈴の視線の先には、先に到着して準備を整えている侍女たちが立ち働いている姿があった。
それを黎翔は右手をスッと上げ、早々に追い出してしまった。

「陛下、どうかしたんですか??」
「えっ??」
「だって侍女さん達、まだ準備の途中だったみたいですのに。」
「早く二人きりになりたかったんだ。」
「・・・・・??????」

二人きりになりたかった?????
何を・・・・・・されるんだろ、私。

夕鈴は何か危険を察知し、繋がれた手を解いてもらおうと試みる。
でもそんなに簡単に解いてもらえるはずもない。
それでも夕鈴は諦めるところか、離してもらおうとジタバタする。
その様子を見た黎翔は、大きなため息を吐き出していた。

「ゆ・・・・うりん、何か誤解してない?」
「誤解??」
「そうだよ、僕は二人きりでゆっくり美味しいモノでも食べようと思っただけなのに。」
「えっ???すっ、すすすす、すみませんっっ!!!!」

真っ赤になって、夕鈴は米つきバッタのように、頭を何度も下げる。
その姿が何だか可愛くて可笑しくて黎翔は、プッと吹き出した。

「それに、夕鈴に話しておくことがあったんだ。」
「話ですか??」
「そうだよ。」

その話というのが・・・・・・・・・・夕鈴にとって試練と云うべきものであった。





続。


【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り

【意味などとしての水入らず】の続編です。







「ねぇ、夕鈴、旅行に行かない??」
「旅行ですか???何処にです?」
「う~~~ん、行先は云えないけど・・・まぁ、旅行とは云っても、僕は仕事の一環なんだけどね~。
まぁ、夕鈴は愉しめるとは思うんだ。」
「はい、陛下の行かれる所であれば、何処にでもお供いたしますが。」
「そう??」
「はいっっ!!」
「じゃあ、決まりね。」

黎翔は、ウキウキ顔で杯の中の茶を一気に飲み干す。

これは、午後の休憩のひとコマ。
今日は天候もよく久々の晴れということもあって、四阿でお茶を頂くことに。
侍女たちも早々に下げ、二人きりののんびり時間を満喫していたのである。

「それにしても、旅行ですか。スッゴク楽しみです。」
「夕鈴が楽しそうだと、僕も嬉しいよ。」
「いつ出発なんですか??1週間先??10日先??」
「・・・・それが、明日だったり。」
「明日っっ?!」
「うん、相手先が・・・・早い方がいいみたいで。」
「わかりました!!こんなことはしていられませんね。早速準備しないと!!」
「いや・・・夕鈴・・・・・・・準備は、侍女たちの仕事なんだけど・・・・・・ねぇ。」

そんな黎翔の言葉は、夕鈴の耳には届いてはいない。
そそくさと茶器の片付けに入っている。

思い立ったら吉日!行動するが勝ち!!みたいな夕鈴だから、
すぐさまの行動になるとは思っていたけれど、ここまで素早いとは黎翔は思いも寄らなかった。

「さぁ、陛下!!片付けも終わりましたし、準備!!準備!!!」

張り切っている夕鈴を尻目に、黎翔はさっきのウキウキ気分は何処へやら、少々気が重くなってきていた。
いや、夕鈴と一緒に旅に行くのは、愉しみな事で・・・・。
道中、馬車の中では二人きりだから、きっと楽しいことだらけなはず。
何なら、愛馬に夕鈴を乗せて遠乗り気分を味わってもいい。
これこそ、愉しみでたまらない。
ただ、行先・・・・・・が問題なのである。

行先は、とある大国。
あそこに行くとなると、彼に逢わないといけなくなる。
自分は仕方ない・・・・相手国は貿易交渉相手で、しかも今回はお互いの自国に於いての関税撤廃に関する話し合いに行くのだから。

・・・・・・・ただ、夕鈴を連れて行くとなると、どうなるかなんて想像もつかないのだ。

黎翔は夕鈴には気付かれず、一人小さく溜息を吐き出した。
そんな黎翔とは正反対の夕鈴は、足取りも軽やかに自室へ続く回廊を跳ねながらの道行きである。

「まぁ、なるようにしかならないか。」

黎翔は腹を括ったのだった。



続。


【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り





「陛下、黄陵国の側近から酒宴の申し入れがありましたが。」
「・・・酒宴?」
「はい。明日には帰国の途につくらしく、今宵陛下ともっと親睦を深めたいと。」
「親睦を深める???」


書簡に落とした目線を李順に向ける黎翔。
ややいぶかしんだ視線で以て。

「何か意図することでもあるのでしょうか?」
「意図すること・・・か。」

悠鐸殿の母御はもうすでに身罷られていた。
________それに対する、口止めということだろうか?
しかし、身罷られている以上、醜聞とはならないだろうが・・・・。

今更、酒宴を開く意図が分からないが、ここは断固として断る理由も見当たらない。

「分かった・・・今宵、帰国の無事を祈るという名目で盛大な酒宴を開いてやれ。」
「御意!!」

李順はすぐに手配すべく、執務室を出ていこうとする。
その背中に黎翔は言葉を掛けた。
いや、ただ掛けたのではない。
それは、強固な命令であった。

「李順!!!今宵の酒宴は妃の列席は抜きにせよ。」
「それは何か意図がお有りで?」
「勿論だ!!!夕鈴は下町で悠鐸殿と逢っているからな。」
「あっ、そうでしたね。いくらバイトとはいえ下町の庶民の娘が妃では、
こちらの醜聞をさらけ出すところでした。そのように致します。」

今度こそ速足で、李順は執務室を出て行った。


流石と云うべきであろう李順の手際の良さは、誰が見ても感心するばかりで、
数刻もすると、一国の王に対する礼節に相応しい酒宴の場を設けることが出来ていた。

「陛下、すべての準備整いましてございます。」
「そうか。」
「では、黄陵国国王をご案内したく・・・。」
「そうだな、では頼んだぞ。私は少ししてから行くことにするから。」
「畏まりました。」

李順が出ていくと、黎翔はこの宴がもたらす両国間の関係と効果について考えていた。
そして悠がこの宴で持ち出す話題についてをも・・・。

忌避するべきことは、ただ一つだけ。
夕鈴が欲しい・・・・などと云いだした時だ。

悠鐸殿は、夕鈴が掃除婦だと思っている・・・筈。
だとすれば、夕鈴が欲しいとなどと云いだすことも大いに有り得る。
しかし、そうだとしても夕鈴の気持ちは確かめた。
だから悠鐸殿から申し出があっても、突っぱねることは出来る。
_______________大丈夫だ。

黎翔は堅い意志を心に持ち、重い腰を上げて酒宴会場へと足を運ぶ。
全く以て面倒くさいとでも云いたげに、眉間に皺を寄せつつであったが。

それにしても悠とはヘンな場所での遭遇となった後は謁見などもしておらず、
今更酒宴と云われても何だか気まずい感が。

それでも、わざわざ悠からの申し出ともあれば、
無下に断ることなど出来るはずもない。
それこそ、国際問題となり兼ねない。

「それでは、さっさと終わらせて・・・今宵後宮で夕鈴とゆっくりお茶でも飲みたいものだな。」

設えられた会場に足を踏み入れると、すでに互いの国の大臣たちは席につき、
思い思いに歓談していた。
しかし黎翔の登場で空気が一変し、キリッと冷え渡り厳かな雰囲気が漂う。

「これは、陛下。このような盛大な酒宴を開いていただき、歓喜にたえません。」
「さようか。」
「わが王もさぞ喜ばれていることと存じます。」

まず、黎翔の前に進み出てきたのは、この宴の開催を申し入れてきた黄陵国大臣である。
丁重な言葉に黎翔も機嫌良さげな表情を浮かべる。
大臣が深々と拱手したところで、黎翔は歩を進め自らの席へ。

すでに隣には悠が座っており、手には酒杯が乗っていた。
黎翔は軽く会釈して席に座る。


「それでは両国王が揃われたところで、両国の益々の繁栄を願いまして乾盃致したく・・・。」

氾大臣が進み出て、酒杯を高々と頭上に上げる。
その合図で両国の大臣達が一斉に立ち上がり、酒杯を高々と上げてお互いの酒杯をかち合わせた。

それが合図となり、酒宴は正式に開会した。


「悠鐸殿、お待たせして申し訳ない。」
「いえ、このような盛大な酒宴を開いて下さり有難うございます。」
「それでは、まずは一献。」

空になっていた悠の酒杯に、黎翔は並々と酒を酌み入れる。
お返しに今度は悠が黎翔の酒杯に、これまた並々と酌み入れた。
そうして、二人は一気に飲み干す。

「では、もう一献。」

黎翔はすぐに悠の酒杯にお代りの酒を注ぐ。
そして悠は黎翔の酒杯に。
お互い注ぎ合うので、短い時間でかなりの酒量となっていった。

「黎翔殿・・・・実は折り入って、話があるのですが。」

酒も随分入ったことから、悠は黎翔に改まって話を持ち掛けたのだった。


やはりな・・・・・
悠鐸殿は何かしらの話をしたくて、この酒宴を持ち掛けたのだな。
さて、どんな話題であろうか・・・。

黎翔は手の中の酒杯に視線を落としつつ、瞬時に色々と思考を巡らせたのだった。


「黎翔殿・・・昨日は、先に失礼してしまい、申し訳ありませんでした。」
「そのことでしたか・・・(夕鈴のことではないのだな。)いや、お気になさらず。」
「それで・・・その、夕鈴さんのお父上には、話を聞かれたのでしょうか?」
「悠那殿の事であろうか??」
「はい・・。」

そこで、黎翔は安心したかのように手に持った酒杯を口に運ぶ。
一口コクリと飲むと、一息吐いて話し始めた。

「悠那殿・・・いや、悠鐸殿のお母上の事は残念なことにもう身罷られているのだと。それに嫁いだ相手とは、もう夕鈴の父上は連絡が付かないとかで、墓の在処もわからないようで・・・とても気の毒な話であるな。」
「はい、そうですね・・・・(岩圭殿はお二人に自分以外の人の奥さんだったと話したのか・・)」

悠鐸は、岩圭の云った『夕鈴には真実は告げたくはない』という言葉を思い出していた。
まぁ、それはそれでいいのだが。
真実は自分だけが知っていれば良いし・・・例え今は夕鈴さんと兄妹の名乗りが出来なくても、
これからじっくりと時間を掛けてもいい。
そして、いずれ黄陵国に招いても良い事だし。

黎翔や夕鈴に真実を告げることもないと心にしまっておこうと、悠は手に持った酒杯を飲み干す。
そして杯を静かに置く。
そんな悠の様子を見つつ、黎翔は思う。

悠鐸殿の『折り入っての話』とは何であろうか?
お母上の事なのか??友好国とはいえ、自国の醜聞を知られたことに関する口止めか・・・。
この流れであればそうだろうが、どうなのだろうか。

黎翔も表情は変えずに、酒杯を空ける。

「で、黎翔殿!!」
「なんだろうか?」
「母上が民間の者に嫁いだとなると、我が国としても体面がある故、このことについては・・・。」
「そうだな、ご心配めさるな。我が国とて、貴殿の国とは行く末長く友好国でありたいと思っている。それも対等の付き合いでありたいと。」
「それは、有難うございます。私の国も末永く友好国でありたいと思っております。」

二人は互いの酒杯に酒を酌み入れる。
そして酒杯をかち合わせて、互いへの誓いの証とした。


その後はしばし酒を愉しみ、運ばれた料理に舌鼓を打つ。
会話も両国の貿易のことなど、夕鈴の話題が二人の間で上ることはなかった。
黎翔は安心しきっていた。
もう悠鐸殿は夕鈴の事を妃にしようとは考えていないのだな・・と。

しかし、悠が黎翔に話したかった話題は急に持ち上がる。
会話が途切れて、悠が黎翔の酒杯に酒を酌み入れていた時に。

「時に黎翔殿・・・・結局、今回は黎翔殿のお妃さまには逢わせていただけませんでしたね。
実は密かに楽しみにしていたのですよ。今宵こそは、お妃さまも列席いただけるものと。」
「それは失礼をした。妃は気分がすぐれないとのことで。」
「・・・心配ですね。それにしても、黎翔殿の麗しき花は唯一だと聞きおよんでおりましたが、唯一無二ではなく唯一有二であったとは、存じませんでした。」
「唯一有二???」

言葉の意味が分からず、黎翔は再度聞き返す。

「ええ、黎翔殿の花は1輪ではないと。」

そこで黎翔は何のことか分かった。
妃は一人では無いのか??ということが云いたいのだろうと。

「悠鐸殿、その話は何処で聞かれたのだ?」

何処で聞いた???
今、黎翔殿はそう尋ねたのだろうか??
話の出所を聞いているのか??
そうなると、やはり夕鈴さんは隠された花ということか???

悠は黎翔の言葉を完全に誤解しており、表情は変えないものの静かな怒りを覚えていた。

「黎翔殿っっ!!!それは後宮の秘められた花からですよ、それは大層可憐な花でありましたが。
出来れば、私が連れ帰りたいくらいで。」
「可憐な花???」

黎翔はしばし考えていた・・・悠の言葉の意味を。
そして直ぐに気が付いた。
それが、夕鈴のことであると。

いや、待て・・・これは悠鐸殿が夕鈴を貰い受けたいと暗に云っているのか??

ここでも誤解が生じる。

「悠鐸殿、それは出来兼ねる。」
「出来ないとは??秘められた花であれば、陰で咲くしかないのはあまりにも気の毒ではないでしょうか??」
「陰で咲く???(一体、悠鐸殿は何を云っているんだ・・・)」
「そうです、私は花であるならば日の当たる場所で咲かせてやるのが、男性としての役目であると思うのですがっっ!!
黎翔殿はいかがであろうか??」

黎翔殿は、夕鈴さんを秘めた花のままでいさせるつもりなのか??
夕鈴さんは、黄陵国国王である僕の妹姫。
それに見合った待遇をしてもらわねば。

悠は少し興奮気味に熱弁を振るう。
そんな悠の熱弁に耳を傾けていた黎翔は、やんわりと言葉を挟む。

「・・・まず、一言よいだろうか?私の花は1輪だけだ。」
「では、夕鈴さんは??」
「・・・・だから、妃は夕鈴だけだが。」
「???・・・・黎翔殿!!あなたはあの時私に云いましたよね、夕鈴さんは情報を聞き出すだけの相手だと。」
「ああ、そうであったな。」
「そうですよっっ。」
「あれは、流石に妃が庶民出であることを知られるのは拙いと。」
「では、黎翔殿の妃は夕鈴さんだけということで良いのですね。」
「勿論だ、彼女だけが私の妃だ。」

はぁ~~と悠は溜息を吐き出す。
そうすることで、自身の熱を下げていた。

「では、夕鈴さんが妃であるというのなら、ここにお呼びくださいませんか??
明日には帰国しますから、昨日のお礼も申し上げたいですし。」
「・・・では、少しお待ちいただけるであろうか。」

黎翔は悠に告げると、すぐに李順を呼びつけ夕鈴に支度をさせるように厳命する。
李順は少し顔が引きつっていたのだが。



半刻と少し過ぎた後__________艶やかに着飾られた夕鈴が、二人の王の前に進み出てきた。

「お初にお目に掛かります、私は夕鈴と申します。」
「これは、艶やかな・・・・黎翔殿の唯一の妃に相応しい可憐なお妃さまでありますね。」

席上から、悠は満足な笑みで夕鈴を迎える。
今朝ほどに逢った時とは比べ物にならないくらいに、艶やかで豪奢な姿。
この待遇であれば・・・と悠も満足する。

これは、黎翔の指示であった。
李順に命じ、夕鈴をいつも以上に綺麗に着飾らせよ!!と。
兎も角、黎翔は自分の妃は唯一であることを悠に顕示したかった。
でなければ、悠がいつ夕鈴を貰い受けたいなどと云いだすか、わからなかったから。

二人の王は無言で笑みを交わしていた。
一人は満足げに。
そしてもう一人は自己顕示として。


「では、夕鈴、こちらへ。」

黎翔は手を上げて、自分の横に夕鈴を呼び寄せる。
夕鈴が優雅に黎翔の隣へと移動する姿を横目で見ながら、悠はぼそりと呟いた。

「黎翔殿、あなたの妃を存分にそして大切に慈しんでください。そのお妃さまは、僕の大切な妹姫なのですから。」
「えっっ???」

黎翔は聞き返したが、悠はそれ以上は何も云わなかった。
そしてそのまま夕鈴を交えて、宴は最高潮に達し、
上々の盛り上がりを以て、閉会したのだった。



****************


「それでは、黎翔殿。今後とも貴殿の国とは末永い友好国でありたいと思います。
是非、今度は我が国にお妃さまとお越し下さいませ。我が国すべてをあげて歓迎いたします。」
「道中、気を付けられよ。また我が国にもお越し下され。」
「有難うございます。それでは・・・皆の者、出立する!!」

悠はキリリと臣下に号令をかけて、自身も馬にまたがる。
そして、見送りの夕鈴の元に近寄る。

「夕鈴殿、この度は本当にお世話になりました。いずれ、母の墓にはキチンと参りに来ます。」

そう告げると、颯爽と馬を走らせた。

「母の墓??悠さま、悠那様のお墓の場所が分かったのね、良かったわ。」

全く夕鈴は悠の言葉に疑問持たず、良かったわね~と笑顔で見送る。
その横に立つ黎翔は、少し複雑な表情だった。
昨晩、宴の席で呟いた悠の言葉を思い出していたから。


あれは___________宴で呟いたあの言葉は、ある意味挑戦状。
そしてこの狼陛下と呼ばれた自分に対する圧力である。

「さすがに、一国を治める国王ということか・・・・。」

帰りゆく悠を見据えながら、黎翔は感心の言を吐いた。

夕鈴には、このことは告げるまい。
きっとそれが夕鈴の父上の、父親たる想いだろうから。
それが、家族として暮らしてきた絆ということ。

しかしまた黎翔は、身体に流れる血が成すものも考えていた。
血は水よりも濃い_____________と。
しかし自分には縁の薄いものである。


『兄妹、水入らず』・・・・・・いずれは、夕鈴を黄陵国に連れて行かなばならないか。
その時は、必ず正妃としておくこととしようか。

黎翔の決意は、黎翔の心の奥底で固められていた。




終。


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黎翔の機転により、李順からの追及およびお小言を辛くも逃れられた夕鈴。
しかし、悠と一日中下町を歩き回った疲労が、自室に戻るとドッと出てきていた。

「もう今日は早く寝てしまおう・・・それにしても、悠様はきっと肩落としだわ。
出来ればまたお会いしてお慰めしたいものだけど。」


父から聞いた話を思い返しながら、夕鈴はそのまま眠りについた。
そして次の日の朝早く。
夜が明けると共にいつもより早く目が覚めてしまい、着替えを済ませてしまうと一人庭園へと散策に出て行った。
いつもの習慣からか・・・後宮内の庭園ではなく、王宮内の庭園へと足を延ばしていた。

「今日も天気が良さそう~~朝の空気も澄んでいて気持ちがいいわ。」

夕鈴は天に向かって両手を上げて、大きく伸びをする。
この時間の庭園は気持ちがいい。
風が優しく頬をかすめ、軽く結い上げた髪の後れ毛を揺らしていく。
いつしか足取りも軽くなり、庭園の奥まで来ていた。

「誰もいないっていいもんだわ。気兼ねもなくていいし。」

夕鈴は池のほとりにある四阿の椅子に座って、ぼんやりと考えていた。
どうしても気になる悠様の事。

父さんは悠様のお母上は、知り合いの官吏の奥さんだと云っていた。
でも黄陵国で子供までいた人が、この白陽国の官吏に嫁いだのか。
亡くなったのだったら、悠那様が埋葬されている場所は? 
更に云うなら、その旦那さんだった官吏の方に連絡は出来ないのだろうか。

どうしても気になる。
他人事なのに。
どうにかして差し上げたい・・・この感情は何なのか??

考えてみても答えは出ずに、ただ遠くをぼんやりと眺めていた。

「これは、これは・・・・もしかして、お妃さまでしょうか?」

不意に背後から声がしてきた。
この声に、聞き覚えが・・・・・・・。

「えっ????悠さま???」

振り返ると昨日の官吏の服ではなく、かなり豪勢な衣装を身に纏った悠が立っていた。

「・・・・夕鈴さん??」
「はい。」

あっ、思わず返事しちゃったわ。

「・・・確か、貴女は掃除婦でしたよね。」
「ええ、掃除婦・・です。」
「でも、その衣装は。」


ヤバいっっ。
このなりじゃ、掃除婦だとは押し切れない。
だって煌びやかなお妃衣装だし。
どうしよう・・・・・・・。
思いっきり、身分を偽っていたことがバレバレだわ。

それに・・・・バイトとはいえ、今は一応この国の王妃。
その王妃の出身が下町の庶民だったと知られたのは、すんごいマズイ。
これは減給モノ??
いや、それくらいじゃ済まない・・・かも。

夕鈴はガタピシに固まって、背中には冷汗が流れる。
身体は動かないものの、思考だけがぐるぐる回る。

「その衣装は、黎翔殿のお妃さまのものですよね。」
「・・・・・・。」

否とも是とも云えず、だんまりを決めてみた。
でも・・・待てよ。
今、陛下の事をさらっと『黎翔殿』って云わなかった???

「あの・・・悠様は黄陵国の官吏様ですよね。それが陛下を『黎翔殿』と。」
「う~~ん、官吏・・・・・じゃなかったり。」
「???」

官吏じゃない???
じゃあ、誰??

「では、黄陵国の方ではない?」
「いや、僕は黄陵国から来たんだよ。それに僕の国だし。」
「ああ、僕の国ですか・・・・・・・って、え~~~~~悠様、王様なんですか???」
「うん、そうだよ。」

夕鈴は口をパクパクさせて、驚きの表情を隠せなかった。

「ごめんね、嘘ついてて。」
「いえ、そ、そ、そんな事はお気になさらず。」
「ところで、夕鈴さんの真実は??黎翔殿のお妃??それとも掃除婦??」
「・・・・・・その、あの、だからお妃・・・かな。」
「かな??」
「いや、お妃です。」

それだけ云うとこれ以上追及されるのは御免だと、夕鈴は深々と悠に頭を下げてその場を足早に立ち去った。

「逃げられてしまった・・・。」

悠は、夕鈴の走り去っていった方を眺めていた。

もっと話したかった・・・折角また逢えたのに。
それに僕に残された唯一の肉親だし。

驚愕な事実を聞かされた昨晩、夕鈴さんのご実家から逃げるように、この王宮に帰ってきた。
僕に芽生えた淡い恋心が、肉親だという壁に阻まれたことがどうにも得心いかなくて。

でも・・・これはどんなに努力しても、どうにもならないこと。
自分に言い聞かせて、一晩かけて諦めた。
ならば妹である夕鈴さんの恋を応援してあげよう・・・と思うことができるまでに。

もう一度逢いたい。
そう願って、初めて逢った場所に行こうと朝も早くから向かおうとした矢先。

彼女はいた。
でも・・・・思いもかけない場所に。
王宮の奥の四阿で。

後ろ姿が、何となく夕鈴さんのような気がした。
でも彼女である筈はない。

だって、煌びやかな天女の如くヒラヒラした衣装を身に纏い、
優雅な物腰で腰かけて、空を見上げていた女性。
あれは、きっと黎翔殿の秘蔵のお妃さまだろう。

声を掛けるのに躊躇した。
そこだけ切り取られたような空間が広がっているような気がしたから。

それでも。
一応声を掛けてみる。
もしかしたら・・・なんてことも有り得るから。

「これは、これは・・・・もしかして、お妃さまでしょうか?」

振り返った女性は___________夕鈴さんだった。

どういうことだろうか??
僕はびっくりして一瞬言葉を失った。
掃除婦である筈の彼女。
だけど、目の前には妃然とした綺麗な女性が。
それが夕鈴さんなのだから。

それからのやり取りは、茶番劇の様だった。
語るに落ちる・・・そんな感じだろうか??
まぁ、僕の方も身分がばれたし、お互い様なんだろうけど。

でも・・・夕鈴さんが黎翔殿の妃なのだとしたら。
あの言葉は何だったのか??

『いえ、その・・・・・私、好きな・・・・人が・・・・いるんです。』
『そう、なんだ・・・・・その人とは将来の約束でもしているの?』
『それは・・・・・ないです。私が一方的に思っているだけで。』

一方的に思っている???
狼陛下の唯一の妃なのに??
賓客の僕にすら、逢わせないほど大切にされているのに??

全くわからない。
もしかして・・・庶民だということで、後宮で秘密裏に愛されているのか?
そして表には全く出れずに??
更に云うなら、黎翔殿の唯一の妃というのは別の女性なのか??
だから『かな?』だったのか??

僕の中で疑問が広がる。
もし彼女の待遇が酷いものなら・・・・僕にだって考えはある。
彼女は、黄陵国の国王である僕の妹姫だ。
生まれは、申し分ない。

だから黎翔殿に表にも出されず秘密裏に愛され、遇されていないのは許せない。
僕は兄として、妹を守る義務がある。


「これは、狼陛下と云われている黎翔殿にキチンと物申さなければ!!」

決心した悠はその場を立ち去り、すぐさま側近に命じ酒宴を開いてもらうように手配したのだった。







続。


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「あれ???父さん、悠様は???」

お酒の瓶を抱えて、戻ってきた夕鈴と黎翔。
居間にいたのは、一人でちびりちびりと酒を呑んでいる岩圭だけだった。
その横顔はなんとなく、寂しげであるように見えた。
だが夕鈴の姿を見た途端、表情は打って変わっていつもの飄々としたものになっていった。

「ああ、お帰り~~~お酒は??早くっっ!!!さっきからちびりちびりとしか飲めなくてな。」
「いや、父さん・・・そんなことより、悠様は??」
「悠殿か・・・・急ぎの用を思い出したとかで、帰られたぞ。」
「そうなの??でも人探しはよかったのかしら。」
「そのことだが・・・・。」
「えっ、父さん、何か知ってるの??」

夕鈴は身を乗り出し、今にも岩圭を押し倒しそうな勢いで、食いついてくる。
その姿に黎翔は口元を抑え、くっくっくっと密かに忍び笑いをしていた。

「探し人の『悠那さん』とやらは、偶々同僚の奥さんだったんだが・・・・かなり昔になるが、国外に転任になって今はこの白陽国にはいないんだ。」
「じゃあ、生きてるのねっっ。」
「いやな・・・それが・・・風の噂じゃ、転任先にて病で亡くなったそうだ。」
「・・・・・そうなの。」
「・・・・そうだ。」
「それは、悠様はきっと肩落としだわ。それで帰られたのね。」

夕鈴は自分のことのように落ち込んで、肩を落とす。
その姿を見た岩圭は、一瞬切なげな表情を浮かべたのを黎翔は見逃しはしなかった。
そして、黎翔は一つのことを確信した。

__________岩圭殿は何かを隠している・・・そう、悠那殿のことに関して。
でもきっとあの様子では、この御仁は語るまいな。


「夕鈴・・・・人探しはひと段落したから、僕たちも帰ろうか。」
「そうですね、確かにここに悠様はいないのだし・・・もう探す必要がないのでしたら、帰らないと・・・ですね。」

夕鈴はそう呟くと、王宮から持ち帰った小さな手荷物を持ち、玄関先に歩いていく。
ただしその前に青慎の部屋を覗き、勉強に勤しむ後ろ姿をそっと確認することは忘れずに。

「じゃあ、父さん!青慎にあまり面倒を掛けないでよっっ。あの子は勉強が忙しいんだからね。」
「わかっているよ。まったく、夕鈴の口やかましさは誰に似たのやら。」
「きっと母さんなのよ。それにこれくらい言わないと、父さんはわかりゃしないんだから。」

大袈裟に溜息を吐いて見せる夕鈴。
その親子のやり取りを口元に笑みを乗せ眺めている黎翔は、二人の間の家族の絆みたいなものを感じていた。

「行ってきます。」
「ああ、頑張ってくるんだよ。」
「わかってる。」
「李翔殿は、夕鈴の上司だとか・・・。」
「そうですが。」
「こんな娘ではありますが、宜しくお願いいたします。」
「ええ、夕鈴はすごく優秀ですから、父上殿はご安心を。」
「そう云ってもらえると、安心いたします。」

二人のやり取りは、さながら義父と婿のやり取りのようでもあった。
挨拶を済ませると玄関を出て、王宮へと戻って行った。

その後ろ姿を見ながら、岩圭は呟く。

「いつか・・・夕鈴にキチンと母親の事、そして出自を話さないといけない日は来るのだろうか?
それはあの上司だという李翔殿の元に嫁ぐなんて、あまり考えたくないことが起こり得たりした時なのだろうか?」

父親の直観とでもいうのだろうか・・・夕鈴が密かに育む恋心を察していたのだった。




二人が王宮についたのは、夜も更けて。
待ち構えていたのは、眉間に皺が寄りまくっている側近だった。
ずり落ちた眼鏡を人差し指でズイッと上げ、二人を鋭い眼差しで見つめる。

「陛下、お早いお帰りで・・・大変嬉しく思います。私はてっきり、後二日ほどはお戻りになられないかと。」
「いや・・・李順、そんなことは・・・。」
「そうですか・・・私の思い違いでしょうか?」
「そうだ・・・。」

二人の間に、ピリピリとした張りつめた空気が流れていく。
夕鈴は、もう後宮に下がりたい一心でなりゆきを見ていた。
このまま自分に矛先が向かないことを祈りながら・・・・。

「大体、李順・・・・いなくなった黄陵国の官吏が誰だったのか、それは浩大の報告からわかったのだろう。
それならば、私が出ていかねば収拾がつかなかったと思うのだが。」
「えっ??陛下・・・悠様は実は偉い方だったんですか??」
「・・・・いや、夕鈴、そうではないが・・・。」
「???」

夕鈴には、悠が黄陵国の国王だとは云ってはいなかった______そのことを不意に思い出し、
黎翔は夕鈴の質問を曖昧にした上で、口を噤んだ。

「それにしても、国王自ら行かなくとも、優秀な隠密にでも任せておけば宜しかったと思いますがね。」
「浩大にか??」
「それはまぁ、浩大は、妃護衛の任にもついていることですし。」

―――冗談じゃないっっ。浩大なんぞに行かせていたら、悠鐸殿が夕鈴に接近し過ぎていたではないか!!!

黎翔は、悠が夕鈴を口説いたという事実を不快に思っており、
ここ王宮でもこれ以上、接触させたくはなかった。

「ところで、李順。面白いネタがあるのだが・・・・聞きたいか?」

下町に出かけた事への一件はここまでにしたい黎翔は話題を変えた。

「面白いネタ・・ですか?」
「ああ。」
「それは、是非とも聞きたいですね。」

李順が乗ってきたところで、黎翔は夕鈴に向かってにっこりと笑って見せ、もう下がっていいよ~~と口パクと手振りでその場から下がらせる。

これは、李順のお小言を夕鈴に向けないことと、今から始める話を夕鈴には聞かせない為であった。
夕鈴は黎翔の機転を有り難く思いつつ、李順に深々と一礼すると静かにその場から退いた。
それを苦々しく見ていた李順であったが、黎翔の面白いネタの方が気に掛かり小娘のことなど、どうでもよくなったのだった。

「それで、陛下・・・ネタとは?」
「ああそれか・・・・黄陵国の前王妃だが、どうやらこの白陽国に住んでいたらしい。それも下町で・・な。ただし、今は故人となっているようだが。」
「はぁ??それがどういう・・・。」
「悠鐸殿は、その事実を知らず、自分の母親探しをしていたようだ。」
「それで、夕鈴殿に道案内を・・・。」
「そういうことだ。」
「そのネタはどこから?」
「夕鈴の父親だ・・・それがあの御仁、まだ秘密を隠しているようだが。」
「探らせましょうか?」

李順の眼鏡の奥が光る___________そして、策略の匂いがした。
黎翔は頭(かぶり)を振ってみせる。

「いや、いい・・・・・これ以上は、藪蛇だろうからな。」

二人はそのままこの話は終わりにした。
そうしてニヤリと微笑んだ李順は、静かに卓上に積み重ねられた書簡をを指さし、
お早く政務を!!!と無言の圧力をかけてきたのだった。




続。


【設定】

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「夕鈴、落ちついた?」

抱きしめられたまま、耳元に優しい声音が響く。

「はい。」

夕鈴は、一度深呼吸すると、ゆっくりとその問いに答えた。
まだ少し咽喉の奥のしゃくりは止まらないものの、大分心の波風は凪いでいた。

「あの・・・・そろそろ離してください。」
「どうして??」
「誰かに見られたらいけませんから。」
「誰が見ると云うの?ここは裏庭なのに。」
「でも・・・・・・。」

夕鈴は、抵抗して黎翔の腕から逃れようとする。
しかし、そこは男性の力で抱きしめているのだから、容易に離れられる訳もない。

―――このまま抱きしめられているのは、困る・・・さっきから心臓の鼓動が早鐘の様に鳴っているのを、陛下に聞かれてしまうもの。

夕鈴の頬は、熟れた桃の様に上気している。
両手を頬に当てて、少しでも熱を下げようとしている。
そんな様子を満足気に見ているのは、深紅の双眸。

「夕鈴・・・・・約束だからね。僕がいいと云うまで、僕の傍を離れないで。僕の唯一の妃は君なのだから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はい。」

夕鈴は、気づく筈もない。
バイト妃が必要な間は、頑張って偽妃役を引き受けるくらいにしか思っておらず、自分が今、正に・・・・人生における重大な決断をした事に。

黎翔は口角を上げて、艶然な笑みを浮かべる。

―――僕は、一生離れてもいいなんて云わないからね。
悠鐸殿には、決して渡さないよ。
これで、夕鈴は僕だけのモノ。

確たる答えを得た黎翔は、それに安心したのか・・・抱きしめていた腕を緩め、夕鈴を解放する。
そして目の前の夕鈴に、ニッコリと笑いかける。

「時に、夕鈴。」
「はい。」
「何処に行こうとしていたの?」
「えっ??え~~~と・・・・・・・あっ、お酒を買いに行く所だったんです!!!」

本来の用事を思い出した夕鈴は、財布を抱えて、裏門から駆け出して行く。
黎翔は、その後を当然の様についていく_______足取りも軽やかに。

二人並んで歩く後ろには、街燈の明かりで影が長く伸びている。
影は寄りそって伸びており、その様子はとても仲睦ましく見えたのだった。


*****************


さて、その頃。
汀家の居間では、悠と岩圭が二人で残り少ないお酒を酌み交わしていた。

「そう言えば、あなたは黄稜国の方でしたね。」
「はい。」
「黄稜国のお役人ですか?」
「ええ、そのようなものですね。」

岩圭の問いに、是とも非とも云わない曖昧な答えを返す。

「そうですか・・・・そう言えば、ウチの娘に頼みごとをしているみたいですが、ウチの娘でお役に立てますかね。」
「ええ、夕鈴さんには本当にお世話になりまして・・・・実は、人探しをしているんです。それを、夕鈴さんに手伝ってもらっているんです。」
「ほう、それで見つかったんですか?」
「イエ、それが中々見つからなくて、今日はやめにしてここに招いてくれたのですよ。」

悠は、今日の出来事を簡単に岩圭に話して聞かせる。
岩圭は、その話を酒が並々入った杯を口に運びつつ、興味深く聞いていた。

「探し人ね~~~~~そりゃ、この王都じゃ、広過ぎて難しいでしょうね。」
「ええ。」
「名前なんかはわかっているんですか?」
「名前ですか・・・・・悠那(ゆうな)です。年は30代後半の・・・・・。」

『ガチャン!!!!!』

悠の言葉を遮ったのは、陶器の割れる大きな音。
床に飛び散ったのは、岩圭がさっきまで手にしていたお酒の入った杯の割れた欠片と杯に残ったお酒。

「悠那(ゆうな)・・・・・・ですか!!!」
「はい、そうです!!知っているのですか????」

岩圭は小刻みに震えており、悠の問いは聞こえない様子だった。

「あの、何か知っているんですか?そうだったら、教えてください。」

悠は、再度訊き直す。
けれど、目の前の岩圭は黙ったまま。
砕け散った酒杯の欠片を拾い集めている。

二人の間に、『沈黙』という暗雲が垂れこむ。

絶対、何かを知っている筈だ。
でなければ、あんなに震えたりはしない・・・・。

悠は確信を持ったが、答えを得る事は出来なかった。

仕方なく、悠は杯に入った並々の酒を一気に飲み干す。
杯の中のお酒はほろ苦い味がした。

空になった杯を手持ち無沙汰に持っていると、その杯に岩圭がそっとお代りを注いでくれた。
その行動に驚いた悠が顔を上げると、そこには岩圭の肝の据わった表情が。

「貴方の母上は、悠那さん・・・・と仰るんですね。」
「はい。」
「黄稜国の王妃であった方ですね。」
「えっっっ、それをどうして???」
「そして、貴方は現在の黄稜国の国王様。」
「・・・・・・・確かにそうです。」
「それを娘は知っているのですか?」
「いいえ、それは知りません。」

そこで嘆息を吐きだした岩圭。
二人の会話はポツリポツリと続く。

「まぁ、夕鈴が此処にいなくて良かった。あの子には聞かせたくない話ですからね。」

居間には岩圭と悠の二人。
青慎はとっくに自分の部屋で勉強を始めてしまったらしく、台所にもいない。

「で、母上は・・・何処に。」
「・・・・・・・此処にはいません。」
「いない??では・・・何処にいるんですか??それに此処には・・とは如何云う事ですか??」

悪い予感が悠の頭を駆け巡り、岩圭に質問を畳みかける。

「ふぅ~~~。まずは落ち着いて下さい、悠殿。」
「はい、スミマセン。」
「まずは、此処にいないと云うのは・・・昔はここで暮らしてました。そう、私の妻として・・・・そして・・・・現在は何処にもいません。」
「それは・・・・もしかして。」
「ええ、もうお察しかと思いますが・・・・・他界しました。」

歯切れが悪そうに語る岩圭。
衝撃的な事実を突き付けられた悠は蒼白な顔色で、岩圭の話に耳を傾ける。

「他界・・・・したのですか・・・・・・それは、いつ??」
「そうですね、もう随分と昔になりますね。何しろ、子どもたちが幼い時でしたから。」

大きな溜息と共に項垂れる悠。
それを岩圭は難しい表情で見詰める。

「では、一つ聞いてもいいですか?」
「なんでしょう・・・・・何となく貴方が仰る事は解る気がしますが。」
「夕鈴さんは・・・・・。」

悠は言葉が詰まる。
それは、一番聞きたくない答えであったし、
確かめたくない事だったから。

「夕鈴は、私の実の娘では有りません。悠那が黄稜国から連れてきました・・・・生まれたばかりの時に。」
「・・・・・・・。」

自分が愛しいと感じた感情は、愛ではなかった。
それは、血がもたらすものだったのだ。

悠は愕然とした。
杯を持つ手が震えてくる。

初めて欲しいと思った女性だった。
妃にしたいとまで思った。
なのに・・・・・それなのに・・・・。


「あの、この事を夕鈴さんは?」
「勿論、知りませんよ。知らせるつもりもありませんがね。生まれはどうにしろ、あの子は私の娘なのですから。だから、黄稜国にも渡すつもりもありませんよ。」

岩圭はきっぱりと悠に告げる。

「わかります・・・私も夕鈴さんには伝える必要はないと思いますし、黄稜国に連れて行く事もしません。政治の道具に使われるのはまっぴらですから。」
「そうですか・・・それは、有り難いです。」
「しかし、どうして母は貴方の妻と為ったのですか??」
「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


岩圭の話は、長い話だった。

まず、自分が生まれた頃・・・黄稜国は密かに内乱の準備がなされていたらしい。
そして王宮にも暗殺者は何度も入り込み、決して安全ではなかった。

そんな中で時を同じくして生れた、次の国王と為るべき自分と妹姫である夕鈴。

前国王である父王は、内乱を収めるべく地方へと赴き。
王宮には、母である妃と生まれたばかりの二人の子供たちだけだった。

そして運命の夜。

その夜は風が激しく吹き、雨が窓に叩きつける様な豪雨だった。
そんな中、早馬が王宮についた。

____________それは、父王が暗殺者の手に因って害された事を知らせるものだった。

母である妃は、王宮にいては二人の子ども達も危ないと身の危険を感じ。
直ぐさま、王宮から身を隠す事したのだが。
途中、自分だけ・・・・・母から引き離され、臣下の手によって前々国王である祖父の元に匿われた。

そして、母は・・・・何度も追手に追尾されながらも妹姫を守り抜き、白陽国に逃れたとのことだった。

「どうして、母は国に戻らなかったのですか?」
「それは・・・・夫であった国王の死が心に強く影響して・・・心の奥深くにその事を沈めたのです。」
「つまり・・・忘れてしまったと。」
「そうなりますね・・・・。」
「そうだったのですか。」

岩圭は苦しそうに事実を吐きだした。
いつかは語らなければならないことだったのかもしれないが。
でもこんな事は、自分の胸の奥にだけ収めておきたかった筈だ。

その事を悠は察して、それ以上岩圭に尋ねる事はしなかった。

「話して下さって有難うございました。私は帰ります・・・・夕鈴さんによろしくお伝えください。」


そう言い残すと、悠はそっと出て行ったのだった。






続。


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臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り






悠から逃げるように玄関口に出て行った夕鈴。
その肩先に残る悠が触れた手の感触。

頬がまだ熱い。
でも早く冷まさないと・・・・・・玄関先には陛下がいる。

夕鈴は、大きく深呼吸をして自分自身を落ち着かせようと試みる。
そして務めて明るい声で迎え入れる。

「お帰り~~~~青慎達、どうだった??」

「姉さん、几鍔さんと逢ったんだけど・・・・・。」
「みたいね。」
「夕鈴・・・・・・・・・。」

黎翔は何か言いたげに夕鈴を見詰める。

――陛下のあの視線が気になる~~大方、几鍔の事だろうけど・・・どうせ、あの馬鹿が陛下に突っかかったのだろうし。
――あの後、夕鈴は悠鐸殿と何が有ったのか・・・・・聞きださなければ。

二人の思う事は重ならず。
見つめ合う二人に、何とも言えない空気が渦巻く。

「李翔さんも、お疲れさまでした・・・・宜しかったら夕餉を召し上がって行って下さい。」
「夕鈴の作ったもの?」
「はい、お口に合うか解りませんが・・・。」

夕鈴の先手勝ち。
黎翔は中々食べる事が出来ない夕鈴の夕餉ということで、取り敢えず追求する事は辞めたのだった。

居間に戻ると、既に悠は長椅子に腰かけて寛いでいた。
夕鈴はホッと胸を撫で下ろす。

「あの・・・・私は夕餉の支度が有りますから・・・・李翔さんもどうぞ寛いでいて下さい。」

逃げるように台所に向かう夕鈴。

これ以上、悠と一緒の場所にいる事は避けたかった。
否応なしに先程の事を思い出してしまうから。

きっと表情に出てしまう。
それを陛下には見せたくはない。

それは賢明な選択であった。
何故なら・・・・その後、居間で繰り広げられる二人の王の会話を聞かずに済んだのだから。

台所に入った夕鈴は、まずはお茶の準備に取り掛かる。
それを手伝おうと後から入ってきたのは・・・青慎。
居間に残してきた二人が醸し出す剣呑な空気に圧倒されて、台所に退避してきたのだ。

「姉さん・・・・・・・僕がお茶を淹れるから。」
「あら、そう。じゃあ青慎にお願いして、私は夕餉の準備を始めるわね。」

居間の雰囲気など、全く気がつかない夕鈴はさっさと鍋を出して、今ある材料を確かめる。

「今日は・・・・何にしようかしら・・・。」

正に台所は聖域だった。


**************


居間に取り残された二人。
どちらとも話しだすきっかけをつかめず、怪しげな空気が流れる。

お互い、聞きたい事はあった。

悠は黎翔と夕鈴の関係。
黎翔は二人でいなくなった後の事。

どちらが先に話し出すのかを図り・・・・・今か、今かと待っていた。

「黎翔殿・・・・・聞きたい事が有るのですが。」

切り出したのは、黎翔の纏うオーラに圧倒された悠だった。

「悠鐸殿・・・・ここでは李翔と呼んでほしい。」
「あっ、そうでしたね・・・・では私の事は悠とお呼び下さい。」
「で、なんだろうか。」

悠はゴクリと息を飲み、話し始めた。

「では、李翔殿・・・・・・夕鈴さんは、市井の情報を得る為の協力者ですよね。」
「ああ・・・・。」
「王宮で掃除婦をしている彼女が、実家に帰省するときに怪しまれないようについて来ると。そう、上司として・・・・・ということでイイですよね。」
「そうだが・・それが何か?」
「いえ、ならイイのですが。」

―――夕鈴さんの想い人は黎翔殿ではないのか。

悠のあからさまにホッとした様子に、黎翔はいぶかしむ。

―――どうして・・・・そんなことを確認するのだろうか。
まぁ、いい・・・今度はこちらから聞いてやるのだから。そこで真意を探れば良いか。

「悠殿・・・・先程は夕鈴と一緒にどちらに?」
「ああ、それでしたら、商店会の事務所とやらに行きました。そこにおかみさん会の世話人がいるとのことで。」
「そうであったか・・・それで首尾は?」
「ダメでしたよ。見つかる所か、手がかりすらも。」
「では、その後は何処に?」
「後は、もう考えつく所はないと夕鈴さんが仰って、ここに戻って来たのですよ。」

当たり障りのない会話が繰り広げられていた。
しかし、二人は機会を窺っていた。

いつ、切りだそうかと。
夕鈴との事を。

二人の間に沈黙の風が吹き抜ける。
そして風が止まり、重なる二人の言。

「あの、李翔殿。」
「悠殿、聞きたい事が。」


「如何されたのだ?悠殿。」
「では、私から・・・・・・李翔殿、実は・・・・夕鈴殿をわが国に迎えたいのですが。」
「????」

一瞬、黎翔の動きが止まる。

―――夕鈴を黄稜国に?

そして絞り出すような、黎翔の言。

「夕鈴を黄稜国に迎えるとは、如何云うことだろうか??侍女に・・・ということだろうか?」
「まさか!!!僕の妃に・・・ですよ。」
「妃?????いや、彼女はただの庶民だが。」
「ええ、構いませんよ。」
「構わないと??」

悠の凛とした態度に、嘘いつわりが無い事を黎翔は悟った。
そして・・・・自分がいない時に夕鈴と悠の交わされた会話を模索する。

「・・・・夕鈴は何と?」
「ハッキリとした返事は頂けなかったですが、好感触でしたよ。」

悠は黎翔を牽制する意味で、夕鈴が示した態度とは裏腹な答えを返したのだった。
そして悠の言葉に、黎翔の胸の内は荒れ狂っていた。

夕鈴は、悠鐸殿の『妃』として黄稜国へ行くだと??
では、今まで私に云ったことは、偽りだったのか?

『花嫁は狼陛下の味方ですよ』
『私は側にいますよ』
・・・味方だと、側にいると云っておきながら、悠鐸殿についていくのか?

『プロの臨時花嫁っていうのは、どんな時も貴方を寂しがらせたりしないかっこいい妃のことですよ』
・・・夕鈴がいない王宮は寂しいモノになるとは思わないのか?

『貴方が困っている時、支えられるくらい強くなりたい』
・・・私は、困っているんだ、夕鈴。君がいなくなるのは困るんだ。

黎翔は自分の中で荒れ狂う感情が、どう云うものであるのかはハッキリと感知してないものの、その感情を持て余してイライラする気持に支配されていた。

「悠殿・・・彼女は、この下町にいるべきだと思うのだが。」
「そうでしょうか?あの器量でしたら、立派に一国の妃としても大丈夫だと思いますが。」
「そうは云っても・・大臣たちが黙ってはいまい?」
「そんなことは大丈夫ですよ。夕鈴さんに王である僕との子が出来れば、誰も何も云えなくなりますよ。」

悠は全くと云っていいほど、夕鈴が庶民である事なんて気にはしていない。

夕鈴の幸せは・・・夕鈴が決めること。
だったら夕鈴が望むので有れば、黄稜国に行くのがいいのだろうか。

黎翔のわだかまる気持ちは止まらない。
そしてイライラ感は最高潮に達しようとしていた。

その時。

「ただいま~~~~って、あれ???お客さんかい?青慎??」

呑気な声が玄関口から聞えてくる。
そしてその声は足音と共に近付いて来る。

「今日は父さん、飲んでこなかった・・・・んだ・・・よ。って・・・アンタ達誰だい??」

そう、入ってきたのはこの家の家主である汀 岩圭である。
黎翔と悠の二人の間に走っていた緊張感は一気に崩れ去っていった。

「あっ、父さん!!!今日は早いんだね。」

そしてまた一人、この緊迫感を切り崩す人物が居間にやって来た。
お盆を手に入ってきた青慎である。

「青慎・・・今日は夕鈴も帰って来ているようだが・・・このお客人は、夕鈴のお客かい??」
「そうですよ。姉さんの上司の李翔さんと姉さんに頼みごとをしている悠さんだよ。」
「それは、夕鈴がお世話になってます。」

のらりくらりとしていても、岩圭も一応人の親。
娘がお世話になっていると云うことで頭を下げて挨拶をする。

「夕鈴のお父上でありますか・・・私は李翔です。」
「あっ、申し遅れました、私は悠です。」

岩圭に触発される様に、二人も慌てて挨拶する。
その丁寧な様子に岩圭は上機嫌になり、台所の夕鈴に大声で酒を持ってくるように頼む。

どうやら、この二人相手に酒盛りでも始めようという魂胆らしい。
青慎は少し父の様子に溜め息をつきながらも、台所で酒盛りの準備を始めたのである。




「ささ、どうぞ」

岩圭は黎翔と悠に杯を差し出し、酒を並々に注ぐ。
二人はそれを丁寧に受取り、一気に煽る。

黎翔は、悠が宣言したことを忘れたいがため。
悠は夕鈴からの色よい返事がもらえなかった事を忘れたいがため。

二人の思惑がどうであれ・・・・その酒の味は、ほろ苦いものであった。

夕鈴が運んできた料理と相まって、酒の量も進んでいく。
それもそうだろう・・・元々岩圭はいつも飲み歩いているし、国王二人も酒宴だなんだと、お酒を飲む機会も多い。
そんな三人で飲んでいるのだから、酒の減り具合も半端ではない。

「姉さん・・・・お酒足りなく為ってくるよ。」

青慎がそっと耳打ちしてくる。
それは夕鈴にもわかってはいる事。

「わかっているわ・・・大丈夫、私が買いに行ってくるから。」

そっと席を立ち、裏口から出ていく夕鈴。
その姿を、黎翔は見逃してはいなかった。




「夕鈴・・・・・。」

後ろから声を掛けられ振り返る夕鈴。
そこには、ほろよい気味に見える黎翔が立っていた。

「李翔さん、どうかされました??」
「何処に行くの??」
「えっ??お酒を買いに行くんですよ。」
「違う!!!」
「違うって・・・・いえ、違いませんよ。」
「夕鈴は・・・・夕鈴は、悠殿と共に黄稜国に行ってしまうんだよね。」

月明かりに見える黎翔の切なげな顔。
夕鈴は胸が締め付けられる感覚に苛まされる。

―――どうして、そんなことを云うの??私は・・・・私は陛下のことが・・・好きなのに。

不意に一滴こぼれた涙。
その滴が、仄かに光る。

「夕鈴・・・泣いているの?」
「泣いてません。」
「そんなことは無い、泣いてる・・・僕にはわかる。」
「だって・・・・私はクビなんでしよ!!!」
「えっ??」
「だって、悠さまと行くだなんて・・・そんなことはある筈が無いのに・・・私は・・・。」

一滴が呼び水になったのか、ポロポロ後から零れ落ちていく。
次第にヒックヒック云いだしてしまった。
もうこうなると自分じゃ止められない。

「夕鈴!!!」

駆け寄って来た黎翔の腕が、ふわりと夕鈴を包む込む。
優しく・・・壊れものを抱く様に。

「へ・・・い・・か?」
「ここじゃ、李翔だよ。」
「・・・そうですね。」
「夕鈴は僕の妃でいてくれるの?」
「クビにならない限りは・・・。」
「そっか。」

それきり二人は黙り込む。
そして優しく涼しげな風が吹き抜けていった。



続。


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――― 一体今日って云う日は・・・・何なんだ。夕鈴は勝手に悠殿と行ってしまうし、金貸し君は不機嫌そうな顔でやって来てるし。

黎翔は次第にイライラ感に支配されていくのを、自分自身で感じていた。
何となく黎翔の様子がヘンだと感じた青慎は、おずおずと話しかけてみる。

「あの・・・李翔さん、几鍔さんのことは・・・?」
「ああ、知ってる。」
「そうですか・・・・何か、姉さんから聞いてますか?」
「夕鈴からは、金貸しの家の息子だと。」
「・・・・・・姉さんは逢えば喧嘩ばっかりしてて、目の敵にしてますけど、ホントは几鍔さんスッゴクイイ人なんです!!!誰もいない我が家を見回ってくれていたり、何かと面倒をみてくれるので。」
「そう、なんだね・・・・。」

隣りにいる黎翔は微笑んではいるが、その笑顔に何か違和感を感じて背筋に冷たいものが走る。
これ以上、この話題は振らない方がいいと直感的に感じて、青慎は静かに口を噤む。



そして、この下町の悪童を取り仕切る几鍔が、子分を従えて現れた。


「おう、青慎じゃないか!!元気か??」
「はい、元気ですよ。いつもウチの周りを、見回ってくれて有難うございます。」
「気にするなよ!!ついでだしな!!!」

そこで、几鍔は青慎の隣りに立つ黎翔に目が向く。
目を細めながら、黎翔に牽制をかける。

「おう、久々だな!!王宮のお役人ってのは、相変わらず暇なんだな・・・・・っと。あっん??じゃ、アイツと一緒なのは誰だよ。」
「アイツとは・・・?」
「色気のねぇ、馬鹿女だよ。」
「・・・・・・・・・姉さんが今一緒なのは、悠さんだと・・・思う。」

青慎がおずおずと会話に入り込んできた。
李翔と几鍔___二人の視線がかち合う所に火花が散っている様に見えたので、思い切って間に入ったのだ。

「悠???誰だよ、そいつ!!!またあの馬鹿女は、オトコに騙されているのかよ!!」
「騙すだなんて、人聞きが悪いな、金貸し君!!僕は夕鈴を騙したりしてないが。」
「はん???其れはどうだか!!」
「じゃ、聞くけど、一体君は夕鈴の何なんだ?」

ついに勃発。
そこに当事者の夕鈴はいないというのに、殴り合いにはならないものの男性二人の静かな闘いが始まったのだ。
そうならないように青慎が間に入ろうとしたが、それは徒労に終わってしまう。

「オレか?オレは幼馴染だよ。」
「夕鈴は認めてないようだが。」
「アイツが何と言おうと、幼馴染なんだよ!!!じゃあ、そっくりそのまま聞いてやるよ!!お前は如何なんだよ!!」
「夕鈴は大切な女性だ・・・私にとって。」
「それじゃ、答えになってない!!」
「あの・・・・・・・あの・・・・・・李翔さん、几鍔さん。ここは・・・・・・往来なんですが。」
「前にも言ったが、テメーはテメーの領域(テリトリー)で女を見繕えばいいだろ!!アイツにチョッカイ出すな!!」
「金貸し君に、そんなことを言う権限はないと思うが。」

二人は徐々にヒートアップしていく。
お互い、一歩も引く気配も無く。
正に一触即発。

勇猛果敢に声をかける青慎だが、二人は全く聞いちゃいない。
このままだと往来に人が集まってくる・・・・と周りの皆が思い始めたその時。

別の子分が息を切らし走り込んできた。

「几鍔さん!!!あっちで、殴り合いの喧嘩らしいっす!!!しかもいつもの隣街のガラの悪い連中が、暴れ回っているらしいです!!!」
「そうか、わかった!!!!まっ、そう云うことだから、オレは行くが、くれぐれもアイツに手を出すなよ。」
「ここでは・・・・・出さないよ。一人占めも出来ないのに。」
「ああ??なんか言ったか??」
「別に~~。」
「あっ、後・・・今一緒だとかいう男もどんなヤツかは知らねえが、
青慎!!!気をつけねぇと、アイツ、ボロボロにされちまうからな!!!」
「几鍔さん、有難うございます。でも多分、大丈夫です。ああ見えて、姉さんシッカリしてますから。」

その青慎の言葉を聞いて、安心したのか・・・・几鍔は振り向きもせずに、駆け抜けて行った。

「全く、嵐みたいだったね。」
「・・・・・はい。」

――いえ、几鍔さんだけのせいではないと。

青慎は、頬を引きつらせながら、笑顔を保っていた。
黎翔は言いたい事は言ったので、スッキリとしたのか晴々とした表情だった。


「くっしゅん!!!」
「大丈夫ですか?夕鈴さん。」
「はい・・・大丈夫ですけど、さっきから、くしゃみが止まらなくて。」
「それは誰かが、噂しているんですよ。夕鈴さんは可愛いって!!」
「そんなことは無いですよ~~~悠さまは褒めるのが上手いですね。でもきっと、何処かの誰かが悪口でも言ってるんですよ。」

夕鈴は当てずっぽうで答えてみたが、見事にまるで見て来たかのように言い当てていた。
本当に往来で自分の話題で男性二人が大喧嘩していた事を聞いたのは、夕方青慎と合流した後の事だったが。

聞いた瞬間、顔を真っ赤にさせて
「何、往来でそんなことを言い合っていたんです??恥ずかしいじゃないですか~~~!!!!」
と黎翔に大声で怒鳴ったのは言うまでも無い。


*******



几鍔来訪を感じとって、悠と手を取り合って逃げた夕鈴。
その後、往来で几鍔と黎翔が言い合いをしている事なんてトンと知ることも無く、人探しを続けていた。

「夕鈴さん、今度は誰に尋ねるのです??」
「商店会のおかみさんの世話役に聞こうと思います。」
「女性の事は女性に聞くのが一番です!!!・・・・だって、長老たちが知らないと為ると後はあの方々に聞くしかないもの。」
「お世話掛けます。この御礼は如何すればいいのでしょうか。」
「そっ、そんな、気にしないで下さい!!!私が気になってお手伝いしている事なのですから!!」

夕鈴は、隣りで深々と頭を下げる悠に恐縮する。
顔を見合わせニッコリ笑うと、二人は商店街の中心に建っている事務所を目指す。

「それにしても、あの二人は大丈夫なのでしょうか・・・・。」
「・・・・・・・えっ、あっ、そうだった!!置いてけぼりにしてたんですよね。まぁ、青慎もいることだから、だいじょう・・・ぶでしょう。」

アハハ・・・と乾いた笑いで誤魔化す夕鈴。
青慎が気を利かせてあの場をさっさと立ち去ってくれていればいいが、
陛下と几鍔が鉢合わせしていたら・・・・・考えたくない事態に夕鈴は頭(かぶり)を振る。

それを打ち消すように『さぁ、行きますよ~~』と悠の手を引き、先を急ぐ。
程なくして、目的地に着くと夕鈴は躊躇することなくと中に入っていく。
後からゆっくりと続く悠。

四半刻もしないうちに、肩を落として出て来た二人。
ここも空振りだった。

皆、口をそろえ『悠那という女性は、知らない』と判で押した様な回答が返ってきただけだった。

「はぁ~~~もう、お手上げです!!もうすぐ夕刻ですし、ウチに帰って夕餉でも食べませんか?それから明日の作戦を立てると云う事で!!!」
「それは構いませんが・・・・夕鈴さん、迷惑なんじゃ??」
「大丈夫ですよ!!恐らく李翔さんも召し上がっていかれると思いますし。」
「彼も、一緒に食べるんですか??」
「えっ、ええ。」

悠は、目を見開いて驚いていた。
狼陛下と異名を取る黎翔が、ただの庶民の家で食事を取っているとは全く想像もつかず。

悠は・・・夕鈴が仮であるが、黎翔の妃とは知り様も無く、下町での協力者だとしても黎翔が食事を共にするとは考えにくい事だった。

「では、一足先に戻りましょう。」
「はい・・・では宜しくお願い致します。」

二人は足早に家路につく。
背中に落ちゆく陽の光りを浴びながら。


家に戻るとまだ青慎たちは戻っておらず、静まりかえっていた。
取り敢えず悠を居間へと通し、長椅子を勧める。
そして、自分はお茶の準備を・・・と台所に去ろうとした。

その時。

後ろから長い腕が伸びてきて、去りゆく夕鈴を引き留めていた。
そう、夕鈴は悠に肩を抱かれてしまっていた。
夕鈴は、いきなりの行動に驚きながらも、気恥しさから頬が薄桃色に染まっていた。


「悠さま・・・・・・なっ、なにを!!」
「夕鈴さん、このままでいて。」
「で、でも!!」

逃れようとして、もがいてみても、そこは中性的にみえても悠は男性。
力強く抱かれていて逃れられない。

「夕鈴さん、僕の無理な願いに付き合ってくれて有難うございます。貴女のように、何の得もないというのにこんなにも親身になってくれる人なんて、僕の傍にはいないんです。皆、見返りを求めてばかり・・・・・だから、僕はそんな裏表のない貴女に惹かれているんです。僕の国に来ませんか?・・・・・・その、僕の唯一人の女性になってほしいんです!!」

「えっ、ええっ~~~そんな・・・・・。」

夕鈴は突然の悠の申し出に、なんと答えて良いのかわからなくなる。
背中から抱かれていることもあり、そのまま動けずカチコチになる。

「あのっっ!!そんな!悠さまに親身になってくれる人もいますよ。私じゃなく。」
「それって、ダメだってこと??」

「いえ、その・・・・・私、好きな・・・・人が・・・・いるんです。」

「そう、なんだ・・・・・その人とは将来の約束でもしているの?」
「それは・・・・・ないです。私が一方的に思っているだけで。」
「じゃあ、僕にもチャンスはあるよね!!!だって夕鈴さんの想いが叶わないことだってあるのだし。」
「――――。」

夕鈴は、少し面喰って瞳を見開く。
悠の積極的な一面を見てしまったと云う事や、諦めないと云われたことに対して、どう答えていいのかわからずに。

『ガラッ』

「ねぇさ~~~~ん、帰ってる???」
「青慎!!!」

玄関口から声が聞えて来た事に、ビックリして悠は夕鈴の肩から腕を外す。
やっと身体の自由を取り戻した夕鈴は、駆け足で玄関口に逃げて行く。

「あ~~あ、あと少しなのにね。でも、夕鈴さんの想い人って・・・黎翔殿ではないよね・・・・まさか・・ね。」

一人居間に取り残された悠は腕を組みつつ、自分的にはあってほしくない現実を考えていたのだった。





続。


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「それにしても、夕鈴は全く人が良いんだから・・・あの悠って云ったっけ、黄稜国の官吏の人探しなんか引き受けて・・・急に居なくなるから心配したんだよ。攫われたのかと・・・。」
「スミマセン・・・あんな書き置きだったら心配になりますよね。ただあの時は、ああ書くしか思い浮かばなくて。」
「まぁ無事に見つかったから安心したけどね。それにしても夕鈴が知ったら驚くよ、悠鐸殿の正体は・・・そして、探し人か・・・・其れも母上とは。」
「李翔さん、何か云いましたか?」
「いや・・・夕鈴が無事でよかったってことだよ。」
「はい、有難うございます。」


―――それにしても、悠鐸殿の母上?幾ら友好国と云えど、一介の掃除婦に話しても大丈夫なのか?これは黄稜国の一大醜聞だぞ。
それほどまでに切羽詰まっていたというのか??

「ねぇ、夕鈴。当てはあるの?」
「そうですね・・・・飯店で聞こうと思ったんですが、其れは後にするとして・・・・さっき思い付いたんですが、このあたりの長老と呼ばれる方々に、聞いてみようかと。」
「・・・・・そうだな。」

二人は普段集会所の様になっている、昔から操業している茶店に行ってみることに。
黎翔は二人きりで歩いているのが嬉しくて、隣りでブラブラさせている夕鈴の手をさり気無く取ってみた。

「☆!★・・・・・あの・・・・手。」
「??何か云った?夕鈴。」

二ヤリと意地悪く微笑む黎翔の行為を、誰が止められよう____熟れた林檎の様に色づく頬と、徐々に上昇していく体温にじっと耐えるだけの夕鈴。

「いえ・・・・何でもないです!!」
「そう?」

―――夕鈴の承諾も得られたことだし、張り切って人探しでも何でもしようではないか。

―――此処は往来で、しかも下町・・・そして私は今は一介の庶民。陛下が手を取る必要はない筈。でも、振りほどけない私がいる、それに喜んでさえいる。これって許されるというの?

夕鈴の自問自答が続く中、平然と手をシッカリ握ってウキウキの黎翔であったが、其れを邪魔するものが目の前に飛び込ん来た。

「あ~~見つけた!!!李順さんが帰って来いってさ!!」
「浩大・・・・・・・お前な。この状況を把握した上で声を掛けたのだとしたら、その度胸だけは買おう。」
「・・・・・・・・やべっ、すいません。オレっち、帰ります。」
「ねぇ、浩大。イイところに来てくれたわ。此方の方にお帰りになって欲しいのだけど。」

夕鈴は繋がれた手をさっと離し、黎翔との距離を取る。
距離を取られた黎翔は・・・・・勿論良い感じがする訳がない!!

―――マズイところに声掛けた感じだよな。これはどうにかして元に戻しておかないと後が怖いことに。

「あっ、まだ帰れそうにないって報告しておきますです!!」

―――ここは退散するのがオレの為!!!

「そうだな、そう云っておいてくれ。頼んだぞ、今すぐにな。」

紅い瞳が鋭く光り、射殺しかねない形相になっている。
自分自身の保身のため、浩大が素早く夕鈴に耳打ちする。

「お妃ちゃん、陛下の事頼んだよ。オレが李順さんの方をどうにかしておくからさ・・・帰っても絞られないように。」
「????」
「だから・・・・兎に角、オレを助けると思って。」

其処まで云うと、浩大は『失礼!!』と断りを入れて夕鈴の手を取り黎翔の掌に乗せてニタッと笑った。

夕鈴は訳が解らず、でも浩大の助けてって云う必死な瞳を受けてそのままにしておいた。
黎翔は当然とでも云う様に、その乗せられた手をシッカリと握り、破顔したのだった。
其れを見た浩大がホッと胸を撫で下ろして、その場をさっさと後にした。
これ以上実害が及ばぬうちに。

浩大が消えて行ったのを確認したうえで、黎翔は繋いだ手を引っ張って探し人再開を促す。

「夕鈴、早く行こうよ。」
「えっ・・・そうですね。」

二人の長い影が道に伸びていくのを、木立ちのてっぺんで見守っているのは追い返された筈の隠密。
見られているとは気付かない夕鈴は、目的地に向かってスタスタ歩いていくのだった。

そして着いた先は、町中の一角にある茶屋。
長老たちは、日がな一日お茶を手に屯って、人生についてかどうかは分からないが、
議論を交わしている場である。

「「あぁ~~~~~、青慎(姉さん)も此処にきたの??」」

その場所にたどり着いた夕鈴は、同時にやってきた青慎を見て声を上げた。
汀姉弟のピタリと重なる声に残りの二人は居ずまいを正し、後ろで苦笑いを呈していた。

「だって、下町の事は生き字引の長老たちに聞くのが一番かなぁ~と」
「青慎!!偉い!!さすがに私の弟だわ。官吏登用試験受かるのは、間違いなしよ!!」
「姉さんったら、こんなところで・・・。」

青慎が自分と同じ考えだった事に感動する夕鈴は、思わず満面の笑み。
そのまま青慎の隣りを陣取り、集会所となっている茶店の戸を力を込めて開く。

「さぁ、行くわよ!!」

青慎を引き連れてズンズン入って行ってしまい、残されたのは黎翔と悠の二人。
夕鈴の後についていくのかと思いきや、その場で立ち止まり茶店の入口を見詰めていただけだった。

「・・・・・・全く、夕鈴は必死になると、周りが見えなくなるな。」
「そうみたいですね。」
「それにしても、これって『置いてけぼり』ってことだな。」
「そうなりますね。入りますか?」
「いや、いい。これ以上、不用意に町のモノと関わるのは避けたいからな。」

そう云ったっきり、黎翔は腕を組んで道脇の壁に凭れて立っていた。
道行く若い女性達がすれ違いざまに振り返るのを、興味もなげに流し見していた。

其れを少し離れたところで観察している悠。
やはり、二人では会話なんて弾む筈もなく、ただ通りの喧騒だけが耳に入ってくるのだった。

「すみませ~~~ん、お待たせしました。ってあれ??お二人如何されましたか?」

離れた所で立って手持ちぶさたな二人を見つけると、夕鈴は二人の怪訝な様子への素直な感想が口から飛び出す。

「どうもしてませんよ・・・夕鈴さん、どうだったでしょうか?」

やはり結果が気になる悠が、先に口を開く。

「・・・・ゴメンナサイ・・・どなたに聞いても『悠那』って女性は、聞いた事はないですって・・・・。」
「そうなんですね・・・・・。」

悠の項垂れた様子に、夕鈴はどうにかしても見つけて差し上げたいと意欲が湧いてくる。

「諦めちゃ駄目ですよ!!まだ、捜しようは、きっとある筈ですから!!ねっ」

ニッコリ笑って、悠を元気づけようとする夕鈴。
その様子に黎翔がイイ気分な筈はない____________。

「では、夕鈴、また手分けして捜すことにするか。」

それまでは話にも加わってない様子だったのだが、ここにきて夕鈴を連れて行こうとする。

「ちょっ、ちょっと、李翔さん、待って下さい!!手分けするとして、またお互いが同じ場所にならないようにしないとですね・・時間の無駄と云うか・・・・だから・・・。」
「ああ、そうだな。」
「青慎、次は如何するの?」
「姉さんは?」
「そうね・・・・・商店会のおかみさん達に聞いてみようかと・・・女性の事は女性が一番だからね。」
「そうだね…じゃ、僕はどうしよう・・・・・あれ?あれは几鍔さん??」

青慎が指を差した先には、確かにまだ遠くであったが几鍔が子分達を引き連れて歩いてきている。

「やばっ!!なんでアイツが居るのよ!!」
「そりゃ、ここは下町だよ、姉さん。」

青慎の言葉を聞き終る前に、夕鈴は隣にたまたま立っていた悠の手首を掴んで、全力疾走でその場から逃げ出したのだった。

―――冗談じゃない!!!この王宮関係の男性二人と一緒の所を見られたら、何を云われるのか解ったもんじゃない!!!

夕鈴の素早い行動に、呆気にとられた黎翔と青慎はその場に茫然と立ち尽くし、几鍔と逢う羽目になる。

そしてその場を去った夕鈴と悠は、当初のおかみさん達に聞いて回ることを実行に移すべく、そのまま商店街へと向かったのだった。


続。


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夕鈴は、二人の先程とうって変わった表情に違和感を覚えていた。
特に悠の黎翔に注がれていた疑心めいた視線が無くなり、どうも愉しげな表情になっている事に、である。

「悠さま、会話は進んでましたか?」

敢えて黎翔に聞かないところが、夕鈴の察しのよさであった。
恐らく、黎翔に尋ねたところで、誤魔化しの回答しか返ってはこない事が解っているから。

「そうだね・・・結構、有意義な話しが出来たよ。」
「????」
「この方、白陽国の官吏の方でしょ!!僕も官吏だから、この国の情勢の事なんかを聞けたよ。」

ニッコリ無邪気な笑顔で、全くそんな会話が繰り広げられよう筈もないのに、ペラペラ話して聞かせていた。
夕鈴は台所だった為、二人の間にかわされた会話は知る由もないことから、適当なことを言ってもバレようない。

まさか、お互いの素性をバラシまくっていただなんて、思いも寄らないのだ。

「そうですか・・・それなら良かったです。それにしても悠さま、ホントに早く人探ししないと時間が有りませんが、お茶をしたらまた出掛けます??」
「そうだね、確かに時間はないよね。夕鈴さん、お願いしたいですがどうですか?」
「はい!!任せてください。」

悠の頼みに、夕鈴の顔がぱぁ~~と明るくなる。

―――人の役に立つって、ホントに嬉しい事だわ!!さっきはヘンなガラの悪い人たちのせいで中断してウチにくる事になってしまったから、張り切らないと!!

そんな夕鈴の様子に気に入らないのは、モチロン黎翔である。

―――大体、夕鈴は人が良過ぎる!!騙されたり、利用されたり・・・ってことも有るっていうのに。
全く人を疑うことを知らないんだから。

でも黎翔は解っていた____________其れが夕鈴の長所であり、魅力の一つである事を。

「じゃあ、早く飲んで出掛けないと!!ですね。」

夕鈴の合図で、四人は無言でお茶を飲み干す。
適度に冷ましてあった青茶は優しく口当たりがよく、乳香が強く鼻に抜けていく感じだった。

「これ、美味しいですね、夕鈴さん_!!」
「有難うございます。結構人気の有る茶葉で、売り切れている事が多いのですが・・・偶々知人が、先日持ってきてくれたみたいなんですよ。」

________知人・・・これは几鍔の事。
相変わらず、夕鈴が不在の汀家に入り浸っている様だ。
青慎の様子を見に来ているらしく・・・その際、色々なものを差し入れてくれるらしい。
夕鈴にとっては全くもって傍迷惑な話しである。
これ以上、アイツに借りは作りたくはないのだから。

まぁ、それはどうでもいいことなのだが・・・・悠の口に合ったので、夕鈴は一応心の中で几鍔に感謝してみたのだった。

「では、出掛けますか!!あっ、青慎も手伝ってくれる?」
「良いけど・・・姉さん、如何するの?」
「何が??」
「・・・・・・・李翔さんにも手伝って貰うつもりなの?」
「えっ??まさか、とんでもない!!!そんな事して頂かないわよ!!(陛下にそんな事させられる訳ないじゃない!)」
「夕鈴・・・まさか僕だけ仲間外れ??そんな事しないよね~~(冗談じゃない!悠鐸殿と二人っきりにさせられるものか!)」

黎翔の紅い瞳がキラリと鋭く光る________________誰にも有無を云わせない意志と共に。

「はぁ~~~解りました。では、李翔さんもお願いします。」

仕方ないと・・・夕鈴の方が根負けで押し切られ、黎翔に同行をお願いしたのだった。
当の本人はホクホク顔で、さっさと二杯目のお茶を飲み干した。


そして____________四半刻後、下町には普段見られないような奇妙な取り合わせの四人組が、下町を闊歩していた。
この異常な取り合わせが引き起こしているこの事態。
道行く人々が、振り返っていく。

但し周りの人はどんな取り合わせなのか解り様もなく、更に云えば汀姉弟も知り得ない事実__________一国を統治する若き王二人が共に歩いている事を。

「では、如何しましょう??何処から捜すのがいいのかしら??それにこのまま四人で歩いていても仕方ありませんし。」

―――それに・・あの二人、何故か目立つのよ。道行く人の視線が突きささってくるようだわ。

「・・・・そうですね。確かに、四人で同じ行動をしていてもですよね。では二手に分かれるほうが良いですよね。」
「では、如何すればいいかしら?」
「姉さんと僕ってことは?」
「それ、良いかも!!では、李翔さん、悠さま。お二人で・・・」

「良い訳がない!!」
「夕鈴さん・・・・其れはちょっと。」

夕鈴の提案を、即座に否定する二人。

其れはそうであろう・・・・これ以上腹の探り合いは勘弁したいし、装っている自分自身を見せたくはないのだから。

「・・・・・じゃあ、如何しましょうか?ここで、探し人の特徴なんかを話して・・・青慎と李翔さんで行っていただくと」
「どうして、そうなるんだよ!!!」
「だって、悠さまはこの下町をご存じないから、私が案内するのが一番かと。」
「では、青慎君でもいいと思うんだけど。」
「?????」

―――どうして解らないのか?夕鈴は・・・君は僕の妃なんだから。決して悠鐸どののモノではない事のだから。

―――どうして、陛下は頑なに悠さまと私が行くのを阻止しようとするのよ。

「はぁ、解りました。青慎、悠さまを案内してくれる?」
「僕はいいけど・・・・・・・・あの・・・宜しいのでしょうか?」
「では、お願いします。」
「青慎、シッカリお手伝いして差し上げてね。それじゃあ、夕刻にあの飯店で。」

____________二組に分かれた四人はそれぞれ別の方向に歩いていった。

夕鈴の横でホクホク顔で歩いているのは、モチロン黎翔である。
己の云い分が通った事にいたくご満悦の様子。

「もう・・・・李翔さん!!!さっきのは何ですか?」
「さっきって?」
「もう、しらばっくれないで下さいよ。私は真剣に悠さまの人探しをお手伝いしたいのですが!!!」
「だから、僕も協力してるんじゃない。」
「・・・・・・それに、王宮に帰らなくても良いのですか??黄稜国の王さまがいらしているというのに・・・。」
「あっ、其れなら全然大丈夫だよ。(だって、その本人が此処にいるんだから)」

黎翔は、片目を瞑ってニッコリ笑顔。
反対に大きく息を吐き出す夕鈴。

「今頃・・・・・・・李順さんはどうしているのかしら・・・・・・・帰るのが恐い。」

気がつけば、夕鈴は思っている事が自然に口について出ていた。

「大丈夫!!さっき浩大に報告に行かせたから。」
「・・・・・・・・・益々もって帰るのが恐いです!!」

夕鈴は歩きつつ、顔が引きつってくるのを感じ戦々恐々と為っていた。


こんなことで人探しなんて出来るの???
モチロン______________出来る筈なんてないのじゃないのよ~~~

__________夕鈴が胸中で大声を上げている頃。


王宮の執務室では、眉根を寄せて苦々しい顔つきで、浩大の報告を聞いている御人が。

「はぁ、では、夕鈴殿と居なくなったのは、黄稜国の国王陛下、その方であると?」
「そうだよン♬」
「更に・・・夕鈴殿のご実家で、陛下と鉢合わせて行動を共にしていると?」
「そう為るね~~~~。」

李順は湧き上がる苛々感に、更に頬が引きつってきている。

―――こええ、さすがに李順さんってとこか・・・お妃ちゃん、結構マズイよ!これは・・・・。

「それはまた、厄介な事ですね。何をやっているんでしょうね?夕鈴殿は・・・・・これは減給だけで済むと思ったら大間違いナノですからね。」
「でもさ、お妃ちゃんは不可抗力だったんだと思うよ。」
「・・・・・・・そうですか・・・・・解りました。では、陛下に速やかにお戻り頂くようにお伝え下さい!!!『もう探し人は見つかったのでしょう』と」
「りょ~~~~~か~~~い。」

―――但し、素直に戻る事はないと思うけどね・・・・。そんな事は李順さんでも解ってるだろうに・・・・側近って大変なもんだな。

浩大は、結果が解っている頼まれ事を遂行するために、また王宮を後にした。

そして李順は苛々の捌け口を、何処に向けるべきかが解らないまま、卓上の書簡を黎翔の卓上へと横滑りさせたのだった。

これで、黎翔が戻り次第、書簡に追われる事は必死。
そして夕鈴がこってり縛られるのは確実。

やっぱりいつも通りの光景が待っているのだった。

其れを予感しつつも、夕鈴は本格的に人探しを開始していた。



続。


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夕鈴の家までの道すがら・・・三人の様子はと云うと、全くもって男性二人は押し黙り、相手をチラリと見ようともしない。

そんな様子に業を煮やし、夕鈴が気を遣い取り止めの無い会話を始めた。

「あっ、ここの特売大根美味しいんですよ!!!特売だからって品が悪い訳じゃなくてですね、ここのおかみさんの心意気で安くしてくれているんです!!言うなれば、損して得取れって感じでしょうか。」
「そうなんだ~~夕鈴さん、本当にいいお嫁さんに為りますよ。何なら、黄稜国に来てみます??ウチの国の男性は、家事のシッカリできる女性を好みますから。」
「そうですか~~~でも私、行き遅れ気味なんですよ~~貰ってくれる人はいるのかしら??」
「「・・・・・・・」」

男性二人の間に飛び散る見えない火花に気が付いているのかどうかは定かではないが、ははは~~と夕鈴のカラ笑いがむなしく空(くう)を飛ぶ。

何だかこれはマズイと察した夕鈴が、また勇猛果敢に二人に会話を仕掛ける。

「そう云えば、先程のガラの悪い人たちは何処に逃げたんでしょうね。女性を口説くなら、紳士的じゃないと駄目なのに・・・あの方はもっと女心を学ぶべきです!!」
「そうだね・・・僕なら夕鈴をシッカリと心地よく口説く事は出来るよ。僕に口説かれてみる気はない??」
「李翔さん・・・・・冗談はそれくらいにして下さいね。全く本気にしてしまいますよ。そうですよね~~悠さま?」
「・・・・・・・。」

し~~~~ん。

静寂が三人を包む。
如何しようもないのでそのまま押し黙ったまま、ただ夕鈴宅に向かって歩を進めるだけ。

それを屋根伝いに追いながら見ている隠密・浩大。

―――おっもしれ~~~お妃ちゃん。あの二人を会話させようだなんて無理に決っているじゃん!!あの二人、お忍び中の友好国同士の国王だってんのに!!お互いこんなところで逢うのは、御免こうむりたいのにさぁ~~~。

余りの可笑しな光景にお腹をよじらせて笑う。
それで、屋根から落っこちそうに為るくらいだから世話が焼けない。

そんな調子でおかしな雰囲気を醸しながら特段会話が弾むこと無く、夕鈴の自宅へと辿り着いたのだった。

「あの・・・・ここです。狭いところですが、宜しかったら中にどうぞ。」

いつもなら黎翔だけなので直ぐに招き入れるところだが、今日は悠も一緒ということから遠慮がちに誘う夕鈴。

「あっ、では失礼させて頂きますね。」

一言断りを入れて門をくぐる悠と、対称的に勝手知ったるでズンズン入って夕鈴を手招きする黎翔。
そんな二人に頭を抱える夕鈴なのだった。

取り敢えず、中に入って確認すると誰も帰って来てはおらず、夕鈴はひとまずホッとした。
二人に居間の長椅子に座ってもらうと、そそくさと逃げるように台所へとお茶の準備をすると断わりを入れて、離れたのだった。

居間に取り残された二人に訪れる、何とも云えない気まずさ。
これまでは夕鈴がいたから、間に入って貰っていたので感じなかったが、改めて二人きりにされるとおかしな雰囲気に包まれる。

どちらかが先に話を切り出すのか________お互い、相手を牽制していたのだった。
お互いピリピリする空気を肌で感じながら、ただ其の時を待っていた。


果てしなく続くかに思えた沈黙の時が、突如一人の乱入者によって破られた。

「あれ??李翔さん!!いらしていたんですか???姉さんが帰って来てるんですね~だから戸口の鍵が開いていたんだ~」

ひょっこり人懐っこい笑顔で現れたのは、云わずのがなこの家の住人たる青慎だった。

「ああ、青慎君、久し振りだね。元気だったかい??」
「はい!!元気ですよ。先日、姉さんが送ってきてくれた元気が出る飲みモノのお蔭か判りませんが、最近睡眠時間が少なくても元気なんです。」
「元気が出る飲みモノ??」
「はい・・・茶色の小さな小瓶に入った・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・どんな味がした?」

二人は、悠がいるにも関わらず二人だけの会話を進めていた。
青慎はただの取り留めのない会話・・・そして黎翔にとっては悠との腹の探り合いの様な沈黙から解放される為の手段である会話だった。

「味ですか????甘い様な・・・ドロッとした感じでしたよ。」
「ふうん~~そうなんだ。」

―――一体どんなものを実家に送ったんだ、夕鈴は・・・怪しげなもので無ければイイのだが・・・献上品には無かった筈、何処から仕入れたのか?あとで聞いておかないとな。

そこで会話が途切れ、初めて青慎の視界に見知らぬ人物が映し出された。

「・・・・・・あの・・・・・どちら様ですか??王宮の方ですか??」

おずおずと尋ねた青慎に、ニッコリと微笑みを返す悠。

「私は、鐸 悠と申しまして、実は黄稜国の官吏です。ひょんなことから夕鈴さんと知り合いまして、お願い事を夕鈴さんにしたんです。するとこちらに案内されたんですが。」
「そうでしたか・・・・・。」

―――姉さんの面倒見の良さが、ここまできたんだぁ~~それにしても異国の人のお願い事かぁ・・・・姉さんに務まるのかなぁ。

これ以上は悠に詳しいことを聞くことを躊躇われた青慎は、台所にいるであろう夕鈴に事情を尋ねる為に居間を後にしたのだった。


居間にそのまま取り残された二人―――また沈黙が訪れると思われたが、今度はそうはならなかった。
__________何故なら、直ぐに黎翔の吐いた大きな嘆息のせいであった。


「はぁ~~~~全く、人の良さげな一般の官吏を演じるのも存外骨がおれるものだな。」
「????」
「そうは思わないか?悠鐸殿。」
「・・・・・・・・・・あの・・・やはり黎翔殿でしたね。」
「ああ、そうだが。市井の事をみるのに、王が我がモノ顔で町を闊歩しても実情は見えはしないからな。そこで身分を偽ってたまに町に出てくるのだ。そこで、あの掃除婦の娘を耳代わりに遣っているんだ。だからあの娘や家族は私の事を『李翔』と思って接している。だから私の本性や正体は知らないから、悠鐸殿も言動には気をつけられよ。」

黎翔は、尤もらしいことを並べ立て、更に一気に捲し立てる事により、悠を納得させたのだった。
悠は、明解な回答にナルホド!!と明るい顔で黎翔のことを見ていた。
そんな悠に、今度は黎翔が彼の不可解な行動をキッカリ説明してもらおうと、目を見開いて訊いたのだった。

「では、悠鐸殿は身分を官吏と偽ってまで、ただの掃除婦を従わせ何をしようとしているのか?」
「僕は・・・・・・人探しですよ。この王都にいるはずの人物を探しているんです。それで、偶々王宮の庭園で出逢った夕鈴さんに手伝って貰っているんです。」
「そうであったのか。」
「だから、見つかるまでは王宮には戻りません。ですので酒宴は欠席させていただくかと・・・。」
「案ずるな、どうせ酒宴は開かれる事はないだろうから。私がいないと云うのに、如何やって開くと云うのだ。」
「・・・・お戻りにはならないのですか?」

黎翔は返事はせずに深紅の瞳を輝かせ、悠が未だかつて見た事のない悪戯っ子を彷彿とさせる極上な笑みを見せた。
そしてそこに汀姉弟が、盆にお茶と菓子を乗せて入って来たのだった。



続。


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慌てて飛び出た店の外は、騒然としていた。
悲鳴をあげた女性は輪の中心で、見れば見るほどガラの悪いガタイのデカイ男性に手頸を掴まれ、引き上げられていた。
それを取り巻きが周りを囲み、チャチャを入れていた。

「おい、俺たちから逃げられると思うなよ。」
「お前はな、この笹亥さんのものになるんだよ。有り難く思うんだな。」
「ヒューヒュー、羨ましいぜ!!」
「可愛がってもらえよ!!」

口々に囃し立てる取り巻き達は、二人だけでなく周りで遠巻きに見ている人たちにまでおよんでくる。

「おら、何見てんだ!!早くどっか行っちまえ!!」
「誰も呼びにいくんじゃないぞ!!これはレンアイ関係の縺れだけだからな。役人でも呼びに行こうもんなら、お前らまでギタギタにするんだからな。」
「そうだぞ!!おらおら!!」

厭らしい言い様に周りで見ている人垣の中には誰一人として、助けようとする男儀のある人物は出て来ない。
誰もが、ただその女性は気の毒だとは思うものの、助けに入るのは腰が引けているらしい。

夕鈴は確認すると、直ぐにその人垣を掻き分け輪の中心にズンズンと入っていく。
そして自らの横暴さを周りに見せつけている男性に、大きな声で一喝する。

「ちょっと!!何してんのよ!嫌がっているじゃない、離しなさいよ!!」
「あぁん?外野は黙ってろ!!」

―――夕鈴、正義感旺盛なのは良いのだけど君に危険が及ぶのは感心しないから、何か有ればあの男性は僕が退場させるからね。

黎翔はハラハラしながら、夕鈴の傍で成り行きを見守っていた。

「ねぇ、恥ずかしいとは思わないの?大のオトコが往来で女性に乱暴なことをして!!」
「うっせーな、このアマ、いい加減にしやがれ!!」

その男性は手頸を掴んでいた手を乱暴に離し、その女性を払いのけた。
そこでやっと自由になった女性は、転がるように逃げて行ったのだった。

男性は逃げて行った女性を舌打ちしながら睨みつけたが、逃げた女には用は無いと今度は夕鈴に対峙して鋭い目つきを向けていた。

「おい!!お前のせいで逃げられたじゃねーか!!どうしてくれるんだよ!!」
「そんな事知らないわ!!女性にあんなことしておいて謝るどころか悪態をつくの?女性に済まない事をしたって自覚も無いのね。」
「いい加減、その減らず口を閉じやがれ!!」

男性は金切り声をあげて、目の前に仁王立ちしている夕鈴目がけて拳を振り上げる。
そしてそのまま拳が夕鈴に_________________________届く事はなかった。

寸での所で黎翔が二人の間に素早く入り、剣の鞘で相手の拳を止めたからだった。

「あぁん?お前、邪魔立てするのか?」
「邪魔立て?女性に手をあげるとは見下げたヤツだな。しかも私の大切な女性に手をあげようとしたのだから、それ相応の覚悟は出来ているのだろうな。」

黎翔はそのまま鞘からキラリと光る剣を抜きにかかる。
それを見た男性は、一人では対応できないと感じ、周りの取り巻きに号令を発する。

「おい、お前ら!この気障な男をぶちのめせ!!」
「へい!!」
「ほい!!」
「おらおら!!」

瞬く間に、1人から10人程度が一斉に黎翔に襲いかかってくる。

―――危ない!!

夕鈴が顔を覆い、目を閉じている間に黎翔は身体を左右に軽く傾けながらかわし、10人がかりでも誰一人として黎翔の身体に触れられるものはいなかった。
しかしそれでも男達は戦意を喪失しておらず、更に血走った目で襲いかかってくる。
それを夕鈴は間近で見ているものだから驚いてしまい、邪魔になるから避けようと思っても身動きが取れなくなる。

「夕鈴さん、とばっちり受けない様に端っこに行ってた方がいいよ。」
「悠さま?」
「僕も加勢に入るからさ!!見ててよ。」

悠はニッコリ笑いながら片目を瞑ると、夕鈴の背中をそっと添えて道の端っこに誘導する。
それに促され、夕鈴もようやく足が動いたのだった。

そして夕鈴を安全な所に立たせ、悠は嬉々として黎翔の加勢に入ったのだった。

「何処のどなたかは存じませんが、私も加勢させて頂きます。」

その一言で悠は黎翔と背中合わせとなり、襲いかかってくるチンピラの集団を薙ぎ払う。
そして確実に急所を叩きのめし一人一人を動けなくするまで、それこそわずかな時間だった。
周りに屯っている群衆は喧嘩などではなく、何かの華麗な見世物の様で観客となっていた。

「お、覚えておけよ!!!」

お決まりの文句でチンピラ集団はお互いをかばいながら、それこそそそくさと逃げて行った。

「夕鈴、大丈夫か。」
「夕鈴さん、大丈夫ですか。」

二人の男性の言葉が重なり、同時に一人の女性の方を向いていた。

「??」
「!☆?」

その声掛けにお互い向き合い・・・文字通り、言葉が出なくなった。

さもあろう・・・お互い、こんな所で合う筈のない間柄であるのだから_______。
二人はどちらかが声を掛けるまでは・・・と押黙っており、視線を離せず突っ立ったままだった。
其処にこの事態を打破出来る人物がオズオズと近寄って来た_____夕鈴である。

「お二人とも大丈夫でしたか??」
「「大丈夫」」

夕鈴の声かけに二人の言がピタリと重なる。

「え~~~と、あの助けてくださって有難うございます、悠様・李翔さん。」
「李翔?」
「悠?」
「「えっ、誰?」」

二人のやり取りに口がアングリと開く夕鈴。
頭の中には『??』マークが溢れかえりそうに為っており、何が何だか訳が判らない。

それはそうである________夕鈴には二人が知己の間柄で有るとは思わないのだから・・・・。

「あの・・・・・・・・・御二人はもしかしてお知り合いとか???」
「いえ、自分の知り合いとは名前が違いますし、こんな所にいる筈も有りませんから・・・他人の空似でしょう。」

まず、否定したのは悠であった。

まさか狼陛下と異名を持つ、珀 黎翔陛下がこんな所に居るはずもないし、こんなに人懐っこい表情をする筈なんてないから。

「そうだね・・・・僕も似ている人は知っているけど、まさか客人がこんなところに居るはずもないし。」

黎翔までも否定する。

そこで夕鈴はピンときた________この二人は知り合いだ!!それを上手く誤魔化そうとしているのだと。

「あの・・・・・こんなところで立ち話もなんですから、もし宜しければ、我が家に来ませんか?狭いところですが、人の耳も有りませんし。」
「そうだね、久し振りに夕鈴の家に行きたいな。」
「良いのですか?夕鈴さん。」
「はい、どうせ父は遅くならないと戻りませんし、弟は良く出来た弟なので、大丈夫ですよ。」

夕鈴は、暗に秘密は外には漏れないと云っているのある。
それを察した悠は、夕鈴の申し出を受け入れることとした。

「では、お伺いさせて頂きます。」
「はい、ではどうぞ。」

奇妙な取り合わせの三人が連れ立って下町を闊歩しているのを見つけた狼陛下付きの隠密が・・・・・そう、浩大は密かに『これは結構面白いことになりそうだな』と呟いた言葉は、風に解けていき誰にも聞かれる事は無かった。


続。


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二人は通りを歩きながら、店主に貰った串団子を美味しそうに頬張っていた。
美味しいものを食べている時の顔は万人共通で、二人の表情はニコニコホクホク顔だった。

「美味しいですね。」
「そうですね!ホント店主さんに感謝しなくっちゃ。」

食べ終わると夕鈴は人探しを始めるべく、悠を引っ張って下町の章安区へと向かったのだった。
そして先ずは、人が集まり情報も得やすい飯店に行くことにした。
あそこは明玉が働いているので本当は一番避けたいところであったのだが、下町で一番大きな飯店だから仕方が無い。

「あの・・・こんにちは。」
「あら、夕鈴ちゃんじゃないの!!!今日は休みかい??でも残念だね~~明玉ちゃんなら今日は休みなんだよ!!」

―――はぁ~~~~良かった!!運がいいわ~明玉休みで!!突っ込まれなくて済みそうだわ。

夕鈴は悠を日当たりのよい窓辺の席へと案内した。
二人は向き合い、お品書きを見て店員さんを呼ぶ。

その様子を二人が店に入ってきた時から、鋭い眼光を放ちながら見詰める人がいた______。

その人は暗い色の外套を頭から被り、一人座って渋い顔でお茶を飲んでいる。
眼鏡越しに光る瞳の色は、とても珍しい深い紅色であった。

―――夕鈴を見つけたはイイが、あれは・・・・・・悠鐸殿ではないか!!消えた官吏とは悠鐸殿。一体何故?夕鈴と?

そう、夕鈴を遠目で見詰めていたのは黎翔であり、黎翔なりの考えをもっての事だった。
夕鈴が消えたのが黄稜国の官吏と一緒だとのことだから、安易に実家に連れて行くとは考え難く、先ずは下町でご飯でも食べているのではないか?と予測してここにやって来たのだ。

それに茶館を直ぐに出てしまったようだから、茶館には入りはしないだろうと飯店を選んだのだった。

あそこで浩大が逃してしまわなければそれが一番良かったのだが、ここで見つけられたのだから良しとしておこう。

「さて・・・どうやって声を掛けるべきか?」

黎翔は、相手が相手なだけに慎重に為らざるおえない。
自分の小犬本性がバレルのも困るし、狼でもこの場にはそぐわない。
如何すればいいのかと考えを巡らせていたら、背後に身に覚えのある気配を感じた。

「これは、陛下ではないですか。」

黎翔にしか聞えない小声で話しかけてくるのは、下町で密かに色々探らせている徐 克右だった。

「おまえは・・・全くいいところに現れる。」
「何かご用向きがお有りで??」
「そうだな、あそこにいる娘に此方に来てもらえるように伝言を頼みたいのだが。」
「それは容易い御用で!!でもあの娘さんは確か陛下の『耳』では?」
「そうだ!!余計な詮索はしなくていい。つべこべ云わずに頼んだぞ!!」
「御意。」

黎翔は外套を更に目深に被って、様子を窺うのだった。
徐 克右は、黎翔にマジマジと観察されているとは気がつかずズンズン夕鈴達の卓に近付く。

「あの・・・お久しぶりですね。」
「・・・あっ、徐 克右さん!!!どうしたんですか??またお仕事ですか?」
「まぁ、仕事と言えば仕事に為る・・・のかね~~。」
「???」
「まぁ、こっちの事!!それより、あそこにいる人からの伝言!!『ちょっと来て欲しい』んだってさ。」

夕鈴が『あそこ』とやらに目を向けると・・・正確に云うと夕鈴の真後ろ後方であるが、其処には不自然に外套を被った見覚えが大有りの人物が座って此方を窺っていた。

「へっ・・・・いや、李翔さん・・・ですよね。」
「???あれは、へい・・。」
「克右さん、その先は言わなくていいデス!!解りました、直ぐに行きます。」
「じゃ~~俺は行くので・・・あとは頼みましたよ~~。」

徐 克右は野性の勘みたいなものでもって、この先の雲行きが怪しい事を察知しそのまま店の外に出たのだった。
夕鈴はノロノロと椅子から立ち上がり、悠にこのまま待っていてくれるように頼むと黎翔の傍へと近寄って行ったのだった。

夕鈴は大きく嘆息を吐きながら、指定された卓に近付いた。
近くなればなるほど、外套を被った人物の存在が大きくなり黎翔であることは明白だった。

「あの・・・・・・・。」
「・・・・・・・・夕鈴。何してるのかな?」
「それよりも、李翔さんは、どうして此処に??」
「ねぇ、夕鈴。君と同行している男性が何者なのか、知ってるの?」
「李翔さん、何をしにこの下町に来たんですか?」

二人の会話はお互いが聞きたい事だけを言っているので全くかみ合わない。
いつまで経っても進まない会話に業を煮やしたのか黎翔はキチンと話をする必要性を見い出し、夕鈴を自分の前の席へと勧めたのである。
そして夕鈴もここで事を荒げる事は避けようと、そのままゆっくりと腰掛けたのだった。

坐る間際に、一人にしたままの悠が気に為り夕鈴が振り返って見たのを黎翔は見逃しはしなかった。

―――ソンナニモ悠鐸殿ガキニナルノカ??

黎翔の中に嫉妬という黒い感情がふつふつと湧いてくる。
無意識に・・・・・そして無自覚に・・・・。

―――夕鈴にはキチンと誰の妃で有るのかを解らせておかないと・・・そして同行者の正体も教えないとな。それにしても悠鐸殿は何故、夕鈴とあんな恰好で此処をフラフラしているのだろうか?

黎翔には解らない事だらけで、夕鈴に詰め寄りたくなるのを寸前で抑えている。
そして、卓についてふっと息をついた夕鈴が先に口を開く。

「あのですね・・・・先程も聞いたと思いますが、ど・う・し・て・ここに李翔さんがいるのでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・」
「そこで押し黙らないでください!!」

夕鈴は周りに聞こえないように頭を突き出し、黎翔に詰め寄る。

「だって・・・・・・夕鈴があんな書き置きして、黙って出て行くから、何か有ったんじゃ?と心配で探すに決っているじゃないか!!」
「・・・・・・・・・・・・」

黎翔の尤もな云い様に今度は夕鈴が押し黙る。
その様子に黎翔は更に続ける。

「このまま、僕と帰るよ。」
「帰れません!!」
「なんで?」
「だって!!約束したから・・・」
「約束?」

夕鈴はそこで一旦振り返り、悠を見詰める。
黎翔も反射的に夕鈴の視線の先を追う___________そこには、一人で窓の外を眺めながらお茶を飲んでいる黄稜国国王がいた。

「だって!!悠さまと人探しを手伝うって約束をしたのだから、まだ見つかってもいないのに、帰れません!!」
「夕鈴、あそこにいる同行者がどう言う人物か解っているのか?」
「???黄稜国の官吏の方でしょ・・・」
「あれはね・・・・・・・・・・・・」

黎翔が同行者の正体を暴こうとした其の瞬間。

「きゃ~~~~やめて下さい。離して~~」

店の表で明らかに若い女性の悲鳴が響き渡ったのだった。
その声に呼応したのは夕鈴。
即座に椅子を蹴倒して、表に出ろうとする。

店内にいる大人達は厄介事に巻き込まれるのは御免こうむると、俯いて静かに食事を続けている_____________あたかも何も聞こえないととでも云う様に・・。

「夕鈴!!」

黎翔は出て行く夕鈴に遅れはせぬと、そのまま呼びかけて店から出たのだった。
そして二人は気がついてはなかった_____その二人の後を悠がこっそり付いて行った事を。



続。


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今日は休みの前日と云う事もあってか、いつもより人の往来があり、そんな中夕鈴と悠も違和感なく溶け込んでいた。

「夕鈴さん、あなたのご実家はどちらですか?」
「私ですか??下町の章安区になります。」
「是非、連れて行って欲しいデス!!」
「は、はい!!そうですね、では後で。」

ニコニコ笑う悠に、夕鈴はどうしてよいのか判らなくなる。
黎翔の小犬状態とは違う感じなのだが、でも何故か従ってしまう自分がいた。

―――ホント、押しが強いって訳じゃないのに断われないのよね・・・このままウチの方面に二人っきりで行くの???それってまたいらぬ誤解を生み兼ねないわよ!!確か役人の徐 克右さんだったかしら・・悪女がどうのこうの言っていたっけ!!

更に夕鈴の頭の中で明玉に、『一体、几鍔と王宮の上司さんとこの人の誰が本命なのよ!!』と詰めよられている自分の姿が鮮明に映し出されていた。

「ところで先程も云いましたが、探し人を始めましょうよ。どんな人で、名まえは?それに、何処に住んでる人ですか?」
「そうだよね・・・確かにそろそろはじめないと、時間がなくなっちゃうよね。」
「はい!!!その為に私は付いて来たのですから。」

夕鈴は気合いを入れて聞く体制に入る。

「あのですね・・・僕が探しているのは女性です・・・それも30代後半の女性。この王都に住んでいるはずなのですが、何処なのかは僕にも判りません。そして、結婚していて子どもは少なくとも僕くらいの女の子一人はいます。もしかしたら、もっといるかもですが。」
「王都の何処かですか。範囲が広すぎますね、せめて地区とは解りませんか?」
「解りません・・・・。」
「そうですか。」

―――これは、見つかるかどうかなんて怪しいモノだわ。悠さまには気の毒だけど範囲が広い上に情報が少な過ぎる。あっ、名前聞いてなかった!!

「悠さま、その女性のお名前は?」
「え~~と、悠那(ゆうな)です。」
「悠那???それって悠さまと何か関係が???」
「ええ、実は僕の母なんです。」
「お母様~~~~。それは何が何でも探しださないと!デスネ。」

夕鈴は腕まくりをしつつ張り切り、片手を天に突き出していた。
それを隣で見ている悠は頼もしそうに破願している。
二人が往来で立ち止まり話をしている様子を物陰から見ている人物が_________其れは、黎翔の命を受けた浩大だった!!

「あ~~お妃ちゃん、みっ~~~け!!」

小声で呟いたのを二人は聞こえるはずも無くまた歩き始め、その後を密かについて行く浩大の気配に気がついたのは悠だけであり、夕鈴はノホホンと探し人の特徴など悠に聞き出していたのだった。

「ねぇ、夕鈴さん。ちょっとお茶屋にでも入りませんか?」
「えっ??」
「実は僕・・足が痛くって。」
「それは大変です!!直ぐに入りましょう~~」

夕鈴は往来にあるお茶屋を直ぐに見つけ、悠の手を引っ張って入って行ったのだった。
浩大はそのまま一緒に入る訳にはいかず、表の物蔭で見守るしかなかった。

「夕鈴さん、実は足が痛いっていうのは嘘なんです!!ゴメンナサイ。ただ怪しい人が先程から付いて来ているようでしたから、ちょっと如何しようかと思いましてお茶屋にと・・言ったんです。」
「そうですか・・・怪しい人?」
「ええ、恐らく僕に用が有るのだと思いますが・・・。」
「では、逃げちゃいましょう。」

夕鈴は片目を瞑り、悠の手を取るとそのまま奥へと連れて行く。
悠はこれから夕鈴が如何するのか予想もつかず、目を見開きながらされるがままとなった。
奥に進むと厨房があり、そこにはここの店主が忙しそうに働いていた。

その店主に夕鈴はニッコリと微笑むとこう告げた。

「スミマセン・・・私たち、親には内緒でお付き合いしているんですが、家のモノが表で見張っていまして・・・どうか助けて下さい。」
「ヨッシ!!若いお二人の為に人肌脱ごう!!!奥から出て行きな!!ほら、これも持って行きな!!」
「はい!!!有難うございます。」

夕鈴は深々と店主に礼をすると、そのまま悠を引っ張って行った。
後ろから店主の『頑張れよ!!お二人さん!!』と激励を背に受けながら_________。

店から出ると夕鈴は直ぐさま悠の手を離し、満面の笑みを悠に向けて胸を張る。
「上手くいったでしょ!!」と・・・。

それを悠は感心しつつ、先程出て行く際に店主が二人に渡してくれた串刺し団子を夕鈴に手渡した。

「あははは、夕鈴さん、凄いデス!!怪しい人を撒いただけでなくお団子まで頂戴するなんて。」
「お団子は、あの店主さんの粋な計らいだけどね。」

そうして食べながら二人は町を闊歩して行くのだった。

その頃、表で待ちぼうけを食らっている浩大の元に黎翔が現れていた。

「お妃ちゃん、黄稜国の官吏とやらと一緒だよ。それで今ここに入っているよ。」
「どれくらいに為るのか?」
「う~~~と、もう半刻くらいには為るかな~~~。」
「半刻??お前逃げられたぞ!!其れは!!」
「はぁ???ウソだろ~~~オレっちここでずっと見ていたけど、二人は出て来なかったよ~~」

浩大は二人にしてやられたことに気が付き、苦い顔に変る。
それよりも、更に輪を掛けて苦々しい顔つきはイライラ不機嫌な黎翔の方だったが。

「ごめ~~~ん、オレっちまた捜索に出ます。」

このまま、此処にいたら黎翔の怒気の餌食になると踏んだ浩大は素早く捜索へと躍り出た。
そして黎翔も深い、果てしなく深い溜め息を付きながら夕鈴探しに舞い戻ったのだった。


続。


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臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り











王宮から出て下町へと続く大通りに入り込むと、ようやく手を離してくれ夕鈴も一心地ついたのだった。

そして知らない人に付いて来てしまって今更では有るが、キチンと誰かに言わなくて良かったのか?と夕鈴の頭の中で眼鏡を押し上げつつ仁王立ちする上司の姿がチラついていた。

―――まぁ、後はなんとかなるわよね!!多分・・・・それよりも人探しって言っていたけど、まずはアレをどうにかしないと!!よね。

夕鈴が考えているアレとは_____________同行者の彼の服装をまずはどうにかしなければという問題に直面しているのである。

町中で異国の官服と云うのは、あまりにも目立ち過ぎる。
彼の人探しがどういう人をさしているのかは聞いてないが、人探しには適していない服装なのである。
だがしかし、それを言うのなら夕鈴も掃除婦の服装のままだから人のことは言えないのであったが・・・・。
このまま実家に帰ろうもんなら、青慎辺りがビックリするだろう。

「あの・・・・・言いにくい事ですが、私もですが貴方の服装も町中ではそぐわないので、其処かで購入しないといけないと・・・ただ、生憎私は持ち合わせが無くて・・・。」
「それなら大丈夫だよ!!僕が持っているから・・・ただ店は判らないから君にお任せするよ。」

並んで歩く彼は一度立ち止まり、ニコニコと柔和な笑顔で懐から財布を取り出すと夕鈴の目の前に差し出し見せてくれた。

「ほら、大丈夫でしょ!!ところで、今頃訊いて失礼かもしれないけど、君の名前は?僕はさっき名乗ったよね、悠 鐸って!!僕の事は『ゆう』って呼んで!!」
「はぁ・・・・悠さまですね、判りました。私は、夕鈴と云います。」
「『夕鈴』かぁ~~~ドッカで聞いた事ある名前だよね・・・・う~~~んと何処だったかな??」

―――あっ、この人、黄稜国の官吏だったわ!!!もしかして陛下の妃の名前だって気がついた??偽名にすればよかったのかしら・・・・いや、ダメよ!!今から下町に行くのだから、下町には知り合いがウジョウジョいるから、声掛けられたらすぐにバレるものね。

「う~~~ん、誰だったかな・・・・・・・あっ!!!思い出した!!確か国王陛下のお妃さまの名前が『夕鈴妃』だったんだ!!!って、もしかして?!」
「ちっっ、ちっ、違います!!!恐れ多い事ですが、同じ名前なんです!!!」
「そうなんだ・・・・そうだよね。お妃さまがあんなところで掃除なんてしないよね。」
「ですよ~~~~~~。」

夕鈴はバレないように、曖昧に笑って誤魔化した。
そして周りを見渡し、洋装店を見つけると悠の手を引っ張って案内したのであった。

_________そして半刻ほど後、二人は漸く町でフラフラしても誰からも咎められない服装に、様変わりしたのだった。

「さぁ、人探しに行きますよ!悠さま」
「じゃあ、宜しくお願いします、夕鈴さん」

二人は連れ立って、喧騒の下町へと溶け込んだ。



所変わって、後宮立ち入り禁止区域の夕鈴が残した書き置きのある水汲み場では、紅い瞳に怒りのオーラを乗せ佇む、狼陛下其の人がいた。

「浩大!!!如何言う事だ!!!夕鈴は何処だ!!!」
「・・・・・・お妃ちゃん、何処にもいなかったっす。」
「いない???王宮の何処にもか?」
「・・・・・・・・・・。」
浩大の返答が無い事から、王宮から後宮まで夕鈴が立ち寄りそうな場所はくまなく捜したが何処にもいないという事が窺い知れた。

そして二人は足元をジッと凝視する。
そこには、確かに夕鈴の字で書かれている書き置きがあった。

「これは・・・・夕鈴の書いたものだ。強制されて書かされたのか?それとも夕鈴自身が書いたのか?」
「でも、これを書いたのは、『お妃さま』の時のお妃ちゃんでは無くて、掃除婦のお妃ちゃんだよ。だから、連れ去りとかではないと思うけど。」
「では、一体誰とだ?それとも夕鈴一人なのか?いや、一人では無いな、夕鈴が自身を『掃除婦』と書いたのだ。これは誰かと一緒だということか・・・。」

二人はこれだけでは夕鈴の身に何が起こっているのかは判らず、そこで考え込んでいても埒が明かないと、丁寧に書き置きを土で消して立ち去ることにした。
そして黎翔は執務室に、浩大は引き続き何か手掛かりが無いかを調べる為後宮にと、二人違う方向へと無言で向ったのだった。

執務室では李順が黎翔の戻りを今か今かと待ちわびており、黎翔が机に付くなり慌てて話し始めたのであった。
そう、重要な手掛かりを・・・・・・。

「やっとお戻りですね・・・先程から捜していたのですよ!!陛下にお伝えしたい議が有りまして。」
「なんだ!!私は今、どうでもいい事を聞くための時間を割く気は全くないからな。」

目の前の主君のこの上ない不機嫌さに、さすがの李順も身震いを覚えていた。

―――これは下手なことを言ったならば、その場で剣が抜かれるのでしょうね。

李順はゴクリと喉を鳴らし、一呼吸置いた。

「陛下、其れでは申し上げますが、黄稜国の官吏が一人居なくなっているみたいです。そして後宮に詰めている掃除婦一名も。」
「・・・・・・」
「それも、先程入った報告では、その居なくなった官吏が掃除婦を連れだしたらしいと。」
「なにっ!!」

黎翔は、掃除婦と聞いてピンときた。
これはまさしく夕鈴のことである。

―――夕鈴が異国の官吏と消えただと!!

紅い瞳が燃え盛る炎の様に血走り、それとは間逆の冷気が全身から発されており、周りを覆い尽くすようにどす黒い何かが立ち込めていた。
その雰囲気に呑まれそうになりながらも李順は、恐る恐る黎翔に問いかける。

そう、今から聞くことが間違えであって欲しいという願いを持ちながら。

「もしかして、とは思いますがその掃除婦は夕鈴殿だったり・・・なんてことは有りませんよね。」
「__________そうだ。夕鈴が消えた!書き置きを残してな。」

苦々しく語る黎翔に、李順はまず何を如何すべきなのかを瞬時に考えていた。

―――これは、マズイ!!この様子だと、夕鈴殿を捜しに飛び出しかねない!!ここは止めておかないと・・・ただ、この様子だと、止めてもムダな気もしますがね。はぁ~~~、全く小娘は何をしているんでしょうか??事と次第によっては減給も考えないと!!

「一言だけ言わせていただきたいの・・・・」
「お前の言いたい事は解るが、それは聞かないからな!!私が直々に行くのだから。」
「はぁ~~~~~」

黎翔は李順が言いそうな事は解るためか、その言葉を途中で遮って自分の主張をする。
それは承知の上であるから、敢えて李順も言ったのであったのだが、黎翔には伝わらなかったのである。

「しかし、黄稜国の王もこちらに滞在されておりますので、陛下が王宮にいらっしゃらないというのは些かそれは拙いと思いますがね。」

李順は如何しても止めたいらしく、一番尤もらしいことを言って引き留めようと画策してくる。

「お前が私の不在を何とか誤魔化せばいいだろうが!!それが有能な側近の仕事だ!!」
「はぁ、そうは仰っても・・・・」
「いいな!!私がいく事はもう決定事項だ!!それと浩大を連れていくからな。ところで、消えた先は??どうせお前の事だからもう掴んでいるのだろう。何しろ、我が国きっての切れ者で名高い李順だからな。」

紅い瞳を輝かせて、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。

「褒めても、何も出ませんよ。取り逢えず掴んでいるのは、王都の方面に行ったという事です。」
「そうか、わかった!!」

一言告げると、疾風の如く駆け抜けていったのであった。

「全く・・・如何やって誤魔化すというのです・・・・。」

溜め息交じりに、呟いた言葉がこれだった。
でも李順の心配は杞憂であった________何しろ居なくなったのは、黄稜国の国王その人であり、黄稜国の方もそれを隠すのに必死だったからである。



その頃、問題の二人はというと、トボトボ歩いて下町近辺の露店市に来ていた。

「わ~~~これは何です?夕鈴さん」
「これですか??これは杏の砂糖漬けですよ。」
「美味しいのですか?」
「甘酸っぱい中に砂糖の甘さが程良くしみ込んで、美味しいですよ。」

夕鈴は、はしゃいでいる悠に丁寧に説明する。

「では、これを頂きましょう。ではそこの主人、二つ戴けるだろうか。」
「へい!!有難うございます。二つですね。」

悠は主人から受け取ると、先ずは自分で杏を手に取り、袋ごと夕鈴に差し出した。
これは、夕鈴の手が汚れないようにという配慮であった。

夕鈴は悠の行動の素早さと、紳士的な対応にすっかり感心したのだった。

「それにしても、悠さま。人捜しをそろそろ始めませんと・・・。」
「そうだね・・・でもその前に王都も満喫しておかなくっちゃ。」

片目を瞑りニッコリと微笑む悠に夕鈴は調子を狂わされ、気がつけば悠に引っ張りまわされていたのだった。

夕鈴は自分を捜しに黎翔が王宮を出た事なぞ知る由もなく、トボトボ気ままな悠の王都見物に付き合わされていた。


続。


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「これはようこそ遠路はるばるお越し下さった。この度のご即位には御祝いを申し上げる、蒼  悠鐸(そう ゆうたく)殿。」
「有難うございます、黎翔殿。即位の折には沢山の御祝いの品々を賜りまして・・・臣下共々、感嘆致しました。さすがは白陽国で有ると・・・。」

謁見の間にいるのは黎翔と『黄稜国(きりょうこく)』の王である。
ここに夕鈴の姿はない_______そう、先日の宣言通り黎翔が列席をさせなかったからだ。

「それにしても、黎翔殿・・・今日は噂に高いお妃様にお逢いするのも愉しみでしたのに、出し惜しみなさるとは・・・・よっぽど大切なのですね。」

目の前に座る黄稜国国王は、さも残念そうな表情であった。

「これは、申し訳ない・・・妃はどうやら体調がすぐれないようだ。」
「其れは、御懐妊では?」
「まだ侍医からはそのような報告は受けてないだが、早くそうなれば良いと常々思ってはいるのだが・・・。」

―――そんな事、あるわけが無い!!夕鈴とはそういう関係では無いのだから。私自身はそうなっても構わないのだが、夕鈴の気持ちはどうなのかが全く解らないのだから、これ以上の深入りは出来ないのだ。

黎翔は複雑な気持ちではあったもののそんなことはおくびにも出さず、ニコヤカに応対する。
そんな黎翔に屈託のない笑顔を向け、悠鐸王は更に突っ込んでくる。

「黎翔殿、早く御子が授かるといいですね。私自身『妃を迎えて欲しい』と進言してくる臣下たちも多く、花嫁探しに奔走しております。私が妃を娶り男御子が誕生した暁には、黎翔殿の姫君を迎えたいものです。そうなれば、この白陽国と姻戚関係となります故、もっと親密にお付き合いできるというもの・・・そうなる日が来るのが今から楽しみです。」

嬉々として夢見がちに話す悠鐸王は、ある意味柔和でこれが一国の王かと思わせるのだが、これでなかなかの切れ者であると間者の報告も届いている。
そして聞こえてくる噂は『あの王であれば黄稜国がこの先もっと栄えていく事であろうと、国民は期待している』である。
この王は太子の時に何度も黎翔を訪ねてきており、その際この柔和な態度を崩す事は一度たりとして無かったので、間者の報告と噂はにわかに信じがたいものであった。

その後も黎翔が切り回しながら穏やかに進み、両国は今後も堅い絆で友好関係を築いていく事を確認し合って残すは宴のみとなり、謁見は終了したのであった。


その謁見が終わった足でそのまま後宮に向った黎翔が、侍女から聞かされたのは妃の不在であった。

―――全く、夕鈴は何処をほっつき歩いているのやら・・・まだ黄稜国の王も滞在しているというのに。

「浩大!いるだろう!!」
「へ~~い、此処に。」

回廊の屋根からシュタッと降りて来ると、即座に床に膝を折り黎翔の言葉を待つ。

「夕鈴は何処だ?」
「お妃ちゃんなら、張のじいちゃんのとこ。だからオレっちは、鼠がうろついていないか捜索中~~。」
「そうか、わかった。」
「じゃあね~~。」

そう言うと浩大は、直ぐさま捜索の任を再開すべく姿を消した。

「夕鈴は、老師の所か・・・大方掃除バイトでもしている事だろうな。様子見にでも行くとするか。」

独りごちた黎翔は、颯爽と後宮禁止区域へと向ったのだった。


その頃、黎翔に探されている当の本人である夕鈴はと云うと_____________困惑していた。

と云うにも・・・・黎翔の推測通り掃除婦のバイトをしていたのであるが、その水汲みに出た際に思いもよらない人物に遭遇していたのだから・・・・・・。

そう、夕鈴は腕まくりしつつ、一心不乱に井戸の水を桶に汲んでいた_______其処に現れたのは、夕鈴を捜してやってきた黎翔・・・ではなかった。

「・・・そこの君、訊きたい事があるのですが。」
「誰????」

夕鈴は聞き慣れない年若い声に、身構えながら振り向いたのだった。
其処には、見慣れぬ官服を着た若い男性が佇んでいた。

―――誰???見た事が無い人だけど・・・・それに今の私はただの掃除婦!!そんな私になんの用なのよ!!

「誰?と言われても・・・・・・私は、悠 鐸(ゆう たく)と申し、黄稜国の官吏です。あなたに聞きたい事があるのですが・・・。」

―――黄稜国の官吏???そんな偉い方が掃除婦に何を訊くって云うの??

夕鈴の頭の中には幾つもの疑問符が浮かび、何度も円を描くようにグルグル回っていた。
しかし黙っているのも失礼だと思い、相手の聞きたいこととやらを丁重に聞くことにしたのだった。

「あの・・・・私に訊きたい事とはどの様なことで御座いましょうか?」
「実は、此処から王都・・・しかも下町に行きたいのですがどのようにして行けば良いのでしょう??出来れば、案内してほしいのですが。」
「下町????」

夕鈴は思いも掛けない事を頼まれ、思わず声が裏返っていた。

「下町に人探しに行きたいのですが、何しろ白陽国には何度も訪問した事が有りますが、その時はこの王宮から出る事は無く王都には詳しくなくて・・・・しかも今回の訪問も3日ほどなので時間が惜しいのです、だから詳しい方に案内してもらいたいと思い・・・。」

相手はかなり切羽詰まっている様子。
そんな様子を見たからには突っぱねることなど、世話好きの夕鈴は出来るはずなどない!!

―――この方、かなり困っている様子・・・此処は協力しないとかな??でも、キチンと誰かに断わってからでないと拙いわよね。

「あの、私でよければお手伝い致しますが・・・・それには上司に断わってからでないと・・・・それからでもイイですか?」

―――え~~~それは拙い!!!誰と?となれば僕の素性がばれてしまう可能性が高いよ!!

そう・・・・この方、黄稜国の 蒼 悠鐸王、その人だった。

「イッ、イヤ!急いでいるから、断わっている時間は無いから・・・後からキチンと報告すればいいよ!!それに掃除婦が一人居なくなった位解りはしないよ!!だから!!!早く!!!」

かなり慌てているその官吏の為りをしている悠鐸王は、目の前で困惑している夕鈴の手を取ると強引に連れていこうとする。

―――そんな~~~ただの掃除婦ならそれでもイイのでしょうが、私は臨時花嫁のバイトをしてる身・・・そんな勝手は許されないのですが!!!

でもそんな事をこの男性に言う訳にはいかない・・・・となると、黙って従うしかなかったのであった。
ただ、このままという訳にはいかないので手に持っていた桶を土の上に置き、影が出来た土に木の枝で伝言だけ書き記したのであった。

『私は大丈夫です!ただ3日ほど休暇を下さい・・・後宮禁止区域掃除婦』
と・・・・・・・・・・・・・。

―――これで、浩大辺りに私が書いたものだと解るわよね。それに連れ去られたのではないという事も解る・・・・と思う。李順さん、ゴメンナサイ!!!

夕鈴は相手の手に引っ張られながら、後宮の隠し扉から下町へと繰り出したのであった。



続。


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今日も朝からくだらない意見ばかりが飛び交う朝議も、黎翔の一睨みでようやく収拾を付け執務室に戻ると、李順が清々しい笑顔で詰め寄り、前もって準備していたこれでもかと言うほどの書簡を恭しく黎翔に渡す。

「これは、なんだ?」
「なんだと仰らないでください・・・陛下に精査して頂くべき最優先の書簡ですよ。私は他にすべきことが有りますので、席を外しますがキチンと済ませておいて下さいよ。」

二人の間に刹那的な沈黙が走る_________が、途端に黎翔の纏う雰囲気が小犬に変化すると、じと目で李順を見詰め、不平不満をブツブツ漏らし始めたのだった。

「え~~こんなにぃ~~、頑張れないよ~~~。これは夕鈴が傍にいて応援してくれないときっと片付かないよ~~夕鈴は??」

黎翔は、机につくなり両肘を付いて子どもの様に膨れていた。
其れを李順は聞かない、見ないふりして、黎翔の机の上に置いた書簡の山を一応種類別に整理する。
そしてそれも済ませると、踵を返して立ち去ろうとした・・・・・但し、一言念押しする事は忘れずにだったが。

「では陛下、私が戻るまでにキチンと終らせておいて下さいよ。」

言い終わると、今度は振り向きもせずに李順はスタスタ出て行ってしまった。
残された黎翔はというと、部屋中に冷気を振り撒き不機嫌モードに突入しつつも、誰も当たる人もおらず仕方なしと大人しく書簡の山に手を伸ばしていた。


一方李順は昨日夕鈴に言い渡していた様に『お妃教育強化』の為、指定していた部屋に行くとすでに夕鈴は老師に歩き方を特訓されていた。

夕鈴の目は縋る様に『もう勘弁してください』と、戸口から入ってきた李順に注がれていたが、次の一言でその淡い期待も吹き飛ばされたのだった。

「夕鈴殿・・・姿勢がなってませんよ。もっと背筋を伸ばして、ゆっくり優雅に歩けないんですか?其れではまるで家鴨がお尻を振りながら歩いているようですよ。」
「は・・・・・・い。」
「そうじゃ!!言おうとした事が眼鏡の小僧に言われて仕舞ったわい!!それ頑張って歩くのじゃぞ。ほれ、ほれその調子じゃ。」

―――何なのよ~~。あと何回往復したらいいって言うの??さっきからもう10往復位してるんですけど!!

この二人が揃えば、総監督と副監督の様で息ぴったりに同じ事を駄目出ししてくるのだ。
其れは夕鈴にとってこれ以上無い程の打撃なのである。

そうして気がつくと歩くだけで、そこまで広くは無い部屋ではあったのだが、軽く20往復はさせられたのであった。

「まぁ、いいでしょう。」
「そうじゃな、これ位でいいじゃろう。」

「はい・・・(ゼイゼイ・・)有難うございます・・・。」

やっとこれで開放される~~~~と思ったのもつかの間・・・・・次の言葉を聞いた夕鈴は思わず、『まだするんですか?????』と素っ頓狂な悲鳴を上げていた。

そう李順から告げられた言葉はこうだった__________。

「さぁ、時間が有りませんから、次は座り方・・・其れが終われば、老師からかの国についての講義ですよ。ほらボヤボヤしない!!」

講師たる二人の表情は、全く根性が足りない!!と叱咤しているものだった。

―――負けられない!!!

そこが夕鈴が夕鈴たる所以であろうが、元来の負けず嫌いが出てきて俄然ヤル気が出てきていた。

「では、頑張りま・・・。」

夕鈴が高らかに声を挙げようとしたその瞬間、壊れんばかりの大きな音をたて戸口が開いたのだった。

そこに現れたのは、言わずとしれた狼陛下、その人であった。

「李順!全て終らせたぞ!!特訓かなんか知らないが夕鈴は連れて行くからな!」

大股に歩いて夕鈴に近づくと、その細い腰を抱き上げてそのまま連れて行ったのである。

「そうそう・・・それと言っておくが、夕鈴は王がやってきても、臨席させない事にしたからな!!だから特訓などする必要無し!!_____じゃあな、書簡の山の整理は任せたぞ。」

黎翔は高々と響き渡る声で宣言すると、特訓していた二人に紅い瞳を輝かせて笑ったのであった。
それは見たモノをゾッとさせる・・・・冷たい笑いであった。
残された二人は冷たい雫が幾つも背中を滑り落ちてくる感覚に襲われ、言い知れない震えがきていたのであった。


そしてそのまま回廊を大股で歩く黎翔はご満悦になっていた。
何しろ、夕鈴を鬼の様な講師どもから救い出し、自らの腕に納めているのだから・・・・。

すれ違う官吏達は、緊張した面持ちで拱手していた。
というのも・・・狼陛下と恐れられし黎翔の何時にないご機嫌さを目の当たりにしていたからだった。

彼らが見たのもは、陛下の腕の中で真っ赤に頬を染め、身を小さくして縮み込んでいる寵妃の姿で、どうやらこの状況を嬉々として享受してはいないようだった。
当の本人の夕鈴は、自分をはがゆく思っていた______抱きかかえられたこの状況を変える『お願い』を中々黎翔に言い出せないが自分自身に・・・。

でもこのままではイケナイと感じた夕鈴が意を決して、黎翔に『お願い』をしてみたのだった。


「ちょっと陛下・・・・あのですね、降ろして下さいませんか・・・私、一人で歩けますし・・・。」

ところが聞こえてない筈が無かろうに黎翔は全く返事する気配はみせず、黙ったまま歩いて回廊を横切って庭園へと出た。
手短な四阿に着くとようやく降ろされ、備え付けてある長椅子へと座らせられた。

「もう、陛下!!まだ、特訓の最中だったんですよ。」
「特訓の必要はないから連れ出したのだ。」
「必要が無いわけないですよ。だって相手は一国の王様ですよ。それだったら失敗は出来ませんし。」
「先程、言ったではないか。君は列席させないと。」
「そう言う訳にはいかないのでは?」

黎翔が言う意味がよく解らずに、夕鈴はしきりと首を捻る。

「君にとっての王は、ただ一人・・・・そう私だけだ。だから他の王に逢う必要はない!!」

きっぱり言い放つ黎翔。
夕鈴は益々理解出来なくて、それでも云われた意味を考えようと頭の中で黎翔の言葉を反芻させる。
でもヤッパリ理解出来ない様子。

「そう言う訳にはいかないですよ。私は手当を頂いているんですから、きちんとお妃としてですね・・・。」
「だから、私が必要ないと言っているではないか!!」

―――どうして陛下はあそこまで頑なに、私が列席する事を断わるのかしら?もしかしたら、私が失敗したらかの国に対しての威厳が保てないとか?

夕鈴は、噛み合わない会話に疲れてきて、これ以上は何も言うまいと押し黙ったのだった。
その様子を窺い黎翔も夕鈴は解ってくれたものだと思って、纏う雰囲気がさっきとは打って変わって柔らかいものになった。
そして夕鈴の手を取るとニコニコ顔で言ったのだ。

「妃が列席しないなんてことは良くある事だよ、夕鈴。そんなの『気分がすぐれないから』とでも言ってしまえば、大体の使者や王族は察するんだよ。」
「何を察するんですか???」
「いいんだよ、夕鈴は知らなくて。」

―――そう言う断り方は妃を大事に思う余り、誰の目にも触れさせたくないと暗に言っているんだよ。まぁ、夕鈴は知らなくていい事だけどね。

―――陛下が仰っている意味はよく解らないけど、まぁ列席しなくていいに越した事はないわ。失敗しない様にとお淑やかに振る舞うのは本当に疲れるし。

「あっ、でも李順さんはどうしたらいいんでしょう。」
「僕が言っておくから気にしなくていいよ。」
「そうですか・・・・では、あの・・・・・手を離して下さい。」

夕鈴は、自身の手に伝わる黎翔の体温が程良く温かくて妙に居心地が悪くて、更に先程抱きかかえられていた事も思い出し、真っ赤に顔全体・・・首までもを染め上げており、目を合わさない様に下を向いたのだった。

その恥じらいが、黎翔にとって初々しく可憐に見えて抱き締めたくなる衝動に駆られていた。
黎翔は手を出しかけて寸前で押し留め、紳士然とニッコリと微笑んだのだった。

「夕鈴、もう今日はいいから部屋に戻ったら?」
「そうですね。」

二人は連れ立って、ゆっくりと後宮まで歩いていったのだった。


―――そして、数日後。

かの国から、数人のお付きのモノと共に年若の王様が訪問してきた。
そして見の間に居たのはこの国の王たる珀 黎翔であり、その隣に狼陛下唯一の妃の姿はなかったのだった。


続。


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「夕鈴殿、明日からまたお妃教育の強化となりますので、覚悟していて下さい。」

有能な側近・李順氏の眼鏡奥の眼光がキラリと光り、並々ならぬ決意に満ちていた。

「はぁ~教育ですか・・・。」
「そこで溜め息をつかない!!!仮にも大体お妃ともあろう貴婦人が、人前で溜め息なんてものはもってのほかです!!」

厳しい叱責が、夕鈴に矢となって飛んでくる。
扇で隠して小さく解らないように吐いたつもりだが、耳聡い李順には聞き洩らされることはなかったようだ。

「もう少し、妃であることを自覚して下さい。」
「でも、仮ですよ・・・。」
「それでもです!!いいですね、明日の朝こちらまできて下さいよ。」
「はい!!」
「では、どうぞお引き取り下さい。陛下が戻られないうちに。」

そう、陛下は政務室で官吏たちから報告を受けており、その合間を縫って李順は夕鈴を執務室に呼び出したのだった。

そしてまた今更何故にお妃教育強化となったのか?______それは陛下の元に届けられた一通の書簡からであった。

この時点では、誰もその後の騒動の発端であったことなどは解りはしないのだが、取り敢えず李順が下した判断は『夕鈴のお妃教育』と相成ったのだ。

執務室を出た夕鈴は、明日からの事を考えると憂鬱になり此処から直ぐにでも逃げだしたくなったのだが、お妃姿ではどうにもならない事は解っていた。
だから鬱鬱とした気分を振り払う為、掃除バイトに精を出すことにし侍女達に『老師の元に行く』と断りを入れてから、そそくさと後宮立ち入り禁止区域へと向かった。

更衣室にしている一室で掃除婦の姿になった夕鈴は、開放感が身体中を駆け巡り知らぬ間に大きく深呼吸をしたのだった。
そして、雑巾と桶を手にルンルン気分で、井戸へと水くみに出掛けたのであった。
井戸から汲んだ水はとても冷たかったが、主婦歴が長い夕鈴にはこんなのはへっちゃらで慣れたものだった。

慣れないのは、狼陛下の唯一の妃である事の方だ。
幾らバイトとは云え、毎日腰が砕けてしまいそうな甘い言葉を囁かれ、時には膝の上に乗らされ必要以上に触れられてくる事に到底慣れようもない。

だからいつも大事な青慎の学費のため!!借金返済のため!!と呪文のように唱え、バクバクと早鐘のように鳴る鼓動を鎮めているのだ。

こんな事は陛下に知られる訳にはいかない・・・・そしてこの恋心もだ。
そんなことをボンヤリ考えながら水くみをしていたもんだから、頭上から声が降ってくる。

「水!!水溢れているよ!!」
「浩大、有難う。」
「なんだよ、いつになくボ~~としているじゃん!!陛下の事でも考えてた?」
「そんな訳ないでしょ!!」
「じゃあ何考えてたのさ~~。」
「今頃、またお妃教育って李順さんが云うからどうしてかしら?と考えていたのよ。」
「ああ、それね~~~。」

ヒョイと傍にある木の枝に足を掛けて、逆さ吊りになって顔を見せる。
その表情は、訳知り顔の様だ。

「何か知ってるの?」
「知ってるけど・・オレの口から言ったのがバレたら、陛下からどんなお仕置きを受けるか解んないから言わないよ~~。」
「もう、浩大のケチ!!」

一言、言い放つと桶を持って建物の中に入って行く。
その背を見送りながら、浩大は『頑張ってよ~~』と呑気に声援を送ったのだった。
そしてまた静かに姿を消し、妃警護と云う任に就いた。

「さぁ~~張り切っていきますか!!今日は出来れば二部屋位は完璧に済ませたいモノだけど・・・・それも老師次第ってとこよね~~。」

傍の卓の端っこにチョコンと腰かけ、バリバリ音を立てながらお煎餅をかじる老師にワザと聞こえるように夕鈴は言う。

「お主・・・そう言えば、あの眼鏡が明日から教育強化とか言っていたじゃろ。」
「良く知ってますね・・・さすがの地獄耳ですか・・・。」
「違うわい!わしも呼ばれておるのじゃ。」
「老師もですか?」
「そうじゃよ~~ビシビシしごくから覚悟しておれよ。」

老師の目がキラリンと光る・・・・・・。

―――ここにもいたのよね~~張り切るお人が・・・。

「それにしても、何故ここまで大袈裟に教育強化って・・何か有るんですか?」
「それはじゃな・・・・・。」

老師は夕鈴の背後に佇む人物に気が付き、そこで口を噤む。

「夕鈴・・・老師と愉しそうではないか。」
「へ、陛下!!ビックリさせないで下さい。それに愉しそうに見えますか?」
「妃である夕鈴は私だけを見詰めておればよい。」
「私は、今は一介の掃除婦ですので、妃では有りません。」
「本当に君は口の減らない・・・。」

そう溜め息交じりで言いながら、後ろからそっと手を回し抱きしめる。
突然の事で夕鈴はビックリして、腰が抜けそうに為るのを寸前で力を込めて堪え、首を後ろに回す。

「老師の前で何をしているんですか!!」
「此処には、誰もいないよ夕鈴。」
「えっ?」

その言葉から首を戻すと、卓に座っていたはずの老師が跡形もなくいなくなっていた。

―――老師~~何処に行ったのよ~~~。

「ほらね、夕鈴。誰もいないでしょ。それにしても・・・何か老師に聞いていた様だけど。」
「ああ、其れですか・・・・李順さんが明日からまたお妃教育するって言うから、何事が有るのかな~と気になって・・・・と。んんっ、陛下いつまで腰に手を回してらっしゃるんですか?離して下さい。」
「え~~、折角二人っきりなのに??」
「だ・か・ら、夫婦演技は要りません!!」

仕方なさそうにではあるが腕に回した手を離してくれたので、夕鈴はこれ以上傍に居るのは拙いと2、3歩離れて距離を取ったのだった。
黎翔はその夕鈴の距離の取り方が気に入らないが、これ以上何かすると逃げられてしまいそうだから、取り敢えず此処では我慢しておき夕鈴の質問に答えることにした。

「それがね・・・周辺の親しくしている国の国王が代替わりして、その国王直々に挨拶に来るんだよ。其れで、妃列席で挨拶を受けないといけないからじゃないのかな。」
「そうですか・・・・。解りました、頑張りますね。」
「別に頑張らなくても、僕の隣りで笑っていればそれでいいよ。それにその王様って年若だと聞いているから、夕鈴にはあまり逢わせたくないしな。」

眼の前の小犬が気がつけば狼に変貌しており、光る紅い瞳が妖しく輝いているのを夕鈴は、『なぜここで狼が出てくるの?』くらいの感覚でボォ~と見詰めているのだった。

黎翔の真意など到底解らない儘に________________________。




続。


瓔悠

Author:瓔悠

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