【僕が思い描くモノ】
2010年04月01日 (木) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り

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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
12月6日は『姉の日』だそうです・・・それに因んでこの作品をSNS内でUPしたモノです。







僕は常々思う事がある。
それはたった一人の姉である、姉さんには幸せに為ってほしいと。

「青慎!ただいま~~」

玄関先から響く姉さんの元気な声。

久々の帰省だからはしゃいでいるみたいだな。
いつも僕の為に身を粉にして頑張ってくれている姉さん・・・・。
母さんがいなくて寂しいだなんて思った事なんて一度たりともない!
これは一重に母代りをしてくれている姉さんのお蔭で。
僕が心配なのは未だに浮いた話一つ無い事。
イヤ、あった・・・・一つ、二つ程。

そんな事をボンヤリ考えていると、目の前にはニッコリと笑う姉さんの顔があった。

「青慎、元気だった?
ご飯はちゃんと食べてる?
勉強は如何?
父さんは相変わらずなの?」

帰ってまだ一息もついてないのに、矢継ぎ早に質問してくるのは相変わらずだ。

「僕は元気だよ。
ご飯は食べてるし、勉強も頑張っているよ。
後、父さんは・・・・・・・まぁ、いつもどおりかな」

最後の質問にはハッキリとは答えず、お茶を濁しておく。

「また、父さんは青慎に迷惑を掛けているのね!!!
帰ってきたら懇懇と言っておかないと!
ただ夕刻までに帰ってくるのかしらね?またあそこで・・・・・・・・・」

ブツブツと父さんについて独りごちてるのをいつもの事だと眺めていると、
僕の視線に気がついて姉さんが聞いてきた。

「あっ、ゴメンね~~一人でしゃべりすぎちゃったわね。
夕餉は何がいい?昼餉には間に合わなかったけど、
今日は夕餉は作ってからでも帰るのは大丈夫だから」
「そうなんだね・・・今回は泊れないんだ」
「はぁ~~ホントは泊りたいんだけど、ちょっと立て込んでて。
近々おエライ人が王宮に来るらしくて、明日からいつもよりお掃除を念入りにしないといけないの・・・。
(実は隣国の使者がまた縁談を持ってきそうだから隣席しろというお達しで、
再度お妃教育のやり直しなんだけどね~)」

姉さんは、ホントにガッカリだと肩を落とす。

「姉さんの作ったご飯が食べられるだけで嬉しいよ」

僕がニコニコ顔で言ったもんだから、
姉さんは満面の笑みで腕まくりをして買い物籠を取りに行く。

よかった~~~どうやら元気になったみたい。

「ねぇ、たまには一緒に買い物に行かない?」
「久々だね・・・うん、行くよ。
じゃあ籠は僕が持つよ」

姉弟、肩を並べて下町の露店街を歩く。
道行く知人が口々に声を掛けてくる。

「あら、青慎くん、今日はお姉さんと一緒なのね。
「夕鈴ちゃん、今日は休暇かい?」
「相変わらず、仲が良いことだね」

その声に立ち止って、話込むので中々買い物は終らない。
そうこうしていると、一目見たら姉さんがゲェッと言う顔をいつもする人物に遭遇した。

「よう、夕鈴!!帰っていたのか?
今回はあのお役人はいないんだな~~もう捨てられたのか?」
「几鍔!!失礼な事言わないで!!
あの方は単なる上司で捨てられるも何もないの!!!」
「ふん、強がってんのか?」
「うるさい!!!」

僕は、1歩、2歩と後ろに下がる。
この二人は逢えば言い争いを始めるので、そっとしておいた方がイイのだ。

しかし、几鍔さんは、姉さんをどう思っているんだろう??
下町の噂では、姉さんは将来几商店のおかみさんになるらしい・・・・。
という事は、几鍔さんが義兄なのだろうか?
でも、姉さんはいつも『あり得ない』と否定はしているんだよね。
でももし姉さんの気が変わって結婚したら、きっと毎日言い合いをして賑やかなんだろうな~~。
それははたして幸せなのだろうか??

僕がふと考え事をしていると、二人はその間更にヒートアップしてそろそろ限界値に到達しそうだった。

これは、大暴れになりかねないから・・・ここで止めておかないとだよね。

そうして口を開こうとした瞬間、後ろからなんだかとんでもなくひんやりと冷たい空気が一瞬流れてきた様な感覚がした。

「これは、金貸し君!元気だったかな??」

この声は・・・・李翔さんだ!!!
振り返ると姉さんの上司の李翔さんが立っていて、
ゆっくりとした足取りで僕を追い抜き、二人の目の前に立つ。

「はぁ~?誰が金貸し君だ??」
「いや~~僕の目の前の人物だよ」
「いい加減、オレの名前は几鍔だと言っているだろうが!!」
「そうだったかな~夕鈴以外はどうでもいいからね~」

はぁ~~また始まった・・・・・もう誰か止めてくれないかなぁ~。

「几鍔!!そして李翔さん!!此処は往来ですから・・・」

先程まで、大声で几鍔さんの悪口を叫んでいた姉さんが止めに入る。

「ああ」
「夕鈴・・・勝手に帰っていたんだね。心配だからついて来たよ」
「ええ~~いつの間に???」
「あれ?気が付かなかった?」
「はい・・・・」

そして姉さんの隣りに並んだ李翔さんは几鍔さんに見せつけるかの様に、
姉さんの腰を引き寄せぴったりと寄りそって絡ませた腕は離そうとはしない。

「っつ!!李翔さん、近すぎます!!」

姉さんは真っ赤になってもがいて離れようとはしたものの、それは叶わなった様だ。


僕は思う。
一体どちらと結婚すれば、姉さんの幸せと安寧はやってくるのかと・・・・。
ただどっちと結婚したとしても賑やかであることに違いない。
そしてどちらもきっと姉さんを大切にはしてくれるのだろうと。
まぁ、どちらにしても近い未来きっと訪れることになるんだろうな。

「青慎、帰ろう・・・時間もないし・・・・李翔さん、私帰りたいのですが・・・離して下さい」
「わかった、僕も行くよ。じゃあ金貸し君!またね!」
「だから、オレは金貸し君じゃない!!」

最後の最後まで几鍔さんを挑発していた李翔さんは、
几鍔さんが行ったのを確かめるとスルリと腕を離した。
それでも姉さんの隣りは、がっちりキープしていた。

「もう、勝手に出ていらして・・・・これじゃ帰ったらまた私が叱られるではありませんかっっ」
「それは、夕鈴が僕に黙って帰るからだよ~~」
「だって夕刻には戻るんですから・・・」

前を行く姉さんたち二人は何かぼそぼそと話している様だが、
此処までは聞こえないから僕には内容までは分からないけど、仲は良さそうに見える。

これで、また下町で噂になるんだろうな~。
姉さんは男二人から想われていて、どっちにするのかと。
ホントにどうするんだろうなぁ~~。

本当に心配が尽きない姉さんだけど、僕にとっては最高の姉だと言う事だけは胸を張って言える!!!
前を歩く姉を誇らしく思いながら、家路へと急いだ。

その後、何故か姉さんのご飯を何の違和感もなく、
平らげた李翔さんはご機嫌に姉さんを伴って王宮へと帰って行った。

それにしても、姉さんは何をしに帰って来たんだろう???
そう思いつつ戸棚を開けてみると、手紙とお金が置いてあった。


~~青慎へ・・・そろそろ学問所で使っている文具が無くなっていると思います。
これで買いなさいね!くれぐれも父さんには渡さない様に!!  姉さんより~~


姉さん・・・有難う。
早く、官吏になって楽をさせてあげるからね!!
僕、今まで以上精一杯頑張るからね!!

決意を新たに机につく青慎だった。


いつか見るはずの夕鈴の花嫁姿を思い描きながら。
その時に隣にいる伴侶の姿はぼやけたままで・・・・・。




終。





2012.12.06 SNS初載




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【青慎の懇談】
2010年04月01日 (木) | 編集 |

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臨時妃 ・ 原作寄り

【注意事項】

前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
此方のSSSは、息子の小学校懇談会当日にポッコリ思いついた作品です。
きっと日常にはこんな事も有るだろう~と言う感覚でお楽しみ下さい。






「あの・・・李順さん、お願いがありまして。
実は、明日の一日だけ実家に帰りたいんですが・・・」
「どうされたんです?いきなり!!」

眼鏡の奥から、『不用意に実家に帰るのは避けて下さい!!また陛下がついていくではありませんか・・・』と言い兼ねない視線が突き刺さる。

いや、ここで、引きさがる訳にはいかない!!

「あのですね、実は、青・・・いえ弟の学問所で懇談が有るんです!!
ウチの父は全く当てに為らないので、代わりに毎年私が出ているので。
今年も行きたいと・・・」
「そうだったんですか・・・・・」
「はい!お願いします」

私は、頭を深々と下げて了承の言葉を待つ。

「では、仕方ありま・・・・」
「夕鈴!!任せておいて!!僕も行くから」

「「陛下は、行く必要はありません!!」」

夕鈴と李順の言葉が重なる。

冗談じゃない!これ以上政務が滞りでもしたら、
あの宰相に何を言われるか分かったものじゃないですよ!!
冗談じゃない!陛下が勝手に付いて来て政務が滞ってしまったら、
李順さんの怒りから『減給』なんてことも有りうるじゃない!!

二人の思惑は違えど、黎翔に願う事に関しては一致する。

「酷いよ~~~お嫁さんが帰るのなら、夫である僕もついていくべきだよ。
ましてや青慎君は義弟でも有るのだし・・・」
「私はバイト妃です!!
よって、陛下と青慎はなんの関係も有りませんっっ」

きっぱり言い切ると、夕鈴は踵を返して部屋に戻ろうとする。
これ以上此処で話をしていたら、いつの間にか黎翔がついて来ることにも為り兼ねないからだ。

「夕鈴~~~待ってよ。ま
だ話は終わってないよ~~」

黎翔の言葉で、夕鈴は仕方なく振り返った。

「いえ、これ以上此処にいて政務のお邪魔に為っても申し訳ないですし!!
李順さん、この話は後で・・・」

小犬が置いてけぼりを食らった時の様な表情は、一番性質(たち)が悪い・・・・。
気がつけば了承されられている事が多いから。

「では、失礼いたします」

今度こそ踵を返して逃げるように出て行った。


************


そして次の日。
何とかあれからこっそり話を付けて、下町に帰って来た。

「さぁ、学問所にいくわよ~~~今年は何て褒められるのか楽しみだわ」
「そうだね、青慎君は優秀みたいだし」

「・・・・・・・・・・・・・・」

夕鈴が絶句し後ろを振り返ると、ニコニコ顔で愉しそうに笑う黎翔が立っていた。

「なっ、何で、ここにいるんですか~~~~~~~~~~~」

余りの驚きに夕鈴の声は大音響となり、道行く人がその声に反応して驚きつつ振り返る。
自分に集まる視線に気がつき夕鈴は恥しくなって俯いた。

「だって、昨日行ったはずだよ!僕も行くって」
「私は駄目だと言った筈ですよ」
「駄目よ駄目よもイイのうち!!」
「それを言うなら、『嫌よ嫌よも好きのウチ』ですが・・・」
「ほら、じゃあ、イイじゃない!!」

なんだか、訳のわからない屁理屈をこねてくる。

「分かりました・・・来たものは仕方ありませんものね。
但し、学問所へは私だけで行きますからね」

ここは、チャンと釘は差しておかないと!!!

「そうだね、夕鈴解ったよ!!(ニコニコ)帰りは一緒に帰ろうね」

余りにも気持ちのイイ返事をして、黎翔は何処へ行くとも告げずに消えて行った。

陛下・・・何処に行ったのかしら?
下町の視察??
まぁ、いいわ、何にしても良かった・・・付いて来られるのも困るし。
さぁ行くわよ!いざ青慎の学問所へ!!


学問所に着くと、廊下には息子の成績を我先に聞こうと沢山の保護者が教室の前で待機しており、その中において夕鈴が一番若く周囲の目を引いていた。
夕鈴は特に知り合いもいない為、談笑する保護者の話をボーと聞きつつ椅子に座りただ順番を待っていた。

「汀 青慎君の保護者の方、中にどうぞ」

中から呼び出す声が聞こえてきて、夕鈴は椅子から立ち上がると直ぐに返事をした。

「は、はい!今参ります」

緊張しつつ中に入る。
後ろの保護者から『まぁ』『あの方は?』と声が聞えてくる。
でもこれは年若い保護者に対する驚きの声だろうと思い、特には気にしないこととした。

けれど目の前の先生も怪訝そうな視線を向けている。
でも先生には何度も会っているから、自分が父の代わりにくる事は了解済みである筈なのだが・・・・。

そして先生は徐に訊いてくる。

「あの、お姉さんと・・・此方は?」
「はい?私だけの筈ですけど・・・」

夕鈴は不思議に思い、訊き返す。

「あのですね・・・後ろにお立ちの男性は?」
「?????」

壊れたからくり人形がギィ~~と音を立てるように、ゆっくりと首を後ろに向けた。

「あっっ!!!へい、イエ、李翔さん!!どうして???」

夕鈴の驚きの言葉は掻き消されるように、
当たり前のように付いて来てしまっている黎翔は先生に話し始めた。

「こんにちは、先生殿!私は、此方の女性の仕事上の上司です。
ただの付添ですからお気になさらず・・・」
「気にしますよね~先生!!」
「いっ、いえ、私は大丈夫ですが・・・」

先生は汗をぬぐいつつ、曖昧に笑う。

全く!!さっきの約束は如何したのよ!!!

「もう、イイです!!この方はお気になさらず、お話をどうぞ」
「ではですね、青慎君は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

先生が話している間、隣りに座る黎翔は物珍しそうに『ウンウン』と頷きながら、話を聞き入っていた。
最初は夕鈴も気に為って話を聞くのもそぞろになっていたが、
途中からはどうでもよくなり先生の言葉を聞き洩らすまいと真剣に聞いていた。



そして四半刻程で懇談も無事に終り、学問所から二人並んで下町ぶらぶら歩いていた。

「夕鈴!愉しかったね~それに青慎君、とっても優秀なんだね。
夕鈴にとって本当に自慢の弟君だよね~」

ちゃっかり先生の話を最後まで聞いた黎翔は、とてもご機嫌で夕鈴にニッコリと微笑んでいた。
そんな黎翔の様子に夕鈴は頭を抱える。

「愉しい訳ないでは有りませんか!!!
もう帰ったら、また李順さんに怒られてしまいます」
「大丈夫!李順には僕が取りなしておくから!
それにしてもホントに凄いよ、青慎君。
これはきっと官吏の登用試験合格は間違いないよ!!
先生のお墨付きもある事だし!!僕も青慎君が出仕してくるのが楽しみだよ~~」
「そうですか~~~そこまで褒めて頂くと嬉しいです!!」

夕鈴は頬を染めて、嬉しそうにニッコリと笑う。
最愛の弟を褒められたとなれば、悪い気はしない。


夕鈴・・・・青慎君を褒められて段々上機嫌になってきたな!!


「じゃあ、夕鈴!!懇談も無事に終った事だし、此処は美味しい甘味処でゆっくりとお茶でもして帰ろうよ」
「でも、李順さんが・・・何と言うか・・・」
「さっきも言ったけど、大丈夫だよ!だから行こうよ~」
「分かりました、では行きますしょうか」
「やった~~~夕鈴のおすすめの所に案内してくれる?」

始終ご機嫌な黎翔は、無意識に夕鈴の腕に自分の腕を絡めてきた。
瞬時に顔を赤らめ、逃れようとゆっくりと絡められた腕に反対の手を回す。
それを察した黎翔は、離してなるのもかと無言で夕鈴を引っ張って行く。

はぁ~~~。

心の中で大きく嘆息した夕鈴は、もうなされるがまま甘味処へを向かった。
黎翔は、益々ご機嫌に足を早めたのだった。


そしてこの後甘味処でゆっくりと愉しんだ二人が王宮に帰りついたのは夕闇が迫る夕刻で、
待ち構えていた李順に夕鈴も巻き込まれこってり絞られたのは言うまでもない。
黎翔が取り成すと言っていたが、李順の怒りは誰も止めることなんて出来ない事を夕鈴は知ったのだった。


終。






2012.11.26 SNS初載





【或る月の末日に】
2010年04月01日 (木) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り

【注意事項】

前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
此方のSSは10月の末日・・・そう、ハロウィンに因んで書いたものです。







そう、あれは一冊の書物から始まった。
後にしてみれば、あんなに事になるなんて思いもよらなかったのである。



********




「夕鈴、先程接見していた近隣国の使者が、
これをお妃様に渡して欲しいと献上してきたから、どうぞ」

陛下が徐に差し出したのは、一冊の書物・・・表紙には『Halloween』と書かれている。

「はろ・・・・・・・いん?」
「ハロウィンだよ」
「どんな書物でしょうね・・・・」
「さぁ?僕は開いてないからね・・・。
あっ、もう執務室に戻らないと嫌味を言いつつ李順が探しにやってくるから行くよ」

黎翔は名残惜しそうに手を振りつつ、部屋から出て行ってしまった。
見送った夕鈴はお気に入りの椅子に腰かけ、一頁目を開いてみた。

「なになに・・・・・・・・」

『ハロウィンとは死者の祭りおよび収穫祭であり・・・・その昔、10月31日の夜は死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていた。
これらから身を守るために仮面を被り、魔除けの為に焚き火を焚いていた。
これに因んで現在では31日の夜、カボチャをくりぬいた中に蝋燭を立てたものを作って飾り、更に魔女やお化けに仮装した子供達が近くの家を1軒ずつ「トリック・オア・トリート(Trick or treat. ご馳走をくれないと悪戯するよ)」と唱えて回る。
家庭ではカボチャの菓子を作り、子供たちに渡すのである。
そしてお菓子がもらえなかった場合は報復の悪戯をしてもよい・・・・・・・・・・・・・・』

これは何???
こんな書物を私に献上したかった???
近隣国はどういう意図でくれたのかしら???

夕鈴の頭の中は、丁度書物に有る様なくりぬかれたかぼちゃの蝋燭のように空虚だった。
それでも何となく気になり、続きを読み進める。

「え~~~と」

『かぼちゃのお菓子で一番多いモノは・・・・・・クッキーである。』

クッキー???
それってどんな菓子なのよ。

『作り方は・・・・・・・小麦粉・砂糖・マーガリンを用意します・・・そして』

マーガリンってどういうもの??
でも続きを読むと、トロトロの液状のものみたいだわ。

数刻ほど夕鈴はその書物を読み続け、気が付けば部屋の中はうす暗くなっていた。

「お妃様・・・・先程からご熱心にお読みの様ですが、どの様な事が書かれてありますか?
お差支えなければ、お教え頂けますか?」

部屋の明かりを灯してくれた侍女は、夕鈴が脇目も振らずに読んでいるのが大層気になるらしく堪らずに訊いてきた。

「ああ、これですの?
どうも、他の国で行われているお祭りの概要が載ってある書の様です」
「どんなお祭りなのでしょうか?」
「ええ、それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

夕鈴は聞かれるまま、自分が読んで知識として習得したものを丁寧に説明する。

「まぁ!面白そうですわね」
「たまにはこの様なお祭りがあっても、宜しい様な気がいたしますわね」
「そうですわ~~」

何故か、俄然侍女達がやる気になっている。

これは、是非にハロウィンなるお祭りを催さないといけないのではないのか!!とその気になってきた夕鈴は、密かに後宮内だけで開催しようと準備を始めたのであった。

まずは『お菓子がないと始まらない』と厨房が暇になる昼下がりに、
侍女と共に厨房を貸し切った上で、書物を片手に『かぼちゃクッキー』為るモノを試行錯誤しながら作ってみた。
幸いにも侍女の一人の実家が、王宮にも献上している菓子店を営んでおり材料は全て手に入った。

しかし、材料も限られているので失敗はそうそう出来ない。
難しい顔をしつつ、そして粉で顔が白くなりながら何とか完成した。
その間厨房では笑い声が絶えず外で待機している料理人も非常に気になるらしく時折、中を窺っていたようであった。


******


それから数日後の昼餉の後。
片付けをしている侍女の一人が、徐に夕鈴に声を掛けた。

「お妃様・・・・・・準備は整いましたが、後宮内だけでは勿体のう御座いますね」
「そうですか???」
「ええ・・・・私たちが作ったクッキーでしたっけ、あれは中々食せないものでしょうから官吏の皆さんもご一緒して頂けたらきっと喜ばれる事と存じますが」

段々話が大きくなっていっている事に少し不安を感じながらも、
侍女さんが折角勧めてくれた事だからと李順に話を通すことにした。

「・・・・・・・・ってことで如何でしょうか?」
「まぁ、今はそんなに繁忙期でもありませんし、
此方の出費もないようですから許可致しましょう。
それで如何すれば宜しいのでしょうか?」
「私たちが、お菓子を持ってますから・・・官吏の方々に仮面でも付けてもらって、王宮と後宮を結ぶ回廊の広間に来て頂くなんてことはどうでしょうか」
「そうですね・・・・いいでしょう」
「それはそうと、その祭りはいつと言っていましたかね」
「確か・・・今月の末日だったと・・・・」
「それって、今日じゃないですか!!」
「え~~~~そうだったですね。
日にちはうろ覚えだったから・・・・」

夕鈴は侍女たちと後宮で最後の仕上げを、
そして李順は官吏たちに通達したりとドタバタ慌てて準備に奔走し、
夕刻までにはすべてが整ったのだった。


**********


陽もすっかり落ちた夜。

回廊の両端には厨房から頂いたかぼちゃをくりぬいて作った即席のかぼちゃ蝋燭が並べられ、侍女達は官吏を待ちかまていた。
仕事が終わった者から仮面を付けて回廊広間まで出向くように言い渡されていたので、ぽつりぽつりと官吏がやってくる。
全ての人が『トリック・オア・トリート』と唱えながら・・・・・・。

その度に侍女さん達が入れ替わり立ち替わり、クッキーを官吏に渡している。
極上の微笑をたたえて・・・・・・。

夕鈴はさすがに官吏に手渡すのは陛下の手前出来ないので、嬉しそうに配る侍女さん達をただ眺めていた。
そうして・・・・・段々人も来なくなり大体渡し終わった様なので、此処でお開きにすることにした。

若手の官吏の中で来なかったのは、方淵、水月、李順くらいであった。
方淵は勿論下らないと一蹴してしまい、水月に至っては夕刻よりも随分前に早退してしまっていたからである。

夕鈴は、片付けを侍女に任せて、残ったクッキーを籠に入れ王宮に続く回廊を一人ひたひたと歩いて、執務室を目指した。
そこへ向こうから黒い外套で全身を覆い、足音も立てずにやって来る人影が。

誰????
あの黒づくめの・・・・・・もしかして刺客???

夕鈴は危険察知能力が作動し、一旦立ち止って回廊の柱の影に隠れた。
そしてそのまま息をひそめて、その人物が立ち去るのをじっと待った。

もう隠れて随分経つと感じたのか、夕鈴は柱の影からひょっこり顔を出してみた。
すると、不意に目の前に現れた黒ずくめの人物が囁いた。

「トリック・オア・トリート」
「きゃあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

辺りに響く大絶叫!!!!!
思わず目を瞑った夕鈴が恐る恐る目を開くと、目の前で黒衣の人物が耳を押さえていた。
良く見るとそれは黎翔がだった。

「へ、へいか・・・・・・・・・・・」
「夕鈴・・・・随分と大きな声だね。こ
れだったら刺客もびっくりして怯んじゃうよ」
「す、すみません!!すみませんっっ!!!」

直立不動で何度も何度も謝る夕鈴に、黎翔はそっと手を差し伸べ頬に軽く触れてきた。

「もういいよ、そんなに謝らなくても・・・・それよりトリック・オア・トリートだよ」

片目をお茶目に瞑りつつ、夕鈴に笑ってみせた。

「はい・・・・では此方をどうぞ」

夕鈴は籠に入ったかぼちゃクッキーの袋を取り出すと、黎翔の掌の上にそっと乗せた。
その時黎、翔の瞳は紅く妖しく光る。
夕鈴は、何かいや~~な予感が・・・・。

「夕鈴・・・先程の事を謝るのなら、そうだな・・・行動で示してもらわないと」
「行動ですか??」
「そうだよ!!じゃあ~このお菓子を僕に食べさせてくれる?」
「えっ、・・・は、はい」

夕鈴は申し訳ない事をしたのは私なのだから、これくらいはしないと・・・・と覚悟を決める。
籠に入っているクッキーを一枚取り出すと、夕鈴は徐に黎翔の口元に運んだ。

「夕鈴・・・・とっても美味しいんだけど、何かが足りないよね」
「えっ・・・味がヘンですか?」
「そうじゃなくて・・・・・やっぱり食べさせてくれるのだったら、『あ~~ん』は必要でしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・」

言いたい放題の陛下に、そろそろ夕鈴の我慢の限界は訪れようとしている。
対して黎翔はというと、この上ない上機嫌でワクワクしている。
夕鈴の『あ~~ん』を待っている様子であり、見えるはずもない茶色の尻尾は盛大に振られている。

夕鈴は、顔から火が出そうなのを懸命に耐えた。

「あ~~~ん」

クッキーを黎翔の口元に持って行ったその時、夕鈴の指ごと黎翔のお口の中へ。

「なっ、何するんですか~~~~~~~~。」
「えっ(もぐもぐ・・・・)だって、(もぐもぐ)夕鈴の指美味しそうなんだもの」
「もう・・・いい加減にして下さい」

夕鈴は、静かに低い声で言い放つとそっぽを向いた。

「ゴメンね・・・・夕鈴・・・・ほら、今日はハロウィンだしイタズラしてみたかったんだ」
「お菓子をあげれば、イタズラはされないのですが!!」

シュン・・・・となった黎翔に、夕鈴は勝てる筈もなく仕方ないと苦笑いをする。
小犬に変貌した黎翔に誰が強く言えようか・・・・否、誰もいない。
そこが黎翔の『狼陛下』たる所以でもある。

そして、二人仲良く天高く登ったまぁるい月を眺めながら、残りのクッキーを食べた。

「今日は愉しかったよ、有難う」
「いえ・・・・」

そうして、二人はいつまでも月を見上げていた。


そして後日。
官吏といい仲になった幾人もの侍女さんたちが嬉しそうに報告をされた事は、
ハロウィンの起こした魔法なのだろうか??

ふと、思う夕鈴なのであった・・・・・・・・・・・。



終。




2012.10.31 SNS初載







【夕鈴の菓子講習会】
2010年04月01日 (木) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り

【注意事項】

前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。






最近急に寒くなってきた・・・・特に今日は外の気温と室温が格段に違っている。

こんな時は、あつ~~~いお茶が最高に美味しい。
そしてホカホカの饅頭がお茶うけだと尚更嬉しい。


朝から夕鈴は今日の予定がない事を確認して、厨房に顔を出してみた。
これはたまにある事でなので厨房の料理人たちは驚く事はなかったが、
緊張するらしく厨房の空気がピンと張ったモノに変わる。

「お妃様・・・如何なさいました?
朝餉で何か不手際が御座いましたでしょうか?」

料理長が恐縮しきって頭を下げてくる。

「いえ、そんな事は御座いませんよ、今朝も美味しく頂けました。特にお魚が絶品でしたよ」

夕鈴は、柔らかなお妃スマイルで返す。
料理長は安心したが夕鈴の訪問理由について疑問に思っているのを言い出しにくいようで、
それでも何か言いたい雰囲気を出しながら夕鈴を見ている。
それを察した夕鈴が、お妃らしくゆったりと微笑みながら訪問理由を伝えた。

「あの・・・・今日は寒いですので、陛下にお饅頭でも食して戴きたいと思いまして。
出来ましたら厨房をお借りいたしたいと・・・・」
「あ、その様なご用向きで御座いましたか。
はい喜んで!」

料理長が合図をすると、他に作業をしていた料理人たちが一斉に片づけを始め即座に場所をあけてくれた。

「申し訳ありません。皆さんのお手を止めてしまって・・・・」
「いえ、とんでもありません、大丈夫ですよ。
ただ一つお願いが・・・・」
「はい、何でございましょう・・・・私が出来る事でしたら」
「お妃様がお饅頭をお作りになる所を見せて戴きたいと思いまして」
「えっ?」
「いえ、陛下が『美味しい、美味しい』といつも仰っておられるとのことで、
我々も見習いたく存じます」

え~~~~私が作るモノは簡単だし、庶民が食しているモノだから珍しくて陛下が喜んでいるだけなのに。
それを見せて欲しいだなんて、一流の料理人が??

夕鈴はハッキリ言って困惑してしまっていたが、料理長の真摯な眼には勝てなかった。

「では・・・どうぞご覧ください。
ただ・・私が作るものはとても簡単な物ですが」


そして厨房では、一流の料理人相手に『夕鈴菓子講習会』が急遽始まったのである。

「これは、この様に混ぜます。
そしてシッカリと捏ねて下さい」

夕鈴の手つきに惚れ惚れしている料理人。
その視線の中、夕鈴は少し緊張しつついつもの行程で手早く作っていく。
その間、『ほーーーー』『素晴らしい』と感嘆の声が上がる。
いつしか料理人達の関心の的になっていることなんて、夕鈴は全く気付かず。
一心不乱に、生地をこねていく。

*******


して数刻後。
美味しい匂いを辺りに漂わせながら、
ホカホカの庶民饅頭が、ゴロゴロと出来上がったのである。

夕鈴は、見てくれていた料理人に気前よく振る舞った。
食した誰もが『美味しい』と喜んで食してくれているのが嬉しくて、
夕鈴は何だかホンワリしていくのを感じていた。


そして気がつくと、元々の目的であった陛下への饅頭差し入れ分はかなり少なく為っていた。
でも折角陛下の為に作ったのだからと、陛下と李順のいる執務室へと運んで行った。
いつも通り『美味しい』と喜んで食べてはくれたものの、黎翔は何故か不機嫌だった。

如何したのかしら?
『美味しい』って言ってくれてるけど・・・・。

「ねぇ~夕鈴、もうこれだけ?
いつもはもっと沢山あるのに・・・もしかして、珍しく失敗でもした?」
「いいえ、今日は厨房の皆さんが見ていたいということで、急遽『菓子講習会』となってしまって、皆さんに食していただいたんですよ。
皆さん『美味しい』と言ってくださって嬉しかったです!!
それに一流の宮廷料理人の方にお教えするなんておこがましいですけど、とっても楽しかったです。」

夕鈴はウキウキとしながら、語っていた。
突如、窓や戸が開いているわけでもないのに、
執務室の温度が下がった気がした。
背筋に妙な寒気を感じる。

夕鈴のお手製の饅頭を厨房の奴らに分けてやっただと!
私だってめったに口に出来ないのに??

そう、夕鈴が先程の出来事を愉しそうに話して聞かているのが黎翔にとって気に入らないのだ。
それこそ、十分不機嫌になるべき要素だった。
執務室に冷気ををもたらせ、部屋の温度が下がり始めているのであったのだ。
それでも夕鈴の饅頭はしっかりと全て食べつくし、
それを確認した夕鈴が部屋に戻ろうとするところに黎翔は言い放った。

「夕鈴・・・今度から厨房で何かを作る時は、僕も一緒じゃないと駄目だよ」
「なんでですか?」
「なんででも!!いいから、『はい』は??」
「わかりました」

そうして。
面倒くさくなった夕鈴は、これ以後お菓子を作る機会をめっきりと減らしたのであった。

それは一重に、陛下がついて来るという事柄を了承させられたから。
これ以上陛下が政務をこなす時間を奪っては、李順さんに減給なぞされては敵わないから。
只、それ一点に尽きるのである。

『自業自得』・・・この言葉が相応しい。
だが、その事を作りだしたのが自分自身である事を理解していない黎翔は、
今日政務に縛られながら寵妃のお手製饅頭の差し入れを待っているのだった。



終。



2012.10.30 SNS初載




【茶杯の対価】
2010年04月01日 (木) | 編集 |
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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。








ガチャッン!!!!
音を立てて壊れのは、青磁の茶杯。

「夕鈴、怪我はない??」

黎翔は長椅子から慌てて駆け寄り、夕鈴の柔らかな手を取り怪我が無いか確認する。

「は、はい!
大丈夫ですが・・・・・・・・茶杯が、茶杯が・・・・・・。」

夕鈴は茫然として、砕けちった茶杯を見詰めていた。
ただもう元には戻らないという事だけは、真っ白になった頭でも理解出来る。
おぼろげな動作で、座り込んだ夕鈴は割れた茶杯の破片を慌てて拾い始めた。

「イタッ」

気が付けば尖った破片で人差し指を切っており、赤い血が滲んでいた。
それをただ眺めていて、一向にどうにかしようとはしなかった。


「夕鈴っっ、何しているんだ!!」

力強い手で手頸を掴まれ、驚く暇もなく人差し指は黎翔の口腔内に姿を消しており、ヒリヒリする感覚だけが夕鈴にさざ波の様に襲ってくる。

「えっ、陛下何をしているんですか?」

取り敢えず聞いてみた。
一見すれば治療している事くらい分かる。

でもそれだけではないのだ・・・・黎翔の行為は。

口腔内から解放された人差し指を・・・いいや、それだけではない。
中指も薬指もはたまた小指まで、丁寧に舐め上げられている。
離してもらおうと、涙目で懇願するものの一向に離してくれそうにない。

その内、羞恥で顔が・・いや全身が火照って血が沸騰しそうな感覚に落ち入ってくる。
そして天と地がぐるりと反転し、意識が急降下していく。

「夕鈴・・・・・・・ゆうりん・・・・」

黎翔は慌てて止めてみたが・・・時すでに遅し。
もう夕鈴は夢の住人になっていた。
黎翔は、抱き上げてそのままゆっくりと寝台へと運んだ。
そして、砕けた茶杯をかき集め、しばし考え込む。

このまま夕鈴の借金追加にしてもいいけど・・・・。
恐らくそうすると夕鈴はまたガッカリするし、
下手したらもう割って借金追加はイヤだからと、美味しい夕鈴のお茶が飲めなくなるのは困る。
それだけは絶対に避けなければ。


***********


そして、夕鈴が目覚めたときには紅く空を染める夕刻であった。
起きあがり、居間に行って茶杯の確認をする。
ひとつ足りない筈なのに、ちゃんと数は揃っている。

うぅ??あれは夢だったのかしら・・・・・いやそんなはずはない。
でも割れた筈の茶杯はキチンとある。
あれは確か一品ものの筈で・・・・・。
では夢??

その時。
人差し指がチクッとして、確認してみると破片で切った時に出来た傷がうっすらと残っている。

夢じゃない。
ではどうして???
・・・・これは、恐らく陛下だわ。
キチンと借金に追加して頂かないといけないのに。


何処からか見られている気配を感じ、辺りを見回して見ると戸口から陛下がこちらをみてニヤリと笑みをこぼしている。
優雅に歩いて来て私の手を取ると、傷を見て痛そうに顔をゆがめた。

「陛下、茶杯はどうされました?」
「茶杯??」
「割れた茶杯ですよ」
「ああ、あれ・・・処分したよ。
でも大丈夫!また同じモノを用意したから」
「どうしよう・・・・また借金が・・・・」
「気にしないで、李順は全く知らないから。
僕と夕鈴だけの秘密事だよ」

黎翔は片目を瞑り、イタズラっぽく笑ってみせた。
その笑顔に流されそうになるのを抑えて、夕鈴はハッキリと言い切った。

「駄目ですよ!壊してしまったのは私ですし、ちゃんと弁償しないと」
「あっ、そうそう・・・夕鈴はもう対価を僕に支払っているから、心配しなくていいよ」
「対価??」
「そう・・・・その手でね」

黎翔は黙って夕鈴の手を取り、自分の掌にのせて手の甲にそっと口付けを落とした。

「何をするんですか~~~~~~~~」

夕鈴の絶叫は部屋中を振動させる位のものであり、
そしてワナワナ身体を震わせて全身で怒りを表していた。

クスクス笑って夕鈴の怒りなどモノともない黎翔は、先程の行為を思い出し愉悦に浸っていた。
それが更に夕鈴の怒りのツボにハマったようで・・・・。

「もう陛下なんか、だいっきら~~~~~い」

大声で叫ぶと、そのまま寝所に籠ってしまった。
それを見て、黎翔はクスクスと口元を綻ばす。

『もう』ってことは、もうすでに僕の事は好きってことだよね・・・夕鈴。

黎翔はご満悦に部屋を出て行くと、回廊を軽い足取りで執務室へと歩を進めた。
その後夕鈴には茶杯の借金追加はされる事無く、
この事は闇に葬られるように消えてしまったのであった。




終。




2012.9.24 SNS初載






【空中のデッサン】
2010年04月01日 (木) | 編集 |
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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
こちらのSSSはお出掛けの際に、車の中から不思議な雲の形を見つけました。
そしてふっとお話が降りてきて書いたものです。




日差しが心地よい午後の一時の事。
いつもの様に夕鈴と二人で、四阿でのお茶を愉しんでいた。

今日のお茶菓子は、西の国から献上品として納められた焼き菓子。
サクッとして程良い甘さで、スッキリとしているこの花茶にとてもよく合う。
夕鈴の顔はお菓子の美味しさに綻んでいた。

「夕鈴ってホントに美味しそうに食べるよね。
そこがとても可愛いんだけど・・・・思わずそのほっぺを食べてしまいたくなるよ」

僕の言葉で、恥じらって俯いた頬は熟れた桃のように染まっている。

ホントにこの反応がいいんだよね、純情そのもので。
しばらくはこの兎さんは固まったまま、動けないだろうね。

僕はそっと立ち上がり四阿を出て、空を見上げてみる。

今日はとてもいい天気。
雲ひとつ無いとはいかないものの、大空というキャンバスに青の絵の具で染めた様に青空が広がっている。
そして所々にぽっかり浮かぶ綿菓子みたいな白い雲。
風に乗ってゆっくりと移動している。

そして空のキャンバスに、白兎が跳ねている様子が描かれていた。

「夕鈴~~~~~こっちにおいでよ。
空に浮かんでいる雲をごらんよ」

黎翔の呼び声に空の兎の様に夕鈴は跳ねるように四阿から出てきて、黎翔の隣で空を仰ぎ見た。

「雲ですか?」
「うん、可愛い雲だよね!思わず食べてしまいたくなるよね」
「そうですか~~じゃあ是非食べてみて下さい」
「いいの?」
「はい、明日の午後にでも」

夕鈴・・・ついに僕の手に落ちるのか?
これは明日が楽しみだな。

明日は忙しくなるわ~~~。

二人の思惑は食い違いを見せ。
でも互いの想いは分からず。


********

そして、
次の日の午後。


ご機嫌な黎翔は、寵妃の待つ後宮へと急ぐ。

昼餉の前にシッカリと政務はこなしたし、
これで夕刻までは夕鈴とまったりと過ごせるな。

意気揚々と訪れてみるものの、肝心な寵妃の姿は見えない。
どうやら昨日の四阿に行っているらしい。

急ぎ足で様子を見に行ってみると、夕鈴は忙しそうにお茶の支度をしていた。
クルクル忙しなく用意をしている姿にほぉ~と見惚れていると、
夕鈴が僕の姿に気がつき四阿の長椅子へと誘う。

「陛下・・・・昨日お約束いたしましたので、是非食して頂きたいと」

夕鈴は誇らしげに微笑み卓上を指し示す。
僕の瞳に飛び込んできたのは、卓上の上に掛けられた花柄の布巾。
その布巾を優雅な手つきでスルリと外すと、その布巾の下に並べられていたのは美味しそうな饅頭と蒸しまんの数々。

「夕鈴・・・これは?」
「はい、昨日陛下が丸くて柔らかそうな、そう饅頭のような雲をご覧になられて『食べたい』と仰ってましたよね。
それで、今日の午前は饅頭作りをしてましたの。
陛下と一緒にいただこうと思いまして」

「アハハハ~~~」

僕の笑い声は辺りに木霊した。
夕鈴は僕が笑っている意味なんて到底理解出来っこないから、キョトンと僕を凝視している。

余りにも、モノ解りがいいな・・・とは思ったんだよね。
夕鈴が見ていたのは僕が見ていた兎型の雲の隣の雲だったんだな。
確かまぁるいフワフワ雲だった様な・・・・やられたな鈍感兎に。
まぁいいか。
夕鈴の饅頭を食べる機会なんて、中々ないもんな。

「夕鈴、ご相伴にあずかってもいいかな」
「はい、キチンと手をお拭きになってからでしたら・・・」
「そうだね、ではいただきます」

僕は昨日と同じ青空の下で、夕鈴お手製の饅頭を頬張りながら空を見上げてみた。
だが昨日見えていた白い跳ね兎は何処にも無かった。

でもこうして過ごせる午後は、貴重で何物にも代えがたい。
穏やかな昼下がり。
幸せを感じるこの時が、一番いい。



終。


************

お出掛けで、ホントに跳ね兎型の雲を発見しました。
運転中でしたので、写メは取れずがっかりでしたが・・・・。
可愛い雲で、形が崩れるまでフロントガラス越しにみてました。




2012.09.25 SNS初載





【添い寝の代償】
2010年04月01日 (木) | 編集 |
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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。





「夕鈴、起きてる?」

帳の外から、優しく話掛けてみる。
まだ眠ってはいない筈だ。
今宵は、風が強く吹き付けていて、かなり騒がしいから。

「はい、起きて・・・・・いますけど」
「風が強いから様子を見に来たけど、大丈夫そうだね。
「ええ・・・大丈夫です」

中から聞こえてくるのは、擦れた声なのに気丈に答える気の強い妃の声。

「では、おやすみ」

カッカッと音高く靴音を響かせ、僕は戸口の方へと4、5歩足を進めた。

「陛下・・・・・・あの・・・・」

言いづらそうに呼びとめる可愛い声に、つい人の悪い笑みがこぼれてしまう。

フフッ、夕鈴・・・ホントは心細いんだな。

「どうしたの?」

ホントは分かっているのに、少し意地悪く聞いてみた。
決定的な言葉を聞きたくて・・・いつも強がってばかりの君にささやかな意趣返し。

「い、いえ・・・何でもないです」
「何でもないなら、おやすみ」
「・・・・・・・・・陛下、実はあの、その今日は風が強くて、その音が不安で・・・・眠れないんです」

途切れ途切れになりながら、胸の内を語ってくる。
その声すらも、可愛いと感じてしまう自分がいたりする。

作戦成功だな!!

「夕鈴、添い寝してあげようか?」

帳の向こうガバッと起き上がる音が響き、即座に慌てふためく夕鈴の様子が伺い知れた。

「添い寝なんて、と、と、とんでもないですっっ!!!」
「では、如何してほしいの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

如何してほしいかが分らないらしく、沈黙という返答が戻ってきた。

「じゃあ、夕鈴・・・君が安らかに眠れるまで、僕とお喋りしていよう。
其方に行ってもいいかい?」
「はい」

はみかみながら答える君の可愛らしさが僕の中で愛しさに変わり、
僕の心の中を満たしていく。

さて、どんな話をしようか。
夜は長いのだから昔話でもしようか・・・。

帳を上げながら、満面の笑みがこぼれていくのを止める事が出来なかった。
掛け布団を立てた膝にふんわりと掛け、帳から入ってきた僕を見つめる薄茶色の大きな瞳は、何処か恥ずかしさをひた隠すように宙を彷徨っているようだった。

「座ってもいい?」

一応断わりを入れてから、寝台の淵に軽く腰かけニッコリと微笑む僕に安心したのか、強張っていたであろう頬が緩んでフゥと短く息を吐いている。

かなり、風の音が気になって眠れなかったんだろうな。

いつもは強がっている夕鈴からは想像だにしない様子が新鮮で、僕の心を打つ。

「夕鈴、僕は眠るまで傍に居るから、眠くなるまで話をしてようよ」
「話ですか?そうですね・・・・・・・では、何を??」

話だけならいいけど、このまま陛下が此処で眠るなんて事は無いわよね。
いっそ聞いてみるのもいいかもしれないけど、
さすがに怖がっている私を気遣って来てくれたのにそんな失礼な事を聞くのはマズイわよね。

このまま、朝まで居座るのも、添い寝が出来る良い手だよね。
只、あの顔は何かを躊躇しているときにする表情だ。

まぁ僕に何を聞きたいかくらいわかるけど、あえて何も言わないでおこうっと。

何ともまぁ・・・策士である。
もうあわよくばと考えているのが見え見えで。
気が付かないのは、鈍感な夕鈴くらいである。

そんな二人の思惑と別の所では、別の方々が頭を抱えていた。

「一体、いつになったら戻ってこられるのでしょうか?」
「予言しましょう、今宵はこちらには現れませんでしょう。
そしてこの案件はきっと不吉な物となるでしょう・・・」
「宰相殿・・・・・予言されずとも陛下の行動は予想が付きますし、
恐らく朝には清々しい顔で現れる事くらい、私にもわかりますよ・・・まったくもぅ」

そう、今宵も政務を放ったらかしにして『寵妃の様子を見て来る』と一言だけ告げ、飛び出したのである。
先程から数えて何度目になるのか分からない溜息をつく李順なのであった。

「夕鈴、じゃ僕から話そうか・・・」
「そうですね、ではおねがいします」
「何の話しをしようかな・・・・・・・そうだ!5代前のこの国の王の話でもしようかな。
まぁ王様と言うより、その寵愛された妃の話だけどね」
「はい」
「では・・・・・・僕から数えて100年程前のこの国を統治していた珀 彩禮という王がいてね。
その頃のこの国は安定していて諸外国とも貿易が盛んで、国民も豊かに暮らしていたんだ。そ
の王は、色々な功績を立てたのだけれども、中でも人々に称賛を浴びたのは・・・・生涯、妃は正妃のたった一人だけだった事なんだ。
その王は、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

僕がツトツトと話し始めた昔話を夕鈴は興味を持ったらしく、身を乗り出し聞き入っていた。

陛下の低い声って心地いいのよね~~甘くて気持ちいいっていうか。
何だか眠くなってきた・・・話をしてくださっているのに寝てしまうのは失礼よね。

夕鈴・・・・・眠いようだな。
もう一息。

「夕鈴・・・眠いの?このまま僕の話を聞きながら眠ってもいいんだよ」
「いえ・・・・・・・・・申し訳・・・・・・・ないです・・・・から」

夕鈴は瞼が重力に従い下にさがって来るのを止められず、自然に任せてウトウトし始めた。
完全に眠ってしまった夕鈴を静かに寝台に横たえ、その寝顔を眺めてクスクスと微笑んだ。

「おやすみ・・・夕鈴」

おでこにチュと口づけて傍を離れようするが、僕の服の裾が何かに引っかかったのか反対の方向に引っ張られる。
後ろを振り返ると、夕鈴が僕の服をかわいい手で引っ張っていた。

これは、上げ膳ってやつか?
ならば、上げ善は食わねば!!

僕は昏い笑みを浮かべ、夕鈴の隣に滑り込んだ。
滑り込んだ褥の隣には、スヤスヤ眠る僕だけの眠り姫。
広がった薄茶の長い髪を一房手に取り、掌の中でその柔らかさを確かめ握りしめた。

「う~~~ん」

微かに声をあげながら、寝がえりを打って僕の方へ身体を向けた。
僕の目の前・・・そうお互いの息が頬に掛かるくらいの至近距離に、
さすがの僕もビックリする。

これは、襲ってもいいよっていう合図・・・・なんてことはないよね。
夕鈴はすっかり夢の中だしね。

自制しつつも眼に入る美味しそうな唇。
少し開いた唇の間からは甘い吐息が漏れており、僕の理性を試してくる。

でもこんな機会はまたとないよね。
きっと朝起きたら夕鈴は添い寝について烈火のごとく怒るだろうし。
それなら少しぐらい先にいい事があってもいいじゃないのか?
いや・・・・でも不意打ちみたいだからやめといた方が。

黎翔の中で天使と悪魔がお互いを牽制して鬩ぎ合っている。
それくらい魅了される罪作りな寝顔なのである。

全くこんなに僕の心を乱すとは・・・・な。
傾国の美女なんて言葉は聞いたことが有るが、傾国するなんてことはないが僕を陥落させる大した女性だよ。

フフッ・・・・。
暗闇に響く、自嘲的な笑い。

えいっ、ままよ。

隣で眠る夕鈴の頬に口づけ、そのまま位置をかえ夕鈴の柔らかく膨らんだ唇に口づけを落とした。
時間にして1秒・・・・・。
それでも黎翔は至福を感じ、そのまま夢の世界へと旅立った。

風がまだ強いらしく、時折ゴーーーーと激しく吹きつける。
そして、木々はザワザワ騒いでいた。



******



チュンチュン。
小鳥のさえずりで、朝が来た事を教えてくれる。

パチパチ・・・何度か瞬きをしてから眼をゆっくり開けた。

「う~~ん、昨晩は風が強かったわよね」

独り言を呟き、起き上がって大きく伸びをする。

「そうだね・・・いつに無く激しい風だったよね
「えっ、なっなんでぇ~~~~~~~~~~~~~~」

絶叫と共に寝台から飛び降り・・・・文字通り跳ね起きた。
余りの絶叫で喉が詰まり、ゴホゴホと咳がでる。

「ど、ど、ど、どうして陛下がいるんですか?」

激しく動揺し、どもりながらも一番肝心な事をシッカリと訊いていた。

「なぜって?
だって君が怖がっていたんじゃないか!」
「でも・・・・・・私が眠るまで話をしてくださるって。
それが何故今の今まで陛下が此処にいらっしゃるのでしょうか?
訳が有るようでしたらお聞かせ下さいませ!!」

段々落ち着きを取り戻してきたのであろう・・・夕鈴はキッチリ昨晩の記憶を辿りつつ、黎翔ににじり寄ってきた。
血圧が今にも急上昇してプツンと切れそうなそんな夕鈴。
そしてそんな様子を見ても、全くと言っていいほど慌てた様子を見せない黎翔。
対照的な二人が、同じ寝所で相対する。

「だって、僕が折角話していると言うのに夕鈴寝ちゃうんだもん。
僕が寝台に横たえてあげたんだよ。
そして自室へ戻ろうとしていたのに、僕の裾を握って引っ張ったのは誰だい?」

まぁホントのことなのだが、全然自分は悪くないと主張する。

「えっ・・・・・裾を引っ張った?」

まさかそんなはしたない事はしない・・・・・と羞恥に染まる頬を隠すように両の手で覆う。

あっ、自分が無意識にしたことを思って恥ずかしさにうち震えているんだよね。
夕鈴って、かっわいい。

微かに震えている夕鈴を見て、黎翔は無実を確信する。

「陛下!!!!百歩譲って、私が裾を引っ張ったことにしましょう。
でも離して自室に戻る事ができた筈です。
一緒の寝台で眠る事なんてしなくても良かったと思います。
こんな事が李順さんに知られたら、どんなお小言が私に降って来る事か。
大体陛下はどの様なお考えから、そっ、そ、添い寝など・・・・・・・・・」

恥ずかしくて震えていたのではないらしい・・・・怒りで震えているのだ。
夕鈴の怒りは直ぐには収まりそうもなく、一気に言いたい事をぶちまけている。

結構いい思いさせて貰ったのだから、夕鈴の怒りは受け止めないといけないだろうな。

僕に怒りをぶつけているその可愛らしい口元を見詰め、
昨晩の口づけを思い出すと思わずニンマリしてしまっていた。

「陛下!!!聴いているんですか????」

おっとイケナイ・・・夕鈴のお小言中だったんだ。
夕鈴・・・昨晩の君の柔らかい唇、ご馳走様!!

黎翔は、ただただ胸の中で感謝を述べる。
しかし口づけの事がバレた時の事の顛末を思い描く。

きっと、そのままニッコリ笑って済ますなんて事はないだろうなぁ。
そうなると、頬を染め詰め寄って来るくらいするのかも?
それとも・・・余りの恥ずかしさに倒れてしまったりして!


黎翔は様々な事を想像して、ニヤリと口角を上げる。
どんな夕鈴も可愛くて堪らないというように。
しかし、口付けの事がバレることは無かった。
だが、夕鈴が怒りを収めてくれたのは実に2日後のことであった。

それまでは、政務室に来てくれないどころか部屋にも入れてくれないという徹底ぶりで黎翔を困惑させていた。


もう、黙って添い寝するのは辞めよう!!
出来れば、夕鈴の了承を得てからに・・・・。
そう、反省せざるおえなかった。




終。




2012.08.27,28,29 SNS初載





【夢見心地】
2010年04月01日 (木) | 編集 |

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「夕鈴が怪我したと聞いたのだがっ!」

血相を変えて黎翔が、寵妃の部屋に飛び込んできた。

長椅子に腰掛け手当てしてもらっている当人は、
バツが悪そうに首を竦め『スミマセン』と頭を下げる。

「そんな謝る事はないが、一体何故・・・・」

黎翔は足首に巻かれた白い包帯が痛々しく見え、言葉が詰まってしまう。

「それがですね・・・・・笑わないでくださいませね。
恥ずかしいのですが実は夢を見てまして、夢の中で雲の上を歩いていたんです。
それが凄く心地よくてアチコチ歩き回っていたようです・・・そして気が付いたら寝台から落ちて、その落ちた拍子に足を捻ってしまったんです・・・・・・。

余りの恥ずかしい理由に段々声が小さくなっていき、俯き加減になる。

こんな事って、呆れられちゃうよね。
いくらなんでも、寝ぼけて寝台から落ちるだなんて。

夕鈴は全身の熱が一気に顔に集まって来る感覚に襲われ、
真っ赤に染まっている自身の頬に手をやった。
そして気が付くと黎翔が手を握っており心配げに、俯く夕鈴の顔を覗き込んでいた。

周りを見回すと、手当ての終った侍女達は遠慮して草々に下がっていた。


「夕鈴、あんまり脅かさないで・・・何処からか刺客にでも襲われたのかと心配だったんだよ!!
でも良かったよ、あまり酷くはないみたいだからね。
それにしても夕鈴は見る夢も可愛いよね、その夢には僕は出てきた?」
「えっ?陛下ですか??どうだったでしょう??
もう起きてしまったら、雲の上を歩いていた事くらいしか覚えて無くて・・・それに痛かったので・・・」

陛下と一緒にお散歩をしていて、しかも手を繋いで片手には綿飴が握られていたなんて、恥ずかしくて言えるわけがない!!

曖昧に笑う私をいぶかしむ陛下。
二人の間に流れる・・・・しばしの沈黙。
その静けさを破ったのは言うまでも無く、有能な陛下の側近だった。

「陛下、こんなところにいたのですね。あちこち探したんですよ。
あっ、そう言えば、今しがた侍女に聞きましたが夕鈴殿、怪我をしたそうで・・・」

その言葉を遮るように黎翔が口を挟む。

「ほら李順、政務が滞っているんだろ!!
さぁ行くぞ!では、夕鈴またね」

さり気無く怪我の追及を食い止めてくれ、李順と共に部屋を後にしてくれた。
心の中で手を合わせながら、夜のお茶の際には夢のお話でもしようかしらと密かに思う夕鈴なのであった。

それにしてもこの怪我の原因が李順さんに分かったら、
また『お妃失格ですよ!』と嫌味の応酬なのだろうな~~。
もしお給金を下げられたらどうしよう・・・・・。

夕鈴は夏だというのに背筋が凍る思いがし、ブルッと震えが来るのを止められなかった。


*******

そして、夜。


「夕鈴、怪我の加減はだいぶいいのか?」
「はい、御心配有難うございます。
早めの治療が良かったのでしょう、随分良いですわ」
「其れなら良いが」

いつもよりも早い黎翔の後宮渡りにそそくさとお茶の用意を始めようとする夕鈴に、
背後からふんわり抱きとめる腕が伸びる。
其れは、黎翔の逞しい腕。

「今日は、座っておくこと!!お茶なぞ、侍女たちにやらせればよい」

その腕にい誘われ、ストンと長椅子に座らせられる。
今日は仕方が無いと夕鈴も素直に従う。

それを見た侍女達はいそいそ二人分のお茶の用意をし始める。
そのまま準備が終れば勝手が分かっていると言わんばかりに、黎翔の合図を待たずして直ぐにさぁ~~~と下がって行く。
侍女達の行動に黎翔は満足して、二人っきりに為った途端に雰囲気が小犬に様変わりする。

「夕鈴、ホントに大丈夫?
あれから心配で、政務をしながらも気にってしまって今日は早目に来ちゃったんだ」
「え~~、そうなんですか??すみません・・・御心配かけてしまったんですね」
「そうだよ、君は僕の大切な妃なのだからな」
「・・・・・何故、そこで狼陛下なんですか?」
「そうだったね・・・でも大切な人だと言う事は本当だからね。」

その言葉にきっと深い意味なんて無いだろうと思っても、夕鈴は身体の体温が急激に上がっていく。

隣りの黎翔をチラ見すると・・・・じっと夕鈴を見ていて。
その、見るもの全てを絡め取る深紅の瞳が。

「あの・・・へいか・・・如何されたんですか?」
「君のはにかむ顔を見ていたら、政務の疲れも吹き飛ぶな」

いや、だからなんで狼なのよ!
これ以上、狼陛下で攻められたら・・・・・今夜は別の意味で夢見心地だわ。
寝台から落ちるくらいじゃ済みそうもない。

そんな事を考えている夕鈴に、そっと近付く端正な横顔。
おでこににそっと何かが触れた。
って、何??今のは一体??

「夕鈴、今夜は早目に休んだ方がいいよ」

そう言い残すと、黎翔はスクッと立ちあがりそのまま部屋を後にした。
残された夕鈴は。
モチロン、夢の狭間でしばし微睡むことと為った。





終。




2012.08.20 SNS初載




【まどろみの午後】
2010年04月01日 (木) | 編集 |
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【注意事項】

前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。






雨がシトシトと静かに空から落ちてくる。
このところの酷暑から一変し、今日は久々の雨模様。
いつもの入道雲も何かに吹き飛ばされたかの様に無くなって、
灰色の雲が空の大半を占めている。

窓を少し開け眺めていると、雨の匂いと少し涼しげな風が頬を撫でていき、
心地よさで眠気が襲ってきそうな・・・そんな昼下がり。

眠ってしまうつもりはなかったのに、ついウトウト瞼が自然に降りていく。
ついには薄茶色の大きな瞳は閉じられたままとなった。

「夕鈴・・・そんな所で眠っていると、風邪引いちゃうよ」

優しい言葉が低い声に乗って、頭上から降って来る。

「うぅ~~~~~~ん」

何か発しようとするが、頭が覚醒出来ずに曖昧な返事のみになる。

「夕鈴ってば・・・」

再度呼ばれるも・・・もう返事すら出来ない。

「仕方ないなぁ~~~」

少し嬉しそうに聞こえる甘い声。
その耳触りの良い声に、意識が深い所に落ち込んでいった。

突然、浮遊感が襲ってきた。
しかし夢の中では、空を浮いている自分の映像が映し出されている。

ああ、今日は青空が空一面に広がってる。
スッゴク、気持ちいいなぁ~~。
このまま空のお散歩を楽しんで、何処まで行こうかしら?!

「全く君は・・・・困った兎さんだね」

黎翔は誰に告げる風もなく呟くと、ヒョイッと愛しの妃を抱きかかえ寝台へと連れて行くことに。
腕に掛かる宝物の重さは、羽が生えているように軽い。
そして飛んで行かないようにしっかりと抱きしめて、
一歩ずつ幸せを噛み締めながら歩いて行く。

静かに寝台に降ろすと、そばの椅子に腰かけ長く柔らかな薄茶の髪を梳きながら、
寵妃の甘やかな寝息に聞き入りしばし時を過ごす。
余りにも起きそうにないのでちょっとイタズラ心が芽生え、
前髪を軽く片手で上げ露わに為ったおでこに口付けてみた。

良く寝てる・・・・。
まだ、起きないみたいだな。
じゃあ、次は頬に。

けれど、夕鈴は微動だにしない。
それに乗じて、黎翔は次は唇に・・・と思ったが、
唇は起きている時に夕鈴から施して欲しいとの願望が心を占め止めておく。

では、瞼に。
唇を触れさせた・・・・その時。


「うぅぅ~~~~~~ん」

茶色の円らな瞳がフルフルと震え、じわじわと開かれる。

「夕鈴、おはよう」
「あっ☆!?陛下!!!こんなところで何しているんですか?」
「君が窓辺でお昼寝を決め込んでいたから、寝台まで運んだんだよ」
「えっ???え~~~~~!!すっ、すみません」

寝台から飛び降りると、そのまま直立不動となり深々と頭を下げる。

「ホントにスミマセン・・・・うたた寝してたなんて恥ずかしいです」
「恥ずかしいだなんて、そんな事無いから・・・・気にしないで」

あんなに平謝りされると、イタズラしていた僕が困ってしまう。
でも、もうちょっと寝ていてくれたら愉しかったのにな。

「またね、夕鈴」

何事もなかったように、片手を振って寝室から出て行く。、

「ありがとうございました!このお礼に今宵は美味しいお茶を用意していますね」

嬉しい言葉がふわりと耳に届いた。

「うん、政務頑張って来るからね」

さてと、早く終らせてゆっくりお礼のお茶と君の微笑みを頂きに来るとしますか・・・。



外ではまだ降り止む事を知らぬ雨が、シトシト降り続いていた。





終。





2012.08.10 SNS初載