【手を繋ごう】
2010年03月31日 (水) | 編集 |
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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。







「李翔さん、こっちですよ!!
ちゃんと、ついて来て下さいね」

走って先を急ぐ夕鈴の後ろ姿を眺め、
僕はあのパワーは何処から来るのかと感心する。

「夕鈴・・・・そんなに急がないといけないの?」

追いついた僕は素朴な疑問を投げ掛けた。

「はい、今日は急がないと駄目です!!
何と言っても、下町で開催される半年に一回きりの新商品博覧会なのですよ」
「はい?それは何?」
「その名の通り・・・色々な新商品を一堂に集めて、露天商・商店向けに説明・披露して販路拡大に繋げるという大々的な博覧会なんですよ。
此処では食品から日用品・・・果ては被服に至るまでありとあらゆるものが集まり、大賑わいなんです!!!
そしてこれが目玉なんですが・・・_まだ販売していない試験的な商品なので、安価で一般の人にも販売してくれるんです!!!
だからこれを逃す手はない!!と下町の主婦は急いで行くんです」

拳を強く握り力説する夕鈴を頼もしく感じて思わずニヤケた僕に、
夕鈴はハッと我に返って恥ずかしげに頬を桃色に染めた。

「ごめんなさい・・・一人で興奮してました」

小さな声で謝罪する君が余りにも可愛くて、
耳元で甘い声で少し意地悪を言ってみる。

「ごめんなさいと思うなら、態度で示して僕と手を握ってくれる?」

突然の申し出に凄く驚いたのか、夕鈴はジリジリと後ずさりしていた。

そんなに、ビックリするようなことなのか??
誰も往来で口づけしてとは頼んだ訳ではないよ・・・・夕鈴。

しばし、考えているのか立ち止ってあさっての方向を向いている。

よしっ!ここはもうひと押しだな。

「夕鈴・・・僕は決してやましい事を考えてじゃないよ。
そんな人が大勢集まる所だと逸れてしまうだろうし、
男性に押されて転んだりしないか心配だから言っているんだよ」

うん、これじゃ断れないはずだな!!

「あっ、そうですね・・・・スミマセン。
何か勘違いしていましたね・・・・ではお願いします」

夕鈴は、素直におずおずと手を差し出してきた。
僕は表面上は普通に、しかし嬉々として手を絡み合わせて握った。

「じゃあ、行こうかお妃様」

夕鈴だけに聞こえるように囁くと、真っ赤になりそっぽを向いた。
そんな仕草が可愛くて、握った手に力を込めた。

会場に入ると夕鈴の瞳はキラキラ輝いて、
あちこち見たいと首を左右に動かしながら喜んでいる。

「李翔さん、あっちに行ってみましょう」

いつしか手を繋いでいる事が自然になり、そのまま引っ張られる。
会場で色々な物を見て買い求め、すっかりとご満悦になった夕鈴は日頃の窮屈さを晴らしているように見えた。

「夕鈴、楽しかったね。では帰ろうか」
「そうですね!あっ・・・・・・そろそろ手を離して頂けますか?」

急に思い出したかのように、はにかんで俯いた。

このままどさくさに紛れて手をを繋いだまま王宮に帰ろうかと思ったが・・・・これ以上はムリなのだろうね。

僕はそっと手を離す。
手は離してしまったものの、二人仲睦ましげに並んでゆっくりと王宮へと続く道のりを歩く。
今日の購入した戦果を話ながら・・・・。

後ろに伸びる長い影は寄りそう二人を見守るようについてきていた。




終。




2012,07,29 SNS初載 






                                                 

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【そう、それを人は夜這いと言う?】 【夢?】
2010年03月31日 (水) | 編集 |
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【注意事項】

前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
これは当時、夜更けに書いたSSS。
あの頃は、よく夜更かししていたんです。






【そう、それを人は夜這いと言う?】



ファサッ。
御簾を上げた音がこんなに大きな音がするとは思わず、
周りを見回し、気配を探る。

誰も周りにはいない様だし。
『侵入者、発見!』と衛兵や女官がやって来る様子もないな。

黎翔は安心しつつも足音を一切立てずに、寝台でグッスリと眠る夕鈴の枕元に近づく。

寝台には、規則正しい寝息で眠る愛しい女性(ひと)。
その姿は何処かの国の献上品の中にあった書物の中に出てくる姫・・・そう『眠り姫』の様だ。
紅を引いている訳でないのに、赤く濡れた唇はさくらんぼの様にプルンとしている。

思わず手を差し出して、形のいい唇をなぞってみた。

「うう~ん」

夕鈴の声で慌てて手を引っ込めた。

起こしてしまうのは可哀そうだな。

触られた事で少し覚醒したようだったが・・・・。
このまま起きてしまうかに見えたが、微かな寝息が黎翔の耳に入って来る。

どうやらまた眠ったようだ。
立ちつくして、ただ可愛い寝顔を眺めているだけの自分自身に苦笑する。

こんなに憶病だったのか?私という男は・・・。
いや、そうではない!相手が夕鈴だからだ。
ただ大切に・・・真綿で包みこむ様に大切にしたいだけ。

夕鈴が望まぬ限りは、無理強いはしたくないから。
こうして珠には自分にも見せてはくれない表情を観る為にやって来るのだ。
これくらいは許してくれるだろうか?
自分には許されるのだろうか?

少し考え込んでしまった黎翔の目に入ってきたものは、
目の前に横たわる夕鈴の綻んだ表情。
夕鈴の桃色に染まった頬が緩んで、柔らかく口角が上がっている。

良い夢を見ているのか?
微笑んでいるらしい・・・。
こうして見ると、慈悲深い女神の様だ。

胸の奥があったかくなり、疲れた僕の心が活力を取り戻していくのが実感できる。
見ているだけでは溜まらず・・・・頬に軽く触れるだけの優しい口づけを落とした。

更に微笑みが増す夕鈴に

「おやすみ♡」

一言低く甘い声で囁き、部屋を後にする。

君だけは必ず護るから。
僕の傍でずっと笑っていて。
いつか、必ず君と共に祝福の鐘を奏でよう。

まだ言えぬ決意を再確認しつつ、
回廊外から臨める満天の星々に誓いを立てた。


終。



この続きのSSSが、次の【夢?】となります。




【夢?】

これは、夜明け後に書いた続きとなるSSSです。


 



軟らかい陽光が瞳に差し込み、身体の各器官が朝の訪れを感じて覚醒していく。

瞳は光りを。
耳は蝉の鳴き声を。
鼻は朝の風の匂いを。

掛け布を払いのけ、寝台から降りると素足のまま窓辺の傍へ近寄る。
床の冷たさを足裏に感じつつ、両手で窓を開け広げ胸一杯にヒンヤリとした空気を取り込む。
窓外では、朝方の雨で花たちがその花弁の中央に雫を讃え咲き誇る。
昨晩はなんかいい夢を見ていたような気がして、思わず頬が緩む自分自身がいた。

陛下が、私の顔を覗き込んで笑っていたような夢だったような・・・。
優しい瞳でジッと見詰めていて。
私は寝ているんだけど、ホントはそれが分かっているみたいな不思議な夢。

頬に何かが触れた感覚があって手で触れてみる。
何かがある訳じゃないのに、頬が緩んでくるのを止められない。

今日も一日微笑んでいられそう。
こんなに爽やかな朝なのだから・・・そして夢見が良かったのだから。

太陽が高く登って行き、暑さが徐々に増していく。

「お妃様・・・お目ざめですか?」

帳の外から聞こえる私の目覚めを確認する侍女さんの声。

「はい!起きてます!!」

元気に声を発して、寝台から降りる。
全身を目覚めさせる様に、大きく伸びをした。


さぁ、今日も一日が始まる。
・・・・お妃としての一日が。



終。



2012.07.20 SNS初載




【庶民の生活の智恵】
2010年03月31日 (水) | 編集 |

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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。






珍しく、陛下が李順さんを伴って後宮にやって来た。
こういう日は、バイト上司が私にモノ申したい時だ!!

入って来るなり、陛下は気難しい表情で侍女を下げる。
辺りに人がいなくなると、陛下はフニャリと表情が緩んで小犬が顔を出す。
それとは対照的に眉間に皺の寄る側近。
あるモノを見つけて、早速夕鈴にお小言開始のようである。

「夕鈴殿、これは何ですか?」
「えっ、何と言われましても・・・・辞典ですよね・・・」
「ええ、確かに辞典です・・・・でも、この様な使い方はしませんよ」

上司を見ると眉間の皺に加え青筋までもがたっていて、
どうもお怒りのご様子である。

まずったのかな~~~。
どうしよう、まずはやっぱり・・・。

「ごめんなさい!!この辞典があまりにも手頃だったもので・・・」
「手頃?他に変わりになるものはいくらでもあるでしょうに。
寄りによって何故貴重な辞典なんでしょう!!全く貴女って人は!!」

フゥ~~と大きな溜息を吐いた後は、呆れ顔で私を凝視している。

やっぱり、貴重な辞典だったんだ。
まぁ、確かにこんなに上等な装丁は見た事もないものね。
でも、丁度良い重さだったのよね~~。

「ホントにごめんなさいっっ!!
実は陛下から頂いたお花が余りにも綺麗で、
このまま枯れてしまうのはもったいなくて。
、記念に取って置こうと思いまして・・・それには押し花が最適かと。
それでこの部屋に辞典が置いて有ったのを思い出し、重しにさせていただきました。
本当にごめんなさい・・・」

夕鈴は上司の目を見つめながら、言いにくそうに事の成り行きと謝罪を口にする。
そして本当に申し訳ないと、俯いてしまった。

「それで、綺麗に出来ましたか?」
「はっ、はい!
とても綺麗に出来て、最初に作ったものは、本の栞にしています」

顔をぱっと明るくさせ嬉しそうに語る夕鈴を見ると、
仕方が無いと李順もこれ以上は言うまいと・・・いやしかし一言だけでも言っておかねばと!

「夕鈴殿、言っておきますが、辞典は重しでは有りませんからね!
いいですかっっ!!」
「はい・・・・・」

夕鈴は直立不動で返事をして畏まった。
その様子を長椅子に座ったまま、見ていた黎翔がようやく口を挟む。

「おい、李順!!それくらいにしておいてくれないか・・・妃が恐がってしまうではないか」
「陛下!!此処には誰もいないのですから、夕鈴殿をかばう必要はないのですよ!!
キチンと言う事は言っておかないと!!」
「全く、お前は手厳しいよ。ほら、言う事は別にもがあったのだろ!!」
「ええ、夕鈴殿にお知らせが有って来たのですが、今日でなくていいです」

そう言うと李順はそそくさと部屋を後にした。


夕鈴は李順を見送ると、急いで挟んであった押し花をそっと外し卓の上に置いたあと、辞典を部屋の書庫に仕舞い込んだ。
それが済むと手招きしている黎翔の隣りにチョコンと座った。

「夕鈴・・・嬉しいよ。
君が僕が贈った花を、あんなにしてまで大切にしてくれるだなんて感激だよ!!」
「そうですか・・・有難うございます」

黎翔はそのまま夕鈴の手を取り、手の甲に優しく口付けを落とした。

その途端、ぼふっと音をたて夕鈴の頬が見事に真っ赤に染め上がった。
そう・・・・卓の上の、日日草の赤い花弁のように。

その日日草の押し花は卓の上で、微笑ましい二人を見守る様に存在感を強調していたのだった。



終。




2012.07.10 SNS初載




【夢現(ゆめうつつ)】
2010年03月31日 (水) | 編集 |
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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
これは結構手直ししました。
だって、読んでて意味が分からなったんですもの・・・・。
今も決して、きちんと書けてるなんて到底言えませんが、
それでも・・・・・・まぁ、今の方がマシです。










回廊をそぞろ歩くと、空がくっきりと見える庭に出た。
天空には星と月がキラキラ瞬きながら冴えわたり、優しい光りが射しこんでくる。

貴方を想うと眠れず、思わず夜の散歩としゃれこんでみた。
空を見つめて、瞳を閉じながら貴方を思い浮かべる。

そして、
貴方をそっと心呼んでみる。
『陛下』・・・・と。

「夕鈴・・・」

空耳だと思って、その声には反応はしなかった。
でも、また聞こえてきた。
空耳であるはずなのに・・・・。

「どうしたの?こんな夜更けに」

これは。
空耳なんかじゃない。

月明りで照らされ伸びる影が、貴方だと教えてくれる。

「眠れないので散歩を・・・」
「一人だと危ないよ」

影ではなく陛下の姿が見え、私の隣で空を見上げる。

「綺麗な星空だね」
「は、はい」

空ではなく陛下の横顔を見上げていたのを悟られないよう、
私は慌てて空を見上げ答える。

同じ夜。
同じ空。
見て感じられる想いが、同じでいて・・・・欲しい。

星に願いを・・・・とは言うけれど、願うだけじゃ叶いっこない。
叶えたい願いは、自分で頑張らないといけないことくらい、私だって分かってる。

だから、今日は一夜限りの夢を。

「陛下・・・・・・眠れないので・・・抱きしめて戴けませんか?」
「えっ?」

驚いた表情で、私を見てる。
だよね・・・ビックリしてしまうわよね。

「駄目ですか?」

思わず、瞳に涙が浮かんできた。
でも月明りごときでは判る筈はないから、流れ落ちるまでそのままにしておく。

でも、気づかれていないと思ったのは私だけ。
陛下は気配で分かったのか、優しく私に問いかけた。

「夕鈴・・・泣いてるの?」
「いいえ、そんなこと・・・」

言い終わる前に、ギュッと優しく抱きしめられた。
暖かい胸の中で、安心感が心の奥底から湧いてくる。

私は、今この時の幸せを噛み締め、両手を腰に回して抱きしめ返した。
そのまま時が止まってしまったかのように辺りに差し込む月明りが、
雲間に隠れてしまうまで抱き合っていた。
辺りが薄暗くなる。

「もう、戻ろうか・・・・」

陛下の優しい声に導かれ、夢現から現実に戻ってきた感覚に陥る。

「はい」
「眠れそう?」
「はい・・・」

今頃になって、何処かに追いやっていた恥ずかしさが舞い戻って来て、
『はい』としか答えられなくなった。

「部屋まで送っていくよ」

陛下の差し出す大きな手を素直に取って、並んで歩いて行く。

「おやすみなさい・・・・あの・・・今宵のことは・・・・」
「ああ、二人だけの秘密だね」

いたずらっ子のように微笑む陛下に安堵して頷いた。
部屋までの短い行道。
お互い、声を発することはなかった。
そして部屋の前で別れると、手を振りつつ回廊を心なしか軽いステップで帰って行った陛下を私はいつまでも見送った。

明日はどんな顔で逢えば良いのかしら?
今宵は夢だった・・・・なんて事では片付けられないわよね。
でも、月明りが魅せた幻・・・・ということにならないかしら・・・・・。

考え込む私は、
まだ眠れない。
眠れそうにない。

夢現に揺蕩う、一夜の現実。




終。




2012.07.29 SNS初載





【役得?】
2010年03月31日 (水) | 編集 |

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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。









「陛下、こちらにお座り頂けますか?」
「え、どうしたの?夕鈴」

夕鈴は小さな小箱を手に長椅子へと座り、黎翔に手招きしている。
何だろうと思いながらも、言われるがまま隣へとゆっくりと腰かけた。

「陛下・・・申し訳有りませんが、今ここで上着を脱いでくれませんか?」

益々もって、何だろう。
まさかのお誘い???
夕鈴の限ってそんな事なんて無いか・・・・。

上着を脱ぐとそこに現れたのは、鍛え上げられた強靱の肉体美。
余計な肉などついているはずもなく、引き締まった胸。
剣を振るう二の腕も無駄のない筋肉が付き、この腕から振り降ろされる剣舞は激しいものであろうと容易に想像できる。

夕鈴は頬を上気させながら、しばし黎翔の上半身を惚れ惚れと見惚れていたがハッと我に返り、
いそいそと小箱から道具を取り出す。

「陛下、あのですね・・・袖口がほつれていましたので、お直しさせていただきますね」

受け取った上着に針を通し、手早くほつれを直し始める。
夕鈴の鮮やかな手慣れた手つきに黎翔は感心しつつ、ジッと見つめていた。
そんな真剣な眼差しに夕鈴も気付き、恥ずかしそうに更に手早く済ませようとする。

「イタッ」

見詰められいる事が気に為り、気もそぞろに作業をしていたものだから、針を謝って指に刺してしまった様だ。
刺してしまった指からは微かに血が滲んでいる。

「夕鈴!!」

名前を呼ばれ気が付くと、心配そうな黎翔の顔が目の前に。
そして、指を掴まれそのまま黎翔が口元に運ばれた。

「だっ、大丈夫です!!!」

慌てて自分の手を引っ込めると、長椅子の端まで飛びのいて黎翔から離れようとする。

「いや、血が出ているよ」
「い、い、いえ大丈夫です・・・・というより、何をされていましたか?」

訊くのも恥ずかしかったが、思わず訊いてしまった。

「治療だよ」
「治療って・・・・・・・・・・」

何を今更・・・というような飄々とした黎翔の答え。
夕鈴は、黎翔の呆気ない答えにその後の言葉が続かない。

二人の間に沈黙が流れてきた。

「くしゅん」

沈黙を破ったのは、黎翔の小さな小さなくしゃみ。

「あっ、ごめんなさい。直ぐになおしますね」

慌ててほつれを直すと、黎翔に手渡す。
上着を受け取った黎翔がほつれの直しがキレイに出来ていることに感心する。

「夕鈴、どうも有難う」

満面の笑みで感謝を述べる。
その表情に、夕鈴も幾分安心する。

「はい」

黎翔よりも柔らかく、夕鈴は暖かい笑みをお返しした。
それでも、先程の行為には納得がいかない。

「あの・・・陛下、こんな事以前にもありましたよね」
「そうだった?」
「確か、あれは・・・私が茶杯を割った時に」
「そんな事有ったような、無かったような」
「あの時も、その、あの・・・・陛下が・・・・・」

『私の指を舐めて治療しましたよね』とは、夕鈴は言えない。
だって、そんな事口に出して言うのは恥ずかしいし。

「僕が何かしたっけ?」

黎翔はホントは覚えているくせに、すっ呆けた質問をする。
訊かれた夕鈴は、言えるはずもない。


大体、あんな機会なんてそうそうないのだから、自ら治療してもいいはずだよ。
僕たちは夫婦なんだし。
これこそ、役得って感じだよね。
夫としての・・・・・・・。

脳内で至らぬ事を考える黎翔の表情は、まさに悪いオトコというモノだった。



終。





2012.07.25 SNS初載





【憂いの理由】
2010年03月31日 (水) | 編集 |

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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。






「夕鈴、どうしたの?浮かない顔して」
「陛下・・・・」

夕鈴を見ると、薄茶の瞳が段々涙目に。

「え、えっ、夕鈴、泣いてるの?」

おろおろ。
どうしていいのかわからず、狼陛下とあろう僕が慌ててしまう。
夕鈴の憂いの訳が分からなくて。

取りあえず、話しやすそうに笑ってみた。

「夕鈴・・・本当にどうしたの?」

やんわりと話しかけてみる。
すると、夕鈴はおずおずと話始めた。

「実は、実はですね・・・いつも使っていた茶壺の縁がが欠けてしまって、
もう使えないからと侍女さんが下げてしまったんです。
すごく使いやすかったし、まだ使えるのに・・・・」
「ふう、何か重大な事が起きたのかと心配したら、そんな事だったんだね。
仕方ないよ、きっと寿命だったんだよ」

夕鈴を見ると涙は止まっていたけど、なんだか瞳がメラメラ力強く光ってる。
あれは、もしかして・・・怒っている??

「陛下、もったいないです!!まだ使えるんですよ。
こんなの下町の主婦だったら、もったいない精神でまだまだつかいます!!」

自慢げに公言する。
更に続けて、王宮の無駄について力を込めて語り始めた。

こうなった夕鈴はもう誰も止められない。
茶壺は戻してやった方がいいのだろうか?
いや、しかし李順に知られたら、夕鈴がお小言をくらうことになりかねないし。

僕は最善の方法を模索して、思考がぐるぐる回る。

「陛下??聞いていますか?」
「聞いてるよ、じゃあ同じモノを取り寄せよう・・・うん、そうしよう」

「何いっているんですか!!そんなの更にもったいないです!!
ただでさえ王宮の備品は高いものばかりなのに・・・・・・・・・・・」

更に説教が始まった・・・・。
僕は黙って聞くしかないんだろうね。
はぁ~~~。

でも。
そんな夕鈴は可愛らしい。
僕に邪心が湧く。


「夕鈴・・・・。」

一応声を掛けて、そのまま後ろから抱き締めてみた。
途端、タピシと固まって微動だにしないどころか、言葉すら出てこないようで。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの、その、へいか、これは、何をして・・・いるんでしょう?」


ようやく出てきた言葉も途切れ途切れで。
まるで、酸欠の金魚みたいに口がパクパクしてる。
更に、瞳は白黒してキョロキョロ、ウロウロ。

そんな夕鈴にはお構いなしに、僕は耳元へと囁く。

「茶壺の件は任せてね!!」

僕はにっこりほほ笑むと、まだ平静を取り戻していない夕鈴を残して部屋を出た。


やっぱり・・・僕のお嫁さんは可愛い。
いつまでもそのままでいてね。


そして・・・残された花嫁はというと、茶壺が壊れた憂いなんてどこへやら。
いきなりの陛下の行動に翻弄され、
真っ赤な頬を両手で覆ってしばらく立ち尽くしていたのだった。



終。





2012.07.05 SNS初載






【二人のどうでもいい勘違い】
2010年03月31日 (水) | 編集 |
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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
当時のままで、あまり手直しはしていません。


読み返す作業は、私自身にとってかなり悶絶拷問です・・・・・。





「こりゃ、掃除娘!今日は動きが悪いのう・・・」

卓に腰かけ、バリバリ音を鳴らしながらお煎餅を食している老師が愉しそうに呟いた。

「もう老師!!掃除した端から汚さないでください!!
今日はただでさえ筋肉痛なんですから・・・」
「筋肉痛?とは!」
「ええ、足が少しと・・・腰も痛いかな?」

そのまま腰をゆっくりと擦る。
昨日開催された李順による椅子の座り方講座の影響で、今日は身体のあちこちが痛い。

はぁ~今日は政務室行きはお断りしておいてよかった。
この筋肉痛だったら、また座り方が悪いと言われちゃうから・・・・。

夕鈴は上司のあの怒りようが想像でき、ブルンと寒気がして身体を震わせた。
そんな様子の夕鈴を見て、老師は更に畳みかける。

「腰が痛いとな・・・・それはそれは、陛下と熱い夜を・・・・・」
「違います!!!何を言っているんですかっっ!!!
そんな事あるはずはありませんよ!
昨日李順さんにお妃らしい椅子の座り方の特訓を受けていたんです!!」
「なんじゃ、そうなのか・・・残念じゃのう・・・」

老師を見ると、肩を落としがっかりしている。

そんなにがっかりしなくても・・・。
私はただのバイト妃なんですから、過剰な期待をしてもらってもこまるというのに。

夕鈴は、無言で掃除を再開する。

「あれ、お妃ちゃん、今日は動きがぎこちなくねぇ?」

また厄介な浩大のご登場だ。
夕鈴は手に持った雑巾を握りしめつつ、ため息を吐きだした。

これで今日の成果は台無しになると決定したわね・・・・・。

「掃除娘は筋肉痛らしいぞぃ」

楽し気に浩大に夕鈴の様子を話しながら、
やっぱりお煎餅をバリバリ呑気に老師は食べ続けている。

「えぇぇぇ~~~お妃ちゃん、つ・い・に・陛・下・と?」
「もう浩大まで何言ってるの!!!浩大は見ていたでしょ、李順さんに特訓されていたとこ」
「あ~~~あ、あれね・・・お妃ちゃんの真剣な顔、ウケタよ~~~」

あはははっ・・とお腹を抱えて笑っている。

もうヒトゴトだと思って。
はぁ~~何だかこの二人を相手にしていると疲れる。
もう今日は、掃除やめよ~~っと。

早々に諦めた夕鈴は雑巾を洗った水桶を持って、痛い腰を叱咤しながら井戸へと向かう。

「張のじぃちゃん・・・・これで少しはお妃ちゃんも意識するかな?」
「お主、中々いい仕事をするのう~~~二人はじれったいからなぁ。
こうして周りがけしかけてやらんと・・・」
「じゃあ、ご褒美にこの残りのお煎餅貰っていくからね~~」

ひらりと窓から出て行く浩大。
腕を組み、満足げな老師の顔。

その頃。
一人井戸で必死で後片付けしていた夕鈴は、この二人がこの様に画策していたなどと知るよしは無かった。



終。




2012.06.28 SNS初載




【お妃教育の成果はいかに?】
2010年03月31日 (水) | 編集 |
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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。






「大体、あなたは何度お妃教育のやり直しをすればいいんでしょうね。
全く私が・・・・・・」

大きな溜息と共に吐き出される嫌みの数々。
さすが鬼上司だ。

夕鈴は項垂れて聞くしかなく、静かに李順の話す内容に耳を傾けていた。
その弁から、今日のお説教は政務室での座り方についてである。

どうも私の座り方は、李順さんが考える淑やかで上品な座り方の及第点ではないらしいのよねぇ~~。
でも私としては、きちんと座っているつもりなんだけど・・・。

そして李順先生の講義は続く。

「だからですね・・・聞いていますか?
椅子の背もたれに寄りかかると上品な印象を与えませんからね。
背筋を伸ばして姿勢を正して座って下さいよ。
脚は左右どちらかに斜めに流し、膝から足先までが一直線の状況に合わせて下さい。
そして一番大切なのは膝を付けること・・・・・・・分かりましたか?」

李順先生は一気に捲し立てたので喉が痛くなったらしく、
杯に入った水を飲み干していた。

「分かりましたか?では、やってみて下さい」

夕鈴は言われるがまま、頑張って綺麗に座ってみせた。
足がプルプルして落ち着かない・・・。

まだ、この体制???
早く座り方の評価をしてぇ~~~。

李順先生は夕鈴の座り方を、鋭い眼光でもってチェックをしつつ一周りして確認する。

「まぁ、いいでしょう・・・・政務室ではいつもこの座り方で過ごして下さいね。
いいですね!!」
「ハイ、分かりました・・・」
「もういいでしょう、では立ってもいいですよ」


夕鈴は、やっとお許しが出てホッとする。
かれこれ半刻程はこのままの姿勢だっただろうか?
何だか太ももが痛い気がする。


こんなにきちんと座るなんて、普通に生活していたらあんまり機会はないものね。
青慎の学門所の入所式以来かしら???
でも上流家庭のお嬢様はこれは当然身に付いているんだろうな~~。
はぁ~~~~それにしても疲れた。
今日は入浴の際にゆっくり揉み解さなくっちゃ。

いろんな事を考えている間に鬼上司は退出しており、
夕鈴は知らず知らず大きな溜息を吐いていた。



「今日は、李順にまたお妃教育をされていたようだね」

黎翔は今日の出来事を李順から報告を受けたようで、
お疲れ様とニッコリと微笑む。

「はい、今日は座り方についてですが・・・ずっと同じ姿勢でいたので、身体が痛くって!!
ダメですよね、こんなんじゃ!!」
「そんなこと無いよ!李順が厳しすぎるんだよ!!
ホントに夕鈴、お疲れ様。
だから、僕がゆっくりと癒してあげようか?お風呂で・・・」

明日は政務室伺いは止めにしてもらおう・・・筋肉痛になりそうだしね。

「夕鈴?・・・・聞いてた?」
「えっ、何か言いましたか?」
「だからね、僕が」
「あっ!!イケナイ!茶壺の茶葉そのままだった~~きっと濃くなってる~~~」

夕鈴は慌てて、席を立ちあがりお茶道具のある卓に近づく。

「あ~~あ、ヤッパリ濃くなってた。
折角の茶葉なのに~~勿体無いっっ!」

夕鈴は黎翔の下心が有り有りな提案なんて全く聞こえてはおらず、
そそくさと茶壺から茶杯に移し替える。
結局その後もバタバタとしていて黎翔は夕鈴にお風呂で揉み解してあげる提案を、
ついぞ出来なかったのである。
但し、どんなに優しく言ったとしても速攻で却下されていただろうが。


******


そして、更に次の日。
夕鈴が筋肉痛を『気分がすぐれないので』というお上品な理由で、
政務室に伺う事はなかったのである。


その事を残念に思った黎翔は、当分李順に『お妃教育』はしない様に通達したのであった。




終。








2012.06.27 SNS初載





【おせっかいな彼!!】
2010年03月31日 (水) | 編集 |

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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。





外では、春を告げる花々が季節の移り変りを教えてくれている。
こんな心地良い日は、一人ブラリと何も考えずに散歩にでも行くに限る。
そして誰にも邪魔されずにお茶でも愉しめたら、尚のほど素敵な日だ。

そんな事を考えながら、右腕にはちゃっかりお茶道具を抱えて周りの景色を愉しみながらそぞろ歩く。
今日は侍女さん達には悪いと思いつつも、『一人になりたいので』と断りを入れて付いて来てもらうのは遠慮願った。

どうせ浩大が離れた所からこっそりと護衛と称して付いて来てくれているのだから、心もとない事なんてない。

ぶらりと庭園の花々を屈みこんで観察した後、人気のない四阿に続く石畳を歩く。
ここ最近急に暖かくなって、頬を撫でていく風は心地いい。
ふわりと金茶の髪を跳ね上げ通り抜ける風は、気持ちまでホカホカ暖かくする。

四阿に入ると中に備え付けられたやさしい桜色の大理石の卓に籠をそっと載せて、
中からお茶道具を取りだしいそいそと一人お茶を楽しもうと用意をする。
誰に飲んで貰うでも無いからいつもよりは簡単に入れるし、其処まで上等な茶葉ではない。
でも後宮で用意されているモノだから下町では超高級な部類に入るのではあったが。

鼻に通り抜けていくまろやかな香り、そして口に含むと甘い味が広がっていく。
口の中でその甘さを堪能した後、コクリと飲み干すと喉に暖かさが伝わってくる。

ホントに、こんなホッコリ出来る時間が有るのは贅沢なことよね~~。
こんな割の良いバイト、いつまで続くのかしら??
借金の為とはいえ・・・・ホントに続けていてイイのかしらね・・・・・。

ボォ~~とお茶を啜っていると、上からいきなり声が降ってきた。

「ねえ、お妃ちゃん!聞いてみたかったんだけどさ、
なんでこんなバイトをしようと思ったの?気は遣うし、
下手したら命狙われるし!!」

浩大が何処からとなく現れて、卓上のお菓子をつまみ食いしていた。
「これ、美味しいね」なんて感想を述べながら。

夕鈴はその問いに一口お茶を飲んで、う~~と考える。

「何で?と言われても・・・王宮でお仕事とは聞いたけど、何をするのかは聞かずにきたのよねぇ。
もし分かっていたら、どうしていたかしら??」
「やめてた?」
「かもね」
「でも、分かった時点で、断われたんじゃ?」
「う~~ん、確かにそうかも!!その時点じゃ借金も無かったし。
でもね、色々と分かってしまったから・・・・陛下の事も」
「でも今は良かったって思うんだろ?それでよかったじゃん」
「確かに、陛下の役に立ちたいとは思っているわよ」
「じゃあ、このままずっといればいいじゃん!」
「でも私はあくまで臨時だから。
いずれは地位のきちんとした、所謂お嬢様と言われる方をこの後宮にお迎えしないといけないのよ、陛下は・・・」

そして夕鈴は、また静かに考え込む。

浩大は考え込む夕鈴をそのままにして、またひらりと姿を消した。
戦利品のお菓子を手にして。

オレは護衛するのも、あの人の傍にいるのもお妃ちゃんでよかったと思っているんだよね。
まぁ、こうしてたまに色々と考えさせておくのはいいことだよなぁ~。
どうせ、多分陛下は離さないと思うし。

そうなるとオレはこの先ずっとお妃ちゃんの護衛かぁ~~。
中々いいんじゃね、オレにとってはさ。
だってあのお妃ちゃん見てると飽きないし、退屈しそうにないからねぇ。

浩大はニィ~~~~と笑って、お菓子を頬張った。


夕鈴はというと、浩大と交わした会話について其れから考え込んでいた。
そのせいかどうかは分からないが、その後夕方から微熱が出て寝込んでしまった。

その事を知った黎翔は、政務なんてそっちのけで一晩中傍について看病した事はまた別の話。




終。




2012.06.27 SNS初載





【王宮のエコ生活】
2010年03月31日 (水) | 編集 |
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「あっ、李翔さん、その瓦紙は捨てたらダメですよ!!」
「えっ、どうして?」

何気なく、読み終わった瓦紙を屑かごに入れようとした黎翔にすかさず『待った』を掛ける。
夕鈴はその瓦紙を受取って、丸まってシワシワになったものをキレイに広げて皺を伸ばす。
その行為を不思議そうな表情で眺めて、手伝おうと手を伸ばしてみた。

「あっ、大丈夫ですよ、私がするので・・・これは、下町廃品回収で出すんです。
そしてまた再生されるんですよ!!!
今からは何でも無駄をやめて、自然保護に努めた方がいいですよ!!」

夕鈴は、握り拳を高く上げて力説している。
そして、その瓦紙を纏めている古紙専用の箱にしまいこんだ。

しかし、夕鈴は何でもよく知ってる・・・流石に主婦だと言うことか。

黎翔は、そんな夕鈴を尊敬のまなざしで見詰めていた。
その視線に気がついた夕鈴は、恥ずかしげに頬を染める。

しかし、その可愛らしい表情も少しだけで・・・・直ぐに、キリっと引き締まり黎翔を真っ直ぐに見据えると、ここぞとばかり進言してきた。

「そうそう・・・無駄って言えば、私常々思っていた事があるんですっっ。
後宮のお風呂って、どうしてああも無駄に大きいんでしょうか?
そしてそこにお湯は無尽蔵にかけ流し・・・私一人しか入らないのに勿体無いです!!」

夕鈴は、腰に手を当てて一気に巻くし立てた。
その、シッカリした物言いに、黎翔は少し困惑する。

「じゃあ・・・勿体無いと言うなら、良い解決法があるよ」
「えっ?それは、なんですか??」

可愛いと言うか、素直と言うか。
夕鈴、キラキラお目目で僕の回答を待っているよ。
僕が何を言うのか、想像だにしていないんだろうな。

「僕も入るってことは、どう??」
「うん、いいですね・・・では、先に入って下さい。
私がその後に入りますから」


うんん???何かがオカシイ・・・。
夕鈴は恥ずかしがらずに、僕との入浴を了承した。
もしかして一緒にではなく、僕が上がったら入るってことなのか?!


夕鈴を見ると、鼻歌を歌いながら他の古紙を纏めている。
そして、心配事が一気に解決してスッキリとした面持ちで。

やっぱりそうみたいだ~~~。
如何してわかってくれないのだろうか。
普通・・・・一緒に入るって事位、ピンとくるだろう。

「はぁ・・・・・・・・」

そう、十分過ぎるほど理解している筈なのに、
夕鈴の鈍感さに頭を抱える黎翔だった。


「よっし、これで次回の下町廃品回収もバッチリだわ!!!」


やっぱり夕鈴は夕鈴であって、他の何ものにもそうそう変わる事は無いっっ!!!




終。




2012.06.26 SNS初載




【所詮誰も李順には勝てない】
2010年03月31日 (水) | 編集 |

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「夕鈴、何見ているの?」

不意に耳元で心地よい声がして、腰が砕けそうになる。

「キャッ・・・陛下!耳元で囁かないで下さい」
「だって僕が何度も呼んでいるのに、聞こえてないみたいだったから・・・」

小犬が拗ねてキュンキュンしている幻が見え、夕鈴は慌てて黎翔の姿をニ度見する。
そして自分が気が付かなかった事の訳を話す。

「すみません!!何を見てるかですか?
あそこ見て下さい、李順さんが侍女さんに囲まれていますよ」
「確かに珍しい光景だね」

李順には後で問い質してみよう。
結構楽しい答えが返ってくるかもな・・・それよりも今は夕鈴との時間を。

「夕鈴、李順なんて放って置いていいから、僕のほうを見てよ!!
はい、あ~~~んして」
「あ~~~ん?」

黎翔の手によって何かが口の中に放り込まれ、その後甘い味が広がる。

「なゃんでゅか・・・・・・・(モグモグ----ゴクン) これ、美味しいですね」
「これは、献上品の『ちょこれいと』というものだよ」
「そうなんですね~~スッゴク甘くて美味しかったです。
例えて言うなら、大人への第一歩って所でしょうか」
「よかった~~~夕鈴に気に入ってもらえて。
よし、これを大量に買わせよう」
「ち、ちょっと、待って下さい!!!私の一言で無駄遣いをしないで下さい!!
大体、こんな上品な甘さの菓子なんてきっとスッゴク高いんですよね~~。
庶民の舌を侮るなかれです!!
食べた事は無くても、どれくらい高いかくらいは解る舌ですよ。
だからそれを『大量に』なんて、一体いくらに為ると思っているんですか??
私を悪女に仕立てたいんですか?陛下は!!」

一気に捲し立てる夕鈴を黎翔は呆気に取られて、見詰めていた。
この後、夕鈴は切々と節約について国王陛下である黎翔に講義と抗議をして、
決して甘い時間ではなくホロ苦い時間となってしまったのである。


こうなれば後は李順に先程の事を問い詰めて、憂さ晴らしでもすることにしよう!!

とんでもない憂さ晴らしを思いついた黎翔は、そそくさと執務室に戻ったのであった。
そして何食わぬ顔で書簡に目を通していると、そこに疲弊した面持ちで李順が帰ってきた。

さぁ、いまだ!!

「李順、先程夕鈴の侍女たちに囲まれていたようだが。
お前も隅に置けないのだな」
「はぁ?あれですか?冗談じゃありませんよ、色恋沙汰では全くもってありませんよ。
大体あそこで捕まって聞かされていたのは彼女達の愚痴ですよ。
なんで私に言うのでしょうかね・・・ブツブツブツ。

迷惑だと眉間に皺を寄せながら、李順はツトツトと黎翔に話して聞かせる。

「愚痴?
誰の?
狼陛下の?」
「そんな訳あるはずないでしょう。
そんな事すれば解雇されたり、それで済めば良いですが・・・それ以上のことも有り得ると考えますよ、きっと!!」

そこまで侍女達には恐い雰囲気は見せてない筈なんだが・・・・と黎翔は少し不満げであった。

「では、何なんだ?もしかしてお前にか?
もう少し陛下とお妃さまの二人きりの時間を過ごさせて欲しいから、
側近であるお前に陛下の政務の量を減らして欲しいとか?」

語尾に『ルン♬』とでも付きそうな感じで、尻尾がパタパタしている。

「そんな訳ないでしょ!!!これ以上減らしたら国政が立ちいかなくなるでしょう。
いい加減もっと身を入れて下さらないと夕鈴殿の所に行く時間が取れなくなりますよ!!」

李順はもういい加減にして下さいと言わんばかりに、頭を抱え込んでいた。
そんな様子に黎翔はムゥ~とむくれる。

これが、天下に名を知らしめた狼陛下なんですからね・・・全く。

李順は、段々先程の話をするのがバカバカしくなってくる。
だが、ここで全部話しておかないときっとこの主君は政務に身を入れてはくれないのだろう~と思い直し、話の続きを再開する。

「侍女達の言いたかった事は、お妃様である夕鈴殿をもう少しお世話したいと。
着飾らせたりしたいんです~~~と口々に言われていたんですよ!!!」
「それはいい!!それではちょっと後宮に許可すると言い渡してくるとしよう。
そして、直ぐにその場で着飾らせて思う存分眺めておくことに・・・」

僕がいなくなるのを察した有能な側近は、椅子から立ち上がろうとする黎翔の肩に両手を置いて阻止する。

「陛下~~~~さっさとお・し・ご・としましょうね」

眼鏡の奥の瞳が、ジロッと怖~~いモノになっている。


この目つき。
これには、例え狼陛下と言えども敵わない!!
有無も言わさず、こき使うんだ!!
国王は僕なのに~~~。

陛下に教えるんじゃなかったですね。
ホラホラ、『心此処に有らず』ってなってますよ。


じと目で見詰めながら、深い溜息を吐く李順。
だが、その呪縛からは逃げられない黎翔は、その後シブシブ書簡の山に三刻ほど向かわされた。
そして随分と進んだ政務に、李順はホクホク顔と為っていたのであった。

肝心の夕鈴は、李順が『程々である為らば、お妃さまをお綺麗にして差し上げるのも良いでしょう』と彼女らの要求を呑んだことにより、意味もなく着せ替え人形と化されていたのだった。

結局つまるところ李順がいなければ、この国は立ちいかず彼の功績は大なのだ。
そして今日も白陽国は、平和にそしてより良い国へと歩んでいるのである。


終。




2012.06.22 SNS初載
2012.06.23 SNS初載





【雨の降る時期は】
2010年03月31日 (水) | 編集 |

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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。







「陛下、今日の午後は少し休憩時間を入れましたので、
たまにはお昼時に夕鈴殿を訪ねてみるのもよいのでは?」

珍しく李順が休憩をくれるというので、
折角だからと後宮へと足を運んでみる。
只し部屋を出る時の李順の微笑みと、
背中越しに掛かった言葉が若干気には掛かるが・・・。


部屋の入り口から見えた寵妃の姿は、
窓辺近くに椅子を置き窓格子に凭れて外を眺め物憂げな様子。
そろりと近付き、隣から声を掛ける。

「夕鈴、何をみているのか?」

急な来訪に驚いた様子で椅子から直ぐに立ち上がると、
拝礼してお妃スマイルで僕を受け入れてくれた。

「陛下、いらっしゃっていたのですか?
気付きませんで・・・お出迎えもせずに申し訳御座いません」
「いや、よい。私が触れも出さずに妃のご機嫌窺いにきたのだからな」
「有難うございます・・・・実はあそこで咲いている紫陽花の花を見ていました。
雨に濡れて色鮮やかだな~~と」

確かに、今朝からの雨で赤紫よりも明るい牡丹色の紫陽花は光彩を放っているようだ。

「確かに鮮やかな色で綺麗だな・・・雨もたまにはいいものだということか」
「はい、そうで御座いますね」


少し離れた所で見ている侍女達からは、感嘆の溜め息が漏れ聞こえてくる。
そして囁き声も。

「やはり、お妃さまは麗しいですわね」
「お二人を見ておりますと、1枚の素晴らしい絵画のようですわ」
「いつまでも、仲睦ましくていらっしゃる」

囁かれる侍女の言に、黎翔は夕鈴を見詰めて口元に笑みを乗せる。
そして夕鈴の腰に手を添えてそっと引きよせ、耳元に響く甘い声で囁く。

「夕鈴、ほら、侍女たちが僕達の仲良さげな様子にうっとりしているよ」

耳奥にこそばく届く黎翔の言葉を受けて、夕鈴は頬をほんのりと朱に染める。
そして立っているのがやっとというように腰が砕けそうになっていた。

「ほら、夕鈴、大丈夫?」
「は、はい、大丈夫・・・・・です」

ここまで・・・だな。
黎翔は夕鈴の様子をキチンと把握して、片手を上げて侍女達を下げる。

「はぁ~~~~~~。
侍女さんもいなくなったことですし、陛下・・・夫婦演技はおしまいです!!」

直ぐさま、夕鈴は距離を取ろうと黎翔から1,2歩離れる。
それを黎翔が面白く思う筈もないが、今はここまでなんだろうなとボンヤリと考える。

まぁ、いいさ。
時間を掛けて此方に引き寄せるのも悪くない。

そのまま少し離れた距離のまま、二人は窓越しに見える雨粒に濡れる紫陽花を凝視する。

「ねぇ、夕鈴・・・雨っていいもんだね」
「えっ、そうですか??主婦にとっては余り良くないですよ~~~。
だって雨が降ると湿気が多くなって、部屋の中にお洗濯物を干すことにもなるし、掃除も大変なんですよ!!!
現にお掃除バイトもこの雨続きで出来ないんですっっ」
「なんで出来ないの?」
「だって、窓も開けられませんし・・・磨いても乾きが悪くてベタベタするし。
だから出来ないんです!!早く止んでくれないと、バイト代が入らないんですよ!!
これは重要です~~~」


夕鈴の真剣に語る様子を見て黎翔は思う。
大変そうだな、と。


**********


その後、執務室に戻った黎翔にニコニコ満面の笑みを見せる李順が告げる。

「これで国王夫妻の変わらぬ仲睦ましさが侍女を通じて、王宮中に広まりますよ。
当分縁談が来なくなるってモノです!陛下、お疲れさまでした」

結局、ただで休憩なんぞくれる李順ではなく、全ては仕組まれたものであるのだ。

だが李順は知るよしも無い。
自分の働きで二人の心の距離は少しずつ、ホンの少しずつではあるが縮まっている事を。




終。






2012.06.21 SNS初載



【恋慕の光り】
2010年03月31日 (水) | 編集 |
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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
此方のSSは、夏前に家族で蛍鑑賞に行った際に下りてきたSSです。








遥か天空は曇が少しかかっているものの星と月のみで、
仄かに辺りを照らすそんな穏やかな夏に入る少し前の夜。
外では、生暖かい風が木々を少し揺らしている。

今日は、まだ陛下の渡りもない・・・。
特にする事もなく手持ち無沙汰な夕鈴は、そんな夜に誘われ窓辺にもたれて外をぼんやり眺めていた。
侍女が陛下の訪れを伝えに、窓辺の夕鈴の元に近寄ってきた。

夕鈴は穏やかな笑みを浮かべながら了承した旨を告げ、陛下を迎えるために窓辺から離れる。
その離れた窓辺の向こうの奥では、ほんのりユラユラと光るものが微かに飛んでいた・・・。

「夕鈴、今戻った。今日は政務室にも訪れなかった様だが、如何過ごしていた?」
「はい、午前は侍女さん達と果樹園の方へ足を伸ばしてみました。
お昼を挟んで午後からは、老師の元へ参りましたの」
「そうか、一日有意義に過ごしたのだな」

他愛のない会話をしながら、並んで歩いて長椅子へと陛下を誘う。
直ぐさま黎翔は侍女さん達を片手を挙げて下げた。
侍女も心得ているので、二人の邪魔をしないように静かに部屋を辞して行く。
二人っきりになったのを確認した黎翔は、ごく自然に狼から小犬に替わっていくのが纏う空気感で分かる。

「夕鈴、今から東の庭園へ散歩に行こうよ。
「今からですか?もう真っ暗ですよ」
「うん、今から!夕鈴に見せたいものがあるんだ。
何かは行ってからのお楽しみだけどね」
「じゃあ、お願いします」

黎翔の満足げな顔を見ながら、夕鈴の頭の中は二人だけでの散歩への期待と嬉しさで満たされていた。

「と言う訳で・・・浩大!」

黎翔は天井に向かって呼び掛けると、
その声に素早く反応し軽い身のこなしで何処からとなく浩大が現れた。

「ハイハーイ、陛下お呼びで?」
「聞いていたとは思うが、夕鈴とこれから庭園へ行く」
「お妃ちゃんとねぇ・・?ふぅ~ん、まぁいいや、では畏まりーー!!
じゃあ、2,3人集めてから直ぐに行くんで!」

言い終わる前に、浩大は窓からヒラリと出て行く。
相変わらずの早い行動で夕鈴は感心する。

「では夕鈴、準備は整った事だし出掛けようか。
灯りは持って行くけど辺りはかなり暗いから気を付けてね。
なんなら、手を繋いで行く?」
「エッ、い、いえ・・・だ、だいじょうぶですよ」
「そうなんだ・・・・・」

ビックリした・・・突然あんなこと言うなんて。

夕鈴は黎翔の気遣いが本当のところ嬉しかったのだが、気恥ずかしさとバイト妃なのだからという遠慮で辞退する事にした。
黎翔はというと断られるとは思っておらず、残念そうなのが表情から窺い知れる。

部屋から出た二人はというと、灯りを手に黎翔が前を歩きその3歩程後ろを夕鈴がついて行っていた。
外は先程と同じように穏やかな風が吹いていたが、
一瞬風が強く吹き・・・黎翔は『浩大は流石に仕事が早いな・・』と浩大をはじめ隠密の到着を肌で感じていた。

辺りは本当に暗く、黎翔が持っている灯りを頼りに庭園の奥へと歩を進める。
夕鈴はそんな周りの暗さにはあまり恐怖感は抱かなかった。
自覚はしていないものの、前を歩いて行く黎翔の頼もしい背中に安心感が心を占めていたから。


「夕鈴、着いたよ。これが見せたかったんだっっ!!」

目の前にあるのは、小さな小川。
暗いけど水の流れる音でそれと分かる。

そして水辺にある草木の隙間を縫うように飛ぶ仄かな光は・・・そう蛍である。
乱舞とまでは行かないが、かなりの数の蛍が優雅に光を放ちながら飛び、
草叢ではチカチカと控えめに光を灯している。

「キレイ・・・」

夕鈴は、蛍の優しい光に眼を奪われていた。
黎翔は、じっと蛍の動きを眼で追っている夕鈴を愛おしそうに眼を細めて見惚れていた。

「そう言えば、蛍の光は求愛の合図だと言われていて、雄は光を発して飛びながら自分だけの相手を探すんだよ。
雌は弱い光を発して草や木の葉の上で雄を待ち、互いを見つけたら強い光で合図を送り雄は逢いに行くんだよ」
「へぇーそうなんですね。陛下物知りですね」

 夕鈴、『物知り』って事で片づけてしまったな。
僕は君の事を言っているんだよ。
どうして解ってくれないのかなぁ・・・鈍感なのか?僕に興味がないのか?

ふぅーと短く夕鈴には解らないように溜息を吐く。
そんな黎翔の姿を横目で夕鈴は見ていた・・・もちろん溜息も気付いていたのである。

陛下、溜息をついていたわよね。
私のあの反応が悪かったのかしら・・でも実際、物知りだなと思ったし。

「ほらご覧・・・・僕の掌」
「わぁ~~蛍が止まってて綺麗ですね。
私、こんなに近くで見たのは初めてですよ」
「偶然、飛んで来たんだ。放つ前に夕鈴に見せてあげようと思って・・・」

夕鈴は下を向き、黎翔の掌を覗き込む。
その頭の上に黎翔の息が掛かるのを感じ、
ドキドキドキ・・・鼓動が速くなり顔がほんのり紅く染まるのが自分でも分かった。

暗くて良かった・・・そう、夕鈴はホッとしていた。
黎翔の手から蛍が飛び立ち、その行き先を二人で見つめていた。
その蛍は相手を見出したようで2匹となり、飛んで行った。

このまま、自分達はいつまで一緒にいられるのだろうか。

偶然にも二人同じ事を考えていた・・・。
黎翔は考え込んでいる夕鈴を隣から見てみると、
彼女の柔らかい薄茶色の髪の一房が仄かに光っていた。

「夕鈴!蛍が君の髪に止まっていて、光っているよ」

慌てて夕鈴も自分の髪を確認すると、肩より少し下の方でチカチカ発光している蛍を見つけた。
何だか心の中がホンワカして、自分の口角が次第に緩んでゆっくりと微笑んだ。
そんな様子を見た黎翔は、見せてあげて良かったと一人満足していた。
そして少しすると夕鈴の髪に止まっていた蛍も仲間の光に誘われ、飛んで行ってしまった。

「そろそろ、戻ろうか・・・・来年も一緒に見ようね」
「そうですね・・来年は、下町である蛍まつりに行けるといいですね、一緒に」

最後の言葉は、黎翔に聞こえるか聞こえないかの小さな声で囁いた。
自分のささやかな願いであるから・・・・。


二人は蛍の光に名残惜しそうにしながらも、来た道を歩いて戻って行く。
そして、後に残るは光の乱舞だけ。



終。





2012.06.11 SNS初載




【初夏の一日・後編】
2010年03月31日 (水) | 編集 |
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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。







その少し前。
夕鈴はというと、湯殿のなかで身体をのばし一日の疲れ・・・精神的な疲れをほぐしていた。

今日も無事に終わった・・・・侍女さんは一日衣替えでバタバタして頂き、私はジッと見ていただけ。
はぁ、見てるだけだったけど、何だか気疲れしちゃったわ。
でも侍女さんは 、本当に手際が良くて片付けかたが効率的で見習いたくなるのよね。
見てるだけで手伝えないなんて、結構妃って窮屈であまり私向きではないわよね。

ピチャン。
静かな浴室に天井からの落ちた雫の音が響き渡る。
その音で夕鈴は我に返った。

「さてと、上がろうかな・・・」

独り言を呟きながら、湯殿から出て歩き出す。
脱衣所には既に夜着が用意されており、身体についた雫を丁寧に拭ったあと袖を通す。
薄い青色で裾は踝まであるワンピース風の夜着。
薄い生地でできておりまだしっとりとしている肌に貼りつき、細い腰つきが露わになる。
このところ昼間は暖かく汗がでることもあるが、やはり夜になると風はまだひんやりとして薄い夜着では、しまだ肌寒く感じる。
夕鈴は夜着と共に置かれていた上着を着込むと、その細い腰をも包み見えなくなった。
そして一緒に置いてある櫛で軽く髪を梳かしたあと、ゆっくりと脱衣所から出た。

部屋に戻ると、侍女さんが気を利かせて入浴後の夕鈴の為に冷たい果実水を卓の上に置いてくれたいた。
夕鈴は杯を手に取ると、有り難く頂くことにした。
乾いた身体に、スッ―と甘酸っぱい果実水が沁み入ってくる。

「すっごく美味しい!」

あまりの美味しさに、つい妃らしくない大きな声で呟いてしまい顔を赤らめる。
侍女さんを見てみると、こちらを見て微笑ましいといわんばかりの表情で微笑んでくれていた。
呆れられてはいないようなので、安心して残りの果実水を飲み干す。
入浴後の乾いていた身体は、たった一杯の果実水で潤ってくる。
あまりの早さで飲み干してしまったので侍女さんからお代りを勧められるが、もう大丈夫だと申し出を辞退した。

飲み終えると、侍女さんが数人で香油を塗ってくれたり髪を梳かせてくれたりと、夕鈴の夜の支度をしてくれる。
これは陛下がお渡りになるならないにかかわらず毎日の光景で・・・・。
臨時花嫁になりたての時に比べるとアタフタもしなくなり、夕鈴も慣れてきていた。

そうこうしていると、陛下がこちらにお渡りになっていると先触れが入る。

夕鈴は、慌てて昼間に準備しておいた茶器を一通り確認する。
今日の茶壺は白磁製で正面に浮かびあがっているのは蓮の花で、この茶壺は夕鈴のお気に入りである。
茶壺に合わせて茶杯も白磁製でこちらには小花が藍色で控え目に描かれておりこちらもお気に入りも茶杯だった。

理由は単純で絵柄が色とりどりではなく控えめな単色の小花であること。
以前刺客撃退の為に割ってしまった青白磁製とは違い、
白磁製なので余り高価ではないだろうと予想出来ることからである。

しかし夕鈴の見解は見事に外れており・・・後宮で陛下にお出しする茶杯ということで、もちろん白磁製のなかでも逸品中の逸品なのである。
知らぬが仏とは、この事である。

今日の茶葉は『東方美人』とにした。
このお茶は烏龍茶の一種で、茶葉は烏龍茶の茶葉・白毫のある芯芽・枯れ葉のような赤茶色の葉の三色からなり、水蜜桃を思わせるように甘く豊潤な香りがする青茶で、日頃から夕鈴がよく好んで飲んでいるものである。
すべて整っていることを確認した夕鈴は、戸口まで陛下が訪れるのを出迎えることにした。

「妃よ、今もどった・・・昼休憩以来だな。
衣替えもすっかり終わったようだが、昼間も言ったと思うが夏の衣裳は色鮮やかで、どの衣裳も妃に似合うのだろうな。
折角だから、私の目を存分に愉しませてもらいたいものだが・・・」

この一言で、侍女たちは『お妃さまを着飾らせることが出来る』と色めきたつ。
どうも侍女たちは夕鈴のお世話がしたらないらしく、またとない機会だと張り切っている様子が窺えた。
その侍女たちの様子に満足したのか、陛下は夕鈴の肩にさりげなく手を添え長椅子へと誘う。
そうしながらもすかさず片手をあげ、侍女たちを下がらせるのは忘れなかった。

「侍女さん達、行ったみたいですよね!
陛下・・・あ、あの、肩にさりげなく置かれた手をですね・・・そろそろ下ろして頂けませんでしょうか」

夕鈴は、下を向いて言いづらそうにお願いをする。
表情ははっきりとは解らないものの、赤面していて恥ずかしくて居たたまれないという様子みたいだ。
僕はまだ触れていたくて、聞こえないふりをして夕鈴の肩にそっと手を乗せたままにする。
夕鈴は体温が急上昇しているらしく、僕の手を通しても身体が火照っているのがわかる。
そんな夕鈴の体温を感じられ、僕までほんわか暖かくなった。

「陛下・・・もう一度言いますが、肩に乗せている手を下してください」

夕鈴は、真っ赤な顔をしたままブルブル震えている。
これは夕鈴の怒りが頂点に登りつめる前兆だ。

まっ、まずい!!
このまま夕鈴が怒り始めるとなかなか収まらない。
それより最悪、この部屋から追い出され兼ねない。

僕は夕鈴の怒りが爆発する前に肩から手をはなし、もう片方に持っていた包みを夕鈴の目の前に差し出す。
夕鈴は怒りを忘れて、きょとんとした目で包みを受け取った。

「なんですか?これは・・・」
「これはね、隣国の珍しいお菓子だよ。
献上品の中にあったから夕鈴に食べて欲しくて、持ってきたんだ」

『夕鈴に・・・』を強調して言うと、隣にちょこんと座っている夕鈴から笑みがこぼれる。
この顔が見たくて夕鈴に逢いに来るんだよね・・・。

「では、お茶を入れてきますね!陛下も一緒に食べましょ」

夕鈴は、すくっと立ち上がりお茶道具一式が置いてある卓へと向かう。
夜着は既に初夏の物になっており、薄い生地で夕鈴が歩くと裾が踝の上までヒラリと舞い上がる。
ゆっくりと歩く腰つきは上着越しでも細く縊れているのが容易に分かる。
そんな夕鈴の後ろ姿を、僕はボォ~~と眺めていた。

夕鈴はというと、何だか後ろからの視線を感じるけど夜着が何か変なのかな?というくらいしか感じていなかった。
だから黎翔が『夕鈴は艶めかしいなぁ~やっぱり薄着はいいよなぁ』などと少し不埒なことを考えているなどとは露知らず、一生懸命にお茶を入れるのだった。

そうして夕鈴は・・・・・その姿で黎翔に沢山サービスしていたとは一切気づくことはなかった。

次の日。
いつにも増してご機嫌麗しい黎翔は、ここ何日かで溜まりに溜まった政務も綺麗に片付き、李順が喜んだとか?!




終。



2012.05.24,25,29 
2012.06.01 SNS初載




【初夏の一日・中編】
2010年03月31日 (水) | 編集 |
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前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』の再録です。






その頃、後宮夕鈴の部屋では衣替えも終りがみえてきていた。

元来働き者である夕鈴は、この時期の天気の良い日に一斉に家族分を一人で衣替えをしていたので、
自分自身でやりたいのをじっと我慢して侍女さんがクルクルと働いているのを置物の様に動かず見ていた。

はぁ、バイト妃の為に皆さんでして頂いて申し訳ないったらありゃしない。
ホントは私も参加したいけど、普通妃は手伝ったりしないものよね。
なら、終わったら皆さんにお茶をお出しするくらいなら、してもいいかしら。
それくらいなら大丈夫よね。
そういえば・・・・家の衣替えはきっとまだしていないはず。
近いうちに李順さんにお願いして実家に帰省させて頂かないと・・・。
でも、陛下には内緒にしないとまたついて来かねないし、
そうなると上司の怒りの矛先が私にやってくるぅ。

手持ち無沙汰である夕鈴は、そんなことを考えつつ椅子から静かに立ち上がると、
お茶道具のある卓におもむろに近づきいつもの手慣れた様子でお茶を入れ始めた。

しかし侍女さんがいる前だからって、さっきの陛下は甘いにも程があるわよ。
着飾っても素材が普通なんだから、そんなに変わらないわよ。
もう返答に困るったら・・・。
まだ何か言いたそうだったわよね、あそこで李順さんがお迎えに来てくれて助かったわ。
あれ以上何か言われても妃演技でどう返すかも思いつかなかったし。
それにしても陛下は『夜に・・・』とは言っていたけど、李順さんのあの様子だとお仕事を詰込まれて執務室から一歩でも出してもらえなさそうだけど、一応お茶の用意はしておいたほうがいいわよね。

芳醇な甘いお茶の香りが鼻をくすぐり、いい具合に茶壺の中で蒸らされたようで、
茶壺から手際良く茶杯に人数分注ぐとお盆に乗せて、中央の卓へとゆっくりと運んで行く。

「お妃さま、申し訳ございません!
お茶でしたら、私どもにお申し付け頂ければ、すぐにお入れ致しましたものを・・・」

お茶を運ぶ事も妃がすることではないので、侍女の一人に見つかり慌ててこちらへお盆を受け取りに来てくれた。
こんなところを李順さんにでも見られたら、『妃のすることではありません!!』と大目玉をくらった上に、
再度お妃教育を施されそう。

「いえ、皆さんに頑張って頂いたお陰で衣替えも今日中に終えるようですし、
お茶でも飲んで疲れを取って頂きたくて」

そのまま侍女の方々にお茶を勧める。
最初はお妃さま自らは恐れ多いらしく誰も飲んで頂けなかったけれど、
私がしつこく勧めるとお断りする方が逆に申し訳ないからと飲んでくれた。

しかし妃と同じ卓について飲むのは、さすがに恐れ多いと隣に卓を運んできて飲んでいた。
夕鈴はそんな侍女の様子を見ながら、心の奥で『バイト妃に気を遣わせてごめんなさい』と手を合わせるのだった。

空が赤く染め始める頃ようやく衣替えも終り、
侍女の方々は退室して広い部屋の中には夕鈴一人のみとなり静けさを取り戻していた。


********


沢山の星が空を覆い尽くす頃、所変わってここは夜の執務室。
シーンとした部屋の中からは、紙をめくる音しかしない。

「李順~もう今日はこれくらいにしとかない?」
「何を言ってますかっ!まだ書類の山がふた山程残っていますよ」
「もうかなり書類の山を減らしたと思うけど・・・大体僕は、機械じゃないんだから休憩も必要だよ」
「休憩は昼イチにもうお済みのはずでは??
夕鈴殿のところに行かれていたでは ありませんか」
「行ったって、あれは行った内に入らないっっ!
だって、すぐに李順が迎えにきたじゃないか」

紅い瞳がスーと細められこちらを睨んでいる。
黎翔はもう限界らしく、狼モードに突入する一歩手前の様で。
ここで狼モードに入られると、後々厄介なことになる。

「フゥ、わかりました。
今日の執務はここまでと致しましょう・・・どうぞ夕鈴殿のところへ」

言い終わる前に、黎翔はもうすでに戸を開け放ち出て行っていた。
残された李順は、はぁ~と短く溜息を付くと机上の筆や書簡などを片付け始めた。




続。





【初夏の一日・前編】
2010年03月31日 (水) | 編集 |
【設定】 

臨時妃 ・ 原作寄り

【注意事項】

前々ブログ『遥か悠遠の朱空へ』からの再録です。
更に、このSSは私が初めて書いた作品です。
今読み返してみるとスッゴク恥ずかしい・・・・。
でもこのSSがあるから今があるのかなぁ~と思います。

季節は初夏に差しかかろうとしている時期の、何気無い王宮での出来事です。
私は2児のママでして、そんな主婦の思い付きからできたSSです。








さわやかな風が回廊を吹きぬけて僕の頬を掠めていく。
こんな午後は政務なんかサボって夕鈴に逢いに行くことにしよう。

どうせ後から李順が探しに来て執務室に連れ戻されるのだろうが、しばし休憩を・・・。

思案しつつ部屋の近くまで来ると、何やら回廊まで賑やかな声が聴こえてくる。
この先は夕鈴の部屋のみ。
部屋では、なにがあっているのだろうか・・。
そんな逸る気持ちを抑えつつ、少し急ぎ足で先に進む。


「お妃さま、こちらは如何でしょうか?
涼しげでお色もお妃さまにとてもお似合いでございますが」
「そうですね・・・では、こちらに収めていただけますか」
「お妃さま、この水色のご衣裳は如何なさいますか?」

中からは、楽しげな声。
僕は、戸に凭れたまま中の様子を覗いていた。
そんな僕を侍女の一人が見つけ、 慌てて拱手して迎え入れてくれた。

「妃よ、衣替えか?どの衣装も君に似合うだろうな。
着飾って、私の眼を楽しませてはくれまいか?」

夕鈴はというと、案の定真っ赤な顔してこちらを見つめていた。
何か言いたげな・・・しかしどの様に返せば良いのかわからないという様子。
僕はその夕鈴の様子が愛おしくて、次に何を言って困らせてやろうかと少し意地悪なことを考えていると、戸口から僕を呼ぶ李順の低く恨めしげな声が響く。

全く李順は、有能な側近だよ!!
すぐに僕の居場所を突き止めるんだから・・・・。
それにしても短い休憩だったな・・・・はぁ~仕方ないが戻ることにするか。

「妃よ、夜に・・・」
「はい、お待ち致しております」

短く約束を取り付け、僕は名残おしげに部屋を後にした。
回廊を靴音を響かせ歩きながら、あの楽し気な雰囲気を思い浮かべ笑みを零す。

あのまま、衣替えは続くのだろうな・・・・。

それならば、早く政務を終わらせて夕鈴の部屋に・・・・と思い意気揚々としていると、
側近のいやぁ~な一言が聞こえてきた。
今一番聞きたくない言葉が・・・。

「陛下、政務は溜まりに溜まっております!!
ですので、今宵は無理だと思いますが・・・」

なんだかこのまま逃げ出したくなってきた。
僕は大きな溜息をつきつつ、トボトボ執務室へと向かった。


*****

執務室にもどった僕は、仕方なく政務の続きに取りかかることにした。
少し書類を片付けてみたものの、先ほどのことが思い出され中々進まない。

あのまま居られたら、僕が気に入った衣装を着ることをおねだり出来たのに。
夕鈴も恥ずかしがりながらも、僕のお願いを聞いてくれたんだろうなぁ。
あの中で僕が気に入りそうなのあったかなぁ。
水色は、少し透けていたから僕以外には見せる訳にはいかないよな。
でも夕鈴には、すごく似合いそうだったんだよね。
あの萌黄色のはちょっと地味だったような・・・でも大人っぽくなっていいかも。

「コホン」

あと、どんなのがあったかな。
茜色があったような。

「コホン!恐れながら陛下。
先ほどから筆が進んでいないご様子ですが、如何なさいましたか」
「いやー、さっき夕鈴の部屋では衣替えをしていたんだ」
「そういえば、そのようでしたね。それが?」
「夕鈴に似合いそうな衣装があったから、
色々と僕の前で着て欲しくて・・・あっ、そうだ李順っっ!」
「陛下、それは許可しかねますが」
「まだ何も言ってないんだけど・・・」
「いえ、陛下の仰りたいことは、想像できますので・・・でも、それをなさると夕鈴殿が怒りますよ。
『陛下、臨時花嫁に無駄使いはやめて下さい!!!新しい衣装は必要ありません』とね」
「やっぱり・・・駄目かなぁ」

僕は予想していたとはいえ、少し・・いやかなりがっかりしつつ、また書簡の内容に専念することにした。
しかし、なかなか内容が頭に入ってこない。
そして、またしばし考え込む。

夕鈴は、本当に何に対しても無欲だ。
倹約第一の李順にしてみれば理想の臨時花嫁なんだろうが、僕にしてみれば、もう少し甘えてくれても。
でもそれが、夕鈴なんだとも思うし。
では違うこと、とくにお金がかからない物ならいいのだろうか?
それだったら夕鈴も喜んでくれるかな?

うーん、何が良いかな?花束?
いや、花は手折るよりもそのままを愛でる方を好んでいたな。
では、お菓子はどうかな?
茶菓子を持っていけば、ゆっくりと夕鈴の入れてくれるお茶を一緒に楽しむことができるな。
ならばそうしよう、ではこの書類の山を制覇しなければ!
夕鈴との楽しい一時を満喫出来ないどころか、夕鈴の元へも行けない。

僕は考え事をしつつも、一応頭の片隅で書簡の内容を精査していく。
そして先程夕鈴に『夜に・・・』と約束を取り付けた事を思い出して、
気合いを入れて書簡と向き合うことにした。

そんな黎翔の様子を、李順はやっと本腰を入れて政務に入っていただけたと安堵するのだった。


続。