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【設定】

未来夫婦 ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り

【注意事項】
此方の作品、確かに夫婦設定ですが・・・・いつものテイストでは有りません。





はぁ?
何で、どうしてあの失礼な男と一緒にいるのよ!!
夕鈴姉さま、説明してよ!!
ねぇってばっっ!!

怜亜は、自分の意識の奥へと呼び掛ける。
しかしそこからは全く応答は無く、静かに凪いでいる。

どうやら、夕鈴姉さまは眠ってしまっている様だ。
そうなってしまっては、もう自分にはどうすることも出来ない。
ならば、この場は自分で何とかするしか手立ては無い。

「あの、貴方はどうしてここにいるのです?」
「はぁ?アンタが庭園を案内してくれるって言ったんだろ」
「私がですの?」
「ああ」
「・・・・・・・・・そうなのね」

怜亜は少しだけ状況を理解して、少し考え込んだ。

これは一体、どういう事なのか?
夕鈴姉さまは私に何をさせようとしているのか?
こんな男に親切にする義理なんてものは、私には一切無いはずで。
まぁ、自国にとって大切な客人かもしれないが、それはそれで。
正直言って、私には全然関係が無い。

「あのさ、行くのか?行かないのか?ハッキリしてくれよ。
オレだってそんなに暇じゃないんだからさ」
「・・・・・・ごめんなさい、少し待ってくださる?」

考え事をしている為、怜亜の先程までの悪態は鳴りを潜め、
このいけ好かない筈の男性に公主らしい丁寧な対応になっていた。

それを光迅は少し好感を持ったようで、口元に笑みが浮かんでいた。

「ああ、そうかよ。いいぜ、待っててやるよ」

その言葉は怜亜の耳には届いておらず、自分の思考の渦に揺蕩っていた。

大体、こんな事になったのは、夕鈴姉さまのせいで。
でも夕鈴姉さまは私に不利益な事をするだなんて思えないし。
ならば、ここは大人しく従っておくべきなのかもしれないわね。
あ~~~。
もうっっ!!
考えるのも面倒くさくなってきたわ。
これは成る様になれ!という事ね。

「はぁ~~~。
私が庭園を案内するって言ったのですね」
「そうだって、さっきから言っているだろ」
「分かりました、では参りましょう。
では、こちらへどうぞ」

怜亜は、光迅へと今から向かう先へと手を指し示す。
その掌に握られていたのは、クルリと丸められた一枚の料紙。
先程、怜亜が見ていたモノ。
その昔黎翔が夕鈴に渡した、愛の手紙とでもいうモノだろうか。
それに光迅が気付いて、ジッと見詰める。

「何だ、それ?」
「えっ?これですの?」
「ああ」
「これは、私のおじい様がおばあ様に当てた料紙ですの。
とっても素敵な事が書かれてあるので、私とても気に入っていますのよ」
「ふぅん、そうなのか?」
「ええ、私にもこんな素敵な料紙を下さる様な殿方に出会いたいものですわ」
「ほぉ・・・・・案外、乙女なんだな」
「乙女ってっっ!私の事をどんな風に思っていましたの?」
「え?ただの煩いじゃじゃ馬公主と思ってい「何ですって」」

デリカシーが無さすぎよ、この男!
有り得ない。

「でもさ、そんな楚々とした姿もいいけど、オレはさっきの元気なじゃじゃ馬公主の方が好みだぜ」
「別に貴方に好かれようなんて、思っていませんわ。
ほら、行きますわよ」

怜亜は頬に身体の熱が全て集まる様な感覚に襲われていた。

恥ずかしい。
『好み』だなんて、あんな恥ずかしい事をサラリと言うなんて。
どれだけ、女の子の扱いが手慣れているんだか。
そんな事で騙されたりしないわよ。
でも、ちょっと嬉しかった・・・・・かも。
だって、等身大の私を見てくれたような気がするから。


(怜亜、それが恋の始まりなのよ。
そうやって、男の人と女の人が互いを意識していくの。
そして、それが恋しいと気持ちへと繫がるの。
離したくない・・・・傍にいたいとね。
だから、その感覚を忘れないで)

夕鈴は揺蕩う怜亜の意識の奥底で、優しく微笑んだ。
それは怜亜への応援の意味を込めて。

(もう少し・・・あと少しで、怜亜に恋が訪れる。
なら、私の役目はほぼ終わり。
怜亜の恋の応援が終われば・・・・・・後はあの人の。
苦しい想いを、無くして差し上げなければいけないわ。
そうでないと、私は黎翔様の元へと戻れない。
大きな胸に飛び込むことは出来ない・・・・・早く逢いたい、私の陛下。
もう少し待っててくださいませ。)

夕鈴は一筋零れ落ちた涙もそのままに、暗闇で泣き崩れたままの女性へと手を伸ばす。
でもまだ空間は繋がっておらず、その手は空を掴むだけだった。


続。




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【設定】

未来夫婦 ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り

【注意事項】
此方の作品、確かに夫婦設定ですが・・・・いつものテイストでは有りません。









「全く、あの男は何者ですの?お父様。」

王専用の自室に駆けこんだ怜亜は、目の前の安楽椅子に腰かけ寛ぐ父王に詰め寄ったのだった。
そして問いかけながらも先程の事を思い出し、苛々してくるのを感じていた。

「あの男とは??」
「確か緋色の官服を着てましたわ。年のころは私よりも少し年上で、背丈もそこそこ有りましたし、顔立ちも恐らくイイ部類に入りますわね・・・ただ精悍さや誠実さは何処かに置いて来た様な感じでしたが。それより何よりあの物云いが気に入らないのですわ!!」
「ほぉ~怜亜、その男が気に入ったのか?」
「はぁ??私の話を聞いてまして??何処を如何したら『気に入った』になるんですの???」
「それは上々だ。フムフム・・・・。」
「もういいです!!!お父様に尋ねた私が浅はかでした。では、失礼いたします。」

答えて欲しい事は全く返って来ないことに郷を煮やし、怜亜は早々に辞したのだった。

もう、如何なっているのよ!!!
はぁ~~苛々する!!こんな時はあそこに行くのが一番だわ!!

そのまま回廊から庭園にヒラリと降り立つと、足取りも軽やかに少し遠くに見える小高い丘を目指した。
空は高く、雲ひとつない。
風は暖かく、頬を掠めていく。

こんな日は、あの野生の花々が咲き乱れるあそこで寝転ぶのが一番。
それにあそこには・・・・・・・・。


「はぁ~~~~着いた!!ヤッパリ此処が一番寛げるわ。それに・・・・此処にはアレが有るのだものね。」

怜亜は、丘の頂上から少し降りた森に続く木々が立ちそびえる小道の脇にズンズン歩いていった。
そして脇に植えられた木の根元の虚に手を差し入れた。

「あったわ~~。」

虚から出てきたのは、掌に丁度納まる程度の桜色した筒状の書簡入れ。

土や埃を手で掃って筒を開けてみると、入っていたのは一通の書簡だった。
怜亜は丁寧に破かない様に筒から取りだし、広げてみてウットリと眺めていた。
其処に書かれていたのは。

(あっ、あれは・・・・・・・・・・まだ残っていたの???)

怜亜は自分の内から聞えてくる声に耳を傾けていたら、そのうちまだ昼間だというのに夕闇が迫りくる感覚に襲われた。
そして意識がふわりと個として浮かび上がり、そのまま意識の底とでもいうべき場所に滑り込んだのだった。
その代わりに怜亜の意識と入れ替わったのは、ユックリと怜亜の意識の奥で漂っていた夕鈴の意識である。

「あら??また、怜亜の意識と入れ代わってしまったのね・・・・・それにしても、ここは変わらないのね。」

眼前の風景に夕鈴は確かに覚えが有った。
つい先日も陛下と・・・・いや、今の時間から言えば昔と為るのだが、政務から逃げて来た陛下と花々を愛でた場所。

手に持った書簡を広げると、そこには陛下の力強い筆跡でしたためられた私に当てた言葉が書かれていた。

~~~『君だけを永遠に。』

陛下に逢いたい・・・・・ギュッと抱きしめて欲しい。
自分に課せられたことなど忘れさり、ただ逢いたさと愛しさで胸が一杯になった。
気がつくとその書簡を握り締め、茶色の瞳からコロコロと水晶の様なキレイな涙という滴が零れ落ちていた。


この身体は怜亜のモノだというのに・・・・今は夕鈴の想いの深さに、身体まで反応してしまっていた。


カサッ!!!

後ろで人の気配がして、急に身体が強張った。
そのまま振り返るべきかを思案していると、若い男性の声が覆いかぶさってきた。

「おい!!さっきは絶叫していたかと思えば、今度はしおらしく泣いているのか?まるで百面相のお面だな。」
「・・・・・どちら様で?」
「おや?今度は大声を出せないのか?さっきの威勢の良さは何処に行ったのやら。」

誰かと思えば、先程の見知らぬ官吏だった。
きっとこれが怜亜であれば、また言い合いになっていたのだろう。
でも今は夕鈴の意識が表面化しているので、落ち着いて対応していた。

「そうですわね・・・ところで貴方は誰ですの?」
「オレか?さっきも名乗った筈だが・・・光迅(こうじん)だ。」
「ええ、其れは解ります。ただ、どちらの方ですの?」
「あんた、ちゃんと普通の対応が出来るんじゃないか!!ただの我儘姫なのかと思ったけどよ!!」

ここで怜亜だったのなら『無礼者!!』となっているわね・・・夕鈴は、思わず苦笑いが出ていた。
しかし其れを相手には見せること無く、ニコヤカに微笑んで相手の受け答えを待っていた。

「オレは、黄稜国の高級官吏だよ。此処へは貿易の交渉の為に来ているんだ。まぁ、王がくる前の事前交渉ってやつさ!!」
「そうですか・・・・。」
「じゃあな~~って云いたいところだが、実は交渉もほぼ終って帰国まで日があって暇してんだ。だから付き合ってくれよ。」
「そうですか・・では庭園でもご案内いたしましょう。」

夕鈴は極上の笑顔を振りまくと、内側で眠っている怜亜に呼びかけた。

『怜亜!!!起きて!!!私は疲れたから其処へ戻りたいの。だから起きてちょうだい』
『夕鈴姉さま??』
『ええ、そうよ。じゃあ後は宜しくね』

云う事だけ言うとそのまま夕鈴は意識を怜亜の核の押し込め、代わりに怜亜の意識を追い出したのだった。


え~~~!!なんで此処に、さっきの失礼男がいるの???

怜亜はあり得ない現実に直面して、驚愕していた。

(怜亜!!頑張ってね~~~~)

夕鈴は怜亜の中で、応援者という傍観を決め込んでいた。





続。


【設定】

未来夫婦 ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り

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此方の作品、確かに夫婦設定ですが・・・・いつものテイストでは有りません。







「怜亜、如何したのか?」
「いえ、お父さま何でもありませんわ。只、退屈なだけです。」
「退屈だとは、一体何を考えておるのだ!!今はそなたのムコ候補が揃っておるというのに。」

父の玉座の隣に立ち、目の前を直視した。
そこに居たのは、見目麗しく、皆そこそこ身分のある男性達。
私を想うと云うよりも、この白陽国皇女の夫という地位に群がっているだけ。

なんとまぁ、よくもこんなに集めたものだわ。
私にその気がないと言うのに・・・もう勝手にやってよ。

扇越しに嘆息を吐き、喜んでいる父王を後目に踵を返して、接見の間から出て行った。

「怜亜ーーーまだ、終ってはいないのだぞ。」

怒りに満ちた父の声を背中で聞きながら。

そんな怒り声もへっちゃらよ!!
まだ私はホントの恋もしていないのに、結婚なんて冗談じゃないっっ。

いささかお行儀悪く足音を立てて、回廊をそぞろ歩く。
回廊の壁には歴代の王と正妃の肖像画が並んで飾られている。
私は一番お気に入りの画の前で立ち止まると、ジッと眺めていた。

見上げた先には、私のおじい様とおばあ様・・・・・狼陛下と恐れられた珀 黎翔陛下と夕鈴妃の画が飾られている。
殊におばあ様である夕鈴妃には、謎が多く出自がハッキリとしていない・・・それを口さがない者どもは色々と云うが、私にとっては些末な事。

だっておばあ様とおじい様は、端から見てても本当に仲の良いご夫婦だったもの。
おばあ様はおじい様を敬愛し、またおじい様はおばあ様をとても慈しんでおられた。

そして私は知っている。
おじい様がおばあ様を切望して正妃になって戴いた事を・・・・正妃には立后出来ない身分であった事を。
だから二人はいつもお互いを思いやり、愛し合えたのだと思う。

私も決められた縁談で将来の相手を見つけるのは、まっぴら御免!!
夕鈴妃の孫として、困難でもいいから素敵な恋をしたいの・・・。


(そうね・・・怜亜もお年頃だものね。
私が陛下と出逢ったのも貴女と同じくらいだもの・・・・。)



「誰?」

後ろを振り返っても、周りを見回しても人っ子一人いない。
侍女も下げているから、傍には誰もいないはず。


(怜亜、貴女も自分だけの人を見つけなさい。)

また聞こえる・・・・・この声・・・・聞き覚えがある。
優しくて暖かくて・・・・おばあ様の声??
でもおばあ様は私が幼いころに亡くなられているし、声もお若い様な・・・・そして何より、自分の内から聴こえている。

頭の中が疑問符だらけになる瞬間、怜亜は意識の内側に引きずり込まれた。
そして、目を開けると自分自身が回廊で倒れているのが見えた。
更に後ろを振り返ると、おばあ様・・・というより若かりし日の夕鈴妃が佇んでいた。

『おばあ様??おばあ様ですのよね。でもそのお姿は一体・・・。』

怜亜の顔は、驚愕と歓喜に満ちていた。

『あら、怜亜の驚きはそっちなのね。』

フフッと柔らかく微笑む顔は、怜亜が覚えている優しいおばあ様と同じ表情だった。

『あの・・・おばあ様、ここは何処ですの?』
『怜亜・・・・・・・・・・まだ私には子供もいないのだから、そのおばあ様はちょっと。』
『ごめんなさい、でもなんとお呼びすればいいのかしら?』
『そうね~~夕鈴とでも如何?』
『・・・・・・・・私よりは年上ですよね。だから夕鈴姉さまっていうのはどうでしょうか?私には兄と弟は居ますが、姉妹は居ませんから。』
『そうして貰いましょうか。』

奇妙な会話は果てしなく続くのかと思われたのだが、二人の中で同意を得て決着した。

でも、子供もいないって・・・・父上にそれに叔母様方はどうなっているの??
それにそうしたら・・・私が孫の怜亜だって何故解るの??

怜亜の中で展開される疑問は一つずつ積み重なってきており、もう満杯になって溢れだしそうである。
そして、ぼんやりと映る眼下には倒れている自分の姿も垣間見える・・・・・これもどうにかしないと、侍女でもやってきたら大騒ぎになりかねない。

『あの夕鈴姉さま、訊きたい事がたくさんあるのですが、少々お尋ねしても宜しいのでしょうか?』
『ええ、どうぞ。大体は解るけど・・・。』
『では、まず・・・まだ子供は居ないとは?それだったらなぜ私が孫だと?
そして一番聞きたい事は、私はどうなってしまったのでしょうか?』

目の前の夕鈴姉さまは、ニッコリと微笑んだ上で訳知り顔でツトツトと説明してくれた。

『びっくりするかもしれないけど、私は今からそうね・・・ざっと50年程前から来たの・・・それも意識だけ飛ばされてね。
それにしても過去の私の身体はどうなっているのかしら?でも怜亜が存在しているのだから、一応無事なんでしょうね。
そして子供のことよね・・・あっちではまだ正妃になったばかりで、子供はおろか懐妊だってしてないわ。
でも怜亜の事やこれから生まれるであろう子供たちの事は、ここに飛ばされる際に沢山の映像が自分の中に飛び込んできて、取り敢えず未来・・・そう50年間で有った出来事を色々と理解したのよ。まぁざっとこんなものかしら・・・・。』

そして此処は何処なのか?
私はどうなっているのか?

重要な事を聞く前に怜亜の意識はまたふわりと浮かび、何かの力が働いている様に今度は外に飛ばされたのであった。

『まだ、話は終わってないと言うのに・・・・・まぁせっかちな事。
これも全ては仕組まれている事なのかしら・・・・あのお方によって。』

夕鈴は、はぁーーと溜息を洩らすと怜亜の核の中に潜り込む。

そう、夕鈴は全てが分かっていた。
何故自分が此処に呼ばれ、何をなすべきなのか?
そしてそれが終われば、何をしなければならないのかも・・・・・それまで、現在の自分には戻れないと云う事が。

そして怜亜に聞こえるかどうかの声で呟く。

『さぁ、貴女の恋の始まりですわよ。シッカリと掴みなさい・・・・もし手助けが必要な時には私を呼んでね。直ぐに出てくるから・・・それまでは貴女の中で休ませてもらうことにするから。』


怜亜の意識が徐々に戻ってきて目を恐る恐る開けてみると、眼の前で自分を凝視する二つの琥珀色の瞳が飛び込んできた。

「きゃあ~~~~~~~~~~~。」

余りの驚きに、怜亜は誰かが駆け付けて来てもおかしくない程の悲鳴を上げていた。

「あなた、誰よ!!私を誰だと思っているのよ。」

怜亜は相手に完全に警戒心を抱き、座ったままジリジリと後ろに下がって行く。
そんな怜亜の様子がさも可笑しいと云わんばかりに、男性はそっぽを向きつつも微かに笑っている。

なんなのよ、このヒトは!!!更に誰なのよ!
それになんで笑っているのよ?こんな失礼な男性は見た事無いわよ。

「何とか言ったらどうなのよ!!」

目の前の男性は怜亜のその言葉に呼応するかのように、今度は隠さずに『あはははは~』と声を立てて笑いだした。
その琥珀色の瞳にはうっすらと涙を浮かべて。

「何が、可笑しいのかしら??」

ひとしきり笑った男性は、人差し指の腹で滲んだ涙を拭きながら怜亜に向き合った。

「勇ましいね、アンタ。しかも面白いし・・・・退屈しなさそう。」

そう言うと手をヒラヒラと振って、立ち去ろうとしている。
その引き際の鮮やかさに思わず服の裾を掴んだ怜亜は、相手をジッと睨んで『まだ逃がさないわよ』と瞳で抗議する。

「まだ、私の質問には答えてないと思うけど。」
「ああそうだっけ、じゃあしょうがないなぁ。名前だけは教えとくよ。オレの名は洸迅(こうじん)だよ。じゃあな・・・絶叫のお嬢さん。」

怜亜が最後の言葉を頭の中で反芻している間に、気が付けば先程まで居た筈の男性の姿は影も形も見えなくなっていた。

「もう何なのよ、しっつれいな男。絶叫のお嬢さんって・・・・・冗談じゃない!!」


(うふふ・・・・怜亜ったら、これも運命の出会いだったりするのに・・・・人の出会いは一期一会。
大切にしないと駄目なのよ・・・)

夕鈴は、陛下との出会いを思い出していた。
割りのいい仕事があるとのことでやってきた王宮で、王座に座していた狼陛下。
恐くて怖くて・・・断ろうと再度戻ってみるとそこに居たのは、うって変わった別人のような小犬陛下。

あれから色々あって、今はあの方の正妃となった私。
これからもあの方と共に寄りそって生きていきたい・・・・・それには早くこの問題を解決していかないと!!
それにはまず怜亜の恋を。

夕鈴は怜亜の意識の奥で漂いながらこれからの事を考え、そして今はいない黎翔の事を愛しく想っていた。



続。


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「夕鈴っっ、お願いだから、眠らないでくれ!!!」

耳元に聞こえるのは、低い聞き慣れた愛しい彼の声。

大丈夫ですから、待っていて下さい・・・・・・必ず私は・・・・・。

自分の意識が、自身の核と云うべき場所へと音もなく滑り落ちていく。
周りの声も音も何も聞こえない、ただの静寂。


しばらくすると、荒い息づかいが何も聞こえないはずの耳の奥に届いて来る。
そして私を、と云うより私の魂を呼んでいる。

『タスケテ・・・・・オネガイダカラ・・・・・ワタシノ・・・・』


そして私は私ではなくなる―――――



「陛下、どうやらまた昏睡状態の様です。」

静かに告げられる侍医の声。

「夕鈴。」

只、名前を呼ぶ事しかできないと言うのか?私は・・・。
愛しい妃一人助けられなくて、何が王だというのだ。
全くお笑い草だ。

『ゴンッッ』

強く握った拳を壁に打ち付ける音。
・・・・・その拳からは血が滲んでいた。


陛下・・・・私は大丈夫ですから、待ってて下さい。

ただそうとしか言えない自分がもどかしくて悔しいけれど、少しも動かせない身体。
そして唇さえも自分の思い通りにはならないのでは、何も伝えられない・・・・この想いさえも。

そして夕鈴という一つの意識は完全に、深淵の底に落ちていった。



どうしてこの様な事になったのであろうか??
それは、10日前の真夜中に遡る。


その夜は風が強く木々がしなる音と、窓には強い雨が叩きつけられる音が止む事無く続いていた。
夕鈴はその風と雨の音で何度も何度も逞しい彼の胸の中で目を覚まし、彼を起こさないように小さく嘆息を吐いてはまた眠りについた。
そんな夕鈴に黎翔も気が付いていたが、彼は気が付かないふりをしていた。

これだけ風が強いのだから、ぐっすりとは眠れまいな。

お互いを気遣いつつ、夜が明けるのをまんじりと待っていた。
そしてもう間もなく夜が明けると云う頃夕鈴はよほど眠かったのか、ようやく深い眠りに誘われようとしていた。
その眠りに誘われる瞬間、そう瞬きするほどの刻・・・・・。
夕鈴は自分を求めて泣き崩れる女性の影が脳裏を掠めていくのを感じた。
しかしその女性の影を捉える事が出来ずに、夕鈴は眠りに落ちた。

その日から昼のうたた寝、夜の情事の後のまどろみ寝・・・・眠ると必ず悲痛に泣き暮れる女性が現れるようになった。
それは夕鈴の心を千々に乱し、いついかなる時もまざまざと思い出されるようになってしまった。
ついには何も手につかなくなり、食事すらも喉に通らなくなってしまった。

そんな妃の様子に、黎翔は政務に専念出来なくなるほど心配していた。
しかし、夕鈴に理由を尋ねても話そうとはしない。
それよりも政務が疎かになっている事を叱咤してくる始末。
狼で脅しても小犬で甘えても、ついぞ理由は話さず仕舞いであった。
そうして、つい10日前には快活に過ごしていた夕鈴はどこを探してもいなくなり、
ただ寝台の上で苦しそうな寝顔で眠っているだけとなってしまった。

侍医も理由が解らない・・・・何処も身体の悪いところは見当たらないと首を傾げるばかりで。
そうして寝たり起きたりの繰り返しで、夕鈴は昏睡状態に陥ってしまった。

心配で夜も眠れず夕鈴に付き添っている黎翔もロクに食事もとらない有り様で、
李順は政務の遅れも気にはなるものの、この状態の二人を心から心配して何度も様子は見に来てはいた。

そして、夕鈴の閉じられた瞳から一筋の涙が零れ落ちた。

ゴメンナサイ・・・・でも私を信じて・・・お願い・・・待っててください、黎翔様・・・。





********



「あの、起きてますか?怜亜姫。」

怜亜姫?ウン?誰の事よ!!
私は・・・・・・・・・・・・・・・・誰だっけ?思い出せない?
そんなバカな・・・・・。
夢を見ていたの?私は私では無かった様な・・・・そんなはずはない。

私はこの白陽国国王・珀 遥翔の娘であり、あの誉れ高い『狼陛下』と異名を持つ珀 黎翔の孫よ。

自分が寝ぼけていたとしか思えずに身体を起こす。
そして先程少し表面化していた夕鈴の意識は怜亜の意識に取り込まれ、怜亜の魂の核へと押し込まれた。


愛しい夕鈴の心の欠片はいずこにあるのか・・・・・それは黎翔はおろか、未だ誰にも解らなかった。






続。


瓔悠

Author:瓔悠

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