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臨時妃 ・ 原作寄り


【注意事項】

こちらの作品は、前ブログ『遥か悠遠の朱空へ』にて公開していた作品です。
今回こちらへ移行するに伴い少しだけ手直ししておりますが、
書いた当時の陛下と夕鈴の関係が浅いものでありましたので、
当時の雰囲気を残すべく糖度はあまりありません。
そのことを踏まえた上でお読みいただけます様、宜しくお願いいたします。   

なお、この話は【初夏の一日 前・中・後編】の後日談となります。

【初夏の一日 前編】
【初夏の一日 中編】
【初夏の一日 後編】 










今日は、空を見上げると雲ひとつない晴天。
夕鈴は寝台から降りて、眠気覚ましに窓越しの爽やかな空気を胸一杯に吸い込み深呼吸する。


「お妃さま、おはようございます。お目覚めでございますか?」
「おはようございます・・・はい、起きています」

いつものやり取り。
寝室の扉まで歩いて行き、侍女を迎え入れた。

渡された衣裳を受け取り、寝室より誰もいなくなったのを確認して着替え始める。
先日衣替えをして頂き夏衣に変わったので、衣裳はサラサラしていて肌に纏わり付かず着心地はすごくいい。
着替えと朝の支度まで済ませて寝室を出ていくと、すでに朝餉の用意が卓上にすっかりと用意されている。
夕鈴は美味しそうな朝餉を目の前にして、食べる前に今日の予定を告げておく事にした。

「今日は夕方まで、老師様の所に参りますので昼餉はそちらで頂きますね。
夕方からは、陛下の所に参ります。陛下が昨晩『夕餉は共に・・・』と仰っていましたので、夕餉をご一緒いたします」

今日一日は自室にいない旨を、殊更強調する。
そうしておかないと一日帰省するなんて、到底出来ないから・・・。

先日の衣替えの後。
実家の衣替えの事が気になり帰省させて欲しいと申し出たところ、
『一日だけなら』と許可してもらぅた際の李順さんからのお達しなのだ。
今日一日しか無い貴重な帰省ということでさっさと朝餉を食べて出掛けたいが、
そこはお妃という立場上、優雅に頂かなければならない。
それでもいつもよりは早く済ませ、卓上を片付けしてくれている侍女さんに微笑みかける。

「では、行って参りますね」

そのまま優雅に部屋を後にし、その足でまずは李順の部屋へ直行する。
今から帰省することを報告する為である。
部屋には李順一人きりで、一礼して中へ入る。

「では、今から老師の所へ行って着替えた後、裏門より出て帰省します。
夜には戻りますので宜しくお願い致します」
「分かりましたが、くれぐれも人に見つからない様にして下さいよ。
とくに陛下にはご注意を・・・また付いて行かれると政務が滞りますし、
下町でやっかい事に巻き込まれますと後々面倒ですからね。
あと裏門に馬車を用意してありますからそれに乗って行って下さい。
私からは、以上です!!」

ズレた眼鏡を手で直しながら、鋭く注意事項を念押ししている李順を夕鈴は注視する。

「はい、わかりました」

夕鈴は大人しく了承した。
そして上司の話も終り、夕鈴は家に帰れると喜び勇んで老師の元へと少し急ぎ足で向かう。
その姿を柱の陰から見ている人影が・・・。
しかし夕鈴は家に帰っている自分の姿を想像してニマニマしていたので、
そんなことは全く気付いていなかった。
その柱の人影を屋根の上から見ていた浩大は面白い事になりそうだとニンマリしつつ、
護衛のため夕鈴の向かう先へと屋根伝いに追いかける。

後宮管理室の老師の元に着いた夕鈴は、すばやく下女の衣裳に着替えて裏門より王宮を後にする。
そして通りに出ると、李順が言っていた場所に馬車が一台止まっていた。
馭者さんに軽く会釈した後、人目に付かない様にすばやくその馬車に乗り込む。

馬車が軽快に走りだし、窓から移り変わる景色は臨時花嫁になる前にはよく見ていた見慣れた下町の風景である。
夕鈴はフゥーと息を吐き出し、落ち着きを取り戻した。
知っている人に見られないかと今まで少し緊張していたようだ。
久々の下町の風景に見入っていると、馬車はすでに自宅のある集落近くまで来ていた。

自宅まで送って頂くのはちょっと困るので、馭者さんに声を掛ける。

「あの、すみませんっっ!
この辺りで降りますので、馬車を留めて頂けませんか?」

しかし聞こえていないようで、まだ馬車は動いている。
このままだと自宅に着いてしまう。
几鍔なんかに見つかると、色々と聞かれて非常に面倒くさい事に成りかねない。
危機感からか今度は大きな声で叫ぶ。

「すみませーーーん、この辺りで降りたいんですがーーー」

今度はきちんと聞こえたようで、すぐに馬車は止まってくれた。
夕鈴は素早く降りて、乗り込んだ時と同じように会釈する。
馭者さんは外套を頭から羽織っていてよくは見えないものの、
何故か馭者さんの肩は小刻みに上下している様に見えた。
笑ってる・・・・って言うか、笑われてる。
自分の行動が可笑しかったのか?・・・そう不思議に思いながらも、
取り敢えず馬車が角を曲がって見えなくなるまで見送った。


久々の自宅に足を踏み入れると、やはり男二人所帯になっているので自分がいた頃に比べると少々散らかっていた。
しかし思っていた程散らかっていないのは、
青慎が勉強の合間に片付けをしているからであろう・・・。
父ではないとわかるのは、片付けるという家事能力は父にはほぼ備わっていないと思われるからである。
時間は限られているんだからと、夕鈴は自室に入り動きやすい服に着替えて腕まくりをした。

さて、何処から始めようか?

思案していると、戸口辺りが何やら騒がしい声。
夕鈴が何事かと慌てて戸口まで来ると、門の所で聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「一体、ここん家に何の用なんだ」
「何の用だと言われても、夕鈴に用があって来たんだよ」
「あいつに用って、だから何の用なんだっっ!!
ハッキリ言えよ!!!」
「どうして、金貸し君に言う必要があるのかな。
僕は夕鈴だけに用があって来たんだけど・・・」
「全く王宮務めの役人は、案外暇なんだな。
どうでもいい下働きの後を尾けまわしたりして」
「まぁ、暇ってわけでもないんだけど・・・・ね。
でも夕鈴が気になって、様子を見に来たんだよ」

いや、ちょっと待った!!

最初のは几鍔だと容易に分かったが・・・。
もう一人の声も知っているが、この下町で聞こえるはずのない声である。

夕鈴は頭を振りながら『そんなはずは無い』と、たった一つの可能性を必死で否定しながら門へと歩いて行く。
通りに面した門の所では、若い男性が二人で言い合っていた。
一人は分かってはいたが、やっぱり几鍔だった。
もう一人を見て夕鈴は、本気で頭を抱えたくなった。
やはりあの声は、陛下・・・もとい、今は李翔さんだ!!

どうして??何で・・・?
確か、陛下には気づかれなかったはずで。
だって李順さんに相談して今日も王宮を出る時も注意していたから、見つかるなんてないはず!!
なのに、目の前にいるのは紛れもなく陛下だわ。

「へい・・・いや李翔さん、どうしてこちらへ?
と言うより、どうやって来たんですか?
それに几鍔もどうしてここにいるのよ?」

矢継ぎ早に質問を繰り出すのは、夕鈴の動揺が現れたものだろう。
先に夕鈴の質問に答えたのは、長年の付き合いの几鍔である。

「いや、おまえん家の前で怪しいヤツが中を窺っているもんだから。
昼間は誰もいないはずなのにってさ」
「 はいはい!!几鍔、分かったから・・・この人は、私の職場の上司だと前にも言ったと思うけど!!」
「そうだったか?もう忘れたよ。
まぁいいや、ところでお前いつまでいられるんだ?」
「サラッと流さないでくれる??まぁ、いいけど・・・休暇は今日一日だけよ。
でも、そんなの聞いてどうするのよっ」
「どうだって、いいだろ。親父さんが帰って来るまでいるんだろ?」
「一応そのつもりだけど・・・やりたい事も沢山あるし。
じゃね、私は忙しいんだから、もう帰ってよ」

そんな二人のやり取りを見ている黎翔は何とも羨ましいと、
次第に紅い瞳がスーと細い目つきに変わっていく。

「はぁ・・・・・じゃあ、李翔さんは、取りあえず入って下さい」

夕鈴はこのままだと悪目立ちすると思い、黎翔を家の中に招き入れた。
そんな様子を今度は几鍔が、じっと睨みつけていた。
こちらも羨ましいと言わんばかりに・・・。





続。




2012.06.04、06、08、16 ・ 2012.07.03、11 SNS初載





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なお、この話は【初夏の一日 前・中・後編】の後日談となります。

【初夏の一日 前編】
【初夏の一日 中編】
【初夏の一日 後編】 







夕鈴は無言のまま家に入り、居間に案内し椅子を勧める。
座ってもらうとすぐさま目の前の李翔である黎翔に問いかける。

「陛下!どうしてここにいるんでしょう?王宮で執務中ではないでしょうか?」
「夕鈴、落ち着いてよ~~僕、今李翔だし・・・この前李順と秘密の相談事していたでしょ。
実は偶然だけど、聞いていたんだよ。で、今日も偶然だけど王宮を出て行こうとする夕鈴を見かけたから、先回りして馭者に代わってもらったんだ。
そしたら夕鈴、気づかなかったから可笑しくて・・・」

偶然?
そんなに偶然ってあるの?
で?
だから?
どうしてついてきたの?

李翔である黎翔の、のほほんとした言葉に夕鈴はイラッとしていた。
自分の様子とは真逆のいたずらっ子の様に悪びれない黎翔に、
夕鈴はハァーーーと深い溜息さえ出てくる。

でも馬車から降りる時、馭者さんの肩が上下に揺れていた理由が今やっと理解出来た事だけは良かったが。

「分かりました、では早く王宮にお戻りください。
王宮では、多分李順さんや宰相さんが怒ってますよ」

兎に角、早く帰って下さい!
後で私が李順さんに後で何て言われるのか、たまったもんじゃないっっ!

「いいよ、気にしなくても・・・二人には私がいない間、しっかり政務を取り仕切ってもらおう」

いえ、私は気にします!!ええ、すごく気にします!!
どうして陛下はそんなに飄々としているんですか・・・。

「でも、陛下でないとダメな案件もきっとあると思うんです・・・・だから、戻りましょ」

夕鈴は本音をグッと堪えて、今は黎翔に穏便に帰ってもらおうと促す。
ところが何故か、いきなり黎翔は小犬から狼陛下に変わっていた。
下町にはそぐわない空気を纏って・・・。

夕鈴は本当に他の人の事ばかり気にする。
もっと僕の事を気にして欲しい。
ここは、きちんと夕鈴に分からせておく必要がありそうだ。

「君はどこにいても私の妃であるし、王である私が自分の妃の行動を気にするのは当然だ。
ましてや、妃の行くところに私がついて行ってはいけないということもあるまい」

これで、少しは分かってくれるのだろうか。

「私は、今、妃でも何でもないタダの庶民なんですよ。
それに、ここは下町であって王宮ではないのだから、演技はいらないと思いますが・・・」

ダメだ、やっぱり分かってくれそうもない!
ここは違う言い方でと。

「僕はいつでも夕鈴の傍にいたいし、帰省するのなら護衛する人もいるからね。
それに衣替えをするための休みは今日一日しかないのだから、
その休みを有効に使うには誰か手伝いが必要だろう。
だから付いて行くことにしたんだよ。執務は帰ったらきちんとこなすから」

夕鈴は目をゴシゴシとこすってみた。
だって、自分の目がおかしいのか?陛下のお尻に茶色いフサフサしたしっぽが大きく左右に揺れているのが見える気がするから。
どうも納得はいかないがここで問答を繰り返すのも時間の無駄だし、
王宮関連の不用意な発言は避けた方がいいと判断した夕鈴は、
お客である黎翔の為にお茶を出すことにした。

「分かりました、李翔さんはそこに座っていて下さいね」

一言告げると台所に向かった。
そしていつも通り手際よくお茶の用意をしつつ、夕鈴は考え込んでいた。

どうして狼陛下がでてくるのよ・・・・全く。
それに護衛だって、浩大がついて来ているとばかり思っていたし、陛下がついてくる必要なんてないのよね。
手伝いって、何を手伝ってくれると言うの?
几鍔にあれ以上問い詰められる前に陛下には家に入ってもらったけど、
あのまま几鍔同様帰ってもらった方が良かったのではないのかしら・・・。

考えてみても黎翔の行動の意味が分からず、夕鈴は気がつくと人知れず大きな溜息をついていた。

そんな様子を開け放たれた窓の外から、ニヤニヤしながら見ている人物がいた。
そう、夕鈴が護衛として来ているのでは?と予想していた浩大である。

「お妃ちゃん、陛下が来てるみたいだね。
まぁ、イロイロと陛下にでも手伝ってもらえば!!愉しいと思うよ」
「浩大!!急に声を掛けないでよっっ!!
ビックリしてお茶がこぼれそうになったじゃない、全く人事だと思って」

そのまま浩大は、アハハと笑いながら外の木に軽々と登っていく。
どうやら木の上から警護するようである。
台所から出た夕鈴は、居間で椅子に座って周囲をキョロキョロ見回している黎翔にお茶を差し出す。

「あのう・・・私はこれから衣替えとか、片付けとかしますので、ゆっくりお茶でも飲んでいて下さいね」
「えーーーさっきも言ったけど、僕は手伝いにも来ているんだから、一緒に衣替えしようよ」
「いえ、そんな李翔さんに手伝っていただく程の事でもないですし・・・」
「早く終わらせて、下町に出ようよ」

気がつけば、黎翔は本音をポロっと出していた。
ここに来た本当の目的は、夕鈴とゆっくり下町をぶらぶら歩こうと目論んでいたのである。
黎翔の言葉が聞こえたのか、聞こえなかったのかサラっと流した夕鈴は、
そのまま居間を出て青慎の部屋へと入って行こうとしていた。

部屋の奥にある押入れに近づき、夏衣の入っている行李(こおり)を二、三個まとめて降ろそうと腕を伸ばす。
しかしその伸ばした腕の更に上を、鍛え上げた腕が伸びてきて先に行李を掴んでいた。
夕鈴は驚いて後ろを振り返ると、真後ろに腕まくりをした黎翔が立っていて正に行李を降ろそうとしていた。

「李翔さ・・」
「夕鈴、手伝うよって言ったじゃない。
それにこんな重たいものを一度に降ろそうなんて無理だよ。僕に任せてよ」
「すみません・・・・手伝ってもらうなんて畏れ多くて」
「気にしないでよ。実は僕、衣替えなんてしたことがなくて・・・いつも執務中に女官達がしてしまっているからね」
「そうですよね・・・王様が衣替えをするなんて、有り得ませんものね。
では、お願いします」

夕鈴は仕方がないなぁ~~という顔をした後、ニッコリ微笑んで黎翔の申し出を了承した。



続く。
 



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【初夏の一日 前編】
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【初夏の一日 後編】 









「その藍色と若草色の物を此方にください。
あっ、その後ろの鶯色の物も一緒に・・・」
「これで、いいの?」
「ハイ、これでこの行李(こおり)は空っぽになりましたよね。
次はここにある冬衣を入れますので行李をください」

手渡された夏衣を夕鈴は手早く、箪笥に整然と並べていく。
その様子を眺めながら、黎翔は今更ながら夕鈴の家事能力の高さに見惚れていた。

「どうかしましたか?」

夕鈴は、ボーとしている黎翔の表情を覗き見ながら尋ねる。

「いや、夕鈴はテキパキしているなと感心していたんだよ」
「そんなことないですよ。ウチは母親がいないから、必然的に私がしないといけないから・・・毎年の事だし、慣れているだけです」

会話しながらも夕鈴の手は止まることなく動いている。
本当に働き者の兎さんだ・・・。

「あっ李翔さん、誠に申し訳ありませんがこの行李にはもう冬衣を入れましたので、
押入れの右側に入れて頂けますか?」
「いいよ、これだね」

夕鈴が行李の上に置いている手の上に、黎翔の一回り以上も大きな掌が重なる。

「あっっ・・・」

夕鈴は、小さく声を上げた。
その声は上ずっていて、普段よりも少し高い。
眼を大きく見開き、じぃーと見つめる夕鈴。

こんな状況・・・・確かに王宮では幾度となくあった。
それは、バイト妃としての事で・・・ある意味、お仕事であって。
恥ずかしいけれど、それはそれで仕事だと割り切れもする。

でも今は、お仕事中じゃない。
だから素の私であって、タダの庶民娘で。
・・・・・平常心でいられない。

夕鈴は自分の顔が徐々に火照っていくのが分かり、気恥しさから俯き加減になった。
兎に角、逃げたい・・・その思いが胸を占める。
夕鈴は耐えきれず手を外そうとしたが、黎翔は重ねた掌に更に力を込め外せないように・・・。

「あの・・・・放し・・・くだ・・・さい」

夕鈴は小さく小さく呟くものの、肝心の黎翔は聞こえてなく、否、聞こえないふりをしていた。


そのまま時が止まったかの様に、二人は掌を通じてお互いの熱を感じていた。
しばし、時の流れがゆっくりとなった・・・・・・・・。
外で大きな歓声をあげながら、通りを過ぎて行く近所の子供たちの声で二人ハッとなる。


「夕鈴、右側だったよね」

黎翔は何もなかったかの様に重ねた掌を外す。
そのまま離れ際に、夕鈴の頬に軽く口づけた。
夕鈴が目を白黒させた時には、黎翔はもう立ち上がり行李を持ち押入れへと向かっていた。

どうして・・・・こんな事するの?
私はただのバイトなのに。
でも訊いてどうするの?
もし『ただの戯れ』なんて言われたら、どう答えていいか分かんないじゃないっっ。

夕鈴は黎翔に訊ねたい気持ちを押し込めて、
自分の後ろを通りすぎる黎翔に努めて平静を装って答えた。

「そうですね、お願いします」

しかしその声は少し震えていた。
そんな夕鈴を押入れの前で見つめる紅い瞳はしてやったりと、したり顔だった。



「イヤ~~仲がよい事で!!見てるこっちが恥ずかしくなってくるよ、全く・・・」

木の上から呑気に二人の様子を眺めていた浩大が、
もう観てられないとばかりに声を掛けてくる。

「衣替えを手伝ってもらってるだけでしょ!!何言っているのよっっ。
それならそこで見ていないで、降りてきて一緒に手伝ってよ!!」

浩大もいれば、気まずい雰囲気から逃げ出せるし・・・・。

夕鈴の強気な発言の中に、懇願する顔がのぞいていた。
それに気がつかない浩大じゃない。
夕鈴の思惑は分かっていたけれど、自分の身の可愛らしさから首を横に振る。

「オレの仕事は、ここから警護する事だからね。遠慮しとくよ」

冗談!手伝いなんかしようもんなら、陛下の剣の錆に為りかねない。
近寄らないに越したことはない。

密かにクワバラクワバラと唱える浩大だった。
夕鈴の背後から無言で『王宮へ帰れ』と圧力をかけてくる黎翔に恐れをなし、
木からシュッタッと飛び降りてオーバーに夕鈴に手を振る。

「お妃ちゃん、またね。
まぁ、頑張ってっっ!!!」

そのまま浩大は、王宮へいそいそと帰って行った。


*****

これで完全な二人きり。
もうこうなったら、さっさと終わらせるっきゃない。
それが一番いい。


夕鈴は先程よりもテキパキとスピードアップして片づけ始めた。
それこそ、一心不乱に。
そして黎翔も手伝ってくれたお陰で思ったより早く青慎と父の分は終り、
後は夕鈴の衣裳のみとなった。

で、一息ついて隣にいる黎翔を見ると、なんだかウキウキしているように見受けられる。

一体、こんな変哲もない衣替えの何処がそんなに楽しいのかしら??
こんな庶民的な衣替えなんて経験した事がないから楽しんでいるのね・・・と。

黎翔は衣替えの手伝いにそこまで意義を持ち合わせてはなった。
ただ、普段の夕鈴の姿を見たかっただけ。
妃としてでなく、素の夕鈴と過ごしたいだけで。

夕鈴の衣裳か・・・普段はどんな衣裳なんだろうか。
妃の夕鈴はもちろん色香があっていいけれど、普段着の夕鈴も可愛らしいのだろうな。

一人想像している黎翔は、思わず顔が綻んでくるのが自分でも分かった。
そんな黎翔の様子を見て夕鈴は首を傾げながらも、
夕鈴は自室を見渡し、さぁ始めようかなとした時・・・ふと、思い至った。

ほとんど帰省する機会が無いのだから今衣替えをする必要性があるのかしら?
帰省の度に必要なものを取り出せば事足りるはず・・・そうしよう、今日はあまり時間もないのだし。

後ろを振り返り、嬉々としている黎翔に告げる。

「私の分は、またの機会にしますから今日は止めておきます」

何だか肩を窄めてがっかりしているような黎翔を感じたのだが、夕鈴は続ける。

「この後青慎達に夕ご飯を作ってから帰りたいので、市場に出向きますがご一緒しますか?」

途端にまたウキウキし始めた黎翔は『ウンウン』と首を縦に振っていた。
茶色い尻尾もパタパタしている様にもみえるが・・・それは気のせいであろう。

「じゃあ、行きましょうか」
「そうだね、夕鈴とデートっっ」
「デ、デ、デート??
そんなんじゃありませんっ。
タダの買い出し、です」
「そんな~~~折角だから、デートにしようよ」
「私は買い出しだけで、結構です!!!」
「デート!デート!!夕鈴とデート~~」

プンプン、頬を膨らませる夕鈴。
全く意に返さず、ニンマリ微笑む黎翔。

フゥ―と息を吐き出して、買い物籠を持って夕鈴は家を後にした。





続く。




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市場への道すがら。
夕鈴は、黎翔が一緒にいることなんて忘れているかのように、
頭の中で買い物リストのおさらいをしていた。

今日の特売は何だろう。
出来るなら、何日か分を作り置きして帰りたいから、
効率よく店を回って・・・・。

夕鈴は、先程の事なんてすっかりと頭の中から締め出し、
下町主婦ライフを満喫し始めていた。


買い物籠を持ち僕の前を歩く夕鈴は、足取りも軽く何とも楽しそうだ。
ここが本来の夕鈴の居場所なのかもしれない・・・いつも後宮で窮屈な思いをさせているから。

黎翔はウキウキしながら歩いている夕鈴の様子を見て、少し自嘲気味になる。
そして更に考え込む・・・。

でも例え窮屈でここへ帰りたいと懇願されたとしても、もう僕は夕鈴を離せそうにない。
こんなに一人を深く想う恋心があるなどと、昔の自分からは想像なんて到底出来ないが・・・。

前を歩く夕鈴に、見るからに人の良さそうな中年女性が声を掛ける。

「あら夕鈴ちゃん、買い物かい?
近頃見掛けないと思ったら、王宮に住み込みで働いているんだってね」
「八百屋のおばさん!おじさんも元気です?後でお店に寄ろうと思っていたの。
私の仕事ですか・・・ええまぁ、掃除婦としてですけどね」

まさか狼陛下の臨時花嫁として、後宮でお務めしています・・・なんてことは、口が裂けても言えず曖昧に誤魔化す。
しかし本当に掃除婦のバイトも掛け持ちなのだから、あながちウソでもない。
そしてその女性は更に続ける。

「でも夕鈴ちゃん、王宮務めなんか辞めて帰っておいでよ。
下町にも仕事はいくらでもあるじゃないか?
王宮には冷酷非情の狼陛下もいらっしゃるんだろ・・・そんなおっかない方に会って粗相なんかしたら大変だからさ」
「おばさん、大丈夫よ。ほら掃除する場所も、陛下には会ったりしない隅っこを掃除しているから!!心配してくれてありがとう」
「そうかい、くれぐれも気を付けるんだよ。
あらいけない、そろそろ店に戻らないとね。じゃあまた後でね」

手を大きく振りながら、その女性は大股で去って行く。
夕鈴は振り返って李翔に、にっこりと極上の笑みを見せる。

「李翔さん、王宮にはおっかない方がいるんですって!!
粗相したらお手打ちに合うのかしら?」
「しないよ~~夕鈴には。全く下町では、王はそんな風に認識されているんだ」
「みたいですね~王宮にいる国王陛下なんて、まぁ会う事なんてない雲の上の方ですから。
皆、聞こえてくる噂しか信じないんですよ。さてと買い物、買い物」

夕鈴は先程のご婦人の話など意に介さないと言うように、スタスタとお目当ての店へと向かって先に歩いて行く。
恰幅の良い主人が経営する肉屋、先程のご婦人の八百屋、お喋り好きそうな老女が店番をしている醤油屋など、次々に必要な店にだけ寄り必要なものだけ購入して行く。
黎翔は夕鈴の買い物の手際の良さに、惚れ惚れとした眼差しで眺めているだけで何も手伝う事が出来なかった。

「よう、もう家の事は終わったのかよ。それよりまだアンタいたのか?
早く帰れと言ったじゃないか。わかんないヤツだな」

二人並んで歩いているところに、敵愾心むき出しの几鍔が近寄ってきた。

「几鍔、こんなところで何しているの?
それよりも、この人はアンタが突っ掛かってもいい人じゃないんだから、ほっといて!!」
「お前はお人好しだから、また変なヤツに騙されているんじゃないかと心配になるんだよ」
「な、なんでアンタなんかに心配されなきゃならないのよ。
私の心配よりも自分の心配でもしたら?
アンタも好い女性(ひと)はいないでしょ!!」
「ホントに可愛げの無いヤツだな。あーーー、もういいよ!めんどくせーーー」

几鍔は言い放つと夕鈴の買い物籠の中を覗き込み、中身を確かめる。

「お前、今日の夕飯何にするつもりかは知らんが、角の豆腐屋が特売してたぞ」

『特売』と聞いて、夕鈴の瞳はキラキラ輝きを放ち、
両眼には特売の文字が浮かび上がる。

「几鍔、角の豆腐屋さんだよね♪
李翔さん、スミマセンが待ってて頂けますか?走って行ってきますので!!」

夕鈴は言い終わる前には、走り出していた。
そんな夕鈴の背を見つめながら可笑しくて堪らないと言わんばかりに、
黎翔はクスクスと口元に笑みを浮かべる。
そして紅玉の双眸には、愛しさを乗せて。

ホントに夕鈴は退屈しないよね、見てるだけで愉しいよ。

夕鈴はそんな事を思われていたとは露知らず、一目散に角の豆腐屋を目指していた。

「やっと邪魔なヤツを追い出したからっと・・・おい、お前はまだ夕鈴に付き纏っているのかよ!
早く自分ん家に帰りなと言った筈だがな。大体お前みたいな王宮務めのお坊ちゃん役人は女なんか選り取りみどりだろうに、なんでこんな下町に住んでいるような庶民の女に手を出すんだよ!
アイツは遊び慣れてる女じゃねえから、さっさと手を引きな!!」

几鍔は黎翔に向って一気に捲し立てる。
けれど当の黎翔はというと涼しい顔で飄々としていた。
まるで几鍔が言っている事など聞こえていないかのように・・・。

「金貸し君が言いたい事はそれだけなのかな。
じゃあ次は僕が言わせてもらうとしようか・・・大体、君は夕鈴をどう思っているのかな?」

黎翔は、まず几鍔の本意が何処にあるかを確かめたかったのである。

「はぁ?オレがアイツをどう思っているのかって?
そんな事どうでもいいじゃないかよ。それが何か関係があるのかよ!!」
「そりゃ、大いに関係あるよ・・・君の考えを聞いておかないと僕も答えようがないし、少なくとも君が夕鈴をどうしようとしているかによっては対応を考えないといけないしね」

几鍔の事なんかそっちのけで、聞こえよがしに自分の考えをぶちまけていた。

「アイツは、ただの幼馴染だよ!それ以上でもそれ以下でもねえよ」
「ふうん。そうなんだ・・・」

一応納得した様に返事はしたが、黎翔が几鍔の言葉を全て鵜呑みにしたかどうかは置いといてなのだが。

「じゃあ、お前はどうなんだよ!アイツのことは!!」
「そうだね・・・僕にとって夕鈴は必要な(まぁ僕だけの奥さんだけどね・・・)人かな!?」
「必要?やっぱ利用しているだけなのかよ!
だから役人ってヤツは信用ならないんだよ!
アイツを泣かせるようなことがあれば、承知しないんだからなっっ。
兎に角、それだけは覚えておけよ」
「そうだね、覚えておくとするよ。じゃあね、僕は夕鈴を探しに行くからまたね・・・金貸し君」

黎翔は手を振り振り、早々に立ち去ろうとする。
その背中に几鍔は大きな声で怒鳴る。

「オイ、金貸し君じゃあねえよ、几鍔という立派な名前があるんだよ。覚えとけ」
「あっ、そうだね・・・じゃあ、几鍔君失礼するよ」

その場を立ち去りながら、黎翔は几鍔の本意が少し分かった様な気がしていた。

自分と同じ気持ちなんだと。
大切に守りたいと・・・・ただ大事に守りたいだけなんだと。
手段や意味が違っているとしても____。

その頃、話題にされていた夕鈴はというと、豆腐屋で特売の厚揚げを買えてホクホク顔をして軽い足取りで通りを歩いていた。
几鍔のお陰であるのは癪に障るが・・・兎に角夜のおかずが一品増えたのである、これ以上の喜びはない。
そして夕鈴は角を曲がった所で、丁度歩いて来た黎翔と出会ったのであった。

「李翔さん、大丈夫でしたか?几鍔が何か言ってきたんじゃないですか??
スミマセン・・・几鍔は根っからのワルではないのですが、口が悪くて。
だからかいつも騒動に巻き込まれて更に騒動を大きくするんですよね。
結構面倒見はいいので、沢山手下というか慕って付いていく子分がいるんですが。
まぁ、ウチにも私がいないので、見に来てくれている様なんですが・・・(来なくていいんだけど!!)でも、青慎は頼っちゃっているみたいなんですよね・・・」
「そうなんだ・・・」

夕鈴はフゥと息を吐きだしながら、無意識に几鍔の弁護をする。
それに対して、黎翔が良い感情を持つはずはない。

目の前の黎翔を見ると何だか尻尾と耳が垂れて、置いてけぼりをくらった元気のない小犬のような。
夕鈴は思わず目を擦って確認をすると、黎翔はシュンと肩を落としているみたいだった。

えーなんで?何か悪い事言った??几鍔の事言っただけだし。
でもアイツを褒めたつもりはないんだけど・・・でもまずかったかな?
どうも陛下と几鍔は気が合いそうにないしね・・・。
これ以降はこの話題は避けた方がいいわよね。

夕鈴は黎翔の様子を見て、瞬時に几鍔と何かあったのだと察しが付いた。
それが何かは分からなかったけれど。
このまま気落ちされておく訳にはいかず、黎翔を浮上させる手立てを首を傾げながら考える。

何がいいかしら??私に出来る事・・・う~~ん、家事くらいしか取り柄がないのはイタイわよねぇ。
まぁいいわ!夕ご飯前に王宮に帰ろうと思っていたけど、青慎と3人でご飯を食べてから帰る事にしましょうか。
暖かいご飯を食べる機会はほとんどないのだから。
珠には庶民料理もいいでしょ!!!

夕鈴は『我ながらいい案だ』と首と上下に振りながら、納得していた。




続く。




2012.06.04、06、08、16 ・ 2012.07.03、11 SNS初載






【設定】

臨時妃 ・ 原作寄り


【注意事項】

こちらの作品は、前ブログ『遥か悠遠の朱空へ』にて公開していた作品です。
今回こちらへ移行するに伴い少しだけ手直ししておりますが、
書いた当時の陛下と夕鈴の関係が浅いものでありましたので、
当時の雰囲気を残すべく糖度はあまりありません。
そのことを踏まえた上でお読みいただけます様、宜しくお願いいたします。   

なお、この話は【初夏の一日 前・中・後編】の後日談となります。

【初夏の一日 前編】
【初夏の一日 中編】
【初夏の一日 後編】 










「李翔さん、夕ご飯はウチで頂いてから帰るのはどうですか?
ただ私が作ったものですから、お口に合うかは分かりませんが・・・」

『夕鈴のご飯!』と聞いて黎翔の表情は、にわかに綻ぶ。
幻の尻尾がはち切れんばかりにパタパタしていて、
そのうちその辺りを喜んで駆け回りそうである。

先程の落ち込みようは何だったのかしら?
まぁいいわ、これで気分が浮上して頂けるのなら私もご飯の作りがいがあるというものね!!
暖かいご飯なんて久し振りだろうから、腕が鳴るってものよ!!

「さてと、買わないといけないものはすべて買ったし帰りましょうか。
夕ご飯の支度もありますし・・・」

夕鈴は買い物籠を反対の手に持ち換えながら、
黎翔に断りを入れる。

「夕鈴、ゴメン!!僕はもう少しブラブラしてから、家に行かせてもらうよ。
いいかな?」
「はい、分かりました。じゃあ家で待っていますね。
夕ご飯楽しみにしていてください」

とびっきりの笑顔を見せると、夕鈴は家のある方向へと弾むように歩き出した。
黎翔は角を曲がるまで見送る。
そして姿が完全に見えなくなると同時に踵を返し、露店の立ち並ぶ通りへと向った。

重い荷物を持たせたまま一人きりで帰らせてしまって夕鈴には悪い事をしたけど、
ゆっくりと一人で買い物をしたかったんだよね。
下町や路地裏の治安状態も確認したいし。
まだゴロツキどもがのさばっているようなら、警備を更に強化させないとな。
まぁ、まずは視察をしてからでないと・・・下町へと出てきた理由として、
李順を納得させられないし。

いつの間にか先程まで夕鈴に見せていた優しい李翔さんの顔から、
冷酷非情の狼陛下と呼ばれる黎翔の顔へと変化していた。
歩を進めて行くと人通りも少なく昼間なのに薄暗い路地裏が見えてきて、
そのまま躊躇する事無く入り込んだ。

「おい、そこの野郎、ここへは誰の許可を得て通っているんだよ!!」

野太いどすの利いた声が聞こえたかと思うと、目の前に明らかに一般人とは違う鋭い目つきや態度の悪そうな若い男三人に取り囲まれ因縁をつけられた。
これは俗に言うゴロツキと呼ばれる輩である。
黎翔はふぅと一息つくと、ゴロツキ達に向かって辺りが凍りつきそうな冷たい言葉を浴びせる。

「特に誰にも許可は取っていないが、それが如何したと言うのだ」

そして腰に携帯している剣の柄を握り、鞘から剣を抜くと見せかけ相手を怯ませた。
しかし怯んだのは一瞬で剣は抜かれていないと分かると、ゴロツキ達は一斉に黎翔へと飛び掛かってきた。
それを優雅にそして難なく左にヒラリと受け流すと、飛び掛かった勢いでまず二人が正面からぶつかり合って、地面に叩き付けられて失神していた。

呆気なく終ってしまい、黎翔は不満げに残りの一人を鋭く見据える。
しかしその様子を見て分が悪いと感じたのか、残った一人は倒れている二人を残したまま、
「覚えてやがれ!!!」
とお決まりの捨て台詞を大声で言い放ちながら、転がるように走って逃げて行った。

「おい、この二人はどうするんだ!!」

黎翔は逃げて行く背中に問い掛けてはみたものの、返事は帰ってはこなかった。

ヤレヤレ・・・・このままはマズイよな。
そのうち気がつくだろうから、残して行っても私のとって不都合はないが。
それよりこのまま居て警備隊に遭遇して色々聞かれるのは面倒だし、
当初の目的に立ち戻るとしよう・。
それにしても全く下町の警備はどうなっているんだ。
きちんと警備強化の指示は出していたんだぞ。
余り変わってないではないか!帰ってからの事だが担当者は厳罰もの・・・だな。
フフッ、一体誰がこの担当だったのかな?

一瞬。
紅の瞳が輝きを増して深紅に光り、口元に鋭利な頬笑みが宿る。
後の楽しみが出来たとでも言う様に・・・。

そして黎翔は何もなかったかのように、そっと路地裏からそっと離れて露店通りへとまた歩き出した。




続。



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瓔悠

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