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こちらの作品は【アリスの口づけ】とは、
全く違う設定の現パロとなっております。

二人が出会い、そして繋がり結びゆく展開を
お楽しみいただけましたら幸いです。





大通りを、二人黙ったまま歩いていく。
それも手を繋いだまま。
繫がれた手の温もりに安心感を覚えながらも、
それでも何処へ連れて行かれるのか?夕鈴はボンヤリと不安が纏わりつく。
でも行先を訊いても良いのかが分からず、疑問を胸の奥に押し込めた。

そして、黎翔は怒っていた。
それは自分に対して……。
あんな所に彼女を放ったまま離れた事で、怖い目に遭わせてしまった事を。
自分が戻ってくるのがもう少しでも遅かったら……と考えただけで、
先程の奴らをあのまま逃がした事を正直後悔していた。
でも彼女が『もう、いい』と言ったから、彼女の言葉に従った。
そう、彼女が言ったから………普段ならあんな奴らを野放しにするなどと、有り得ない事で。
自分の二つ名が『狼陛下』と呼ばれる事の意味を再確認しないといけない!と自分を叱咤した。

「あの、れ、れ、れ、黎翔さん!
このまま、ど、ど、何処に行くんでしょうか?」

私はこの沈黙と不安感に耐えられなくなり、
しどろもどろになりながら社長さんに訊いていた。

「ハハハ……あの、夕鈴。そんなに大変な事を強いているのかな、僕は。
そんなに言いづらい?僕の名前。
さっきはすんなりと言ってくれていたのに」

何だか怒りが潮が引いて行く様に、治まった。
だって、彼女のあのつっかる様が……可愛らしくて。

「いえ、その、あの……さっきは勢いで言えたんですけど、
やっぱりよく考えたら社長さんなのに名前で呼ぶなんて恐れ多くて」
「そう?」
「……はい」
「でも、今は恋人なんだし」
「はぁ……でも、それはあくまで偽で、バイトで」
「でも、恋人でしょ」
「まぁ、そう言われれば、そうですけれど。
(それって、屁理屈って言わない?)」
「じゃあ、それでOKって事で!!」
「はい?」

社長さんは、ニコリと微笑んで片目を瞑った。
所謂ウインクっていうヤツだ……納得はいかないけれど、雇用主の言は絶対で。
仕方なく、私は小さくため息を吐き出した。

「あの、それで、今から何処へ?」
「そうだったね。パーティまでまだ時間があるから、
お互いの事をもっとよく知る為にお茶でもどうかなぁ~と」
「お茶ですか?」
「うん、そうだよ」

お茶ですか………何処に連れて行くつもりなの?
堅苦しい高級ホテルのラウンジなんて言わないわよね。
あんな所は、TVで見てるだけで十分!
高級なコーヒーも紅茶も喉を通らないわよっっ!

「どの辺りの?」
「どの辺り?ああ、場所って事?」
「はい……」
「その辺りで」

ハイ?その辺りでどの辺りなのよ!
全く謎掛けをしてるんじゃないんですけどっっ。

「あはははは。夕鈴ってホントに可愛くていいね」
「はぁ、ありがとうございます……」

いい大人に振り回されている。
いや、からかわれてる。
そんなに私って、ちょろいって思われてるのかしら?
確かに男性とこうして二人きりでいる事なんて、無いけどさ。
一応私だって女子高生なんだから、
恋人とデートって言うか…男性と出掛ける事くらいの憧れはあるわよ!

「ああ、場所だったね……あそこに見えるホテルの……「ちょっと待ってください!あんな高級そうな所は困ります」」

社長さんの指差す先は、超高層ビルのホテル。
それだけは阻止しようと、私は社長さんの言葉を遮った。

「そう言うだろうと思って、場所はあのホテルを曲がった先にあるスターホックスにしようと」
「あっ、スミマセン!!!スタホですね、分かりました。行きましょう」

私は恥ずかしさで、頬を染めながら先をスタスタ歩き出す。
それを後ろから追いついて、社長さんの手が私の手に絡まる。

「ほら、行こう!」

朗らかに聞こえる社長さんの声に一瞬聞き惚れながら私はそれを見透かされない様に、
行先のスタホを真っ直ぐに見詰めながら歩いた。


続く。









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ポロッ。

私の頬を流れていたのは、透明な雫だった。

『・・・・・・・・私、なんで泣いてるのよ』
心の中で自分に突っ込みを入れる。
でも、私が意図して流した涙で無い以上、私にも理由なんて分からない。
それに困った。
『これじゃ、社長が困ってしまう』
ホント、こんな往来で男女が一緒にいて女の子が泣いているなんて、
道行く人が見れば、悪者になるのは社長であって。

「す、す、すみませんっっ」

私はペコペコ頭をさげて社長に謝った。
でも涙が止まらない。

「そんなに嫌だった?」
「そんなんじゃ、ないんです・・・・多分」
「多分?」
「・・・・・・・・・・・・・私、女の子扱いされたことが無くて。
だから、あんな風に言われたことにビックリ・・・・したんだと・・・思うんです」

私は社長さんに言いながら、自分で納得していた。

そうだ、私・・・・・・自信が無くて。
でも社長さんが褒めてくれたことが、信じられなかったんだ。

分かった途端、私の胸の奥の恐慌が静かに治まったような気がした。

「大丈夫?」

俯いた私の顔を覗き込む社長さんの声音が、優しく聞こえてきた。
それがひどく安心出来た。

「・・・・・大丈夫です」

私は顔をクイッと上げて、微笑んでみせた。

「嫌なら・・・・・・「いえ、大丈夫です!だって、今日はこの後パーティですよね。
だったら、人にこの姿を見られるのだから慣れておかないと」」

そう、私はバイトの為にこんなキレイなドレスを着ているんだった。
一度引き受けたからには、まっとうしないといけないってことくらい分かる。

「このままで・・・いいです」

でも恥ずかしいって事には変わりはないのだから、私の声は小さくなる。
それでも私は顔をシャンと上げて、社長さんを見詰めた。

社長さんの深紅の瞳は、柔らかく私を見詰めていた。
透き通った紅玉は、温かみを帯びていた。

「ちょっと、待っててくれるかな?」
「は、はい」

私の返事を聞くや否や、社長さんはこの場から立ち去っていた。
何処へ?とは問う間もなく。

私は一人残されて、道の端っこで待っていた。
行き交う車が目に映る。
でも私の意識はそこには無く・・・・・。
いなくなった社長さんの事を考えていた。

私の子供っぽい我儘に嫌気が差したのだろうか?とか。
こんなに着飾っていても十人並みの容姿の私だから、ちゃんと婚約者に見えるのだろうか?とか。
たわいのない事を・・・・・。

だから、私に近寄って来ている人には気がつくなんてことは無った。

「ねぇ、オレらと遊びに行かない?」
「はい???」

いつしか、私の前には3人の若い男性がいた。
でも、私の知り合いでは無くて。

「いえ、私・・・人を待っているので」
「ええ~~さっきから見ていたけど、誰も来ないじゃん」
「オレらが捜してやろうか?」
「お気遣いなく、大丈夫ですから」
「そんな事、言わずに。オレらの親切心を無駄にすんなよ」
「いや、だから、私に構わないでください」

私がいくら断っても、3人の男性は一向に立ち去ってはくれなくて。
ホトホト困りかけていた時。
グイッと私の腕を引っ張られた。

「ほら、オレらと遊ぼうって言ってるだろっっ!!!」

それは、3人の中の1人だった。
強引に連れて行こうとする。

「やめて下さい!!」

私は掴まれた腕を離してもらおうとブンブン腕を振ってみたけど、
思いのほか強く掴まれているらしく外れなかった。

「離して!!!!!!」

怖い。
そう思って目を瞑った瞬間、捕まれた腕が外れて・・・・。

「おいっ!!!人の連れに何をしているんだ!!!」

押し殺した低い声が、聞こえた。
私が瞳を開くと、私の目の前には大きな背中があった。

「社長さん・・・・・」
「ゴメン、一人にしたのは間違いだった」

私は安堵から、大きく息を吐き出した。

「私の女に手を出そうとするとは、良い度胸だな。
だが、この女性はお前たちが相手に出来るようなそこいらの女じゃないんだ。
サッサと立ち去ってもらおうか」

鋭利なナイフでえぐるような・・・静かだけど、背筋から汗が流れるような声音。
私は社長さんの本気度が窺えた。

ホントに怒ってくれているのだと。

こんな状況なのに、何だか嬉しく感じる自分がいた。
不謹慎だけど、喜んでいる自分に驚いた。

「・・・・・あの、もういいです。
何もされていませんし」
「私の気が済まないのだが」
「いえ、私もはっきりとしなかったですし」
「・・・・・そうか。
だ、そうだ!彼女がお前たちを許すって言っているから、この場は収めるが。
二度目は無いからな」
「「「はいっっ!!!」」」

私に絡んできた若い3人組は、駆け足で去って行った。

「怖い思いをさせて、ごめんね」

社長さんはそう言うと、私の肩にフワリとボレロを掛けてくれた。

「これ・・・・・」
「夕鈴が恥ずかしそうにしてたから、これを取りに行っていたんだ。
まさか、あんな奴らが近寄ってくるとは思わなかったから・・・・」
「いえ、社長さんが助けてくれたから、大丈夫です」
「社長さんじゃないよ、黎翔さん・・・でしょ」
「そうでした・・・・・・黎翔さん」

口元を緩ませ微笑みながら、手を差し伸ばしてくれた社長さん。
私は迷いなくその手を取った。


これが、始まりだった。
恋の。
私の初恋の。




続く。






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「これなんてどう??」

女性が渡してくれたのは、桃色のミニスカドレス。
ネックラインに白パールが可愛くあしらわれていて、半袖口はフリルになっている。
生地質もシフォン素材でフワフワしてて軽い。

「可愛いですね」
「着てみてくれるかしら??」

手渡されて、試着室に通される。
着てみると、さらりとして着心地はすごくいい。

「どう・・・・でしょうか??」

おずおずと出てくると、そこにはキラキラ目をした女性がいた。

「いいわ!!!うん、すごくいい~~~もう可愛くって!!!ねぇ、社長!!」
「いい感じだな」

いつの間にか入って来ていた社長が、満足げな視線を送っていた。

は、はずかしい~~~~~。
何だか裸にされているみたい。

「これ、もらうぞ!!!」
「はい、有難うございます」

そう言うと、すかさず当然のように社長は私の手を取り、
このままスタスタ出ていこうとする。

「あの、このままなんですか??」
「勿論!!!君の綺麗さを周りの奴らに見せびらかしたんだ」
「いや、でもそれはマズいですよ!!」
「どうしてだ???私が『このままでいい』と言っているのだから、君は大人しく従うんだ!!」
「ええ~~~~~~~~」

私の意見なんて全然聞き入れてはもらえず、そのまま連れ去られた。

強引過ぎる。
こんな扱いをされた経験なんて無いから戸惑うばかりで。
初っ端からこんな感じで大丈夫なのって、不安が募る。
私は人知れず、大きな嘆息を吐き出した。

夜にはパーティという初めての大仕事。
こんな事で無事に終わるのかしら???

ただただ不安しか無くて・・・・・・私は、憎らしいほどの青空を見上げていた。


「さて、時間もまだあることだし、何処に行きたい?」
「私の行きたい所は一つだけですっ」
「ほぅ、それは何処だ?」
「更衣室、だけです!!」
「更衣室?」
「はい・・・・こんな格好で外を歩くのは、正直言って恥ずかしいので」
「こんなに可愛いのに?」
「・・・・・・・」

私は、真っ赤になって黙り込んだ。

可愛い?
私が?

そんな事、今まで言われたことなんて無いっっ!!
幼馴染の几鍔なんて『お前ってさ、格好から所帯じみているから彼氏の一人もいないんだよ!』って、バカにされ通しだし。
そんな直球で言われると、面食らってどうしていいのか返答に困る。

「私は十人並みの容姿なので、いくら着飾っても可愛くなんてなれませんから」
「そんな事は無いっっ!!」

急に大きな声が聞こえてきたから、ビックリして声が出なかった。

「だって・・・・私、そんな風に言われたことなんてありません」
「それは、周りの男どもの見る目が無いだけだ。
君は十分に魅力的だよ」

揶揄われてるって思った。
こんな素敵な大人の男性だよ。
ちっぽけな女子高校生に言う台詞じゃない事くらい、私だって分かる。

「とにかく、着替えたいです」

私は、ただただそれしか言えなかった。





続。






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繋がれた手がこそばゆい。
お願いしても離してはくれないのだから、もう我慢するしかない。
これもきっとお給料の内なんだと・・・・。
そう思わないと、羞恥心で平常心が保てなくなる。

でも、そもそもこれはバイトの範疇なの??
それともセクハラだったりするの??

私は、そんなことを頭の隅で考えていた。
何かを考えていないと、この状況が我慢出来なくなるから。

ズンズンとただ歩いていた。
それこそ、ただひたすらに・・・・。
だって社長さんが黙ったままだから、私も押し黙るしかなくて。
それに、会話の糸口も見つかりそうもないから。

でも、一体何処に連れて行かれるんだろう??
私の頭の中では、疑問符が駆け巡る。
パーティは夕方からとのことで・・・でも今は午後2時。
まだ夕方には少し時間はある。

「あの・・・・・・何処に行くんですか??」」

私は勇気を出して、社長さんに話しかけてみた。
ホントは聞きづらい。
だって、私はただのしがないバイト。
だから雇い主である社長が連れて行くところには、黙ってついて行かないといけないはずで。
でも、そこはそれ・・・・・気になる性格が無意識に出てくるもので。

「ああ、言ってなかったよね。いいところだよ」
「いいところ・・・・ですか??」
「そう!!!」

ウキウキと柔らかく微笑んで、それ以上は教えてはくれなかった。
だから、これ以上は突っ込めなかった。
黙ってついていくしか・・・・ない。

「ほら、ここだよ」

不意に止まった先は、高層ビルの入り口。
会社からもそんなには離れてはいない。
15分ぐらいのところ。

「ここは???」
「知り合いのデザイナーが経営している会社だよ」
「ほぇ~~~」

私は目の前にそびえ立つビルを見上げて、つい呆けた声が漏れる。

もしや・・・・・・・・パーティの為の服を調達ですか??
こんな素敵なビル内の会社がお作りになるドレス??
それは・・・・もちろん・・・・・お高いのですよね。

一気にぐるぐる円マークが回り、それに0(ゼロ)がどんどん追加される。

「あの・・・・ここで何を?」
「それは、今日のパーティドレスを調達するんだよ!!」
「えっ?はい?いえ、そんな・・・・パーティドレスなんて、街中のお店で買えるもので十分だと思いますけど」
「そんなっっ、ダメだよ!!折角僕の婚約者になってくれたのに、
綺麗で素敵なドレスくらい着せてあげるよ!!ここは僕の甲斐性だと思ってっっ!!ねっ!!!」

端正なお顔で微笑まれたら、もう『NO』とは言えなくなる。
仕方なく、「お願いします」と頭を下げた。

「じゃ、入るよ」
「はい」

社長さんには気づかれないように、私は小さく溜息を吐き出して後について行った。
中に入ると、豪奢でセンスのいいインテリアだらけで、私はキョロキョロ周りを見回す。
その様子を横にいる社長さんは、微笑ましいといった表情で見ていた。

呆れられたのかな??とかちょっと思ったけど、自分の好奇心には勝てない。

「まぁ、珀社長!!お珍しいですね~~こんなに可愛い子と一緒だとは」
「久しぶりだな・・・益々盛況のようで。ウチとしても出資し甲斐があるというものだな。
でも、先日のショーは少し手ぬるいのではないかと思ったのだが」
「お若いのに手厳しいですのね、ホントに良くみてらっしゃる。
若い子に任せたのだけど・・・・少し企画が足りなかったとは思いましたよ。
それで今日は何用でしょうか??」
「今晩、パーティがあって、この娘のドレスを至急用意して欲しくてね」
「まぁ、社長とはどういう関係かしらね」

懇意にしているらしいデザイナーの女性は、私を上から下まで眺め見してきた。
私は不意に背筋がピンとなる。
これは一種の面接という感じだ。

「ああ、その子は婚約者殿だ」
「まぁ~~~~こんな可愛らしい子が婚約者ですの??
社長も隅に置けないというか・・・・」
「煩い!!!さっさとしてくれ!!」
「ハイハイ。お嬢さん、こちらにどうぞ~~」

綺麗な女性が手招きして、奥の部屋に通してくれた。
そこには、煌びやかなドレスがそこかしこにかけてある。
赤、桃、青、紫、橙、白、黄、緑・・・・・・・・あらゆる色のドレスで彩られた部屋。

「綺麗~~~~」

私は目を釘付けにさせられ、ホォと頬が紅潮してくる。
こんなに艶やかなドレス見たことない。
そこら辺のお店では見かけないほどの手の込んだモノばかりだ。
綺麗な刺繍が施されたモノ。
キラキラ光るスワロフスキーが散りばめられたモノ。

女の子なら憧れるようなドレスたちが、一斉に私を見ているような錯覚に囚われる。

「さてと、どれがいいかしらね~~貴女ならどれでも似合うとは思うけど」
「えっ??私は平凡な容姿ですから、似合うものがあるのでしょうか??」
「自分を知らないって、怖いものね~~~私は職業柄色々な女性を見るけど、間違いなく貴女は一流の部類に入るわよ。
但し、後3年くらいは待たないと駄目だけど・・・」
「私が・・・・ですか??」
「そうよ~~それに、あの狼陛下と呼ばれる珀社長のお眼鏡にかなった女性なのだから、もっと自信を持つべきよ」

目の前の綺麗で大人な女性は、微笑んで頷いてくれている。

私・・・・・・・・偽物なんです。
なんてこと言えないから黙るしかないけど。
私はそんなに褒められるような容姿ではないですし、
社長に釣り合うような女の子では無いんですよ!!!

私は一人、心の中で恐縮していた。




続。






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「では・・・・貴女は、社長の縁談除けの婚約者ということで」
「あの・・・」
「なんですか?まだ私からの話は終わってませんよ」
「す、すみません!!ただ一つ気になってまして」
「何でしょう?」

夕鈴は、目の前に姿勢正し立っている男性が何だか怖いと思ってしまった。
キラリと眼鏡の奥から放たれる目力が半端なくて。

でも訊かねばならない事は、そのままにはしてはおけない!!
そう思った夕鈴は、ビビりながらも言葉を繋ぐ。

「あの・・・・私、高校生なんですが・・・・社長の婚約者には相応しくないと・・・思うんですが」
「ああ、そんなことですか??それならば、全然大丈夫です。
高校生?それこそ大歓迎です」
「はい???」
「急に降って湧いたように出てきた婚約者・・・そんな人物が妙齢の娘さんだったら、ご令嬢方も偽物ではないのか?と怪しむことでしょう。
でも相手が高校生であるならば、まだ学生であるから世間には公表したくなかったなどとでも言えば、尤もらしいと思いましてね。
ただ如何せん、高校生となると周りに適当な人物がいなくて困っていたところに貴女といういい『鴨』・・・ゴホン、いえ、いい人物が現れてくれたということなんです」

社長秘書の李順さんのニヤリと微笑む笑顔がマジで怖い。
大丈夫なのか?無事に家に帰れるのか?と不安が押し寄せてくる。
でも、当の社長は・・・・それをニコニコして聞いている。


「あの、もう一ついいですか?」
「何です?」
「社長って、あんな感じなのですか??」
「あんな感じとは??」
「小犬みたいに柔和でいつもニコニコされているのですか???」
「はい???」

お互いの会話がかみ合わず、疑問符付きでの会話になる。

だって、先程から感じる違和感。
気になりだすと止まらない。
大企業の社長さんなのに、さっきからニコニコホンワカしている表情がダダ漏れで。
あのショッピングモール内の社長さんとは同一人物とは思えない。

「ああ、アレですか?
それならば心配は要りません、大丈夫です。
ああ見えて、表の顔は違いますから」
「表の顔?」
「聞いたことありませんか??
白陽ワールドビジネス・コーポレーションの若き代表には、二つ名があると」
「さぁ??」

知るわけないじゃないの!!!
だって、私はただの高校生なんだから。
経済新聞なんて読むこともないもの。

夕鈴は、ブンブンと首を横に振る。

「『狼陛下』と」
「はぁ?陛下?時代錯誤な(ボソッ)」
「何か言いましたか?」
「いえ、何も」
「ですので、社員たちの前では違いますよ」
「そうですか・・・・」
「このことは内密に・・・・外部に漏らすと、お父上のお仕事に影響しますよ」
「えっ?」

ウチの父さん、一応公務員ですが・・・・。
それほどの影響力があるの??この企業。
それってマジで大丈夫なの?私が関わったりして。

不安感が夕鈴の中で更に膨らんでいく。

「李順、お前、脅し過ぎだ」
「でも社長、これくらい言っておかないと、最近の高校生なんて信用できませんし」
「大丈夫だよ、この子はそんなことを口外したりしない」
「言い切って大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫さ・・・ねっ、夕鈴」
「は、はい」

えっ??私の名前、もう呼んでる。
もしかして、この社長って、女の人の扱いに慣れていたりする?
いわゆる『女たらし』だったり。
気を付けないと・・・・私、無事でいられないかも。

「さて、夕鈴!早速だけど、お仕事してくれるかな?」
「えっ、いきなりですか?」
「行きたくもないパーティがあってね・・・一緒に行って欲しいんだけど」
「今からですか?」
「夕方からだよ」
「・・・・・はい、わかりました」

いきなりパーティですか・・・・・。
はぁ、これは結構大変なバイトなのかもしれない。
締めて掛からないと。


「では、李順・・・今から出掛けてくる」
「行ってらっしゃいませ」

李順さんに告げると、社長さんは私の手を取ってドアを出ようとする。
それを見送る李順さんは深々と一礼していた。
私は状況が掴めず、そのまま社長について行くしかなかった。

1階までのエレベーターの中。
私はやっと声を出すことが出来た。

「あの・・・・あのっっ!!!」
「何?」
「手、手を離してください!!!」
「どうして?恋人同士だし、これが自然だと思うけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・恥ずかしいです」
「えっ?」
「私、男性と手を繋いだことなんて、中学校の運動会の時のフォークダンスの時以来で。
恥ずかしくて・・・・・・慣れてないんですっっ!!!」
「あはははは、可愛いね」

こう言えば離してくれると思った。
でも、そんなに事は甘くない。
繋がれた手は更に強さを増す。
隣を見ると、ニヤリと口角を上げて微笑む社長さんがいた。

「夕鈴、これくらいの事・・・・慣れないとダメだよ」
「・・・・慣れそうにありません」

自分の頬が熱くて熱を帯びている。
きっと真っ赤になっているんだろうな。
そして、心臓がドキドキって早鐘のようで。
鼓動が早くて、息苦しい。

私、こんな事できちんとバイトを全うできるの?
自信・・・・なんて無い。
だって今まで、恋人なんていなかったし。
それに、恋なんて・・・・よくわからない。
恋がわからない・・・だなんて、年相応でないことくらいわかる。
だって私は恋をしてる暇なんてないし。
家事だってあるし、青慎の為にバイトだってしなくちゃいけないし。
でも辛くなんてない。
恋なんてしなくても、それなりに日々は過ぎていくもんだしね。

でも、引き受けたからには。
私なりに頑張ろう・・・・・とか思ったりもする。

夕鈴は落ち着かない状況を少しでも忘れようと、
色々と思考を巡らせていた。
その方が、繋がれた手の温度を感じずに済むから。

そんな夕鈴にお構いなく、黎翔は繋いだ手を引っ張ってズンズン歩く。

「じゃ、行くよ!!僕の可愛い恋人さん」
「・・・・・・はい」

青空がまぶしい午後。
二人が歩く後には、影が寄り添って見えた。



続。








瓔悠

Author:瓔悠

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