【華装会・1】
2015年06月25日 (木) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り


【注意事項】

こちらの作品は、前ブログ『遥か悠遠の朱空へ』にて公開していた作品です。
今回こちらへ移行するに伴い少しだけ手直ししておりますが、
書いた当時の陛下と夕鈴の関係が浅いものでありましたので、
当時の雰囲気を残すべく糖度はあまりありません。
そのことを踏まえた上でお読みいただけます様、宜しくお願いいたします。   瓔悠。










ゆっくりめの昼食後、黎翔は優秀な側近からお茶の時間を捥ぎ取って、
愛しい妃の元へと意気揚々と廊下を歩いていた。
そこに回廊外の芝生の上に座り、談笑する官吏の声が聞こえてくる。
どうやら昼休憩を外でしているらしい。

「今年の華装会に、やっと出席してよいと父上からお許しが出たんだよ」
「ほぉー、君はやっとなのかい?自分は去年から出席しているけど、イマイチだったよ。
今年こそは・・・と思っているがね」
「自分は、必ず成功させるよ」

カソウカイ?それは仮装する人々の集まりなのか?と黎翔は首を捻る・・・。
そんな会が催されているなどと聞いた事がない。
まぁ自分には関係が無いのだろうと、夕鈴のいる後宮へと足を早めた。

「夕鈴、午後のひとときを共に・・・と思い参ったが、如何していた?」
「はい、陛下。本日は侍女さんたちと針仕事を致しておりました」
「そうであったのか。政務室にも参らぬから具合でも悪いのかと心配をしたが、大事なさそうだな」
「ええ、大丈夫ですわ・・・ご心配戴き嬉しゅうございます」

夕鈴を見ると、恥ずかしさを必死に隠して黎翔の話に合わせてくれている。
それと言うのも・・・黎翔は抵抗できない夕鈴に話し掛けながら腰に手を回して、
しっかり自分の方に引き寄せ、抱きしめようとしているからである。

夕鈴、かなり頑張ってくれているようだけど、
ここら辺が止め時なんだろうな・・・。

黎翔はニヤリと笑みを浮かべつつ、夕鈴の様子を観察する。
もうすでに夕鈴の可愛い円らな瞳は少し潤んでいて、その涙目で『早く侍女さんをさげて下さい』と訴えている。
もう妃演技は限界寸前のようである。

こんな可愛い夕鈴を見ていたら、僕も我慢出来無くなって本当に抱きしめてしまいそうだし・・・。
僕は無言でスーと片手を挙げ、侍女を下げた。

「もうっっ!陛下!!!甘い演技は程々で!って、いつも言ってますよね」
「えっ?そんなに甘くは無かったと思うけどなぁ~」

返事をしながら黎翔は長椅子へ、そして夕鈴はお茶の用意のため少し離れた卓へと向かう。
夕鈴は手早くお茶を入れると黎翔へ茶杯を手渡し、ゆっくりと黎翔の隣へと腰掛けた。

黎翔は手渡された茶杯をすぐに傾け、乾いた喉を潤す為一気に飲み干した。
お茶の味は少し苦味はあるもののスッキリとしていて、飲み切った後は口の中に爽快感が広がる。

「陛下、もう一杯お入れ致しましょうか?」
「ありがとう、でももういいよ。それより李順からコレを預かったんで、夕鈴に渡しに来たんだよ」

服の袷の中から、一通の封書を取り出して夕鈴に手渡す。
実は李順が渡しに行く所を阻止した上で、昼休憩を無理やり捥ぎ取ってここに来たのだ。
差出人の名を見た途端に、夕鈴は満面笑顔になる。

「ありがとうございます!青慎からの手紙・・・久しぶりなので嬉しいです。
あの子元気にしているかしら・・・。

夕鈴は待ちきれないと、封を直ぐにビリビリ破って中身を取り出す。
開いて見た内容は。

『姉さん、元気にしていますか?僕は元気に学問所に通っています。
近々実力考査もあるので、毎日勉学に勤しんでいます・・・・』

こんな書き出しから始まり、家の事、学門所での事、後どうでもいい几鍔のことまで丁寧に書かれてある。
それはいつもの青慎が書いて寄こす近況報告で、夕鈴は嬉々として読んでいた。
ところが次第に読み進めて行くと、今回の手紙はそれだけでなく加えて書いてある事が・・・。
段々難しい顔つきになってくる夕鈴を、横から黎翔が心配顔で覗きこんで問うてみる。

「夕鈴、どうかしたの?何か悪い知らせでも?」

しかし夕鈴は熱心に読んでいるせいか、黎翔の言葉も耳には届いてないらしく・・・。
読み終えるとふぅーーと長い溜息をついて考え込み、次第に夕鈴は困り顔になっていた。

横から見ていると百面相の様にくるくると変わる表情が可愛らしいが、
何が書いてあって夕鈴を困り顔にさせているのかが、すごく気に掛かる。

黎翔は黙ったままではいられず、もう一度聞いてみる。

「夕鈴、どうしたの?」

すると夕鈴は瞬時に我に返って真顔になり、恥ずかしげに顔を赤らめる。
隣には黎翔がいたことを忘れていて、あまりにも真剣になっていたことに・・・・。

「いえ、また父が余計な事をしてくれて・・・どうも華装会に出席しないといけないみたいなんです。
李順さんになんて言って帰省させて頂こうかしら」

夕鈴はブツブツ独り言のように呟く。
黎翔はさっきの官吏達の話を思い出し、夕鈴に聞いてみることにした。

「夕鈴、華装会って何?」
「華装会ですか・・・うーんなんて言っていいのやら。
えーとですね、早く言えば集団お見合いですね」
「ふう~んお見合いかぁ~って、あのお見合い?!
どうして、夕鈴がそんなものに出席しないといけないんだっっ。君は私の唯一の妃ではないか」
「えーなんで、ここで狼陛下になるんですか?私以外誰も居ませんよ」

急に狼の雰囲気を纏い、自分に詰め寄る黎翔を夕鈴はすかさず抑制する。

「あっ、ごめんね。ちょっと驚いたものだから・・・でもなんで夕鈴がそんなものに出ないといけないの?」
「それがですね・・・・・まだ嫁にも行ってない上に王宮務めをしているのを心配して、
酒屋のご夫婦が酒代のツケの帳消しを盾に、どうも父に私の参加を迫ったみたいです。
流石に酒代帳消しともなれば、父も二つ返事とはいかないまでも色良い返事をしてしまった様です」

夕鈴は、また溜息をつく。

「仕方ありませんが、李順さんに帰省のお願いをしてみます」
「それって、いつ開催されるの?」
「確かこの手紙には、来週の日曜日と記載されてますね」
「ふうん、日曜日ね」

黎翔が小さく独りごちたのは、夕鈴の耳には届かなかった様だ。

「じゃあ・・・封書も渡せたし、夕鈴のお茶も飲めたから政務室に戻る事にするね。
そろそろ戻らないと、流石に李順が鬼瓦の形相で僕を探しに来そうだから」
「そうですね・・・では、頑張って下さいね。
後ほど李順さんにも帰省のお願いをしに行かないといけませんから、執務室へお伺いします」

黎翔が部屋を後にしたのを確認して、また夕鈴は封書を読み返していた。
やっぱり難しい表情をしながら。





続。

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【華装会・2】
2015年06月27日 (土) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り


【注意事項】

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書いた当時の陛下と夕鈴の関係が浅いものでありましたので、
当時の雰囲気を残すべく糖度はあまりありません。
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執務室へと戻る黎翔は、どうしたら抜け出せるのか?如何にして李順を騙せるのか?
それについて思考を巡らせており、表情が硬くなっていた。
そのせいで、すれ違う官吏が次々に青ざめながら拱手していく。
しかし全く官吏の様子にも気付かない程、黎翔は真剣に考え込んでいた。
それでも執務室に辿り着くまでには考えが纏まり、近くにいた官吏に李順を執務室に呼ぶようにと申し付けた。

「お呼びだとの事ですが、如何されましたか?不手際な案件でもございましたか?」

黎翔からの呼び出しだと聞いた李順が慌てた様子で執務室へと入って来て、黎翔へと質問を投げかける。

「李順!華装会なるものを、お前は知っているか?」

逆に質問で返してくる黎翔を見ながら、何だ・・・そんな事かと安堵した様子で李順は答える。

「華装会ですか・・・確かその会場内で見つけた意中の女性に花を捧げ、
受け取ってもらえたら話をしてもらえるという、町で1年に1回開催されているお見合いでしたね。
参加する女性も商家の娘、町娘、下級・中級役人の娘など幅広い層の女性が集まるとかで、
若い官吏の参加者も多いとか・・・それがどうかしましたか?」
「その華装会に夕鈴も出席するそうだ」
「はぁ、夕鈴殿がですか?私は聞いてませんが」
「先程預かった封書に書かれていたようだ。それで、後ほど執務室に相談に来ると言っていた」
「まさかとは思いますが、陛下も一緒に行くなんて事を仰りませんよね。
先日、夕鈴殿の実家の衣替えに付いて行かれた際にどれだけ政務が滞ったか・・・」

やはり、李順は有能な側近である。
黎翔の行動を把握して、きちんと釘をさす事を忘れない。
しかし黎翔とて、こう言われるだろう事は既に承知の上で・・・黎翔は先程考えた事を伝えるべく言葉を紡ぐ。

「流石に私が参加するのは無理があるだろうが、どうも毎年その華装会を隠れ蓑に裏で色々な取り引きがあっていたりする様だ。ここは調査を兼ねて、方淵にでも行かせてはどうだろうか?」
「華装会でそんな事が??私の耳には入ってはきていませんが・・・・まぁ、調査するのは良いとして、方淵殿が調査員ですか?彼は、ああいう場所には最も向かない人だと思いますがね」
「確かにそうかも知れないが、方淵は実直で堅物であるから・・・周りの雰囲気にも飲まれることなく、調査してくれるであろう?」
「陛下が、そう仰るのあれば・・・・私としては、陛下が直接赴かれるのでなければ誰でも良いですし。
では、後ほど方淵殿には通達しておきます。そうそう、陛下・・・机の上の書簡の山はキチンと減らしておいて下さいよ」

李順は政務室へと戻るために戸口に向かいながらも、キッチリと黎翔を急ぎの書簡の山へと向かわせることは忘れない。
残された黎翔は書簡の山崩しに取り掛かりながら、布石は完璧だとニヤリと微笑んだ。


*********


その頃の夕鈴はというと・・・午前の続きの針仕事をしていた。
しかし先程の封書の事を考えながらしているので全く集中出来ず、
時折自分の指を刺してしまい「痛っ」と呟き、その度に侍女たちは薬箱を持ってオロオロとしていた。

お見合いねぇ・・・私、今までそんな事考えた事もなかった。
几鍔なんかには『行き遅れ』だの『嫁の貰い手のない』だの散々の言われようだけど、
お見合いしたいだなんて思いも寄らないし。
第一、まだ青慎も一人前になってないし多額の借金だってある・・・・今はどれくらい減っているのかは分からないけど。
あんまりというより全く気が進まないんだけど酒屋さんの顔を潰すわけにもいけないから、参加しておかないとね。

色々考え込んでいた夕鈴であったが、別に参加したからと言って自分の所に男の方が寄ってくることも無いだろうと、
お気楽に『美味しいものが食べられる』くらいの感覚で参加する事にしようと割り切ってしまい、
考えることを止めた。

そうした事で、いつの間にかいつもの夕鈴らしい柔和な表情に戻っていたようで、
侍女たちもいつものお妃様だとホッと息を吐き安堵していた。


*********

夕刻が訪れる少し前・・・・ようやく書簡の山をほぼ制覇した頃、
執務室に夕鈴の侍女が妃の訪れを先触れしてきた。

黎翔は書簡から視線を上げて侍女に入室を許可しつつ、ついでに政務室に居る李順を呼んでくるよう命じる。
そして少しすると侍女に先導されて夕鈴が裾を翻しながら優雅な足取りで、更には顔には微笑みを浮かべて入って来た。

如何にも黎翔に逢いかった・・・・という寵妃を上手く演じながら。

黎翔はそんな夕鈴を独り占めしたくて、椅子から立ち上がり大股で近づくとスッと手を差し出す。
差し出された手を取ってしまって良いのかと夕鈴は一瞬躊躇ったが、
侍女たちがまだ下がってはいない以上妃演技は続けなければならない。

はにかんだ笑顔で差し出された大きな手を握ると、頬を朱に染めながら黎翔の紅い瞳をジッと見詰めた。

「あの・・・陛下。私、どうしても陛下にお逢い致したく此方に参りましたが、ご迷惑ではございませんでしょうか?」

もう他には何も見えないというように・・・・薄茶の瞳は潤んでいた。
確かに傍から見れば、陛下におねだりしている可愛らしい妃である。
しかし夕鈴にはそんな気は毛頭なく、寵妃らしく振る舞う演技の恥ずかしさに瞳を潤ませていたのである。
ただ此処に来る口実を作るためだけなのに、かなりの苦労を強いられていたのだった。

「君から逢いに来てくれるなど余りないことだから、迷惑などと思う筈はない。
寧ろ、君が来てくれた事で政務も捗るというものだ。」

黎翔も夕鈴の必死の妃演技を受け、さらっと手慣れているように答えた。
殊更に離したくはないと意思表示するかの様に、握った手をそのまま強く握り直した。
そして夕鈴は表情そのものはニッコリとはしているものの、手を離そうと必死にもがいていた。

そんな様子の夕鈴に黎翔は意地の悪い笑みを浮かべると、右手を挙げて侍女を下がらせた。
そうしてこの先はどうしてやろうかと思案していると、タイミングよく李順が入って来てしまった。

「夕鈴殿!陛下から聞きましたが、華装会に出席するそうですね」
「はい、どうやらそういう事になりそうです。
それで・・・・その・・・・誠に申し訳ございませんが、帰省させて頂きたくて・・・」

鬼の上司を目の前にして、夕鈴は言い淀む。
李順の眼鏡がキラッと光った気がした。
その様子に、ビクッと夕鈴はおののく。

「やっぱり・・・・・・ダメ・・・ですよね・・・・・そうですよね・・・・・私はバイトの身ですし」
「ダメだと言っていませんよ。それは仕方のない事ですし・・・貴女にも事情がありそうですし、許可しましょう。
但し王宮勤めの官吏も多数参加するようですから、くれぐれも貴女が妃だとばれないようにして下さいよ。
あと方淵殿も参加しますので、特にご注意をっっ!!いいですね」
「えっ、方淵殿が?それは何故ですか?あの華装会は、貴族と言っても下級・中級貴族で、更には次男三男ぐらいがくるものですよ。
方淵殿といえば確かに次男ではありますが、大貴族出身では有りませんかっっ!!!」

夕鈴は驚きを隠せず、素っ頓狂な声を上げた。

「夕鈴殿、静かにっっ!!方淵殿は、ちょっとした調査を命じらて出席するんですよ。
ですから、あくまでサクラです」
「あっ、そうなんですか・・・分かりました。では、妃だとバレないように気をつけます。」


そう決意して、夕鈴は李順にきっぱりと返答していた。
画して、夕鈴は大手振って前日の土曜日からの休みをもぎ取ったのであった。




続。


【華装会・3】
2015年06月29日 (月) | 編集 |
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こちらの作品は、前ブログ『遥か悠遠の朱空へ』にて公開していた作品です。
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書いた当時の陛下と夕鈴の関係が浅いものでありましたので、
当時の雰囲気を残すべく糖度はあまりありません。
そのことを踏まえた上でお読みいただけます様、宜しくお願いいたします。   瓔悠。








さて、夕鈴が帰省する土曜日の朝。




「陛下、こちらは急ぎの書簡ですから早急に目を通して下さい」

彼の優秀な側近は、急かすように書簡を積み重ねていく。
眼鏡の奥の瞳からは『今日は逃しません』という意思が見え隠れしているようで、黎翔は深い溜息をつく。

「李順、分かっている。今日は(あくまで今日はだが・・)夕鈴について行く様な事はしないから」
「そうですか?くれぐれも自重下さい。それに夕鈴殿はいずれあるべき場所に帰られる方なんですから、
今回のお見合いもいい機会ではありませんか?」

側近の何気ない一言が、黎翔にとってはすごく感に触る。
不機嫌になった黎翔は、手に持っていた書簡を乱暴に卓上に置いた。

一方夕鈴は、そそくさと後宮立ち入り禁止区域で帰り支度をしていた。
お見合い自体は全く気が進まないが、家に帰省できるのは少し嬉しかったりもする。

今から帰れるんだから、青慎に美味しい夕食を作ってあげれるわよね。
何がいいかしら?今日は土曜日だから、変って無ければ八百屋さんが特売していたような・・・。

すでに気持ちは完全に下町へと飛んで行っていた。
準備が整ったところで、こっそりと後宮の裏門から出て行く。
今回は李順さんにお願いして馬車は遠慮させてもらった。
言わずもがな黎翔が馭者さんにすり替わってついて来ない為である。
前回のあの時の上司は、正に鬼のようで恐かったから・・・。

裏門から出ると夕鈴は大きく深呼吸して、町の匂いを確かめてから家路へと歩を進め始めた。
歩いて行くと露店などで賑わう商店街に入る。
ここはいつ来ても活気に満ち溢れていて、賑やかで帰って来たんだと実感する。
買い物は後でする事にして、取り敢えず家に帰ることにした。

「ただいま~~」

玄関先に入ると、直ぐに青慎が出迎るために居間から労いの言葉を掛けながら来る。

「お帰り!姉さん。いつもお疲れ様です!待っていたんだよ」

本当に良く出来た可愛い弟だわとホンワカしてくる。
そして居間にはいない父の行方を空かさず尋ねる。

「青慎、父さんは?」
「あれ、さっきまでいたんだけど、何処に居るのかな?あっ、書き置きがあるよ」

卓上の殴り書きされている1枚の料紙を姉に手渡す。

『父さんは楊さん宅で夕方から飲み会だから夕飯はいらないよ』・・・・・と。

エヘッとイタズラッ子のような表情の父の姿が眼に浮かぶ。

「全く、父さんは相変わらずのようね。いいわ、青慎。二人で美味しいものでも食べよ」

夕鈴はため息混じりで青慎を見て、ぎこちなく笑った。
持って帰ってきた荷物を解いて急ぎ服を着替えた後、買い物籠を片手に町へと出掛ける。
町に出てきた夕鈴が買い物より先に訪れた所は、明玉の勤める飯店である。

「明玉~ただいま~~」
「あら?夕鈴。帰って来てたんだっっ。お帰り~~」

二人にこやかに手を握って、喜び合う。

「休憩時間、もうすぐだから待っててくれる?」
「大丈夫よ。私の方は時間はあるから、隅っこで待ってるね」

直ぐに仕事に戻った明玉は看板娘らしく、お客から次々に呼ばれていた。
ホントに明玉はテキパキしているし、イキイキと仕事をしているよね・・・と感心してボォーと見惚れていた。
そんなこんなしていると、自分の目の前で手がヒラヒラ振られているのが眼に入る。
ボォーとしている夕鈴に明玉が手を振っていたようだ。

「夕鈴、休憩時間だから茶店にでも行こう。私も色々と聞きたい事もあるし・・・」
「聞きたいこと?なぁに?」
「いいの、それは後で!ほら行くよ」

ウンと返事をする前に、明玉は夕鈴の手を引いて店を出ていた。
茶店で明玉は注文後、直ぐに夕鈴を問い詰めていた。

「夕鈴、帰省するときには必ずと言っていい程一緒に来る、あのかっこいい男性はどうしたの?
確か上司とか言っていた・・・今回は来てないの?
まぁ今回、帰省の理由が華装会だと言うんだから連れて来れないわよね。
あの人、夕鈴のオトコだと思っていたりしたんだけど、華装会に行くんだったら違うのか・・・・」

夕鈴は明玉の鋭い質問攻めとそれよりも華装会に出席する事を知っていた事に驚いて、
金魚の様に口をパクパクさせていた。
そして、大声で明玉に訊く。

「なっ、なんでその事を知ってるの~~~?!?!」
「夕鈴、声大きいって!ここいらじゃ、皆知ってるよ。
だって酒屋のおばさんお喋り好きだから、『汀さんところの夕鈴ちゃんが華装会に出るんでよろしく~』と宣伝しているらしいよ」
「え~~~そうなの???気乗りしないから、っこで大人しくしていようと思って、
去年出た明玉に目立たない方法を教えて貰いたくて、来たのよ」
「目立たない方法って・・・アンタ華装会が何か知っているんでしょ。
あれは目立ってナンボの会なのに、変わっているわよね。
まぁ、あのかっこいい人がアンタのオトコだったりするんだったら分かるけど・・・・。
で、実のところ、どうなの?」
「そんなわけ無いに決まっているでしよっっ!!あの人は職場の単なる上司だって言っているじゃないの」

夕鈴は勘違いしてはいけないと自分に言い聞かせるように、明玉に呟いていた。

「まぁ、目立たない方法は一応あるはあるわよ。珠に名家のご令嬢なんかが来る時の為に、
男女とも仮面を付けても良い事になっているのよ・・・だから、仮面でも付けていれば大丈夫だと思うよ。
男の人は結構容姿から入る人が多いからね」

・・・・・・なるほど!そう言う方法もあるのね~
仮面ね~私も仮面でもなんでも付けておく事にでもしようかしら。
そこまでしておいたら、官吏の方に会ったとしても私が妃だとばれないわ。

夕鈴はホッと胸撫で下ろしていた。
その後は明玉の昨年の華装会での武勇伝を散々聞かされた後、やっと解放されたのであった。



明玉と別れ、急いで買い物を済ませ家に戻るとすでにお昼はとうに過ぎていた。
家にはお腹を空かせた青慎が、姉の帰りを今か今かと待ちかねていて、夕鈴は急いで昼ご飯を作ってやった。
そしてその後は夕ご飯の支度や掃除などとして、久々に主婦を満喫していた。

そんな家事をしている自分がシックリと落ち着いている事に、夕鈴は何だか胸の奥がチクンとしていた。
やっぱり王宮で妃として過ごす自分は分不相応で、本来ならあり得ない現実なんだと思い知らされる。
その夜、何だか寝つけず、夕鈴は折角の実家だというのに狭い布団に中で寝返りを何度も繰り返していた。

夢に見るのは・・・・黎翔の事で。
自分の中で黎翔の存在が大きくなっていることに、不安を覚えていた。
私はただのバイト!借金返済さえしてしまえば、此処に帰ってくる。
ここが私の居場所であって・・・・。
だから、これ以上陛下の事を知る必要もなくて・・・・・・・・勘違いしてはいけないんだと。

自分の胸の奥にある恋心の火種を、夕鈴は見て見ぬふりをしていたのだった。




続。


【華装会・4】
2015年06月30日 (火) | 編集 |
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朝も早く、李順は黎翔の自室へと足早に向かっていた。
大体ただの側近であるはずの李順が王の自室に行くなんてことまでしないといけない事には、彼なりの理由があった。
それはもちろん黎翔を逃がさない為である。
昨日は、グチグチいうこともなく大人しく政務をこなしていた。
すでに帰省した夕鈴殿は居ないというのに・・・・。
今にしてみれば、いつもの『夕鈴がいないとやる気なんて起きない~』の言すら無かった。
それが妙に気に掛かり、早朝の訪問と相成ったのである。

黎翔の自室へと向かう途中で李順は一人の官吏とすれ違い、すれ違いざまに一礼をされた。
いつもなら『今日は日曜日だというのに朝早くから頑張っているのですね』などと気安く声を掛けたりするのだが、急いでいたので会釈のみで李順は先を急いだ。
李順が気が付くことは無かったが、その礼を取っている官吏は俯いたままニヤリと意地の悪い笑みを口元に浮かべていた。

バンッと音を立てて、王の自室のドアを勢いよく開け放つ。
まずは入る前に一礼して、声を掛けてみた

「陛下っっ、おはようございます!!もう、起きていらっしゃいますか?」

かなり大きな声を出したが、返事はない。

嫌な予感しかしなかったが、まずは中に入って見る。
しかし、やはりそこは最早もぬけの殻であり。
『やられた~~~』と急ぎ足で部屋を出て黎翔を探すことにするが、そこでふと足が止まる。
そして先程出会った官吏の事を思い出していた。

もしや、あれが陛下だったりして。
でもそれは大いにあり得る話で・・・・・それにしてもわざわざ変装までして抜け出し、夕鈴殿のところに行ったというのでしょうか。
たかがバイト妃のために、何をしているのやら・・・全く。

李順は真剣に頭を抱えていた。
どうせまた帰りは夕方でしょうね・・・と思いつつトボトボ執務室へと入って行く。
皮肉な事に、机の上にはきちんと判を押された書簡の山が整然と並べられていた。

一応、政務だけはこなして行かれたということですか。
そこまで何が気に掛かるんでしょうか、あんな小娘に。
まぁ倹約家で綺麗好きで美徳は沢山あると思いますが、
がさつで落ち着きがないことは欠点であり、妃としてはあるまじきだと思いますがね・・・・。

はぁーーーと眉間に皺が寄る李順であった。




********


同じ頃、下町の夕鈴宅では早起きの夕鈴が(とはいっても殆ど眠れなかったのだが)朝ご飯の支度をしていた。
昨夜ついに帰ってこなかった父の分まで・・・。

青慎を起こし、朝ご飯を二人でゆっくりと食べる。
これは王宮に上がる前なら当たり前の風景だったのだが、今は懐かしく感じる。

食後の片付けまで終り、自室でお出掛け用の服に着替え一応髪も結い上げてみる。
鏡に映る自分は、大した美人でもなくタダの下町娘。

李順さんはバレないようにしてくださいと言っていたけど、誰がこの国の王である狼陛下の唯一の妃だと思うのかしらね・・・。

夕鈴は鏡中の自分を見詰めつつ、フフッと自嘲気味な笑みを浮かべる。
しかし、ふと以前に黎翔に言われたことを思い出し、ボフッと音が鳴った様に頬が桃色に染まる。
それは・・・・・
『――君は己を卑下してはいけない。
いついかなる場所にあり、どんな姿格好をしていようと君はかわいい私の妃だ』
その言葉を。

でもあれは演技なんだから・・・・・と高鳴る鼓動を抑えようと、必至に自分へ言い聞かせていた。

「ねえさ~~~ん、明玉さんが来てるよ」

青慎が部屋の外から声を掛けてくる。
深呼吸を2、3回ほどしてから部屋を後にして居間に行くと、明玉がいた。
その手には小箱と大きな袋を持っている。
そして夕鈴を見つけると駆け寄ってきて夕鈴の顔をまじまじと見て一言、言い放った。

「夕鈴・・・・・・いくら気が乗らないからって、それはいくらなんでもだわ。
しているかしていないか判らない様な薄化粧で!!!やっぱり私がきて正解だったわね」

明玉は慣れているのか、夕鈴を鏡の前に座らせ手早く化粧を施していく。
段々妖艶な大人の女へと変化していく自分に戸惑いながら、夕鈴は為す術も無く鏡の前でほんのり朱色に頬を染めながら見ているだけだった。
夕鈴を華麗に変身させた明玉は、腕を組んでウーンと唸りながら夕鈴の服を確認する。

「悪くは無いんだけど・・・・・地味なのよね。
で、私が親友の為に服を持参したのであります!!夕鈴、着てみてよ。」

明玉を見ると、ニヤニヤしていて凄く楽しんでいるようだった。

ここで辞退なんかすると後で厄介なことになる・・・・・。
そう思った夕鈴は、仕方なく明玉の言う通りにする事にした。
しかし持ってきている服は派手な物が多く、何故か妃を連想してしまい着るのに抵抗があった。
でも明玉の好意を無駄にする訳にはいかず、その中でも一番地味な服を選ぶ。

「それか~~~一番地味だけど、まぁいいんじゃない?
もっと派手な服もあるんだから、いつもとは違って冒険してもいいと思うけどね。
まぁ、仕方ないか・・・・夕鈴だしね」

一人で納得する明玉に半ば呆れていたが、折角自分の為に考えてくれているのだしと直ぐさま着替え、
それに合わせて用意してくれていた耳飾りや首飾りを素早く付けてみる。
すべて終わると、夕鈴はその場で一回りして明玉の合格を待った。

「バッチリじゃないの!!こうして見ると夕鈴、アンタ中々の美人なのね・・・」

明玉は腕を組んだまま満足げに首を縦に振って、自分の成果を納得していた。
準備もすっかり整った夕鈴は、部屋の真ん中に置いてある卓に明玉と顔を突き合わせて座っていた。
明玉はツトツトと話し出す。

「夕鈴、いい?まず男が寄ってきても、直ぐに色良い返事をしちゃダメ!少し焦らして相手を良く見るの。
まずは容姿・身のこなし・・・別っているとは思うけど、焦らした事に腹を立てて態度に出すのは最もダメな男ね。
次に一つだけ質問するの。う~~ん、そうね・・・・例えば『あなたは何処に連れて行ってくれますか?』とでもいいわ!
その回答で、経済・判断力なんかが分かるから。次に・・・・・・・・・」
「まだあるの?」

夕鈴は明玉先生から華装会における男性の見極めや扱いについてのご指南を受けていた。
流石に去年の華装会での武勇伝を持っているだけに、先生のご指南は確かに的を得ていた。
・・・・・が、しかし全くその気の無い夕鈴には、使えそうな技は無かった。

「じゃあ、夕鈴いってらっしゃいっっ!!!!
男どもを悩殺してくるのよ!!健闘を祈るわっっ」
「悩殺って・・・・・・・・」

一通りを伝授し満足した明玉は、夕鈴の背中をバシンと叩きながら片眼を瞑りニッコリと笑った。
その激励に感謝しつつも・・・私、ホントに興味無いから健闘と言われてもなぁ~~~と本音もチラホラ見え隠れさせながら、曖昧に微笑んで夕鈴は実家を後にした。




続。


【華装会・5】
2015年07月01日 (水) | 編集 |
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華装会、開始時刻よりずいぶん前・・・・。

会場前には、一人の身なりの良い若い男性が佇んでいた。
そうこの方大貴族中の大貴族、柳家の二男方淵で本来ならこの様な会には縁遠い人である。
本人もそう思っているらしく、面持ちは――もちろん眉間に皺を寄せて不機嫌そうであった。

全く華装会など、不愉快極まりない!!
陛下からの直々の命でなければ、この様な所になんぞ来るものか。
官吏の中には、嬉々として参加している者もいるとは聞くが・・・・・こんな所に来る女にロクな奴はいないだろうに。

流石に誰かに聞かれるのはマズイ・・と、方淵は密かに心の中で毒づいていた。
そんなイライラした様子の方淵を木の陰から、そっと覗き見している若い男性がいた。
何が面白いのか・・・・・その男性は、ニヤリと笑っていた。

それはそう、この国の王であり、方淵をこんな場所に遣わせた張本人である。

黎翔は、自分の策でここに来らされている方淵には確かにホンの少しの罪悪感はあるものの、
これからの事を考えると期待感の方が大きく上回っていた。

方淵に調査させるということにしたのは、我ながら妙案だったな。
李順を騙す良い方便になったし・・・自分では行かないと宣言した上で、抜け出す素振りすらも見せなかったのだから。
流石の李順も気付かなかったらしく、執務室に大量の書簡を用意して缶詰状態にさせるなんて大技を使わなかったからな。
まぁ、今頃は気付いているだろうが・・・。
でもどうせ今日一日は、片付けておいた書簡の山の整理と采配で動けるはずはないから夕方までは大丈夫だな。
しかし徹夜で仕上げて抜け出してきたはいいが、余りにも時間が来るのが早すぎた。
このまま夕鈴の自宅に押し掛けてビックリさせようかな・・・でも会場内で偶然を装って逢う方が中々劇的かなぁ。

黎翔は自分の作戦を思い返してご満悦だった。
彼の立てた作戦は見事なまでに功を奏し、此処にいられるのだから・・・・。

開会時間まではまだまだ時間もある。
黎翔は暇を持て余し、これから始まるであろう楽しい時間に思いを馳せていた。


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さて華装会の会場となっているのは、国直轄庭園・・・つまりは黎翔の持ちモノである。
しかし広く一般に開放されている緑いっぱいの植物庭園となっており、色々な種類の植物が植えらていた。
キチンと整備もされており、季節折々の花々が訪れる人々を魅了する。
此処は民の憩いの場となっており、暑い時期などには川遊びをする子ども達の歓声が響き渡り、
いつも散歩する人が絶えない賑やかな庭園である。
その庭園内には休憩の為の長椅子などが所々に配置され、ゆっくりと散策出来るようにもなっていた。
そんな庭園であるから参加人数の多い華装会にも度々利用され、此処から数多く成婚夫婦が生まれたのである。

今回は如何なる結果を生み出すのか?
主催者は始まる前から、心躍っていた。
この華装会の主催は、結婚式業者を始め・・・・・新しき夫婦の為の生活一式に必要な業者で成り立っていた。
自分たちの商売の為に、毎回熱が入った会となっていた。
実際、この華装会で知り合った男女が年間で何十組も成婚夫婦へとなっており、
主催する業者の懐を潤わせているのは間違い無かった。

さて、その庭園正面入り口に受付所が設けられていて、
まず参加者はそこで簡単な釣書・・・身上書を記入させられる。
姓名・住まい所・勤め所などを1枚の用紙に書いて提出するのである。
そして係が写しを取って受付を済ませるとその釣書が参加の証明となり、
それを持たされて初めて会場内に入れるのである。

朝早くから口実の為の命令でこの会場の前に佇んでいた方淵はというと、
何事にも遅れたりすることを嫌う性質上やはり此処にも一番乗りだった。
そんな方淵を何も知らない係の目から見れば、今年こそは!!と意気込んでいる青年に見えたようだった。
本人には勿論そんなつもりは毛頭なかったのだが・・・。

「はい、此方に記入をお願いします」

係から手渡された用紙をみて、方淵の眉間の皺はいつもよりも深くなった。

なんなのだ、この釣書なるものは・・・こんなものが書けるものか!
住まいや勤めを書いてしまえば、極秘調査にならないではないかっっ。

真剣に悩んでいる方淵の傍で、外套を深く被った青年が独り言の様に呟く。

「こんなのは適当に書いておいて、お目当ての女性にだけホントのことを教えてやればいいよね。
それが作戦ってものだし~」

独り言にしては・・・方淵にもちゃんと聞こえていた。
その青年は全く我関せずとちょっと離れた卓の隅でサラサラと筆を動かして、
書き終わったのかさっさと受付所に持って行ってしまった。

色々考えた挙句に方淵は、その青年の言う通り全くデタラメではないが脚色をして記入をした。
・・・・・汀 方月と。

全く、方淵は頭が固いよね・・・あんなの適当に書いておけばいいものを。
まぁ、ああいうお堅いヤツだから、安心して使えるんだけどね。

受付所で順番を待っている黎翔は、少し離れた所で頭を抱えつつ書いている方淵を遠巻きに見ていた。
そして此処で方淵とかち合うのは自分の計画に厄介だと、釣書と仮面を手にするとさっさと会場内に消えて行った。
黎翔が立ち去って少しして方淵も受付を済ませ、その場所で仮面をしっかり付けて会場内に踏み込んだ。



続。