【空は青く光りと共に】・1
2015年08月21日 (金) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り 









誰もいない・・・物音一つしない静寂の刻。

そりゃ、そうよね。
こんなところに一人なんだし。
それにしても、どうしてこんなに落ち着いていられるのか?
不思議と言えば、不思議である。

夕鈴は先ずは大きく深呼吸して、自分の状況を確認してみた。

大体此処は何処なのか?
後宮の自分の宮からは結構離れた庭園の・・・・・・今はもう朽ち果てて誰からも関心も持たれない、
そして水の一滴も無い井戸の底。

どうしてこんなところにいるというのか?
それは、此処に落されたから。
ならば、一体誰に?
其れは・・・・見知らぬ女官に。

あの落とされる間際の言が、まだ耳に残ってる。

『アンタさえ、アンタさえいなければっっ!!
ウチのお嬢様が、陛下のお妃となられていたはずなのに!!!
どうしてアンタなのよ!!』

主の敵!とばかりに、背中をエイッと強く押され此処に落とされたのだ。

全く女官だと思って油断してしまったわ!!
しかも陛下付きの女官で急用だっていうから着いて来たのに、
まさかこんなことになるなんて思いも寄らないわよ!!


そう・・・それが、ほんの四半刻前の話。
で、その後私は何をしていたのか???
それは落ちた衝撃で頭を打って、先ずは意識が無かったみたい。
程なくして気がついてからは、取り敢えず此処を脱出しようと自分なりに試みていた。
よじ登ろうと兎に角必死に。
でも水汲みに使っていただけあってかなり高さがあり、
途中までは根性で上がってみるが頂上までは到達せず、ずり落ちてしまうのだ。
其れをもう何回繰り返したのだろう??・・・_思い出すだけでも、恐らく10数回は繰り返したと思う。


「はぁ~~~これは、自力でっていうのはムリっぽいわね。
ここで大人しく、浩大辺りが探して見つけてくれるのを待つしかないわね」

夕鈴はさすがに持てる体力の限界を感じ、壁に凭れてそのまま座りこんだ。

しかし、昼餉の後で良かったわ。
お腹がすくと人間ロクな考えにならないもの。
それにしても、ここで夜明かしは勘弁だわ。
まだ夜は冷えるし・・・・。

そんな事をつらつらと考えながら、夕鈴は上を見上げてみる。
そこにあったのは、まぁるく形どられた青く澄んだ空。
井戸の形が丸いのだから、今はそれしか見えない。
流れ行く雲は真っ白く、まるで青い画布に彩られた綿菓子のようだ。

「キレイな空~~~~。
こんな風に空を眺めることなんて中々ないことだから、堪能しなくっちゃね」

どこまでいっても、どんな事があっても前向きな・・・・前向きすぎる夕鈴は呑気に空を見上げていた。


****


そして、その頃。
既に、王宮の黎翔の元には夕鈴がいなくなった事が知らされていた。

「ごめん!!へーか。お妃ちゃんがいなくなった!!」
「如何言うことだ!!」
「それが俺にも分からないんだ・・・・・どうも、ここに来る途中に急にいなくなったらしい。
今、侍女たちが血眼で捜してる」

「・・・・お前は何してた!!」

低い声が弾丸の様に飛んでくる。
それを浩大は予想していたが、実際に黎翔の怒りを含んだ物言いは結構くるものがあった。

予想していたとはいえ、キツイ・・・・な。

「オレは、その・・・鼠がウロチョロ徘徊していたのに気がついて、
それを追っ払っていたんだよ・・・・魔の悪いことにさ!!」

珍しく浩大が歯切れが悪く、言いよどむ。
どうやら、夕鈴から離れた事を浩大としても後悔しているらしい。

「そうか・・・王宮からは出たって事はないんだな」
「それは絶対にない!!オレも確認済み。怪しい者や荷物が出たりはしてない」
「では、私も捜索に・・・」

「何処に行かれるって言うのです!?」

二人の会話に入り込む、よく通る第三者の声。
それは勿論李順であり、既に立ち上がろうとしている黎翔に『待った』を掛ける。

「陛下が捜索に出掛けると必要以上の騒ぎになり兼ねませんから、
まずは浩大達に任せるのが良いと考えますが」
「・・・・・・そうだな、李順が正しいのだろうな」
「陛下!!任せてよ。俺たちが絶対に無事に見つけ出すから」

黎翔は自分が我儘を言っていることは重々承知しており、
それを制止されたことはごく当たり前なことだと自覚していた。
だからそれ以上は、自分が行くとは主張せずに口を閉じた。
その様子を見た浩大は真剣な眼差しで黎翔に言い切ると、
窓枠に足を掛け勢いよく蹴り上げてそのまま一陣の風の様に消えて行った。

残された黎翔は苛々感と平常心でいようとする理性とが胸中でせめぎ合い、
言い知れない気持ちを持て余していた。

「李順!!浩大達が成果を上げられなかったのなら、私自身が捜索に加わるのだからな、いいな!!」
「はい、理解しております。ただ、そうならないことを願ってますが」

短い会話がなされると、そのまま二人は押し黙ったまま卓上の書簡に向き合った。


「お妃ちゃん~~~何処に行ったんだよ!!
早く見つけ出さないとないとオレの首が胴から離れるのも、そう遠いことじゃないんだよ~~」

浩大は勿論優秀な隠密であった。
自他共に認める・・・・其れは誰もが疑いようもなかった。
でも、その優秀さを持ってしてでも、夕鈴の居場所を特定する事は叶わなかった。


だってそれは・・・・夕鈴が、もうこの王宮の何処にもいないのだから。
それは見つけようがないのである。




続。








2013.05.07 SNS初載

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【空は青く光りと共に】・2
2015年08月22日 (土) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り









浩大が自分の首を掛けて、必死に捜索している正にその頃。
井戸の底でへばっていた夕鈴は、奇妙なモノを見つけていた。

「う、うん???あそこ・・・なんか変・・・・」

座り込んだ反対側の壁の底近くに積まれている石垣の一部が、オカシイのだ。
オカシイとは・・・どうも一部分だけ後から作りなおした感じなのである。

「何かしら??」

身体を少し動かし近付いて、その石垣の妙な部分の石を触ってみる。
やっぱり、周りの石とは材質も異っている。
周りの石はザラザラしていて触ると掌がジカジカするのだが、
そのオカシイ部分の石は結構ツルツルしていて触り心地がいいのである。

「押してみたら、動いたりして・・・・・なぁ~~んて、まさかね」

夕鈴は興味が湧き、後の事なんて一切考えもせずに両手をその石に添えて、
力一杯押してみた。

ガタッ!!!!

「ウソっ!”!”!動いちゃった・・・・」

石が動いて積まれた石垣の内、一部分だけごっそりと落ちてしまっていた。
丁度寝転べば、人一人が通り抜けれそうな穴があいたのだ。

「・・・・・・どうしよう・・・・・・壊したのは、私だよね」

夕鈴は予想外の状況にヤバいと少し困惑したのだが、
覗いたその先の奥から差し込む光りの筋に光明を見た気がしてきて、
その穴からどうにかしてこのまま通れないものかを考え始めていた。

ここに寝転んで・・・・這いずって行けば、なんとか辿り着けそうな気がするけど、
この衣装が汚れるのは間違いないわよね。
そして・・・・下手すれば破れる危険性も・・・そうなると借金がまた増える結果になるわよね。

恐~~い上司の守銭奴顔が目に浮かび、ブルッと寒くもないのに夕鈴は身震いをしていた。

「でも、このままここにいたって、誰かが見つけてくれる保証なんて何処にもないわ!!
だったら、ここは出られる可能性が高い方を試してみるに限るっっ!」

夕鈴は腹を括って、押した先に散らばっている石コロを取り除き身体を腹ばいにしたのだった。
そしてそのまま・・・・身体を這いずって穴を通り抜けた。
石の崩れた際に出来た穴を抜けた先は入口よりも広い通路になっていて、
其処からは腹ばいではなく四つん這いで進めた。

「よっし!!!これで、あの光りの差してる所までいけるわ!!!」

夕鈴は確信めいた言葉を発し、そのままズンズン進んで行った。
それは挫けそうになる自分を叱咤激励するために発したものだった。
行動あるのみ!と張り切っているものの、夕鈴はこの行為が間違いではないと確証もない。


後少しだわ・・・・・それにしても、光りが差してる先は出口だと思うんだけど何処に出ちゃうんだろう???
もしかして、王宮の外だったり???
それはマ・・・・マズイわ・・よ・・ね・・・・こんな格好してるんだもの。
私が何者かがバレちゃうわよね。
まぁ、此処まで来といて、今更な気もするけど!!

出口は直ぐそこだというのに、夕鈴の動きは不意に止まってしまった。

どうしよう・・・・引き返すべき??
でも戻っても、自力で上がれないんじゃ、どうにも為らないし。
なら、ここは進むべきよね。
そうよ、もしマズイ所にでたら、それは出た時に考えればいい!!!

迷いをふっ切った夕鈴は、出口らしき光りを目指してまた歩を進める。
そしてついに出口に。

「やっと出た~~~~~~」

小さく呟いて大きく深呼吸する。
夕鈴は周りに誰もいない事を確認するのにキョロキョロ辺りを見回し、
ホッと胸を撫で下ろした。


それは・・・・王宮の外ではなかったから。
更に言えば、見覚えのある庭先だったから。

でも_。
それでも。
夕鈴が感じる違和感。

「・・・・・・・・・此処は、後宮なの・・・よね」

自分が感じている違和感は・・・・ある人物に出逢う事によって、決定的になったのであった。






続。








2013.05.07 SNS初載


【空は青く光りと共に】・3
2015年08月22日 (土) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り









抜け出た先は、こんもりとした植木が丁度隠れ蓑の役割をしているポッカリと開いた穴だった。
其の穴は木で出来た戸で蓋をされていたのだが、その繋ぎあわされた間から洩れ出る光りが通り道を照らしていた。
その戸を夕鈴は中から力一杯押し開けた。

「これって隠し通路だったのね~だから、一部作り直されていたんだわ」

自分が壊してしまったのではないと分かり、夕鈴は安堵の表情を浮かべる。
しかし、そうも安心してばかりはいられない。
出て来た時の違和感の正体が判明していないから・・・・。

夕鈴は目の前の桃色の可憐な花を付けた植木の隙間から、そっと覗き見た。
眼前に広がるのは、後宮の庭園。
奥には見慣れた、季節の折々によく陛下と訪れる四阿があった。

「景色を見る感じでは、いつもの後宮なのよね。でも・・・何かが違うのよ。
上手く表現出来ないけど、言うなれば雰囲気が違うの」

「・・・・・ねぇ、何が違うの??」
「!?☆・・・・っっ・・・・・」

夕鈴は後ろから聞えてきた声に大声を上げかけたが、
両手を口元に宛がい唾を飲み込んで耐えた。

だって・・・・物音ひとつしなかったから。
後ろに人の気配なんてしなかったはずで。
いくらそう言うことに鈍感だと、浩大辺りにいつも指摘されてる私でもそれは断言できる。

夕鈴は振り返ると、こういう場面で万人が口にするだろう台詞を先ずは発してみた。

「あの・・・・・・・・君は、誰???」
「あのさ、人の名を尋ねるときは、自分が先に名乗るのが礼儀じゃないの?」
「うっ、確かにそうですね」

まぁ、確かにそうかもしれないけどさ、一応私の方が年上なのよ。

夕鈴が振り返った先に立っているのは、少年だった。
そこに佇む少年は見た事は・・・・・・・ない筈で。
ただ、あの見覚えのありすぎる深紅に光る瞳以外は。

「私は、夕鈴よ。さぁ、君は誰??」
「夕鈴かぁ~アンタ、新しく連れて来られた人??」
「新しく?何の事??」
「いや、いい」
「・・・・・・・・あの・・・・だから、名前は?」
「アンタに名乗る必要を感じない」

目の前の少年は腕組みしたまま、自分の名を告げることをキッパリと拒否した。
それを見て、夕鈴は何故かムカムカしてくる。

なんなのよっっ!私はキチンと名乗ったじゃないの!!
そっちが人の名前を聞く時は・・・みたいな事をいうから。
なのに、『名乗る必要うぃ感じない』って如何言う事よ!!!

夕鈴は目の前の少年に遊ばれている気がして、更に腹が立ってくる。

「じゃあ、もういい!!名前は聞かない事にするわ。
では、一つ質問させてもらっても良いかしら?」
「一つね、いいよ。何?」
「え~~んと、では、ここは何処?」
「・・・・・・・・・・・はい?」

目の前の少年が首を傾げていた。
『ここに入って来ている癖に、今更何言っているんだ』とでも言いたげな瞳で、夕鈴を見ている。

「・・・・・ここは白陽国後宮だけど」
「やっぱり、そうよね」

だったら、私が感じている違和感は何なのよ!!!

「では、当たり前の事を聞くけど・・・・・・現国王陛下の御名は、珀 黎翔陛下よね??」
「質問は一つって言ったよね、お姉さんったら嘘つきだね。まぁ、いいけどさ・・・・・。
それより、頭大丈夫??その名前だけど、珀 黎翔って僕の名だよ」


「え~~~~~~~~~~~」

意外な・・・そう、まさかそんな答えが返ってくるとは想像だに出来ない夕鈴は、思いっきり素っ頓狂な声をあげた。
そして心で何度も呟く・・・・・そんな筈はない!!そんな筈が無い!!と自分に言い聞かせるように。






続。





2013.05.08 SNS初載


【空は青く光りと共に】・4
2015年08月22日 (土) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り









「ねえ、落ち着いた?」

大声で叫んだ後、そのままゼイゼイ言いながら動きが止まった夕鈴に少年は声を掛けた。

「・・・・・本当に・・・・・・陛下の御名は違うの?」
「だから、そう言っている」
「じゃあ・・・・今は、誰が陛下と呼ばれているの?」
「僕の兄だ・・・・アイツは、国を疲弊させているだけなのに王だとはとんだお笑い草だがな」

夕鈴には『兄』だといった後の言葉は、聞えはしなかった。

「君は・・・・・何をしているの?ここで」

『君』ではおかしい・・・様な気はしたのだが、夕鈴の口から出たのはその呼び名だった。
だってまだ『陛下』ではないし、『黎翔様』っていうのも気が引ける。
自分はそう呼ぶ権利を持ち合わせてはいないのだから・・・。

だったら如何呼べばいいのかしら??と困った瞳の夕鈴に、深紅の瞳がぶつかる。
そして夕鈴がそのまま逸らさず見据えたままなのが気に入ったのか、
目の前の少年は堅かった表情が少し和らんで、ふっと笑ったのだった。

でも、呟いた一言は辛辣だった。

「飼い殺しだよ」
「飼い殺し??」
「いいよ、お姉さんには解らないのだろうからさ」

一体、陛下は即位する前はどんな生活されていたの?
確か、反乱勢力を一掃したのは知ってるけど・・・。

夕鈴は、如何返せば良いのか解らず黙り込むしか無く、
二人の間に妙な沈黙が流れていた。
それを破ったのは、少年陛下だった。

「ところで・・・・・お姉さんは、何処から来たのさ?それに何者なの?
あの愚遁な兄王から、僕の監視でも頼まれた?」
「監視??冗談じゃないわ!どうして私がそんな事しなくちゃいけないのっっ!!」

夕鈴は予想外であり得ないことを言われたので、その途端大声で切り返す。
その大声に此処ではマズイと、目の前の少年陛下が閉じた口に人差し指を当てて、
『声、大きいよ』と仕草で指摘した。

「ふうん・・・・・お姉さんは、嘘がつけない人みたいだね」
「そうよ!!!何処から来たのかは、正直に言っても多分信じてもらえないだろうから言えないけど・・・・間諜なんかじゃないわよ」

夕鈴は、此処が『過去』であるということに何となく気が付いていた。
そりゃそうだ・・・・目の前の黎翔を見れば何となく・・・認めたくはなくとも理解は出来る。

それにしても、穴をくぐった先は過去でした~~なんて、誰が信じるのよ。
ちゃんと私、戻れるの?あっちじゃどうなっているんだろう・・・・。
浩大辺りが探してるとは思うけど、まさか井戸に落ちて過去に来てるなんて誰も思うわけもないわよね。
でも何とか、あの井戸奥の穴から誰か助けに来てくれないかしら??

誰か・・・・・。
誰かとは、黎翔を差しているのか??
それは夕鈴の心の奥底の問題で、誰にも解らないのだが。

夕鈴は考え込んで、黙ったままだった。
帰還する方法を考えていたものの、考えは段々悪い方へ向かい、
本当にあっちに戻れるか不安が襲いかかってきてフッと表情が曇る。
それを見ていた黎翔は胸の中にざわめきを覚え、急に夕鈴の手を取った。

「お姉さん、ここに何をしに来たのかはもう聞かないからさ、僕と散歩にでも行かない?」
「散歩?」
「そうだよ、散歩」
「いいわよ・・・・但し、その・・・・・・手は離して欲しい・・・です」

夕鈴はここにいる黎翔があの陛下じゃないって事は重々承知していたのだが、
ドキドキする胸の鼓動が気になってお願いしてみたのだ。

「だって、この方が好都合なんだよ」
「好都合って言われても・・・・・・・・・・」
「えっ、お姉さんは迷惑だって言うの?」
「いや、それは、そんな事は・・・・じゃあ、このままで、いいです」

例え容姿や年齢が変わっていても、この人はやっぱり陛下なんだ。
夕鈴はボンヤリとしつつ、ヘンな所は納得していた。

「僕のお気に入りを教えてあげるからさ!それで元気出しなよ」

その言葉と共に握った手をもう一度シッカリと握り直して、
光りさす明るい庭園に向かい勢いよく歩き出した。




続。






2013.05.09 SNS初載


【空は青く光りと共に】・5
2015年08月23日 (日) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り









夕鈴は、困惑していた・・・・こんなに堂々と歩いていて良いものだろうかと。
そして繋がれた手からじんわりと伝わる体温に。

「あの・・・・良いのですか?ここ勝手に歩きまわって」
「そんな事は気にしなくても良いよ。ここは、後宮って言ったって妃達が住まうところから外れているから。でないと、幾ら弟と言えど、自分の妃が寝盗られるなんてことになったら困るだろうし」
「寝・・・・寝盗ら・・・れる!☆!!」

夕鈴は、黎翔の言葉に絶句して目を白黒させる。

さらりと、結構際どい事を言ったわよね・・・・少年の内からこんな事言うの?
だからこの方・・・・ここら辺が、女たらしなのだと思うのよ!!

「どうかしたの、お姉さん?」
「うっ、どうもしませんっっ!!」
「そう??何か言いたそうだけど・・・まぁ、いいや。
それよりさ、聞きたい事が沢山あるけど道すがら聞いてもいい?」

選択権を与えてくれているようで、その実有無を言わせない力強く光る双眸に惹かれている自分がそこにいた。
夕鈴はただ頷くことしか出来ず、口を真一文字に噤むだけだった。

「あのさ・・・お姉さんが此処に来た理由は?」
「それが、ある人に井戸に落とされて・・・・・穴を抜けた先がここだったの」
「井戸って何処の?穴が通じてる井戸なんて、この後宮には無いはずだと。
ねぇ、僕が年下だと思って、もしかして謀ってる?」
「とんでもないです!!!!ホントなんです」

夕鈴は頭(かぶり)を振って、否定する。
そんな様子を、黎翔はジッと鋭い視線で観察していた。
 
私だって、今だに信じらないわよ!!
まさかあの穴が過去に繋がっていたなんて。
それにちゃんと帰れるのか・・・そこが大きな問題だと思っているのわよ。

「そう・・・・じゃあ、少し汚れているけど妃が着るみたいな衣装を纏って・・・一体、何者?」

何者!!ってそれが一番答えづらいのよ。
まさか『貴方のバイト妃です』とは言える筈もないし。
どうしよう~~~。

「私・・・・・・・怪しい者ではないとしか言えない・・・・です」
「それは、答えには為っていない!!!」
「・・・・・・・・・・・・・」

夕鈴は黙りこくった。
此処は、正直に未来から来たと告げるべきなのかと。
でもその決心が付かず、そして上手い別の答えも用意出来ず・・・。

「まぁ、いいか。お姉さん、悪い人ではないみたいだから。
もう聞かないことにするよ。但し、僕のモノになってよ」
「はぁ~~????」
「だってさ、ここには敵しかいないから、味方が欲しいんだ」

やっぱり陛下は、人並みでない少年時代を過ごしたんだわ。
誰も信じる事も出来ずに・・・・。
こんな窮屈なところで、意に沿わない生活をさせられていたのね。

「私は何処に居ても、貴方が何をしようと味方です。
だから・・・・安心して下さい」

夕鈴は何気なく、繋がれた手にそっと力を込めた。
自分の決意を黎翔に伝える為に・・・・・。

「有難う」

黎翔はただ一言礼を告げた。
でも夕鈴にとってはそれだけで十分で、例え過去の黎翔が言っていても心が暖かくなるのを感じていた。

そして歩いていた黎翔がその歩を止めた。
立ち止まった黎翔は、眼下に広がるモノを夕鈴に見せる。

「わぁ~~綺麗だわ」

そこに見えたのは、色とりどりの花が咲き乱れる野原だった。
それは人の手によって植えられたものではなく、自然のままに咲いている野花。

小さな花々が自己を主張するかのように咲き誇り、それが群生となっているのだ。
黄色、紫、青・・・・そして白・・・・様々な色が固まりとなって咲いている。

「一花、一花は小さな花たちだけど、集まって花絨毯を作ってる。
僕はそんな風な施政を引きたいと思っているんだ」

ぽつりと呟いた横顔が、とても眩しく精悍に見えた。
そんな横顔に惹かれ・・・夕鈴は、自然に頬が緩み微笑んでいた。

「お姉さんの微笑みは、とっても癒される」

途端、ボフッと音がしたように真っ赤に染まる頬。
夕鈴は、恥ずかしさに両手で顔を覆い俯いた。

「ちゃんと、顔を見せてよ」

覆った両手の上に、ホンの少しだけ大きな掌が重なる。

今の陛下の掌よりは、小さいけど・・・・・何だか安心する。

「このまま、ずっと傍にいて欲しい。例え、お姉さんが誰のものであっても」
「ごめんなさい、それは・・・・・出来ないの。きっと・・・多分、待ってくれているだろうから」
「誰が?」
「・・・・・・・・・私の心が求める人」
「そうなんだ」

そう告げると、少年の陛下は少し残念そうな表情を浮かべた。

「でも、思い出は貰っておくよ」

そのままいつもよりも、より深い紅に彩られた瞳が近付いてくると感じた時には・・・・・もう夕鈴の桃色の柔らかい唇は奪われていた。

「☆!♡!!☆」

声に為らない悲鳴が、辺りを震撼させたのは言うまでもなかった。






続。



2013.05.09 SNS初載