【意味などとしての水入らず・1】
2014年11月09日 (日) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り













「夕鈴殿、明日からまたお妃教育の強化となりますので、覚悟していて下さい。」

有能な側近・李順氏の眼鏡奥の眼光がキラリと光り、並々ならぬ決意に満ちていた。

「はぁ~教育ですか・・・。」
「そこで溜め息をつかない!!!仮にも大体お妃ともあろう貴婦人が、人前で溜め息なんてものはもってのほかです!!」

厳しい叱責が、夕鈴に矢となって飛んでくる。
扇で隠して小さく解らないように吐いたつもりだが、耳聡い李順には聞き洩らされることはなかったようだ。

「もう少し、妃であることを自覚して下さい。」
「でも、仮ですよ・・・。」
「それでもです!!いいですね、明日の朝こちらまできて下さいよ。」
「はい!!」
「では、どうぞお引き取り下さい。陛下が戻られないうちに。」

そう、陛下は政務室で官吏たちから報告を受けており、その合間を縫って李順は夕鈴を執務室に呼び出したのだった。

そしてまた今更何故にお妃教育強化となったのか?______それは陛下の元に届けられた一通の書簡からであった。

この時点では、誰もその後の騒動の発端であったことなどは解りはしないのだが、取り敢えず李順が下した判断は『夕鈴のお妃教育』と相成ったのだ。

執務室を出た夕鈴は、明日からの事を考えると憂鬱になり此処から直ぐにでも逃げだしたくなったのだが、お妃姿ではどうにもならない事は解っていた。
だから鬱鬱とした気分を振り払う為、掃除バイトに精を出すことにし侍女達に『老師の元に行く』と断りを入れてから、そそくさと後宮立ち入り禁止区域へと向かった。

更衣室にしている一室で掃除婦の姿になった夕鈴は、開放感が身体中を駆け巡り知らぬ間に大きく深呼吸をしたのだった。
そして、雑巾と桶を手にルンルン気分で、井戸へと水くみに出掛けたのであった。
井戸から汲んだ水はとても冷たかったが、主婦歴が長い夕鈴にはこんなのはへっちゃらで慣れたものだった。

慣れないのは、狼陛下の唯一の妃である事の方だ。
幾らバイトとは云え、毎日腰が砕けてしまいそうな甘い言葉を囁かれ、時には膝の上に乗らされ必要以上に触れられてくる事に到底慣れようもない。

だからいつも大事な青慎の学費のため!!借金返済のため!!と呪文のように唱え、バクバクと早鐘のように鳴る鼓動を鎮めているのだ。

こんな事は陛下に知られる訳にはいかない・・・・そしてこの恋心もだ。
そんなことをボンヤリ考えながら水くみをしていたもんだから、頭上から声が降ってくる。

「水!!水溢れているよ!!」
「浩大、有難う。」
「なんだよ、いつになくボ~~としているじゃん!!陛下の事でも考えてた?」
「そんな訳ないでしょ!!」
「じゃあ何考えてたのさ~~。」
「今頃、またお妃教育って李順さんが云うからどうしてかしら?と考えていたのよ。」
「ああ、それね~~~。」

ヒョイと傍にある木の枝に足を掛けて、逆さ吊りになって顔を見せる。
その表情は、訳知り顔の様だ。

「何か知ってるの?」
「知ってるけど・・オレの口から言ったのがバレたら、陛下からどんなお仕置きを受けるか解んないから言わないよ~~。」
「もう、浩大のケチ!!」

一言、言い放つと桶を持って建物の中に入って行く。
その背を見送りながら、浩大は『頑張ってよ~~』と呑気に声援を送ったのだった。
そしてまた静かに姿を消し、妃警護と云う任に就いた。

「さぁ~~張り切っていきますか!!今日は出来れば二部屋位は完璧に済ませたいモノだけど・・・・それも老師次第ってとこよね~~。」

傍の卓の端っこにチョコンと腰かけ、バリバリ音を立てながらお煎餅をかじる老師にワザと聞こえるように夕鈴は言う。

「お主・・・そう言えば、あの眼鏡が明日から教育強化とか言っていたじゃろ。」
「良く知ってますね・・・さすがの地獄耳ですか・・・。」
「違うわい!わしも呼ばれておるのじゃ。」
「老師もですか?」
「そうじゃよ~~ビシビシしごくから覚悟しておれよ。」

老師の目がキラリンと光る・・・・・・。

―――ここにもいたのよね~~張り切るお人が・・・。

「それにしても、何故ここまで大袈裟に教育強化って・・何か有るんですか?」
「それはじゃな・・・・・。」

老師は夕鈴の背後に佇む人物に気が付き、そこで口を噤む。

「夕鈴・・・老師と愉しそうではないか。」
「へ、陛下!!ビックリさせないで下さい。それに愉しそうに見えますか?」
「妃である夕鈴は私だけを見詰めておればよい。」
「私は、今は一介の掃除婦ですので、妃では有りません。」
「本当に君は口の減らない・・・。」

そう溜め息交じりで言いながら、後ろからそっと手を回し抱きしめる。
突然の事で夕鈴はビックリして、腰が抜けそうに為るのを寸前で力を込めて堪え、首を後ろに回す。

「老師の前で何をしているんですか!!」
「此処には、誰もいないよ夕鈴。」
「えっ?」

その言葉から首を戻すと、卓に座っていたはずの老師が跡形もなくいなくなっていた。

―――老師~~何処に行ったのよ~~~。

「ほらね、夕鈴。誰もいないでしょ。それにしても・・・何か老師に聞いていた様だけど。」
「ああ、其れですか・・・・李順さんが明日からまたお妃教育するって言うから、何事が有るのかな~と気になって・・・・と。んんっ、陛下いつまで腰に手を回してらっしゃるんですか?離して下さい。」
「え~~、折角二人っきりなのに??」
「だ・か・ら、夫婦演技は要りません!!」

仕方なさそうにではあるが腕に回した手を離してくれたので、夕鈴はこれ以上傍に居るのは拙いと2、3歩離れて距離を取ったのだった。
黎翔はその夕鈴の距離の取り方が気に入らないが、これ以上何かすると逃げられてしまいそうだから、取り敢えず此処では我慢しておき夕鈴の質問に答えることにした。

「それがね・・・周辺の親しくしている国の国王が代替わりして、その国王直々に挨拶に来るんだよ。其れで、妃列席で挨拶を受けないといけないからじゃないのかな。」
「そうですか・・・・。解りました、頑張りますね。」
「別に頑張らなくても、僕の隣りで笑っていればそれでいいよ。それにその王様って年若だと聞いているから、夕鈴にはあまり逢わせたくないしな。」

眼の前の小犬が気がつけば狼に変貌しており、光る紅い瞳が妖しく輝いているのを夕鈴は、『なぜここで狼が出てくるの?』くらいの感覚でボォ~と見詰めているのだった。

黎翔の真意など到底解らない儘に________________________。




続。

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【意味などとしての水入らず・2】
2014年11月09日 (日) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り








今日も朝からくだらない意見ばかりが飛び交う朝議も、黎翔の一睨みでようやく収拾を付け執務室に戻ると、李順が清々しい笑顔で詰め寄り、前もって準備していたこれでもかと言うほどの書簡を恭しく黎翔に渡す。

「これは、なんだ?」
「なんだと仰らないでください・・・陛下に精査して頂くべき最優先の書簡ですよ。私は他にすべきことが有りますので、席を外しますがキチンと済ませておいて下さいよ。」

二人の間に刹那的な沈黙が走る_________が、途端に黎翔の纏う雰囲気が小犬に変化すると、じと目で李順を見詰め、不平不満をブツブツ漏らし始めたのだった。

「え~~こんなにぃ~~、頑張れないよ~~~。これは夕鈴が傍にいて応援してくれないときっと片付かないよ~~夕鈴は??」

黎翔は、机につくなり両肘を付いて子どもの様に膨れていた。
其れを李順は聞かない、見ないふりして、黎翔の机の上に置いた書簡の山を一応種類別に整理する。
そしてそれも済ませると、踵を返して立ち去ろうとした・・・・・但し、一言念押しする事は忘れずにだったが。

「では陛下、私が戻るまでにキチンと終らせておいて下さいよ。」

言い終わると、今度は振り向きもせずに李順はスタスタ出て行ってしまった。
残された黎翔はというと、部屋中に冷気を振り撒き不機嫌モードに突入しつつも、誰も当たる人もおらず仕方なしと大人しく書簡の山に手を伸ばしていた。


一方李順は昨日夕鈴に言い渡していた様に『お妃教育強化』の為、指定していた部屋に行くとすでに夕鈴は老師に歩き方を特訓されていた。

夕鈴の目は縋る様に『もう勘弁してください』と、戸口から入ってきた李順に注がれていたが、次の一言でその淡い期待も吹き飛ばされたのだった。

「夕鈴殿・・・姿勢がなってませんよ。もっと背筋を伸ばして、ゆっくり優雅に歩けないんですか?其れではまるで家鴨がお尻を振りながら歩いているようですよ。」
「は・・・・・・い。」
「そうじゃ!!言おうとした事が眼鏡の小僧に言われて仕舞ったわい!!それ頑張って歩くのじゃぞ。ほれ、ほれその調子じゃ。」

―――何なのよ~~。あと何回往復したらいいって言うの??さっきからもう10往復位してるんですけど!!

この二人が揃えば、総監督と副監督の様で息ぴったりに同じ事を駄目出ししてくるのだ。
其れは夕鈴にとってこれ以上無い程の打撃なのである。

そうして気がつくと歩くだけで、そこまで広くは無い部屋ではあったのだが、軽く20往復はさせられたのであった。

「まぁ、いいでしょう。」
「そうじゃな、これ位でいいじゃろう。」

「はい・・・(ゼイゼイ・・)有難うございます・・・。」

やっとこれで開放される~~~~と思ったのもつかの間・・・・・次の言葉を聞いた夕鈴は思わず、『まだするんですか?????』と素っ頓狂な悲鳴を上げていた。

そう李順から告げられた言葉はこうだった__________。

「さぁ、時間が有りませんから、次は座り方・・・其れが終われば、老師からかの国についての講義ですよ。ほらボヤボヤしない!!」

講師たる二人の表情は、全く根性が足りない!!と叱咤しているものだった。

―――負けられない!!!

そこが夕鈴が夕鈴たる所以であろうが、元来の負けず嫌いが出てきて俄然ヤル気が出てきていた。

「では、頑張りま・・・。」

夕鈴が高らかに声を挙げようとしたその瞬間、壊れんばかりの大きな音をたて戸口が開いたのだった。

そこに現れたのは、言わずとしれた狼陛下、その人であった。

「李順!全て終らせたぞ!!特訓かなんか知らないが夕鈴は連れて行くからな!」

大股に歩いて夕鈴に近づくと、その細い腰を抱き上げてそのまま連れて行ったのである。

「そうそう・・・それと言っておくが、夕鈴は王がやってきても、臨席させない事にしたからな!!だから特訓などする必要無し!!_____じゃあな、書簡の山の整理は任せたぞ。」

黎翔は高々と響き渡る声で宣言すると、特訓していた二人に紅い瞳を輝かせて笑ったのであった。
それは見たモノをゾッとさせる・・・・冷たい笑いであった。
残された二人は冷たい雫が幾つも背中を滑り落ちてくる感覚に襲われ、言い知れない震えがきていたのであった。


そしてそのまま回廊を大股で歩く黎翔はご満悦になっていた。
何しろ、夕鈴を鬼の様な講師どもから救い出し、自らの腕に納めているのだから・・・・。

すれ違う官吏達は、緊張した面持ちで拱手していた。
というのも・・・狼陛下と恐れられし黎翔の何時にないご機嫌さを目の当たりにしていたからだった。

彼らが見たのもは、陛下の腕の中で真っ赤に頬を染め、身を小さくして縮み込んでいる寵妃の姿で、どうやらこの状況を嬉々として享受してはいないようだった。
当の本人の夕鈴は、自分をはがゆく思っていた______抱きかかえられたこの状況を変える『お願い』を中々黎翔に言い出せないが自分自身に・・・。

でもこのままではイケナイと感じた夕鈴が意を決して、黎翔に『お願い』をしてみたのだった。


「ちょっと陛下・・・・あのですね、降ろして下さいませんか・・・私、一人で歩けますし・・・。」

ところが聞こえてない筈が無かろうに黎翔は全く返事する気配はみせず、黙ったまま歩いて回廊を横切って庭園へと出た。
手短な四阿に着くとようやく降ろされ、備え付けてある長椅子へと座らせられた。

「もう、陛下!!まだ、特訓の最中だったんですよ。」
「特訓の必要はないから連れ出したのだ。」
「必要が無いわけないですよ。だって相手は一国の王様ですよ。それだったら失敗は出来ませんし。」
「先程、言ったではないか。君は列席させないと。」
「そう言う訳にはいかないのでは?」

黎翔が言う意味がよく解らずに、夕鈴はしきりと首を捻る。

「君にとっての王は、ただ一人・・・・そう私だけだ。だから他の王に逢う必要はない!!」

きっぱり言い放つ黎翔。
夕鈴は益々理解出来なくて、それでも云われた意味を考えようと頭の中で黎翔の言葉を反芻させる。
でもヤッパリ理解出来ない様子。

「そう言う訳にはいかないですよ。私は手当を頂いているんですから、きちんとお妃としてですね・・・。」
「だから、私が必要ないと言っているではないか!!」

―――どうして陛下はあそこまで頑なに、私が列席する事を断わるのかしら?もしかしたら、私が失敗したらかの国に対しての威厳が保てないとか?

夕鈴は、噛み合わない会話に疲れてきて、これ以上は何も言うまいと押し黙ったのだった。
その様子を窺い黎翔も夕鈴は解ってくれたものだと思って、纏う雰囲気がさっきとは打って変わって柔らかいものになった。
そして夕鈴の手を取るとニコニコ顔で言ったのだ。

「妃が列席しないなんてことは良くある事だよ、夕鈴。そんなの『気分がすぐれないから』とでも言ってしまえば、大体の使者や王族は察するんだよ。」
「何を察するんですか???」
「いいんだよ、夕鈴は知らなくて。」

―――そう言う断り方は妃を大事に思う余り、誰の目にも触れさせたくないと暗に言っているんだよ。まぁ、夕鈴は知らなくていい事だけどね。

―――陛下が仰っている意味はよく解らないけど、まぁ列席しなくていいに越した事はないわ。失敗しない様にとお淑やかに振る舞うのは本当に疲れるし。

「あっ、でも李順さんはどうしたらいいんでしょう。」
「僕が言っておくから気にしなくていいよ。」
「そうですか・・・・では、あの・・・・・手を離して下さい。」

夕鈴は、自身の手に伝わる黎翔の体温が程良く温かくて妙に居心地が悪くて、更に先程抱きかかえられていた事も思い出し、真っ赤に顔全体・・・首までもを染め上げており、目を合わさない様に下を向いたのだった。

その恥じらいが、黎翔にとって初々しく可憐に見えて抱き締めたくなる衝動に駆られていた。
黎翔は手を出しかけて寸前で押し留め、紳士然とニッコリと微笑んだのだった。

「夕鈴、もう今日はいいから部屋に戻ったら?」
「そうですね。」

二人は連れ立って、ゆっくりと後宮まで歩いていったのだった。


―――そして、数日後。

かの国から、数人のお付きのモノと共に年若の王様が訪問してきた。
そして見の間に居たのはこの国の王たる珀 黎翔であり、その隣に狼陛下唯一の妃の姿はなかったのだった。


続。


【意味などとしての水入らず・3】
2014年11月09日 (日) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り






「これはようこそ遠路はるばるお越し下さった。この度のご即位には御祝いを申し上げる、蒼  悠鐸(そう ゆうたく)殿。」
「有難うございます、黎翔殿。即位の折には沢山の御祝いの品々を賜りまして・・・臣下共々、感嘆致しました。さすがは白陽国で有ると・・・。」

謁見の間にいるのは黎翔と『黄稜国(きりょうこく)』の王である。
ここに夕鈴の姿はない_______そう、先日の宣言通り黎翔が列席をさせなかったからだ。

「それにしても、黎翔殿・・・今日は噂に高いお妃様にお逢いするのも愉しみでしたのに、出し惜しみなさるとは・・・・よっぽど大切なのですね。」

目の前に座る黄稜国国王は、さも残念そうな表情であった。

「これは、申し訳ない・・・妃はどうやら体調がすぐれないようだ。」
「其れは、御懐妊では?」
「まだ侍医からはそのような報告は受けてないだが、早くそうなれば良いと常々思ってはいるのだが・・・。」

―――そんな事、あるわけが無い!!夕鈴とはそういう関係では無いのだから。私自身はそうなっても構わないのだが、夕鈴の気持ちはどうなのかが全く解らないのだから、これ以上の深入りは出来ないのだ。

黎翔は複雑な気持ちではあったもののそんなことはおくびにも出さず、ニコヤカに応対する。
そんな黎翔に屈託のない笑顔を向け、悠鐸王は更に突っ込んでくる。

「黎翔殿、早く御子が授かるといいですね。私自身『妃を迎えて欲しい』と進言してくる臣下たちも多く、花嫁探しに奔走しております。私が妃を娶り男御子が誕生した暁には、黎翔殿の姫君を迎えたいものです。そうなれば、この白陽国と姻戚関係となります故、もっと親密にお付き合いできるというもの・・・そうなる日が来るのが今から楽しみです。」

嬉々として夢見がちに話す悠鐸王は、ある意味柔和でこれが一国の王かと思わせるのだが、これでなかなかの切れ者であると間者の報告も届いている。
そして聞こえてくる噂は『あの王であれば黄稜国がこの先もっと栄えていく事であろうと、国民は期待している』である。
この王は太子の時に何度も黎翔を訪ねてきており、その際この柔和な態度を崩す事は一度たりとして無かったので、間者の報告と噂はにわかに信じがたいものであった。

その後も黎翔が切り回しながら穏やかに進み、両国は今後も堅い絆で友好関係を築いていく事を確認し合って残すは宴のみとなり、謁見は終了したのであった。


その謁見が終わった足でそのまま後宮に向った黎翔が、侍女から聞かされたのは妃の不在であった。

―――全く、夕鈴は何処をほっつき歩いているのやら・・・まだ黄稜国の王も滞在しているというのに。

「浩大!いるだろう!!」
「へ~~い、此処に。」

回廊の屋根からシュタッと降りて来ると、即座に床に膝を折り黎翔の言葉を待つ。

「夕鈴は何処だ?」
「お妃ちゃんなら、張のじいちゃんのとこ。だからオレっちは、鼠がうろついていないか捜索中~~。」
「そうか、わかった。」
「じゃあね~~。」

そう言うと浩大は、直ぐさま捜索の任を再開すべく姿を消した。

「夕鈴は、老師の所か・・・大方掃除バイトでもしている事だろうな。様子見にでも行くとするか。」

独りごちた黎翔は、颯爽と後宮禁止区域へと向ったのだった。


その頃、黎翔に探されている当の本人である夕鈴はと云うと_____________困惑していた。

と云うにも・・・・黎翔の推測通り掃除婦のバイトをしていたのであるが、その水汲みに出た際に思いもよらない人物に遭遇していたのだから・・・・・・。

そう、夕鈴は腕まくりしつつ、一心不乱に井戸の水を桶に汲んでいた_______其処に現れたのは、夕鈴を捜してやってきた黎翔・・・ではなかった。

「・・・そこの君、訊きたい事があるのですが。」
「誰????」

夕鈴は聞き慣れない年若い声に、身構えながら振り向いたのだった。
其処には、見慣れぬ官服を着た若い男性が佇んでいた。

―――誰???見た事が無い人だけど・・・・それに今の私はただの掃除婦!!そんな私になんの用なのよ!!

「誰?と言われても・・・・・・私は、悠 鐸(ゆう たく)と申し、黄稜国の官吏です。あなたに聞きたい事があるのですが・・・。」

―――黄稜国の官吏???そんな偉い方が掃除婦に何を訊くって云うの??

夕鈴の頭の中には幾つもの疑問符が浮かび、何度も円を描くようにグルグル回っていた。
しかし黙っているのも失礼だと思い、相手の聞きたいこととやらを丁重に聞くことにしたのだった。

「あの・・・・私に訊きたい事とはどの様なことで御座いましょうか?」
「実は、此処から王都・・・しかも下町に行きたいのですがどのようにして行けば良いのでしょう??出来れば、案内してほしいのですが。」
「下町????」

夕鈴は思いも掛けない事を頼まれ、思わず声が裏返っていた。

「下町に人探しに行きたいのですが、何しろ白陽国には何度も訪問した事が有りますが、その時はこの王宮から出る事は無く王都には詳しくなくて・・・・しかも今回の訪問も3日ほどなので時間が惜しいのです、だから詳しい方に案内してもらいたいと思い・・・。」

相手はかなり切羽詰まっている様子。
そんな様子を見たからには突っぱねることなど、世話好きの夕鈴は出来るはずなどない!!

―――この方、かなり困っている様子・・・此処は協力しないとかな??でも、キチンと誰かに断わってからでないと拙いわよね。

「あの、私でよければお手伝い致しますが・・・・それには上司に断わってからでないと・・・・それからでもイイですか?」

―――え~~~それは拙い!!!誰と?となれば僕の素性がばれてしまう可能性が高いよ!!

そう・・・・この方、黄稜国の 蒼 悠鐸王、その人だった。

「イッ、イヤ!急いでいるから、断わっている時間は無いから・・・後からキチンと報告すればいいよ!!それに掃除婦が一人居なくなった位解りはしないよ!!だから!!!早く!!!」

かなり慌てているその官吏の為りをしている悠鐸王は、目の前で困惑している夕鈴の手を取ると強引に連れていこうとする。

―――そんな~~~ただの掃除婦ならそれでもイイのでしょうが、私は臨時花嫁のバイトをしてる身・・・そんな勝手は許されないのですが!!!

でもそんな事をこの男性に言う訳にはいかない・・・・となると、黙って従うしかなかったのであった。
ただ、このままという訳にはいかないので手に持っていた桶を土の上に置き、影が出来た土に木の枝で伝言だけ書き記したのであった。

『私は大丈夫です!ただ3日ほど休暇を下さい・・・後宮禁止区域掃除婦』
と・・・・・・・・・・・・・。

―――これで、浩大辺りに私が書いたものだと解るわよね。それに連れ去られたのではないという事も解る・・・・と思う。李順さん、ゴメンナサイ!!!

夕鈴は相手の手に引っ張られながら、後宮の隠し扉から下町へと繰り出したのであった。



続。


【意味などとしての水入らず・4】
2014年11月09日 (日) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り











王宮から出て下町へと続く大通りに入り込むと、ようやく手を離してくれ夕鈴も一心地ついたのだった。

そして知らない人に付いて来てしまって今更では有るが、キチンと誰かに言わなくて良かったのか?と夕鈴の頭の中で眼鏡を押し上げつつ仁王立ちする上司の姿がチラついていた。

―――まぁ、後はなんとかなるわよね!!多分・・・・それよりも人探しって言っていたけど、まずはアレをどうにかしないと!!よね。

夕鈴が考えているアレとは_____________同行者の彼の服装をまずはどうにかしなければという問題に直面しているのである。

町中で異国の官服と云うのは、あまりにも目立ち過ぎる。
彼の人探しがどういう人をさしているのかは聞いてないが、人探しには適していない服装なのである。
だがしかし、それを言うのなら夕鈴も掃除婦の服装のままだから人のことは言えないのであったが・・・・。
このまま実家に帰ろうもんなら、青慎辺りがビックリするだろう。

「あの・・・・・言いにくい事ですが、私もですが貴方の服装も町中ではそぐわないので、其処かで購入しないといけないと・・・ただ、生憎私は持ち合わせが無くて・・・。」
「それなら大丈夫だよ!!僕が持っているから・・・ただ店は判らないから君にお任せするよ。」

並んで歩く彼は一度立ち止まり、ニコニコと柔和な笑顔で懐から財布を取り出すと夕鈴の目の前に差し出し見せてくれた。

「ほら、大丈夫でしょ!!ところで、今頃訊いて失礼かもしれないけど、君の名前は?僕はさっき名乗ったよね、悠 鐸って!!僕の事は『ゆう』って呼んで!!」
「はぁ・・・・悠さまですね、判りました。私は、夕鈴と云います。」
「『夕鈴』かぁ~~~ドッカで聞いた事ある名前だよね・・・・う~~~んと何処だったかな??」

―――あっ、この人、黄稜国の官吏だったわ!!!もしかして陛下の妃の名前だって気がついた??偽名にすればよかったのかしら・・・・いや、ダメよ!!今から下町に行くのだから、下町には知り合いがウジョウジョいるから、声掛けられたらすぐにバレるものね。

「う~~~ん、誰だったかな・・・・・・・あっ!!!思い出した!!確か国王陛下のお妃さまの名前が『夕鈴妃』だったんだ!!!って、もしかして?!」
「ちっっ、ちっ、違います!!!恐れ多い事ですが、同じ名前なんです!!!」
「そうなんだ・・・・そうだよね。お妃さまがあんなところで掃除なんてしないよね。」
「ですよ~~~~~~。」

夕鈴はバレないように、曖昧に笑って誤魔化した。
そして周りを見渡し、洋装店を見つけると悠の手を引っ張って案内したのであった。

_________そして半刻ほど後、二人は漸く町でフラフラしても誰からも咎められない服装に、様変わりしたのだった。

「さぁ、人探しに行きますよ!悠さま」
「じゃあ、宜しくお願いします、夕鈴さん」

二人は連れ立って、喧騒の下町へと溶け込んだ。



所変わって、後宮立ち入り禁止区域の夕鈴が残した書き置きのある水汲み場では、紅い瞳に怒りのオーラを乗せ佇む、狼陛下其の人がいた。

「浩大!!!如何言う事だ!!!夕鈴は何処だ!!!」
「・・・・・・お妃ちゃん、何処にもいなかったっす。」
「いない???王宮の何処にもか?」
「・・・・・・・・・・。」
浩大の返答が無い事から、王宮から後宮まで夕鈴が立ち寄りそうな場所はくまなく捜したが何処にもいないという事が窺い知れた。

そして二人は足元をジッと凝視する。
そこには、確かに夕鈴の字で書かれている書き置きがあった。

「これは・・・・夕鈴の書いたものだ。強制されて書かされたのか?それとも夕鈴自身が書いたのか?」
「でも、これを書いたのは、『お妃さま』の時のお妃ちゃんでは無くて、掃除婦のお妃ちゃんだよ。だから、連れ去りとかではないと思うけど。」
「では、一体誰とだ?それとも夕鈴一人なのか?いや、一人では無いな、夕鈴が自身を『掃除婦』と書いたのだ。これは誰かと一緒だということか・・・。」

二人はこれだけでは夕鈴の身に何が起こっているのかは判らず、そこで考え込んでいても埒が明かないと、丁寧に書き置きを土で消して立ち去ることにした。
そして黎翔は執務室に、浩大は引き続き何か手掛かりが無いかを調べる為後宮にと、二人違う方向へと無言で向ったのだった。

執務室では李順が黎翔の戻りを今か今かと待ちわびており、黎翔が机に付くなり慌てて話し始めたのであった。
そう、重要な手掛かりを・・・・・・。

「やっとお戻りですね・・・先程から捜していたのですよ!!陛下にお伝えしたい議が有りまして。」
「なんだ!!私は今、どうでもいい事を聞くための時間を割く気は全くないからな。」

目の前の主君のこの上ない不機嫌さに、さすがの李順も身震いを覚えていた。

―――これは下手なことを言ったならば、その場で剣が抜かれるのでしょうね。

李順はゴクリと喉を鳴らし、一呼吸置いた。

「陛下、其れでは申し上げますが、黄稜国の官吏が一人居なくなっているみたいです。そして後宮に詰めている掃除婦一名も。」
「・・・・・・」
「それも、先程入った報告では、その居なくなった官吏が掃除婦を連れだしたらしいと。」
「なにっ!!」

黎翔は、掃除婦と聞いてピンときた。
これはまさしく夕鈴のことである。

―――夕鈴が異国の官吏と消えただと!!

紅い瞳が燃え盛る炎の様に血走り、それとは間逆の冷気が全身から発されており、周りを覆い尽くすようにどす黒い何かが立ち込めていた。
その雰囲気に呑まれそうになりながらも李順は、恐る恐る黎翔に問いかける。

そう、今から聞くことが間違えであって欲しいという願いを持ちながら。

「もしかして、とは思いますがその掃除婦は夕鈴殿だったり・・・なんてことは有りませんよね。」
「__________そうだ。夕鈴が消えた!書き置きを残してな。」

苦々しく語る黎翔に、李順はまず何を如何すべきなのかを瞬時に考えていた。

―――これは、マズイ!!この様子だと、夕鈴殿を捜しに飛び出しかねない!!ここは止めておかないと・・・ただ、この様子だと、止めてもムダな気もしますがね。はぁ~~~、全く小娘は何をしているんでしょうか??事と次第によっては減給も考えないと!!

「一言だけ言わせていただきたいの・・・・」
「お前の言いたい事は解るが、それは聞かないからな!!私が直々に行くのだから。」
「はぁ~~~~~」

黎翔は李順が言いそうな事は解るためか、その言葉を途中で遮って自分の主張をする。
それは承知の上であるから、敢えて李順も言ったのであったのだが、黎翔には伝わらなかったのである。

「しかし、黄稜国の王もこちらに滞在されておりますので、陛下が王宮にいらっしゃらないというのは些かそれは拙いと思いますがね。」

李順は如何しても止めたいらしく、一番尤もらしいことを言って引き留めようと画策してくる。

「お前が私の不在を何とか誤魔化せばいいだろうが!!それが有能な側近の仕事だ!!」
「はぁ、そうは仰っても・・・・」
「いいな!!私がいく事はもう決定事項だ!!それと浩大を連れていくからな。ところで、消えた先は??どうせお前の事だからもう掴んでいるのだろう。何しろ、我が国きっての切れ者で名高い李順だからな。」

紅い瞳を輝かせて、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。

「褒めても、何も出ませんよ。取り逢えず掴んでいるのは、王都の方面に行ったという事です。」
「そうか、わかった!!」

一言告げると、疾風の如く駆け抜けていったのであった。

「全く・・・如何やって誤魔化すというのです・・・・。」

溜め息交じりに、呟いた言葉がこれだった。
でも李順の心配は杞憂であった________何しろ居なくなったのは、黄稜国の国王その人であり、黄稜国の方もそれを隠すのに必死だったからである。



その頃、問題の二人はというと、トボトボ歩いて下町近辺の露店市に来ていた。

「わ~~~これは何です?夕鈴さん」
「これですか??これは杏の砂糖漬けですよ。」
「美味しいのですか?」
「甘酸っぱい中に砂糖の甘さが程良くしみ込んで、美味しいですよ。」

夕鈴は、はしゃいでいる悠に丁寧に説明する。

「では、これを頂きましょう。ではそこの主人、二つ戴けるだろうか。」
「へい!!有難うございます。二つですね。」

悠は主人から受け取ると、先ずは自分で杏を手に取り、袋ごと夕鈴に差し出した。
これは、夕鈴の手が汚れないようにという配慮であった。

夕鈴は悠の行動の素早さと、紳士的な対応にすっかり感心したのだった。

「それにしても、悠さま。人捜しをそろそろ始めませんと・・・。」
「そうだね・・・でもその前に王都も満喫しておかなくっちゃ。」

片目を瞑りニッコリと微笑む悠に夕鈴は調子を狂わされ、気がつけば悠に引っ張りまわされていたのだった。

夕鈴は自分を捜しに黎翔が王宮を出た事なぞ知る由もなく、トボトボ気ままな悠の王都見物に付き合わされていた。


続。


【意味などとしての水入らず・5】
2014年11月09日 (日) | 編集 |
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臨時妃 ・ 原作寄り ・ オリキャラ有り ・ 原作外設定有り

 





今日は休みの前日と云う事もあってか、いつもより人の往来があり、そんな中夕鈴と悠も違和感なく溶け込んでいた。

「夕鈴さん、あなたのご実家はどちらですか?」
「私ですか??下町の章安区になります。」
「是非、連れて行って欲しいデス!!」
「は、はい!!そうですね、では後で。」

ニコニコ笑う悠に、夕鈴はどうしてよいのか判らなくなる。
黎翔の小犬状態とは違う感じなのだが、でも何故か従ってしまう自分がいた。

―――ホント、押しが強いって訳じゃないのに断われないのよね・・・このままウチの方面に二人っきりで行くの???それってまたいらぬ誤解を生み兼ねないわよ!!確か役人の徐 克右さんだったかしら・・悪女がどうのこうの言っていたっけ!!

更に夕鈴の頭の中で明玉に、『一体、几鍔と王宮の上司さんとこの人の誰が本命なのよ!!』と詰めよられている自分の姿が鮮明に映し出されていた。

「ところで先程も云いましたが、探し人を始めましょうよ。どんな人で、名まえは?それに、何処に住んでる人ですか?」
「そうだよね・・・確かにそろそろはじめないと、時間がなくなっちゃうよね。」
「はい!!!その為に私は付いて来たのですから。」

夕鈴は気合いを入れて聞く体制に入る。

「あのですね・・・僕が探しているのは女性です・・・それも30代後半の女性。この王都に住んでいるはずなのですが、何処なのかは僕にも判りません。そして、結婚していて子どもは少なくとも僕くらいの女の子一人はいます。もしかしたら、もっといるかもですが。」
「王都の何処かですか。範囲が広すぎますね、せめて地区とは解りませんか?」
「解りません・・・・。」
「そうですか。」

―――これは、見つかるかどうかなんて怪しいモノだわ。悠さまには気の毒だけど範囲が広い上に情報が少な過ぎる。あっ、名前聞いてなかった!!

「悠さま、その女性のお名前は?」
「え~~と、悠那(ゆうな)です。」
「悠那???それって悠さまと何か関係が???」
「ええ、実は僕の母なんです。」
「お母様~~~~。それは何が何でも探しださないと!デスネ。」

夕鈴は腕まくりをしつつ張り切り、片手を天に突き出していた。
それを隣で見ている悠は頼もしそうに破願している。
二人が往来で立ち止まり話をしている様子を物陰から見ている人物が_________其れは、黎翔の命を受けた浩大だった!!

「あ~~お妃ちゃん、みっ~~~け!!」

小声で呟いたのを二人は聞こえるはずも無くまた歩き始め、その後を密かについて行く浩大の気配に気がついたのは悠だけであり、夕鈴はノホホンと探し人の特徴など悠に聞き出していたのだった。

「ねぇ、夕鈴さん。ちょっとお茶屋にでも入りませんか?」
「えっ??」
「実は僕・・足が痛くって。」
「それは大変です!!直ぐに入りましょう~~」

夕鈴は往来にあるお茶屋を直ぐに見つけ、悠の手を引っ張って入って行ったのだった。
浩大はそのまま一緒に入る訳にはいかず、表の物蔭で見守るしかなかった。

「夕鈴さん、実は足が痛いっていうのは嘘なんです!!ゴメンナサイ。ただ怪しい人が先程から付いて来ているようでしたから、ちょっと如何しようかと思いましてお茶屋にと・・言ったんです。」
「そうですか・・・怪しい人?」
「ええ、恐らく僕に用が有るのだと思いますが・・・。」
「では、逃げちゃいましょう。」

夕鈴は片目を瞑り、悠の手を取るとそのまま奥へと連れて行く。
悠はこれから夕鈴が如何するのか予想もつかず、目を見開きながらされるがままとなった。
奥に進むと厨房があり、そこにはここの店主が忙しそうに働いていた。

その店主に夕鈴はニッコリと微笑むとこう告げた。

「スミマセン・・・私たち、親には内緒でお付き合いしているんですが、家のモノが表で見張っていまして・・・どうか助けて下さい。」
「ヨッシ!!若いお二人の為に人肌脱ごう!!!奥から出て行きな!!ほら、これも持って行きな!!」
「はい!!!有難うございます。」

夕鈴は深々と店主に礼をすると、そのまま悠を引っ張って行った。
後ろから店主の『頑張れよ!!お二人さん!!』と激励を背に受けながら_________。

店から出ると夕鈴は直ぐさま悠の手を離し、満面の笑みを悠に向けて胸を張る。
「上手くいったでしょ!!」と・・・。

それを悠は感心しつつ、先程出て行く際に店主が二人に渡してくれた串刺し団子を夕鈴に手渡した。

「あははは、夕鈴さん、凄いデス!!怪しい人を撒いただけでなくお団子まで頂戴するなんて。」
「お団子は、あの店主さんの粋な計らいだけどね。」

そうして食べながら二人は町を闊歩して行くのだった。

その頃、表で待ちぼうけを食らっている浩大の元に黎翔が現れていた。

「お妃ちゃん、黄稜国の官吏とやらと一緒だよ。それで今ここに入っているよ。」
「どれくらいに為るのか?」
「う~~~と、もう半刻くらいには為るかな~~~。」
「半刻??お前逃げられたぞ!!其れは!!」
「はぁ???ウソだろ~~~オレっちここでずっと見ていたけど、二人は出て来なかったよ~~」

浩大は二人にしてやられたことに気が付き、苦い顔に変る。
それよりも、更に輪を掛けて苦々しい顔つきはイライラ不機嫌な黎翔の方だったが。

「ごめ~~~ん、オレっちまた捜索に出ます。」

このまま、此処にいたら黎翔の怒気の餌食になると踏んだ浩大は素早く捜索へと躍り出た。
そして黎翔も深い、果てしなく深い溜め息を付きながら夕鈴探しに舞い戻ったのだった。


続。